「テクノロジー」「イノベーション」そんなキーワードが多く聞かれるようになった近頃。様々な技術や、それを生かしたガジェット、サービスなどが数々生まれている中で、どんな”人”がどんな”場所”で、どんなプロジェクトを生み出しているのかを探る連載「THE PEOPLE, THE PLACE」をご覧ください。
スポティファイジャパン株式会社 アーティスト&レーベル サービス アソシエート マネージャー 松島功さん。フリーランスやマネージメント関連会社を経て昨年よりスポティファイジャパンへ。Artist&Label Servicesとして、音楽レーベルやアーティストとのコミュニケーション窓口を担う。
Spotify
2008年にスウェーデンで創業し、現在は全世界に1億4千万人以上のユーザーを抱える世界最大の音楽聴き放題サービス「Spotify」。2016年には日本にも上陸。そんな「スポティファイジャパン」へ、今回訪問させていただきました。
そして、ここ数年話題になりつつある音楽ストリーミングサービスは、果たしてどのように運用されているのか? さらに、知られざる日本オフィスの全容まで…お話を伺いました。
■アーティストやレーベルとともに、ファンとの接点を増やす
スポティファイジャパン株式会社 アーティスト&レーベル サービス アソシエート マネージャー 松島 功さん。
“プレイリストを通してアーティストはどのような仕掛けを実現しているのでしょうか、そしてリスナーはどう楽しめるのでしょうか?”、それらを探るべく、まずは手がけている業務について質問してみました。
「社内に“クリエイターチーム”というセクションがあり、その中でさらにプレイリストを作るチームと、アーティストやレーベル、マネージメントの皆さんとのコミュニケーションを担うチームがあります。私は後者に所属しています。音楽ストリーミングならではのアプローチの仕方などをレーベル担当者に提案・共有しつつ、この曲はどういう風にプロモーションしていこうとか、どのプレイリストに入れていこうかなど、チーム内で検討しています」と松島さん。
「海外ではストリーミングに特化したアーティストプロモーションの成功事例も多数出始めています。こうした海外事例なども共有しつつ、Spotifyを通してどのように曲を世界に広めていくかをプランニングしているのです」
そこで、直近で上手くいった事例を聞きました。
「AmPmと言うエレクトロ系のユニットは、デビュー楽曲『Best Part of Us』が650万再生を超え、日本以上に海外で先行して話題になっています。大手レーベルではなく、Tunecoreという独立系レーベルのアーティストでも楽曲を配信できるアグリゲーター・サービスからの作品なのですが、実は楽曲のリリース前にそのレーベルの方が相談に来られたんです。そこでプロモーション事例や音楽トレンドなどをお話させてもらいました。 たとえば、海外ではモノを売るという発想ではなく、ファンとの接点を増やすという目的でシングル単位で曲を出すことが多いこと。たとえば14作連続でシングルを切ったりするようなことも、ストリーミングでは一つの手段となっているんですよね」と。新たなアーティストを売り出していく場合は、「アーティスト、レーベル、Spotifyの三方すべてが頑張らないとうまくいかない」と、松島さんは強く語ってくれました。
AmPmの曲は、この楽曲と相性のいいSpotifyのプレイリストでも紹介しましたが、アーティスト側でも他の音楽サービス(YouTube、SoundCloud)に楽曲をアップした際も、「気に入ったらSpotifyで聴いて欲しい」と促す記述を説明欄にしてくれたそうです。
結果、日本のバイラル(口コミ)チャートにランクインし、それを見た海外のSpotify担当者が着目する。そうして他国のSpotifyプレイリストにも入り、そこでもバイラルチャートで上昇したり…と、自国だけでなく他国でも話題が広がる好ましい循環が生まれたそうです。世界中のSpotify担当同士、こうしたチャート動向や注目すべきアーティストの情報などを常に共有しているそう。世界61カ国でサービスを展開されているという点が、アーティストをグローバルなスケールでの成功に導いているのです。
さらに、“Spotify for Artists”というアーティストやマネージメントにデータやインサイトを共有する専用ページを設けており、月間リスナー数や世界の中でよく聴かれている国や都市(一般ユーザーもSpotify内でTop5の都市までは閲覧可能)などの情報を共有し、次の一手を一緒に考えているとのこと。音楽を配信して終わりではなく、「データを解析し、次のアクションへ繋げていく、ファンとの接点を最大化するため、プロモーション効果を最大化するため、皆さんをサポートしています。」と、松島さんはさらに語ってくれました。
■プレイリストを通した音楽体験の楽しみ方
松島さんは前職で、アーティストマネジメントにも携わっていたそうで、この経験が活きているといいます。
「膨大なデータを見て様々なことを判断するのですが、個人的には音楽は最後は情熱だと思います。ただ、その中で定量的な数値面と、定性的な目標を両立させながら進まなければいけないと思います。そのアーティストや楽曲が支持されたというデータの裏側を正確に読み取らないといけませんし、常に勉強です。両面が大事だと捉えることができているのは、前職でマネジメントに関わっていたという経験も大きいかもしれませんね」と語ります。
