いつかは、あの人と――。無意識に目で追って、目が合えば逸(そ)らしてしまう。思いは募るばかりで、その総量は失恋すればそのまま後悔の念へと変わる。きっと誰もが一度は経験したであろう、ほのかに甘酸っぱくもつらい思い出を繰り返してはなりません。
英国車の良心、「MINI CLUBMAN」が半世紀以上続く歴史に幕を下ろします。
最終モデルとして登場するのが、「MINI CLUBMAN FINAL EDITION」です。車好きの多くが心の片隅に抱えるであろう「MINI CLUBMAN」への憧れに、いま一度思いを巡らせて。
ともに島国である、日本と英国。さまざまな文化を吸収する中で、私たち多くの日本人は英国カルチャーにも触れ、多大な影響を受けてきました。例えば音楽、日本のロックやポップスを語るうえで、ビートルズやローリング・ストーンズの存在は欠かせません。
他にも、デヴィッド・ボウイにエリック・クラプトン、ザ・ストーン・ローゼズやニュー・オーダーといったマッドチェスター系、さらにはオアシス、ブラーに代表される当時のブリットポップ勢。私たちが愛したアーティストを挙げればキリがないほど。ファッションもまた然(しか)り。両国ともにスーツに愛情を燃やし、日本で一大ブームとなったモッズやミニスカートというカルチャーも英国が発祥です。
では、車はどうでしょう? 左側通行や右ハンドルなど日本との共通点を持つ英国ですが、かつては世界に名だたる自動車大国として、数々の名車を生み出してきたのはご存じの通り。その中でも英国らしさを強く感じさせる車として最もなじみ深いのは、MINI。そう主張する声に激しく異論を挟む人は、きっと少数派に違いありません。
歴史と伝統が息づく豊かな個性
MINIの歴史は1959年、「ブリティッシュ・モーター・コーポレーション(British Motor Corporation)」がスエズ動乱に端を発するガソリン価格高騰への対策として開発した1台から始まります。コンパクトでかわいらしいボディに、操作性よくキュキュッと駆けるゴーカートフィーリングが代名詞。「スウィンギング・ロンドン」と呼ばれ、ファッション、音楽、映画、建築などにおけるロンドンのストリートカルチャーが花開いた1960年代では、ビートルズやマリークワント、クリント・イーストウッドなどの著名人もMiniの愛好家でした。
そして忘れてはならないのが、1969年に誕生したマスターピース「MINI CLUBMAN」です。まだその名がついていないクラシックMiniのバリエーションのひとつで、ややストレッチしたボディに荷室を備え、観音開きのリアゲートを持つステーションワゴン。
これこそが、現在の「MINI CLUBMAN」のルーツです。その後1994年にBMW傘下となった中で、2005年にドイツ・フランクフルトで開催されたモーターショーで初めて「MINI CLUBMAN」の名を冠したコンセプトモデルが発表され、初代モデルは2007年に販売開始。そして2015年、5ドアを有する現在の2代目へと続いていきます。
街中でひと際個性を放つ「MINI CLUBMAN」。見かければつい目で追ってしまうこの傑作は、まだ恋かどうかもわからない、そんな淡い思いを抱かせる憧れの存在。しかし、時の流れは時に残酷です。何者も抗(あらが)えない時代の大きな渦は、世代を超えて愛されるセンスの良い英国車さえも飲み込んでしまいます。
そうして発表されたのは、2024年上半期をもって「MINI CLUBMAN」が生産終了となる悲しいお知らせ。このたび発表された「MINI CLUBMAN FINAL EDITION」こそが、入手できる最後の限定モデルとなります。そう、これはきっと最後の恋――。
「MINI CLUBMAN」を選ぶ人には、自分だけのスタイルを大切にしている人が多い。それは、「モダンなのにクラシック、スタイリッシュなのに人懐こい」というデザインへのこだわりかもしれないし、英国文化が薫る暮らしをライフスタイルに取り入れようとする強い希望からかもしれません。いずれにせよ、そこにあるのは、毎日をセンス良く過ごそうとするオーナーの願いであり、「MINI CLUBMAN」を選ぶことの本当の価値に気づいているという事実に他なりません。
意外に思われるかもしれませんが、「MINI CLUBMAN」はスタイルを優先した車に見えて、(実は)実用性の高さも自慢です。確かにワンボックスカーやSUVと比べるとファミリーカーとしての印象は薄いかもしれませんが、「MINI CLUBMAN」はファミリーユース、特に日々の暮らしに彩りを求める都心部の家族にこそ力を発揮する1台。家族は大切、かといって車選びに妥協はしたくない――そう願う人にこそ、似合うステーションワゴンなのです。
例えば家族で遠出する荷詰めのシーンを見ても、この通り。注目はトレードマークのひとつでもある観音開きのラゲッジルームです。開口部100cm、荷室の高さは68cmと十二分で、その広さゆえの荷物の取り回しも抜群。そのうえ、収容量も360Lと申し分ありません。積載に優れた車ゆえ、週末のまとめ買いや郊外でのレジャーにと、家族の楽しい日々を存分に助けてくれるでしょう。
