遥か未来ではなく10年くらい先の近未来を考え、
暮らしのなかでハッピーな「モノ」や「コト」を研究し、
そして発信していくところ、それが“ifs未来研究所”です。
そこでは定期的に、所長・川島蓉子さんが
「話を聞きたい!」と思う方を招いて、
「おしゃべり会」なるトークショーを開催しています。
…ということで、ゲストに糸井重里さんを迎えた今回、
メンズ・プラスはお邪魔させていただきました。
“デザイン→感性→ビジネス”的な非常に興味深い話でした。

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終始、笑いの絶えないハッピーなトークショーを展開していました。右がいわずもがなですが糸井重里さんで、左がモデレーターを務めたifs未来研究所所長の川島蓉子さんです。http://ifs-miraiken.jp/

 ifs未来研究所 未来研サロン

 伊藤忠ファッションシステム(ifs)が運営するifs未来研究所は、10月29日(木)、「川島蓉子と社長の未来のおしゃべり会」を開催しました。ゲストには、コピーライターであり、『ほぼ日刊イトイ新聞』を運営する東京糸井重里事務所の糸井重里さんを迎え、ブランドやデザインに対する考え方について、未来のビジネスへのヒントを語ってくれました。 

  トークショーのテーマは、“ビジネスにはカッコいい感性が必要だ”。ゼロからモノを創造するクリエイティブな仕事をしている観点から、糸井重里氏自身が思う面白いもの・普段の生活・興味のある物・価値観などを掘り下げながらも、全体の雰囲気はフレンドリーに…オーディエンスと一体となって、楽しさを同時に共有していくスタイルです。クリエイティブな両者だからこそできるのでしょう、台本もなく非常にカジュアルな掛け合いで普段の生活での話を展開しているかと思えば、そこから一転して企業や世界の中におけるデザインやブランドにおける興味深い話などへと発展するトーク。ゲストである糸井重里氏の引き出しの多さに歓喜しながら、そのエンターテイナーを存分に味わえる会となりました。 

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川島蓉子さん(以下、川島):私、川島蓉子の主催するifs未来研究所も立ち上げから3年目に入りまして、何か新しいことがやりたくて、ずっと会いたかった人に声をかけてみようって思ったんです。そこで一番に浮かんだのが糸井さんのお顔でした。きっと引き受けて貰えないだろうな~って思いつつ、糸井さんにお願いをしたら、何とOKが出てしまって、すごくびっくりしたんです。 

 
糸井重里さん(以下、糸井):基本的に物事には、○か×しかないんですよね…。だから“自分でやるって決めたこと”=“自分がやりたいこと”なんです。自分で決めたことは喜んでやるので、受ける仕事一つ一つすべてがもの凄く楽しみなのです。この仕事を受けたのも、川島さんに興味をもっていたからです。川島さんを初めて知ったのは、虎屋、伊勢丹、エルメスなどの取組みがきっかけです。長く続いている老舗ブランドに、川島さんが興味をもたれているんだなぁと思ったからですね。普遍化できないものをとらえるのが今の時代で、ある特定のジャンルの成功者の話を色々なジャンルの人が聞いて、そこから誰でもできるところを探して実行してる人が多いんですけど、本当はそうじゃなくて、確かに一部ならできる部分はあるけど、成功した人は他のことをしなかったから成功したのであって…、川島さんはそういうような見方をしている人だなぁ…というイメージがあったので、僕も気になっていたんです。  

…という具合に、自然体でトークショーは開始されました。  

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>>> 「“面白い”って思うのは個人の主観ですよね」

“面白い”って思うのは個人の主観ですよね

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日頃の情景のなかに、アイデアのヒントがたくさんあることを示してくれた糸井さん。

川島:まず聞きたいのは、糸井さんにとって“面白い”ということって何でしょうか。

 
糸井:“面白い”って思うのは、個人の主観ですよね。たまにその場を客観的に見てから、“面白かった”って言う人がいるけど、あれの意味が分からなくて…(笑)。“面白い”と自分が思うその要素を探っていくと、それは“意外性”と“共感性”にたどり着くと思うんですよ。言葉にすると当り前ですよね(笑)。“意外性”があるのだけれど…実は何があったのか全く分からなかったりする。でも、そこに“共感”できることがあると……、それが“面白い”という感情に繋がりますよね。井戸端会議が面白いのは、その共感が山のようにあるからです。今僕は、ラグビーに夢中なんですよ~。まだ分かるところと分からない所があるんですけど、それも“意外”と“共感”にあふれているんです。思ったよりも“共感”が多いことにもびっくりしていますけど…。「これ、いける!」って思ったときの高揚感・喜びが、子供が初めて何かを成し遂げたときの心の高揚感と同じような気がしますね。そういう高揚感、気持ちが毎日あればいいなと思います。 

 

川島:普段の暮らしのなかに、“面白い”とかを探しているんですか?