続けて、「近い将来、アーティストとファンはもっとダイレクトにつながっていきますよ」と、音楽市場の未来に対するヒントも語ってくれました。
松島さん(写真左)と広報担当の万波宏司さん(写真中央)とともに、Spotifyのプレイリストに関する特長を解説していただいた筆者(写真右)。
次に、肝心のSpotify自体の話を。ユーザーはどうSpotifyを楽しむべきか、オススメの利用方法も伺いました。
「私どもがユーザーの皆さんにお届けしたいのは、音楽発見の素晴らしさです。『もっともっと新しい音楽に出会ってもらいたい!』と常に願っています。ですので、いま好きな音楽以外にも新しいお気に入りのアーティストや楽曲を、プレイリスト(音楽ジャンル別や、気分やシーンに応じたプレイリストまで、世界中に20億本以上)を通じて見つけてほしいですね。また“リリースレーダー”をはじめ、日頃よく聴いている曲やフォローしているアーティストの傾向から、一人ひとりにぴったりな音楽をAIがレコメンドするプレイリストもあります」と、教えていただきました。
「Spotifyで音楽を聴くほどに、AIが好みを学習してくれるんです。なので何カ月か使っていけば、よりユーザーの趣味嗜好にドンズバな曲がリコメンドされます。つまり、トキメクような音楽発見が手軽に次々とできるようになるんです。これって、かなり楽しいことじゃないですか。プレイリストは、小さい頃に作ったミックステープのように音楽を楽しむこともできますね」と。この話を聞いた筆者は早速、自分のSpotifyプレイリストに好きな楽曲を蓄積。その傾向から得られる「この楽曲も好きでは?」というリコメンドを日々楽しむようになりました。
「来日したアーティストのマネージャーが話してくれたのですが…、『僕と彼女で作ったプレイリストがあるけど、それって二人の歴史そのものだね』と言っていたんです。これって素敵なことじゃないですか? Spotifyには “コラボプレイリスト”という、他のユーザーとプレイリストを共作・共有できる機能があります。皆さんにも、こんな使い方も楽しんでいただければと思っています。たとえば一緒に旅行に行くときなどのタイミングに作って、また次の旅行に行くときに第2弾のプレイリストを作る。そうしてプレイリストで二人の歴史をカタチにしていくなんていかがですか?」と。
ちなみにAIによるおすすめは、「たとえば、(このユーザーは)ジャズが好きだとAIは判断したとします。だからといってジャズだけを紹介するのではなく、新たな音楽ジャンルの曲も提案していくのがSpotifyのリコメンド機能の醍醐味だと思っています。『ジャズではないけど、この曲も好きなんじゃないか』と判断すると、絶妙なタイミングで入れてきたりするんです…」と自らもワクワク感を前面に出して松島さんは語ってくれました。
■防音ブースからスタンディングデスクまで、こだわりのオフィスを披露!
防音ブースで、海外オフィスとのオンライン会議に集中!
そんな音楽への情熱をもった松島さんの別の側面も聞いてみるべく、質問は日頃のファッションやオフィス環境へ。
「服装は、今日みたいな気軽な感じが多いですね。社内にも比較的ラフな感じの格好の人が多いです。アーティストやレーベルの方に会うことも多いですから、あまりかしこまり過ぎた格好をしてしまうのもあまり良くないので…」と松島さん。
仕事柄、音楽をかけながらミーティングを進めることも多く、リラックスしながらのブレストなどに向いている「ゲームルーム」や、海外とのビデオ会議に便利な防音ブースなども完備されています。
また、入社したばかりの社員がストックホルムの本社に集まり、Spotifyの企業哲学やカルチャーを体得しつつ、世界各国の同僚たちと交流する「Intro Days」という研修プログラムもあるそうです。また同じ職種に就く世界中の担当が集い、情報交換や議論を行うオフサイトミーティングは、音楽の伝統が息づいている街で開催されるなど、常に音楽と向き合い、音楽文化の発展に向けた貢献や使命を意識している会社であるようです。
ゲームルームのインテリアは、本社のあるストックホルムにちなんで北欧調。
松島さんのデスク。すべての社員のデスクは可動式で、スタンディングでも利用できます。
エントランスには、これまでオフィスを訪問したアーティストのサインも。
そして、この取材をきっかけに、「MEN’S PLUS」とのコラボプレイリストが実現か!? 今後、ビジネスマンに向けた様々なテーマでのプレイリストを配信したいと思っているのですが…今後の展開にご期待ください!
当連載では、これからもテクノロジーを積極的に活用している企業、新たな取り組みをしている企業の「人」「場所」を取り上げ、イノベーションの現場の声・空気をお伝えしていきます。お楽しみに!
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Direction & Interview/
市來孝人(amplifier productions)
Edit & Photograph/Kazushige Ogawa(HDJ)