気候危機について、私たちはこれまで酷(ひど)いニュースばかりたびたび耳にしてきました。そんな中、この苦境から私たちを救い出すため、巧妙な方法で取り組んでいるとても賢明な人たちがいます。この「UNAPOCALYPSE」は、人類が気候変動による被害を軽減し適応する方法に光を当てる「エスクァイア」が贈るシリーズです。
ドナルド・トランプ氏はサウリ・ニーニスト=フィンランド大統領(当時)と会話した際、“落ち葉掻き”に関する話を聞いたと言いました。「『フィンランドは森林国家だ』と大統領は言った。彼らは落ち葉掻きや清掃などに多くの時間をかけ、その結果なんの問題も起きていないのだ(He called it a forest nation, and they spend a lot of time on raking and cleaning and doing things, and they don’t have any problem)」。
2018年にカリフォルニア州パラダイスの街に壊滅的被害をもたらした、火災の残骸を視察しながら彼はこの話を詳述しました。そうして、こうも言ったのです。
<>「われわれは床のケアをしなければならないのだ、森の床をね(We’ve got to take care of the floors, you know, the floors of the forest)」
これに関して、多くの政治メディアからは一切まじめな話として扱われませんでした。ですがそれは、この不自然な言い回しのせいだけではありません。それは、トランプ氏が「気候危機への取り組みに直面せずに済む問題解決方法を切望している」ように見えたからなのです。
ですが、可能な限り寛大に解釈すると、「彼は的を射ていた」と言えます。
「気候変動に関連がある」とされる気温上昇や乾燥が進行する状況により、アメリカだけでなく全世界で山火事がより大規模に、より破壊的になっていますが、いわゆる「森林管理」に関しては、やるべきことがいくつかあります。
そのうちのひとつは地表、トランプ氏の用語で言えば「Floors(床)」です。そこに生育する―火災の原因となる―植生を管理することです。しかし、それよりはるかに大きな要因となっているのは、私たちがこのおよそ100年もの間、単純に間違った方法で火災と闘ってきたことにあるのです。
アメリカ森林局が創設されたごく初期の頃から、アメリカにおける山火事への戦略は“抑制”に重きを置いていました。「森林局の創設者であるギフォード・ピンショー氏は、ヨーロッパで森林管理の実務を学びました」と、カリフォルニア大学ロスアンジェルス校の持続可能なコミュニティのためのカリフォルニアセンター創設ディレクターのステファニー・ピンセトル氏は言います。
「『よい森とは、自然発生的に燃えない森』という考え方を、彼はヨーロッパからアメリカに持ち込みました」とも言います。ですが実際には、「森は燃える必要がある」と言えるのです。なぜなら、それは過成長を防ぎ、朽ちた木を一掃し、(より広いスペースをつくりことで、健康な木のためにより多くの日光が当たるようにして)生態系内のいくつかの種の繁殖を促すのです。こうした考えのモデルでは、小規模または適度に深刻な火災が定期的に発生します。しかしながらアメリカの森には、可燃性物質が堆積しています。このことが気候条件の変化と相まって、巨大でとても破壊的な火災の発生を促進させてきたと言えるのです。
カリフォルニア州南部とメキシコのバハを含む地域一帯には、両方ともに乾燥した土壌、高温な気候、低木が形成するチャパラル(シャパラル)生態系と呼ばれるものがあります。ですが、この地域での火災には、大きく分けて2つの異なったものがあります。前述のピンセトル氏は、こう説明します。
「国境を隔てた向こう側にも、とてもよく似たチャパラル生態系があります。ですが、メキシコ側のチャパラルは火災抑制による恩恵を受けてきませんでした。それは単に、抑制のために予算を割けないことが理由ではありますが、そのためチャパラルを壊滅させてしまわない程度の火災が起き続けました。中には、鎮火されない火災もある程度定期的に起こります。ですが、その火災では人は死にませんし、家も燃えません。大火事にはならないのです。では、どうすれば私たちはそのようなチャパラルに戻すことができるのでしょうか? それが問題です」。
