※レバノン首都ベイルートに拠点を置き、中東情勢やイスラームに関する造詣の深いジャーナリスト、ロレンゾ・フォーラニ(Lorenzo Forlani لورينزو فورلاني)による寄稿記事です。
国内に侵入してきた他国の軍隊というものは、人命や国土に有害な影響を与えるばかりでなく、その国の統治権も侵してしまいます。いわば、“侵略者”なのです。そこにはもっと目に見えにくいものがほかにもあって、その影響は時間をかけて広がっていきます。
まず最初に、社会構造に亀裂が生じてきます。
他民族社会––例えば、アフガニスタンのような––や多宗教社会では特にそれが顕著で、“侵略者”と多少なりとも公式に接触を持つ各コミュニティの中で、被害妄想や陰謀論およびコミュニティ内報復などが生まれ、互いの間に不信感が高まっていくメカニズムが働く傾向にあります。
そして次に生まれる、あるいは、強化されるのがエリートです。
彼らは国をリードしていくために“選ばれた”わけですが、内因的な道筋といううわべを飾るだけの存在であり、人為的につくられたか、そうでなければ、“侵略者”の利益を最優先にするよう機能している者たちとなるのです。
◇介入が生むエリートの生産
外部からの「支援」と「信頼」というアドバンテージをもって誕生した政府のエリートですが、彼らには同時に––疲弊し、やる気を失い、不信感を抱いている社会の目から見れば––支配的立場にある外国勢力の補佐官という重いレッテルも貼られます。そしてその重みは、政治的解決が繰り返されるたびに何度も持ち出され、次第に信頼性を失っていく傾向にあるのです。
これらのエリートは通常、権力者としての役割が根差している自国民たち––彼らのルーツがそこにある場合は少ない––の要望を代表するという純粋なものではなく、自分自身、あるいは自分の一族の収入や利益が得られる活動を維持することを優先に考える人たちと言えるでしょう。そして彼らがその見返りとしている安定の保証は、自分たちを支える勢力の利益と行動の自由を守るためのものであって、アフガンの繁栄などほぼ関係ないのが現状と言えるでしょう。
彼らエリートの自分たちの腐敗や現実に対する無関心は、トランスペアレンシー・インターナショナル(腐敗や汚職の問題に取り組む国際非政府組織で、 汚職状況を国家別にリスト化した腐敗認識指数を毎年発表している)によると、アフガニスタンの腐敗は世界第4位にランクされるほどの悪影響を及ぼしたことになります。
アメリカの侵略や西欧の複数の国々が参加し、20年もの長きにわたり多額の費用をかけて行っている維持管理のミッションへの無関心とほとんど変わりがありません。それこそが、「アフガニスタンで今起きたことの主要因だった」と言えるのです。
◇タリバンが首都を掌握:「アフガニスタン・イスラム首長国」を宣言
最初の支配からちょうど25年。タリバンは同国の主要州をほぼ無抵抗で制圧してゆき、最終的に––アナリストは「1カ月かかるだろう」と予想していましたが、それよりも早く––カブールにある大統領府を掌握(しょうあく)。ここから、「アフガニスタン・イスラム首長国」を始動させる準備を行っています。
「タリバンはカブールの大統領官邸で、“アフガニスタン・イスラム首長国”の樹立を宣言する」と、タリバン関係者によって2021年8月15日に発表がなされました。
“元”大統領ということになったアシュラフ・ガニ氏––彼が大統領になる以前は、カリフォルニア大学バークリー校やジョンズ・ホプキンス大学で人類学を教えていました––が、いち早くアフガニスタンを脱出したのは「流血の事態を避けるため」と語っているのは、偽りのない彼の本心とみることもできます。
ですが、それよりもっと可能性が高い理由もあります。それは、最後の決定的な1週間においてタリバンに対する抵抗がほとんど見られなかったことを考えると、(アフガニスタン空軍の最初の女性の)元パイロットのニローファー・ラーマニがイタリアの新聞『コリエーレ・デラ・セラ』に以前語っていたように、「ガニ大統領のようなリーダーたちのために、自分の命を犠牲にする兵士などほとんどいなかった」からに違いありません。
または、「1996年にタリバンが政権を奪取した際に処刑された、元大統領であるナジーブッラー氏の二の舞となることを恐れた」とも、大いに考えられます。
そんな中でタリバンは今回、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、パキスタンの3国からしか承認されず、ほかの国からは相手にされなかった25年前に比べると、あっという間にカブールを手中に収めているのです。
先月(2021年7月)、アブドゥル・ガニ・バラダル氏(タリバンの共同設立者)は中国外相の王毅氏と天津で会談を行い、モスクワにも3月に続いて足を運んでいます。また同月には、カタールにあるタリバンの政治事務所の所長アッバス・スタネクザイ氏が、イラン外務省内で行われた元アフガニスタン副大統領ユーヌス・カヌーニー氏との会議に参加しています。
先が見えない状況となり、数千ものアフガニスタン人が自国から死にもの狂いで脱出しようとする大混乱が続いています。そして、ジャーナリストやNGOからの要請も相次いでなされています。
ここにひとつ、広く考えられている問題があります。それは、「これまで起きていることは、アメリカ合衆国の“失敗”を証明するものではないか?」ということです。
