あのアイコニックなブランドが、アメリカ国内の全店を閉鎖します。

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子供たちの夢が詰まった巨大な空間

 1980年代から90年代にかけてアメリカの郊外で育った子どもにとってトイザらスは特別な場所。映画『チャーリーとチョコレート工場』に登場するウィリー・ウォンカのチョコレート工場に足を踏み入れたような気分を味わえる、もっとも身近な場所でした。 

 店舗は巨大で、煌々と照らされた数100m2におよぶ空間が、買い物客たちのおもちゃに対する欲望を満たすためだけに存在していたのです。私の母は、私を用事に付き合わせたご褒美に、あるいはトラウマになりそうな病院での診察を終えた後に、トイザらスに連れて行ってくれました。店に着くまでの間、子どもなりの “バルーン・モーゲージ”(ローン期間中は月々の返済を行い、最終支払い回にそれらの返済額よりはるかに高い額を支払うローンのこと)を母と交渉したものです。(「店内に20分いさせてくれるのなら、今年の終わりまで毎日ガレージを掃き掃除するよ。何でもやるから!」) 

 これが通じなかったら、とにかくお願いしました。 

 それから、泣きわめきました。 

 それなのに、トイザらスは破産してしまいました。ワシントンポスト紙によると、全米800店舗すべてを閉店するというではありませんか。アトランティック誌によれば、トイザらスの経営が急激に悪化したのには、いくつの原因があります。まずは、デジタル競争(ようするにアマゾンです)、そして、オンラインでうまく収益をあげることが挙げられます。それから、経営手腕にも問題がありました。こうして、トイザらスは何10億もの負債を抱えることになってしまったのです。(次ページへ続く)

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大好きだったG.I.ジョーにレゴ、ゴーストバスターズ…

 トイザらスを訪れたことは、決して消すことのできない子ども時代の思い出として私の中に残っています。一度店内に足を踏み入れると、手の中にある数ドル、あるいは母との交渉で勝ち得たローンでどれだけのものが買えるのか計算しました。
私が最初に夢中になったのは、「G.I.ジョー」です。彼は、私が夢中になったおもちゃたち、ゴーストバスターズやゴボット、アーミー・アンツ、レゴ、マイクロ・マシーン、ランボ、WWFのスターたち、スターティング・ラインナップ、ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズの頂点に君臨するプラスチック製リーダーでした。 

 やがて、私の興味はスポーツやテレビゲーム、高校時代の恋愛、ビール、勉強、女性、仕事、アパート、それから人生最愛の人、と移っていくわけですが。その後、私は子どもを授かりました。名前はステラです。こうして、30年ほどの月日が経ち、私も36歳になり、私が生まれ育った街からは何千マイルも離れたニュージャージーの大規模小売店がひしめくエリアの中にあるトイザらスを訪れました。2歳の女の子の手を引きながら店内を歩くと、あの頃の思い出が鮮明に蘇ってきました。プラスチックのにおい。おもちゃが入る箱を明るく照らす蛍光灯。これほどまでに鮮やかに感じたことは、あの時、あの瞬間が初めてでした。 

 マンハッタンという限られた生活空間から出たことのなかったステラは、私と同じようにその空間の大きさに圧倒され、喜びを隠しきれなかったようです。それは、私たちふたりにとってとても楽しい体験でした。(次ページへ続く)

Amazon.comは、本当の意味でトイザらスに代わる選択肢なりうるのか?

 おそらく、あれがステラにとって最後のトイザらスになったのだと思います。子どもたちの習慣は変化しました。多くの時間をスクリーンの前で過ごし、手に取ることのできるおもちゃで遊ぶ時間は少なくなりました。さらに、今子どもたちが見る画面には、ほとんどCMが流れないので、彼らはトイザらスの存在さえ知らないのです。(一方の私はと言えば、トイザらスのテーマ曲が脳内の深い場所に埋め込まれてしまって、いまだに自分でも気づかないうちに口ずさんでいることがあります。I don’t want to grow up. I’m a Toys R Us kid…)

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
VINTAGE 80'S TOYS R US COMMERCIAL I DON'T WANNA GROW UP, I'M A TOYS R US KID
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 ステラが、トイザらスに行く機会がないのは、両親がともに働いているからです。私の母は、息子たちふたりと家にいられるだけの余裕がありましたが、ステラは、私と妻が仕事をしている間、月曜日から金曜日まで保育園に通っています。土曜日や日曜日になると、私たちは仕事の疲れを癒し、ステラと遊び、どうにかして貴重な時間を自分たちのために使おうと努めます。そこに、トイザらスが入る隙間はありません。 

 しかし、もしトイザらスが消えてしまったら、泣き叫ぶ娘を医者に連れて行った後、彼女に何を約束できるのでしょうか。Amazon.comは、確かにスピーディーで品揃えは豊富です。でも、何も残りません。無限に近い選択肢と、郵送されてくる(あるいはドローンが届けてくれる)段ボール箱では、ハッフィー社の真新しい自転車で店の通路を駆け抜けたり、1,000ピースのレゴの入った箱がもつ可能性に想いを馳せるような経験をすることはできません。というのも、トイザらスが私たちに与えてくれていたのは、単におもちゃを買うという行為ではないからです(もちろん、それも満足のいく行為ではありますが...)。 

 そうではなくて、私たちがトイザらスから得ていたのは、そこに行けば楽しいことが待っているという約束と、現実に何が起こっていようと、そこでは少しの間何もかも忘れていられるかもしれないという可能性だったのです。私たちは今、かつてなかったほどに、そのような場所を必要としています。

BY Michael Sebastian on March 15, 2018
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