「テクノロジー」「イノベーション」。
そんなキーワードが世を騒がす昨今、
様々な技術や、それを生かしたガジェット、
サービスなどが多く生まれているなかで、
どんな”人”がどんな”場所”で、
どんなプロジェクトを進めているのか?
今回、ソニーの本社にお邪魔しました。

Product, Job, White-collar worker, Aerospace engineering, Company, Employment, pinterest

中央がソニーの杉上雄紀さん、向かって左側が加藤圭一さん。そして向かって右側が、この記事の筆者であるデジタルプランナーの市來孝人さん。

 SONYファッションのデジタル化を目指す

 長年、日本のものづくりをリードしてきたソニー。2014年、本社オフィス内に「Creative Lounge」を創設するなど、近年は新規事業の創出にも力を入れています。
 
 その中のひとつが電子ペーパーから生まれた「FES WATCH U」。一見、業務領域と遠い存在に見えるファッションという領域で、自社の技術がどのように結びついたのか? そのきっかけについて開発者に尋ねてみました。


■Fashion Entertainments
=ファッションのデジタル化をテーマに

 今回登場するのは「FES WATCH U」を手がける、ソニー株式会社 Fashion Entertainmentsプロジェクトリーダー 杉上雄紀さん。プロモーションを担当する、Fashion Entertainmentsマーケティングマネージャー 加藤圭一さんにも同席いただきました。 
 
 杉上さんは2008年にソニー入社、テレビ「BRAVIA」のソフトウェアやアンドロイドアプリなどを手がけ、新規ビジネスや商品企画の部署などを経て、その後2014年より社内ベンチャーとして「FES WATCH」の開発にチャレンジ。2015年の11月に、初代「FES WATCH」を発売しました。 
 
 名刺で目を引くのは「Fashion Entertainments」という記述。この事業室は「ファッションのデジタル化」をテーマに、「電子ペーパーという元々ある素材を、柄が変わる布地ととらえて、好きなときに好きなデザインに変えられる、自分らしさを表現できるファッションアイテムを作っていこうと2014年に立ち上げた」というもの。なぜ、電子ペーパーで時計を作る、というアイデアを思いついたのでしょうか?
 

Design, White-collar worker, Job, Conversation, Event, Office, Interior design, Business, Collaboration, pinterest

右がFashion Entertainmentsプロジェクトリーダーの杉上さん、左は同マーケティングマネージャーの加藤さん。
 
 
「きっかけは2012年。テレビのソフトウェアを作っているときに東京ゲームショーに行き、カードゲームのコーナーが気になったことに始まります。様々なデジタルなものがあるなかで、そこだけアナログのもの、しかも大変盛り上がっているということが印象に残ったんですね。他に、まだデジタル化されていないものは何か?と考えながら、その翌日にTOKYO GIRLS COLLECTIONのニュースを観て、ファッション × デジタルはこれからチャレンジできる領域なのではと思いました。――そうして社内のアイデアコンテストに何回か出しているうちに仲間が集まって、賞をとることもできたのです。それと並行して、社長にも企画をぶつけにいったところ、SAPという新規事業育成プログラムを新たにやるから、チャレンジしてみないかと…」(杉上さん) 
 
※SAP:Seed Acceleration Programの略。既存の事業領域外の新しい事業アイデアを集め、育成することを目的としたソニーの新規事業創出プログラム。
 
 
 
«次のページ»
撮った写真がすぐさま腕時計のデザインに⁉

■撮った写真をその場で加工して、文字盤の柄に 

Eyewear, Design, Hand, Finger, Fashion accessory, Hardwood, pinterest

好きな時に好きなデザインで楽しめる「FES WATCH」がズラリ。文字盤とベルトに配置される電子ペーパーも見せていただきました。
 
 
 様々なファッションアイテムのプロトタイプを製作しているうち、「自分でも見られて、他のひとにも見られる。そして、常に身につけていられる」という点から時計にフォーカスしていったとのこと。そして、ベルトも含めた全体を一枚の電子ペーパーで構成するというアイデアが浮かぶことに。電子ペーパーはもともと電子書籍端末などで活用されていたもので、今でも大学ノートを電子ペーパーで書き換えて教材を配信するという施策にも使われているそうです。 
 

「2017年6月12日発売となった第二世代の『FES WATCH U』は、より時計に近い存在として従来の時計のサファイアガラス、ステンレスといった腕時計として伝統的な素材と、フレキシブル電子ペーパーという革新的な素材を融合して作っています」(杉上さん) 
 
 さらにアプリ「FES Closet App」を通して、さまざまな柄をSONY側から配信して、ユーザーがセレクトできるようにしていくとのこと。さらには、自ら撮影した画像を元にした柄も作ることができます。画像をピンチアウトして大きさを選んだり、Instagramと同じようなフィルター機能で加工したりすることも可能。「旅先でお気に入りの一枚になった写真をすぐに腕時計にする」、という楽しみ方もできますね。 
 

Gadget, Mobile phone, Finger, Hand, Watch phone, Technology, Electronic device, Watch, Portable communications device, Wrist, pinterest