それには何種類かの処方箋があります。まず、ブルドーザーを使う方法があります。現代における文明の利器を使い、より理想的な間隔になるよう成長し過ぎた木々を間引きます。「落ち葉掻き」をすることだってできます(確実に、前大統領を喜ばせることになるでしょう)し、これにより火災の原因となる下草を一掃することが期待できます。
これは「機械的間伐」と呼ばれることがあります。うまくいけば、これらの調整によって、より多くの日光や栄養素を得、害虫や腐敗の影響を受けにくい、より健康な木々に満ちた森にすることもできるでしょう。ひいては、火災の規模や被害を抑えるようにもなるでしょう。
ですが、この方法は高価なコストがかかります。しかも、それは森の性質や場所によって異なるのです。「機械的間伐は大きな重機を必要とすることが多く、山岳地帯や移動が困難な場所では、重機を持ち込むことが難しいでしょう」と、アメリカ科学振興協会の科学技術政策フェローであり、南カリフォルニア大学でアメリカ西部における山火事からの回復力を研究したレベッカ・ミラー氏は言います。
そして、「そこに生息するさまざまな種も保護しなければならない」と考える場合、雑木林を一掃することは選択肢とはなり得ないでしょう。「火災の危険性を減らすためにチャパラルを伐採すれば、その生態系を崩してしまうことになるのです」と、ピンセトル氏は言います。「ですが、とてもよく計画された所定の野焼きを導入し、それを管理します。そして適切な時期に実施することができれば、健康なチャラパルを取り戻すことができる可能性もあります」
「所定の野焼き(prescribed fire)」─ 可燃物を取り除くために管理された設定で起こす小さな火災─ という概念は、非常に古い方法ではありますが、新しい評価をもたらしています。何千年もの間、森は自然に燃えてきました(それはしばしば落雷によって起こります)。しかしながら、人の手によっても形づくられてきました。北米の先住民族は長い間、地ならしや多様な動植物の発育の促進、大規模で壊滅的な火災の防止のために火を利用してきました。
国立公園局(National Park Service)によると、「対象を絞った野焼きのおかげで、アメリカ東部の多くの森林ではオーク(楢や樫木)と栗の木が中心となっている可能性が高い」という調査結果があります。中西部の人々は、草原を放牧地として清掃管理するために火を使っていました。その一方でノーザン・ロッキーズ地域では、より深刻な大火災を防ぐための手段だったのです。
「火災の脅威の軽減に加えて、カリフォルニアではセコイアの生息地を形成するために火を利用した」というエビデンスがあります。公園局によると、一般的に野焼きは「土壌の質を改善し、特定の植物種の成長を促し、健康で回復力のある地勢をつくり出す」と考えられています。
しかし、ヨーロッパ式の抑制戦略が過去100年にわたって支配的になるにつれ、この文脈で「文化的野焼き」と呼ばれる方法は重要視されなくなりました。ですが今では、野焼きは復権をもたらしています。より成功を収めた所定の野焼きのモデルとして、ミラー氏はフロリダ州を揚げます。
「より湿った気候が容易にした面もありますが、フロリダ州では私有地の所有者が管理された野焼きを行うことが可能になることに寄与する責任法が、何十年もの間実施されているのです。カリフォルニア州では、私有地における管理された野焼きの実施を増加させるために責任基準が変更されていますが、それはごく最近のことです」
ここでミラー氏は、所定の野焼きや機械的間伐、「管理された山火事(人口の少ない地域内で収束する、自然に発生する火災)」の実施を困難にする、森林管理における現代の障壁の数々を指摘しました。
問題の1つは、私有財産の極めて基本的な概念です。それは、政府が政府所有の土地で所定の野焼きを計画することとは異なります。ミラー氏が共同執筆した研究(pdf)によると、カリフォルニア州の総面積1億400万エーカー(約42万平方キロメートル)のうち4500万エーカー(43%、18万平方キロメートル)は連邦政府が所有しており、州レベル以下の地方自治体が27%を所有、残りの30%がカリフォルニア州と民間が所有しています。州が管理しているのは、森林地域の2.2%だけです。しかしながら、州の機関であるカリフォルニア州森林保護防火局(CAL FIRE)は、私有地にも山火事保護を提供しなくてはなりません。