一方でボディサイズはどうか。前述したラゲッジ容量からのイメージに反して、ハンドルを握るとコンパクトに感じるのが面白い点です。住宅が密集する都市部ならではの入り組んだ道も、スルスルと抜けられます。一般的に“ファミリーカー”に分類される多くの車と比べて全高が低いゆえ、安定した乗り心地を得られるのも魅力。これなら子どもの習い事のお迎えも安心なうえ、さらに切れのあるドライビングフィールに、運転が苦手だった妻も車を走らせる機会が増えるかもしれません。
自らのスタイルを貫く
「MINI CLUBMAN」というステートメント
そしてデザイン性です。優雅さとタイムレスな魅力を併せ持ったキュートかつ上品なルックスは言うに及ばず。実サイズ以上に広く見えるキャビンとボディのバランスは絶妙で、トレードマークの丸型ヘッドランプは時代を重ねた今も個性的に写ります。フロントグリルの存在感は控えめながらも、均整の取れた六角形グリルの集合体が走りの良さを予感させます。
サイドには不要なキャラクターラインを取り入れることなく、まろやかな曲面がこの車のぬくもりとおおらかな性格を感じさせます。それでいて、個性的なパターンのホイールデザインが、“品の良さ”というステレオタイプでくくられることを拒絶し、絶妙なひねりと反逆精神を醸し出しているかのようです。
車が備える美的価値観、さらには英国カーカルチャーの文脈の中に息づく存在感ゆえに、自らのスタイルを大切にする大人の魅力を高めてくれる「MINI CLUBMAN」。婚姻関係にあっても、夫婦互いに精神的に独立し、やりたいことを諦めるのではなくスマートに追求し続ける。そんな「Esquire」が考えるクールファミリーにこそ、うってつけの1台と言えるでしょう。
家族になっても車を諦めない
リッチな乗り心地は毎日の景色を変える
もちろん、走りの良さに触れないわけにはいきません。前述したゴーカートの様な乗り心地、すなわち“ゴーカートフィーリング”とはよく言ったもので、ハンドル操作に直接的に反応する小気味いい感触がクセになります。これぞまさにスポーティ。2.0L直列4気筒ディーゼルターボエンジンが放つなめらか、かつトルクフルなフィーリングに下支えされ、走る楽しみに満ちあふれています。
では、乗り心地は二の次かと言えば、さにあらず。他のMINIと比べてホイールベースが長いためか、はたまたしなやかにストロークするサスペンションのおかげか、とても大人っぽい走り味が感じられます。高速道路の目地段差もなんのそのといった具合で、ショックの角がほどよく取れた印象です。
さらに室内では、調整幅が広く座面の長さまで細かくアジャストできるパワーシートのおかげで、多くの人にとって理想的なシートポジションがかなうでしょう。ワンランク上の密閉性と静粛性を感じられ、長距離ドライブに出掛けても走行音や風切り音などによる音疲れの心配も不要です。それはまさに、落ち着きや重厚といった言葉がよく似合う乗り心地。車内からのぞく街の景色もどこか柔らかく感じられる、そんな感覚に包まれること請け合いです。
「MINI CLUBMAN」が、都心部で暮らす自身と家族の日常をいかに満たしてくれるか。いろいろな角度からお伝えしてきましたが、肝心の“最後”となる限定車「MINI CLUBMAN FINAL EDITION」はどんなモデルとなるのでしょうか。
まずはデザイン。外装、内装にかかわらず、最後であることを記す「FINAL EDITION」のレタードや、「MINI CLUBMAN」がたどった歴史を雄弁と語る「1 OF 1969」のロゴなど、最後の花道を飾るあしらいが随所にお目見え。
そして乗る人を心地よく包みこむシートは、スポーツテイストを意識したピケ素材とダーク・マルーンのレザーで仕立てられ、銅を連想させる「MINI CLUBMAN FINAL EDITION」専用の色、シマー・コッパーのリベットとバッジで彩りが加えられています。エクステリアはエレガントな光沢を放つピアノ・ブラックでメイクアップ。さらにボンネットとサイドボディ、リアゲートには4本のピンストライプが走り、特別感とアクセントを。気品とシャープさを引き立てた、まさに大人の色気を感じる仕上がりです。
ファミリーユースにも対応すべく、安全性能についての備えも抜かりありません。フロントウィンドウ内に設置するカメラが前方を監視し、万が一を予測してドライバーへの警告や自動ブレーキが作動する「ドライビング・アシスト機能」をはじめ、事故等を未然に防ぐアクティブセーフティの面における装備が充実。それに加えて、剛性の高いボディにサイドカーテン・エアバッグを含む8つのエアバッグを装備。その他多くの先進安全性能を誇り、大切な家族を守ってくれます。
さて、ここまで見て心が動いたのであれば、その恋はやはり本物。いつまでもスタイルのある大人としての誓いを、「MINI CLUBMAN」との間に立ててみてはいかがでしょうか。
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Photo / Yoshiaki Tsutsui
Styling / Hidenori Asai
Hair & Make-up / Megumi Matsumoto
Text / Yuta Yagi
Model / Hideki Asahina(donna models)
Edit / Ryutaro Hayashi(Esquire)