杉上さんは私自身の顔写真を撮影すると、すぐさま、そして手軽に「FES WATCH」へと表示させてくれました。
 
 
「この“FES WATCH U”の開発はガジェットという定義ではなく、あくまでファッションアイテムを作ろうという狙いだったのです。でも、本当のファッションのど真ん中でやるには、SONYという名前だけでは通用しません。それに今回は、機能性だけで売るのではありません。ファッションアイテムは商品力に加えて、その裏にあるブランドの思想・世界感もお客さまの感性を動かし、欲しいという衝動を生み出すことが多いと思うので、『Tokyo Monochrome』(トーキョーモノクローム) というプロモーションのコンセプトを打ち出しました。このコンセプトに賛同いただいた東京をベースに活躍する10名のクリエイターに、オリジナルで柄を書き下ろしていただき、色彩あふれた都市・日常を「モノクロ」で描写するという表現スタイル・カルチャーを提案していきます。2017年6月27日(火)までは、伊勢丹メンズ館8階=イセタンメンズ レジデンスでポップアップストアをオープンさせていただきました。次は2017年7月26日(木)から、阪急メンズ大阪1階でオープンします。全部で全国20カ所でポップアップストア展開する予定でいます」(加藤さん)



«次のページ»
取材はソニー本社にあるアイデア創出の場、
SAP Creative Lounge。ワクワクが止まらない!

■3Dプリンターやレーザーカッターのある社内ラウンジ

Product, Office, Building, Interior design, Architecture, Lighting, Table, Design, Eyewear, Restaurant, pinterest

取材は東京・品川にあるソニー本社ビル・ソニーシティの1階「SAP Creative Lounge」にて。大手企業というよりも、クリエイティブなベンチャー企業のオフィスといった雰囲気、思わず「アグリー!」と返事してしまいそう(笑)。
 
 
 今回の取材の舞台は、ここ「SAP Creative Lounge」。「SAP」とは前ページでも説明していますが、ソニーが新たなビジネスを作り出すためにスタートさせたプログラムである「Sony Seed Acceleration Program」の略。このラウンジは東京・品川にあるソニー本社オフィス内にあり、新規事業に向けたアイデアを基に、その場での試作や社内外の方のミートアップに活用されています。

「3Dプリンターやレーザーカッターが揃っているので、ここで試作品を作っていました。また、2020年のブティックはこうなっているというコンセプトでソニービルで開催した『eBoutique 2020』展示の試作品を作ったり、プレスイベントや一般向けのタッチ&トライイベントも行ったりしました」(杉上さん) 
 
 

Product, Standing, Floor, Flooring, Hardwood, Service, Wood flooring, Job, Laminate flooring, Snapshot, pinterest

写真左/石膏の人形は、ソニービルの「ソニーイノベーションラウンジ」にあったもの。実際に開発したプロダクトを身につけています。写真右/プロトタイプ製作に使用したレーザーカッター。クラッチバッグのプロトタイプも、この3Dプリンターで作ったとのこと。



«次のページ»
最先端で活躍するお二人のオンスタイルは、
クリエイティブかつ正統な着こなしでした。

■コーディネート紹介:社内はラフな格好が多い

Job, Engineering, Employment, White-collar worker, Office, Company, Aerospace engineering, Research institute, Building, Furniture, pinterest

取材させていただいた、杉上さんと加藤さんの私服にもフォーカス。服装からも”その会社らしさ”を探ってください。右の杉上さんは、モードな香りのするジャケパンスタイル。左の加藤さんは、正統派に遊び心を加えたジャケデニスタイル。互いに路線は違えど、クリエイティブ感漂う大人の好印象スタイルです。


「実はこのTシャツは、他にはないオリジナルアイテムなんです。ISSEY MIYAKEのデザイナー宮前義之さんが、特別に作ってくれました。宮前さんとは以前、電子ペーパーのバッグ作りでコラボさせていただきました。そのバッグは実際にパリコレのキャットウォークを宮前さんのコレクションと一緒にランスルーしたのです。そして、そのバッグが2017年4月から実際に発売になりました。そんなご縁で、このTシャツを弊社のメンバー分として6着だけ作ってくれたのです。モノクロなので、僕の普段のコーディネイト志向にも合っているので気に入っています」(杉上さん) 
 
 
 社内の様子も聞いてみると…。
 
「私のチーム自体は社内ベンチャーで、日々、戦場のように仕事しているのでラフな格好が多いですね。社内全体を見渡してもTシャツの人が多いですし、ファッションは自由ですよ。コム デ ギャルソン好きな人がいたりストリート系が好きな人がいたり…と、手がけているビジネスも様々なので、服装も縛りはありませんね」(杉上さん) 
 
「SONY全体を見まわしても、B to Bのお客さまと接する部署以外はタイドアップしている人はほとんどいないですね。私はジャケットスタイルが多いのですが…。オーセンティックなスタイルが好きで、オーダーメイドすることが好きなんです。特に生地を選ぶのが好きで、海外出張の多い部署にいたときは、ロンドンなどへ出張へ行った際には必ず買い物もしていましたね。ちょっと『FES WATCH U』のコンセプトに似ているのですが、ファッションは個性を示すツールだと思っていますので…」(加藤さん) 
 
 
 ソニーに脈々と受け継がれる“ものづくり”へのこだわりを、“現代的なアプローチ”かつ“ファッション”という新たな領域で表現していこうとする「Fashion Entertainments」チーム。今後の展開にも、さらなる注目を!

Watch, Material property, Wrist, Hand, Font, Wood, Finger, Fashion accessory, Strap, pinterest

◇スマートフォン連携で、“自分らしく、時を着る”
「FES Watch U」公式ページはこちらへ。
>>> http://fashion-entertainments.com/

Direction & Interview/
市來孝人(amplifier productions)
Edit & Photograph/Kazushige Ogawa(HDJ)