州が自然災害に対応するため私有地に立ち入ることは、政治的立場を問わず幅広い支持を得ています。ですが、ことが機械的間伐や所定の野焼きのような予防行動(「燃料処理」と呼ばれるもの)になると話は変わってきます。「所定の野焼きの実施方法について、訓練を受けていますか?」―複雑に絡み合った物事のいくつかの要素を、一般人にも理解できるように解説しながらミラー氏はこう尋ねます。
「責任問題が起こること、それを回避することができるか心配になりませんか? 隣人の所有物に延焼したら、破産するかもしれませんよ?」と、彼女は「所定の野焼きが制御不能になる確率は、1%をはるかに下回ります」と付け加えてながらも、その心配が現実となる可能性はなくなったわけではありません。
「壊滅的な火災を減らす」という公共の利益に基づいて、特定の方法による森林管理を政府が民間の土地保有者に対して求める権限があるかどうか? これについては、より大きな枠で考えるべき土地収用権問題として進行中です。カリフォルニア州では、民間の土地所有者に対するインセンティブの構造を変えるために、フロリダ州の基準を用いてこの問題を回避する方法を模索しているようです。この民間の土地所有者には、大きな製材会社や農場経営者も含まれます。
「直近のカリフォルニア議会でも、責任に関する規制に変更がありました」と、ミラー氏は言います。カリフォルニア州はフロリダ州の「重過失基準」モデルに移行し、土地所有者が責任を問われる基準を引き上げました。「民間の土地所有者を保護するための、特別な保険基金が創設されました。加えて、民間の土地所有者が安心して野焼きを実施できるようなトレーニングシステムも行われていますし、CAL FIREとの間で、コストの低減のための特別な協定が既に存在します。所有地で自ら所定の野焼きを行うことができますが、実際に火を放つのはCAL FIREです。しかしながら、これらの政策が実際に施行されるまでには、どれだけの変更が行われるかを今後数年間見守る必要があります」
次に、野焼きに関する世論の問題があります。
一般大衆は、野焼きを好んでいない傾向にあります。匿名のカリフォルニア州職員は、ミラー氏と彼女の研究(pdf)の共著者に話します。
「人々は、火がどんな被害をもたらし得るかを恐れています。『所定の野焼き(prescribed fire)』と聞くと、人々の耳には『火事(fire)』に聞こえるのです。『所定の(prescribed)』という部分が意味するところを理解してもらわなくては、私たちの仕事はうまくいっているとは言えないのです」。
欧米の一般大衆は概して、すでに十分な火災や煙を目の当たりにしているので、行政がわざわざそれらを増やすことに素直に賛成はできないわけです。
しかしながら、同じく匿名の連邦政府職員が前進するための道筋を示してくれました。「市井の人々に対し、まずは“スモーキー・ベア(※)”の主張は正しいわけではないことを理解していただき、『何かをしてもしなくても、山火事は起きるもの』ということを理解してもらうことができれば、『望ましい条件には、どのようなものがあるか?』について対話をはじめることができるでしょう」と言います。
私たちは大火事の消火に莫大な費用を費やしていて、多くの場合、予防に回す余裕があまりありません。加えて人々は、単に火災が制御不能になることを恐れているだけではないのです。
「人は、自分の家に灰が降るのを嫌っています。近隣での火災よりも、管理下の野焼きのほうがそれが起きる可能性は高いのです。野焼きはその性質上、人の生活圏の近くで発生するものです。野焼きは州法によって、大気が公衆衛生を悪化させることがない程度に、十分に質の高い場合にのみ実施されるよう制限されていますが…」と、ピンセトル氏は補足しました。
※Smokey The Bear:山火事の危険性を広めるために採用されている、熊のマスコット。スローガンは、「君だけが山火事を防ぐことができる」。
しかしながら、これらの燃料処理技術に関する意見を凌(しの)ぐほどの、根本的な問題も私たちは抱えています。それは簡単に言えば、「本来、人が住むべきではない土地に住むアメリカ人がいる」ということです。メキシコ湾岸の氾濫原、南西部の水不足の地域、クイーンズのいくつかの地下アパート、大西部全体に点在する火災が発生しやすい地域などがそれに当たります。
