突然ですが、読者の皆さまに問題です。

「宇宙で電球を1つを変えるために、必要な宇宙飛行士の何人必要でしょうか?」

 ヒューストンにあるジョンソン宇宙センターの無重量環境訓練施設で、最近行われた訓練を見る限り…その答えは「2人」なのです。

 そして、それだけで済むと思っては大間違い。これに加えて、実際には数百人のサポート要員が必須であることもご理解いただきたい。この中には、ビデオカメラを持って水中を漂う14人のダイバーや、プールサイドで控えるあらゆる技術サポート要員、管制室でコーヒーを飲みながらスクリーンに映る訓練の状況を監督する管制官などが含まれています。

 
 ある日の午前9時11分、136kgの宇宙服に身を包んだニック・ハーグ大佐(42歳)が、縦60m、横30m、深さ12mのプールにクレーンでおろされました。このプールには、750億ドル以上をかけて建設された国際宇宙ステーション(ISS)の模型が沈めてあります。ここから6時間、ハーグ氏とドイツの宇宙飛行士であるアレクサンダー・ゲルスト氏は、メンテンナンス作業を行うための船外活動(EVA)、いわゆる宇宙遊泳のシミュレーションを行います。

 ハーグ大佐は2018年秋、ロシアのロケットでISSへ向かい、6カ月間の長期宇宙滞在を開始します。

 NASAの2013年クラスのわずか8人のメンバーのひとりである彼は、このクラスで初めてミッションを割り当てられた宇宙飛行士になります。今回の宇宙遊泳のシミュレーションでハーグ大佐は、17億ドルが費やされたサービスシステムのロボットアームについたライトを調整することになります(正確には、電球の交換ではありませんでした)。

 この作業はISSにいる宇宙飛行士によって、このシミュレーションの8日後実際に行われるものなのです。また、ハーグ氏は複数のバッテリーのアップグレード作業についても、シミュレーションを行います。これは、彼がISSで実際に行う予定の作業になります。この宇宙遊泳(正確には、宇宙ステーション外壁を手で伝って移動します)は、肉体的にもかなり過酷な挑戦となるでしょう。

 宇宙飛行士たちは、ボルトやネジを閉めたり緩めたりするために数千回こぶしを握りしめ、指先や指の関節、ときには鎖骨までも擦り減らすことになるでしょう。宇宙遊泳のシミュレーションである「EVA」において、その当事者はマラソンと同程度の運動強度が必要となるのです。また、作業中は休憩もなく、宇宙飛行士たちは宇宙服の下に“おむつ”を着けることになるもなるわけですから、過酷という以外の言葉は浮かびません。

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「EVA」は、過酷なだけではありませんでした。そう、終わりの見えないプロセスなのです。 

 すべての動きがスローモーションのようにゆっくりで、すべてのアクションは無線越しに声を出して確認しながら進められていきます。

 宇宙飛行士たちは宇宙服内の圧力により、動きのスピードや掛けられる力に大きな制約を受けます。これは実に体力も精神力も消耗する複雑な作業で、逆さまに浮きながらオーブンミトンをつけて機械的な手術を行うようなものです。NASAの「EVA」管制官で指導者のグリエル・ウィルト氏に言っています。「『EVA』には、想像を絶する持続的な集中が必要になる」と。

「EVAでは、宇宙という微重力の極限環境で独自の道具や機器を使って、非常に重要なハードウェアを扱います。下を見れば、足元400km下には地球があり、時速2万8000kmで移動しているわけですから…。45分ごとに日没と日の出が起こり、強烈な日差しと暗闇が繰り返されるのです」と、説明するウィルト氏。 

 このようなプールでのリハーサルによって、管制官は手や足を置く場所やロープをつなぐ場所、道具の選択、作業全体の構成などを評価し改善していくのです。毎シミュレーション後に、結果報告がなされるわけです。

 ハーグ大佐はこの報告の中で、「私たちはロボットアームに関する作業における体のポジショニングや方向などを、うまく評価することができました」とし、「これは計画されていた宇宙遊泳をサポートするために追加された、直前通知の作業でした。今回の作業手順や技術のチェックは、『EVA』の成功に役立ちました」としています。

 宇宙飛行士は最初の訓練で、通常9回の宇宙遊泳シミュレーションを行います。さらに、ミッションを割り当てられたのち、再び9回のシミュレーションを行います。ハーグ大佐にとって、これは最後の9回のうちの6番目の訓練だったといいます。ウィルト氏はこのような訓練の目的について、「常に学び、改善し、そして効率を高めることになる」と語っています。

「常に学び、改善し、効率を高めること」がNASAの哲学

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 それこそがNASAの哲学。要約すれば、「常に学び続ける」です。

 作家トム・ウルフ氏が書籍『ライトスタッフ』にも書かれているように、宇宙飛行士としてのキャリアは、バベルの塔にも登るような終わきテスト、その繰り返しを意味します。

 宇宙飛行士になるためには、最初の選抜プロセスを通過するだけでも困難なものなのに…。ハーグ大佐は2013年に、6113人の候補者から選ばれた男女4人ずつの合格者のうちのひとりです。ちなみに2017年には、12人の候補者の座をめぐって、1万8353人が応募しました。選抜はおよそ4年に1回行われています。

 
 NASAの委員会は最初におよそ120人の候補者を選び、1週間ほどの面接や精神面・体力面のテストを行います。その後、このグループは40〜60人にまで絞られ、さらなる面接やチームビルディング演習、健康診断などをパスしなければなりません。

 ここまで来るのは、最高の学習能力をもつ候補者たちです。

 そうして選ばれた合格者たちは、飛行訓練から宇宙ステーション運用、げっ歯類(物をかじるのに適した歯と顎を特徴とする動物の総称)の解剖まで、さまざまな領域にわたる2年間の訓練プログラムに取り組みます。

 通常、宇宙ステーションでは常時250の実験が進められています。この訓練の中には、不時着時に備えた極限環境でのサバイバルコースもあり、一般のサバイバルプログラムに加えて軍事訓練もあります。また宇宙飛行士は、ロシア語も学ぶ必要もあるは想像できるかと思います。

 訓練終了後、候補者たちはミッションを割り当てられるまで、1〜7年待つことになります。必要とされる資質としては、以前は勇気や運動神経、冷静さなどが要求されています。ですが最近では、ソフトスキルも重視されるようになっています。 

 NASAのチーフ・トレーニング・オフィサーであるキャスリン・ボルト氏は、宇宙飛行士の仕事について「宇宙旅行の資源管理」と表現し、「チームのなかでどのように働くのか」「他のメンバーや自分をどのように扱うか」「どのようにコミュニケーションを取るか」「どのように耳を傾けるか」といったことが重要だとしています…。(つづく)  

将来火星に降り立つ可能性もある、新世代の米国宇宙飛行士たち4名をご紹介します!!

From Men's Health
Translation / Wataru Nakamura
※この翻訳は抄訳です。