失敗か否かというのは、その当事者が単独あるいは集団として、実際に想定した目的や期待と深く結びつくものです。例えばベトナム戦争と比較するなら、今回の場合はアメリカ一国だけではありません。間違いなく、西欧全体の問題として考えなければなりません。
それでは、アフガニスタンにおける「アメリカの目的」とはいったい何だったのでしょうか? 「タリバンを打倒し、アルカイダを壊滅させ、アフガニスタンに民主主義をもたらすこと」だったのでしょうか? いやいや、明らかにそうではありません。
『ミドル・イースト・アイ(Middle East Eye)』の記事の中で、ハミッド・ダバシ言氏は「それらの目的を達成しようと尽力していた者は、アメリカ政府の中にひとりもいなかった」と述べています。
アメリカの目的を端的に言えば、「軍事力の訓練場として…。そして、ロシアや中国といったライバル国に対する抑止力としての軍事力を維持するため。さらには、レイセオン、ジェネラル・ダイナミックス、ロッキード・マーティンといった軍事関連企業を儲けさせる手段として」、アフガニスタンを利用しただけにすぎません。
20年に及ぶ戦闘と、2兆ドルもの費用––中東(イラン)と中央アジア(ウズベキスタン)の経済外交を行うエシファンディアル・バトマンゲリジ氏によると、経済発展のために使われたのはそのわずか1パーセントにすぎませんでした––によって、アメリカの軍需産業はかつてないほどの好景気を謳歌したのですから。
またアメリカは2003年以降、現にアフガニスタンですべての強力兵器(無人飛行機、バンカー・バスター爆弾など)のテストを自由に行ってきました。そんな状況を避けるように、高等教育を受けたアフガニスタンの若者の中でも優秀な者たちのほとんどは、ヨーロッパやアメリカへ移住しています。
ここ数年、各地で起きていたタリバンとの小規模な戦闘は、ゲリラ活動のような不規則な戦闘における段階的撤退方法を情報収集し、そしてそれを検証するための豊富な実戦経験(ほかの場所でそれを“有効に”活用できる)になっています。そして2021年7月7月にアメリカは、アフガニスタンに関する情報収集という名目でロシアから中央アジアにある軍事基地の提供まで受けているのです。
アメリカが設定した項目に照らし合わせると、実は「アメリカは成功を収めた」と言えるのです。最低でも、おそらく最初のうちは成功していたと断言できます。それは、彼らを突き動かしていた大勢の犠牲者を出したことに対する“リベンジ”の精神が、失われてしまった時点までは。
ヨーロッパも、ここで小さな成功を手に入れました。ですが、責任の大きさはアメリカほどではありませんでした。が、経済の面でも人の面でも大きな代償も強いられてもいたことは確かです。例えばイタリアの場合は90億ユーロを拠出し、50人もの兵士が命を落とし、400人以上の負傷者が出ています。
命を落とし、親や夫や妻を亡くし、住む場所を失ったアフガニスタン人、そしてタリバンの支配下で生活したことがなく、すでに教育システムの中で育っていたすべての若いアフガニスタン人、ここ数日で大量の人々が国外に脱出したあとに取り残された最悪の状態の国民と。自分たちにどんな運命が待ち受けているかも定かでなく、自暴自棄に武装していた行政の人々こそが真の犠牲者なのです。
ヨーロッパの中には、アフガニスタン人の受け入れを拒否する国が出てくるはずですし、一部の国ではすでに、アフガニスタン人を国外に追放しています(2008年から2020年の間に、約7万2000人のアフガニスタン人がヨーロッパから追放された)が、われわれがするべきことは追放するのではなく、すべての受け入れを保証しなければならない立場にあると思うのです。
大使館など、西欧諸国のために働いていた多くのアフガニスタン人は、簡単に脱出することはできないでしょう。しかも、「国を占領していた外国勢力の協力者」とみなされる恐れだってあるのです。
◇タリバンは今後どう動くのか
タリバンがもし以前と何も変わっていないとするなら、「不慣れなことをやっていかなければならない」という難しい問題を抱えることになります。
カラシニコフや双眼鏡を手放し、机の前に座り右も左もわからない状態で、機能しないように育て上げられたひとつの国を、管理・運営していかなければならないのです。
彼らが今までと同じことをやろうと思えば、「また山の中に戻ればいい」ということも彼らもわかっています。また、「それは、いつだってできる」ということも。
おそらく国際社会としては、彼らを元へ戻れない孤立無援の状態になるよう、ただちに誘導するかもしれません。そしてタリバン側としては、(1989年以来、ICRC(赤十字国際委員会)の代表としてほぼ30年間、アフガニスタンの整形外科クリニックで負傷者のリハビリテーションの取り組みを監督してきたイタリアの医師アルベルト・カイロ氏が期待しているように)少なくとも過去30年間における都市社会の変化を理解し、例えば学校制度に制約を加えることを控え、さらに少数民族のハザラ族に対する態度を改めるといった“穏健化”が有益となるはずです。
「UNCTAD(国連貿易開発会議)」のデータを示しながら、彼らにもっと現実的な考え方をさせるべきでしょう。“親米的な”大統領が存在し、国際社会からの信頼も増しながら、しかも「タリバン主導の政府」という障害物がない時代でも「2001年から今日に至るまで、外国からアフガニスタンへの直接投資はわずか20億ドルしかなかった」という悲惨な状態を、ここで認識しておくべきです。
Source / Esquire IT
Translation / Satoru Imada
※この翻訳は抄訳です。