気候調整された世界での暮らしの基本的な事実のひとつに、「人は移動する」ということがあります。ですが、「移動しなければならない」と誰かを説得することは、そう容易なことではないでしょう。そう促すためには、どうしたらいいのでしょう? これに関する規則を制定するということは、とにかく大きな政治的闘争になるでしょう。利害関係の競合が生じ、アメリカでは常にそうであるように…結局、誰が権力を持っているか?にかかってしまうのです。
「これらさまざまな戦略の背後にある論点は、『どのような森を創ろうとしているのか?』ということになります」と、ピンセトル氏は言います。
「単に火災の起きにくい森ですか? 白人移住前の頃のような森ですか? 一部の人が望むような、多くの木材を生産できる森ですか? 人が住めるような森ですか? ―これは難しい判断です。それは求める結果によって、異なる森林対策が必要となる可能性があるからです。そこには確かに、科学は存在します。ですがそれは、完全に科学的選択というわけではないのです。それは言わば、社会的選択と言えるのです」。
モンタナ州ではグレッグ・ジアンフォルテ知事やスティーブ・デインズ上院議員のような、選挙で選ばれた役職者が森林管理政策を支持しています。これらの政策には確かな科学的裏づけがあります。ですが、一部の環境保護団体は、「木材産業の支援が目的だ」と述べています。
そしてその話は、「どの会社について話しているのか?」に帰着するのです。 その木材会社は、森林の健全性を優先しているのか? 「今後、数十年にわたって生産できるようにする」という長期的ビジョンを持っているのか? それとも、迅速な収益とそれに見合った森林管理を要求している投資家や新しい所有者がいるのかもしれません…。
私たちが見つけた答えは、すべての人に影響を与えるでしょう。
先月、アイダホ州の人々と話をした際、私は初めて火災シーズンがもたらす精神的なダメージを認識し始めました。自分が住む地域にも火災が及ぶことへの心配はもちろんのこと、さらに家に閉じ込める要因となり、住んでいる場所での生活への愛着に関しても一挙に(まさに)見えなくしてしまう“煙”についても、心配しているのです。
そしてそれは、人間の繁栄のためだけの問題ではありません。「定期的な軽度の火災は、特定の種の成長と繁殖を助長してもいるのです」と、ピンセトル氏は指摘します。その中には、そびえ立つ太古のセコイア群も含まれます。セコイアに関しては、私たちが100年以上の間その方法で土地を管理してきたことよって、その生息地を変えてしまったのです。これは世界の七不思議のひとつと言っていいでしょう。「セコイアは、種子が発芽するためには火事を必要とします」と、ピンセトル氏は言います。「ですが、1世紀以上にわたる火災を排除するための火災抑制が、根本的にこれらの生態系を変えてしまったのです。それはある種の植物が、繁殖することを非常に難しくしてしまうのです。そうして私たちは、セコイアの生態系が時間の経過とともに老朽化してしまう様を見てきたのです」
このことは、世界の中の1つの地域における1種類の生態系にすぎません。 ある場所では、低木や植生が過成長しています。またある場所では、「王冠」火災という、木の頂上が燃えて急速に広がる火災が起きやすくなっています。 もしそこで効果的に間伐されていたなら、実際にはより良い炭素吸収源になるものもあります。また、気候問題を引き起こしている二酸化炭素を吸収し、耐火性も向上するのです。
それぞれの森林によって異なりますが、森林は30 年ごと、または50 年ごと、もしくはそれ以上または以下の頻度で火災を必要としているのです。
「私たちはこれらの生態系について、頼りない知識しか持っていなかったのです。そして、何千年もの間これらの生態系に住みながら、これまで管理してきた先住民族に十分な敬意を払っていなかったのです」と、ピンセトル氏は語ります。
私たちが都市と同じように森でも学んだことは、「歴史の大部分にわたって自然を支配しようとしてきた行動には、必ずと言っていいほど代償が伴うもの」ということです。現在の私たちは好きなだけ木を伐採し、草を刈ることができます。が、それと同時に、大きな山火事を避けるために小さな山火事を受け入れる必要があるのです。
Translation: Yumiko Kondo