※米国・ブルックリンを拠点にするライターのマット・ミラーによる、インタビュー記事になります。
俳優リー・ペイスと共に、SCI-FI BOOK CLUB(SF小説愛好会)を結成することになった私(筆者ミラー)。この発足はペイスのアイデアであり、誰もそんなつもりはなかったのですが、ブルックリンにある日本料理店のディナーの席がその第1回非公式ミーティングの場へと早変わりしたのです。
もちろん、イギリスのJ・R・R・トールキンによる長編小説『ロード・オブ・ザ・リング』やアメリカの作家フランク・ハーバートによる『砂の惑星』も話題に上り、ペイスそれらの作品を自分でも覚えていないくらい何度も読み返したそうです。また、彼のお気に入り作家であるアーシュラ・K・ル=グウィンや、世界を震撼させたSF小説作家である劉慈欣(りゅう じきん)の『三体』も絶賛していました。彼はやおらKindleを取り出すと、今読んでいるというカナダのSF作家デニス・E・テイラーによる「ボビイヴァース」シリーズを見せてくれました。続いて私がすすめた本2冊(アン・レッキーの『叛逆航路(ほんぎゃくこうろ)』とアーカディ・マーティーンの『帝国という名の記憶』)をその場でダウンロードしたのです。
その2冊を彼がすぐに読み始めるのは、間違いないでしょう。そして彼は、「(すでに読み終えている君には悪いが)この作品について一緒に、一からし話し合いたいね」と、彼は言い放ちます。
ペイスは単なるSFファンというよりも、SF––本物であることが非常に重要であり、まがい物に対しては全くリスペクトを示さない世界感––の研究者のようにも思えるのです。
42歳のペイスが、いくつかのSFやファンタジーの大型シリーズに出演していることを知っている数百万の人々にとっては、彼の読書リストはひとつの安心材料かもしれません。彼は「ホビット」シリーズではスランドゥイル役を、またマーベルコミックを映画化した『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』と『キャプテン・マーベル』ではロナン役を演じています。もちろん、『トワイライト・サーガ/ブレイキング・ドーン Part2』のギャレット役は言うまでもありません。
そして今、そのリストにまたひとつ新たな役が加わりました。
アイザック・アシモフが1940~50年代に書いたシリーズを原作にしたApple TV+のオリジナルシリーズ『ファウンデーション』で演じた、銀河帝国皇帝クレオン1世(壮年期のクローン)です。この小説は、『スター・ウォーズ』と『スター・トレック』に影響を与えた、「現代におけるSF物語とは何かを定義づけた作品」とも言われています。
ここで研究者ではない皆さんのために、『ファウンデーション』における配役の概略をご紹介しましょう。
ペイスが演じている皇帝クレオン1世は、クローンを後継者にすることで広大な銀河帝国を何世代にもわたって支配し続け、絶対的な権力を握っているキャラクターです。彼の風貌はこの役にぴったりで、このシリーズの予告編が2021年夏に公開されるとSNSで大反響を呼び、ペイスのことを“銀河系の皇帝パパ”と呼ぶファンの熱烈な声がオンラインに飛び交いました。
それについて彼は、「たいへん光栄なことだよ」と言っています。「きっと、母も誇りに思ってくれているでしょう」とも。
そう言いながら彼は笑いますが正直な話、この『ファウンデーション』は、深刻な時代にやって来た重大な物語でもありました。私たちのディナー兼愛好会ミーティングが開催された数日前には、私たちの未来に関する厳しい内容の報告書が国連から発表されまたばかりだったのです。(皆さんなら知っていると思いますが、)それをざっくり言えば、「今後30年にわたって気候変動が進んでいくのを止めることはもはや不可能だが、いますぐ行動を起こせば最悪の事態を防げる可能性はある」というものです。
「まるで、『ファウンデーション』の物語中に出てくる台詞みたいだと思わないか?」と、報告書の冒頭部分に関してペイスが言いました。
『ファウンデーション』はローマ帝国の滅亡がモデルになっていて、ひとりの数学者が銀河帝国の滅亡を予測するところから物語が始まります。それに続く暗黒の時代を短くするための計画を立てることはできるのですが、既に銀河帝国には時間がないという状況です。このことは、私たちが現在直面している黙示録的な時代に似ていないでしょうか? そしてこのドラマを観ることが、最高の経験になりえるか? それとも、最悪の経験になりえるか? それはあなたの性格次第となるはずです。
ペイスは前者のほうです。「変化というのは、ぼくらが予測できる唯一のもので、物事は必ず変化していくものさ。クレオンのクローンたちが期待しているのは『永久に不滅であること』なわけだけれど、そんなのは無理に決まってるんだ。世の中というのは、そんな風にはできていないんだよな」と、彼は言います。
気候変動についてペイスは、最良の種類とも言える楽観主義者でもあります。決して諦めはしないけれど、「コントロールには限界がある」ことを受け入れているようです。
彼は米バージニア州アーリントンのクリスタルシティに本社を置く非営利環境団体「コンサベーション・インターナショナル」のリーダーシップ評議会の一員でもあるペイスは、同グループの科学者と共に各地を旅してきました。「このコロナ禍の間に、ぼくらのうちの何人かでも過剰消費を伴わない生き方や、もっと意識しなければならないことのあれこれを経験してくれればいいなぁってと思っているんだけれど、ぼくらは甘やかされて育ってるから、自分の欲望を抑えることができないんだよ」と、ペイスは言います。
気候変動の活動家でもあるペイスですが、皮肉なことに、彼がこれまでに演じたことでよく知られているのは、気候変動に左右される人間の物理的脆弱さとは無縁のキャラクターたち––エルフであり、バンパイアであり、トランプ支持のスペース・キングだったのです。
中でも最も印象的だったのが、カルト的なヒットとなった『プッシング・デイジー 恋するパイメーカー』に登場する、死者をよみがえらせることができる能力と呪いの術を持ったパイづくり職人のネッドです。
このドラマは、2000年代後半にわずか22話しか放送されませんでしたが、HBO Maxのおかげで蘇生を遂げています。新旧のファンと共にペイス自身もこれを観なおしていたようで、私たちはこの作品に関しての意見交換も行っています。
これはもう10年以上前に彼が演じた役ですが、彼はネッドの友人たちが集う“パイホール”(=ドラマの中でネッドが経営しているパイ専門店)に戻りたがっている自分の存在に気がついたそうです。そんなわけで果たして、この死者を蘇らせる物語に第2の生命=シーズン2は誕生するのでしょうか?
「つまり、ぼくらはいつもそんなジョークを言ったり、それを空想したりしているんだ。作者のブライアン・フラーからそのアイデアを聞いたこともあって、すごくクールだと思ったのあ。今はみんな別の仕事で忙しいけれど、また皆と一緒にやりたいね。そうそう、つまりは、やる気まんまんってことさ」と、ペイスは言い放ちます。
そのときが来るまで、彼も私もナイトテーブルに積み上げられた新しい本の山を片づけるのに忙しい日々がきっと続くことでしょう。
Source / Esquire US
Translation / Satoru Imada
※この翻訳は抄訳です。