かつては英国王チャールズ1世が所有していたこともあるという、この絵画のオークション出品までの道のりは、そう平坦なものではなかった…。

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Photograph/ Associated Press

 レオナルド・ダ・ヴィンチの名画、 「サルバトール・ムンディ」

 2017年11月15日(米国時間)、ルネサンスの巨匠であるレオナルド・ダ・ヴィンチがキリストを描いた絵画がオークションに出展されました。すると価格はみるみるうちに上昇し、落札価格はなんと4億5000万ドル(約500億円)となったのです。 

 これは美術品のオークションや個人売買の価格としては、史上最高額となったそうです。 

 この絵画「サルバトール・ムンディ」(ラテン語で「世界の救世主」の意味)は、20枚足らずの現存するダ・ヴィンチによる絵画のうち、唯一の個人所有のもの。今回のオークションの主催は競売大手のクリスティーズで、現時点で買い手は明かされていません。 

「『サルバトール・ムンディ』は、史上もっとも重要な芸術家が世界でもっとも伝説的な人物を描いた作品です」と、クリスティーズで戦後美術 & コンテンポラリーアート部門の共同代表を務めるロイク・ガウゼル氏は語っています。 

「このような傑作を美術市場に出すことができるというのは、一生に一度の栄誉です」とガウゼル氏。 
 

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写真:ダ・ヴィンチが描いた名作の1つである、「サルバトール・ムンディ」。Photograph/Getty Images 

 
 美術品のオークション落札額ではこれまで、2015年5月に今回と同じく米ニューヨークで競売にかけられたパブロ・ピカソの「アルジェの女たち」が、1億7900万ドル(約200億円)で最高額となっていました。 

 また個人売買では、2015年9月にヘッジファンドマネージャーのケネス・C・グリフィン氏が、デヴィッド・ゲフィン財団から3億ドル(約335億円)で購入したウィレム・デ・クーニングの「インターチェンジ」が最高額となっています。 

 今回のオークションは最低保証金額が1億ドルに設定され、7500万ドルから入札が開始されました。19分間のオークションは、その半ばで入札額が3億ドルを突破しました。オークションハウスギャラリー内では拍手と歓声が沸き起こり、最終的な落札額は4億ドルまで上昇。そうして史上最高となる、4億5000万ドルという落札額に。ちなみに買い手がオークション主催者に支払う手数料も、そこに含まれています。 

 縦約66cmのこの絵画は、1500年頃に制作されたもの。ルネサンス風のローブをまとって左手に水晶玉を持ち、祝福のために右手を上げるキリストの姿が描かれています。

長い年月を経ても高い人気を誇る、 ダ・ヴィンチの名画

 そして、この作品のオークション出品までの道のりは、そう平坦なものではありませんでした。
 かつては英国のチャールズ1世にも所有されていたこの絵画は、その後所在不明に。1900年代に再び見つかって、英国のコレクターの手に渡ります。しかし、当時、この作品はオリジナルではなく贋作とみなされていました。 

 その後、1958年に再び売却されたこの作品は、2005年に再度売りに出されることに…。複数のアートディーラーが1万ドル(約112万円)で共同購入したこのときには、作品はひどく損傷し、一部は上塗りされていました。アートディーラーたちはこれを修復し、鑑定によってダ・ヴィンチによる本物の作品であることも認められたのでした。 

 2013年にはロシアの大富豪であるドミトリー・リボロフレフ氏が、個人売買により1億2700万ドル(約140億円)で入手しました(ただし、このときの売買をめぐっては訴訟になっています)。そうした経緯を経て、今回、同氏のもとからオークションに出品されたというわけになります。 

 クリスティーズによれば、ほとんどの専門家は同作品がダ・ヴィンチのものであると認定しているものの、一部ではそのことに疑問を投げかける声もあるようです。
「大規模な修復により、作品の制作者が曖昧になってしまった」と考えている専門家もいるそうです。 

 
 クリスティーズは、史上最高の芸術家の一人とされるダ・ヴィンチに対する世間の関心を利用し、「最後のダ・ヴィンチ」と銘打ったメディアキャンペーンを実施。この作品は出品にあたって、香港やサンフランシスコ、ロンドン、ニューヨークなどで展示もされました。 
 

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写真:10月10日にニューヨークで展示された、「サルバトール・ムンディ」。Photograph/ Getty Images 

 2017年11月14日(米国時間)、ダ・ヴィンチの作品を所有する美術館のないニューヨークではアート好きたちが集まり、この作品の展示を見るためにロックフェラーセンターにあるクリスティーズの外に長い列を作りました。 

 そんな列に並んだブルガリア出身でニューヨーク在住のスヴェルタ・ニコロヴァ氏は、この絵画について「本当に見事なもの」と語ります。 

「人生でまたとない経験です。一度は見るべきもので、ニューヨークで見られるというのは素晴らしいこと。この時期に、ニューヨークにいて本当にラッキーでした」とニコロヴァ氏。 

 
 これまで多くの芸術家たちが多くの名作を手がけてきましたが、彼らの作品はいつの時代でも人々に感動を与えてくれます。メディアキャンペーン「最後のダ・ヴィンチ」が日本でも展示されることを願いましょう。



編集者:山野井 俊