 
糸井:みんなが面白いときに、『あ~退屈!』と思っているときが多いですね(笑)。面白がりたいっていう気持ちよりも、ネガティブな『退屈したくない』っていう気持ちが強いんです。特に、『退屈は楽しいね~』なんて言っているときが一番怪しいですね。退屈だとその場にいるのも嫌になるので、そうならないためにも、いま自分で「面白くしなきゃ!」って思っています。だから意外と、忙しいんですよ。美味しいご飯は退屈しないからいいですね。夫婦の食事なんかもそうです。理想は会話がなくても、時々「美味しいね~」って言い合うような…。たまに会話するから水でも空気でもないです。そして、じっくりと味わいながらも一人じゃないって空間、それが理想ですね。一番仲良しでいられる気がします。繊細な時間ですね。音楽でいうと、ちょうどバイオリンのソロのような感じかな。退屈じゃない時間をそうやって減らしていってます。最近興味あるラグビーが面白いのも、観に行くも行かぬも、これって僕の自由じゃないですか。たとえ、それがつまらなかったとしても人に迷惑はかけないですよね。でも、そこに発見があればそれは嬉しいですよね…。 

川島:その感覚は、仕事でも一緒なのですか? 

 
糸井:一緒ですね。全然知らなかったことでも、知るようになって面白いなぁって思うことが多々あります。昔、仕事でブラジャーのことを勉強して詳しくなったんです(笑)。それまではブラジャーって、単純に男にとっての憧れのものとしてしか見れていなかったものが、こんな機能があるのか⁉ とか、単位はこうして表記されているのか⁉ とか、凄く勉強しました。昔はこうだったけど最近はソフトなものが多くて、こんな風に推移しているのかとか考えたりして、これも面白いですよね。でも、この仕事してなければ、そんなことも知れなかったので、それは面白いことですよね。



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>>> 「会社のあり方って、どう考えているのですか?」

会社のあり方って、どう考えているのですか?

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まるでランチタイムの会議のように大らかなトークショーでしたが、 
そこかしこにビジネスのヒントとなるキーワードが登場していました。


川島:事前のインタビューで糸井さんは、「凄く売れるものとちょっと売れるものが同時に沢山存在する会社を作っていきたい」って仰っていましたが、それって壮大なことだと思うのですが、どうですか?

 
糸井:幅ったい言い方だけど、僕らの夢はクリエイティブで食っていくことです。なので、「今あるモノをもっと良くする」ことだったり、「すごく面白く突っ込んだモノを作ったり…」、だけどやっぱりコレは売れないよね…の繰り返しだと思ってて…。でも、両方にクリエイティブの要素はあって…、そんなことをずっとやっていたいなと思っています。それが売れなくてもそれを基にして、またその先のモノを作れるし、それはまた面白い…。 

 

川島:そうですか…。人間は何も考えていないときはないと思いますが、糸井さんは仕事と仕事以外での時間の区分けってあるのですか? 


糸井:全くないです。特にコピーライターをしなくなってからは、全部そうなりました。自分の会社のメンバーが今70名くらいいるのですが、その生死に責任があるので、常に必死になって考えています。うまくいっているときには、その先には上手く行かないことも可能性としてはあるわけで…。でも、「そうならないようにしないと!」という気持ちをいつも持っています。 

川島:それでは糸井さんと社員の仕事ぶりに、差が空いたりしませんか? 

 
糸井:他人だから、僕についていけない人も当然いると思います。別についていけなくても良いでしょう。例えば、僕の会社にはメイクに2時間くらいかかりそうな社員がいるんです。それには僕もついていけないし(笑)。僕はあれこれ指示したりはしないです。僕から「こうしてね」っていうよりは、「それぞれ勝手にしようよ」みたいな感じです…。正直、止まっている案件もたくさんありますよ(笑)。価値を見出さなくてはいけない義務が発生するときは、やっぱり仕事としてちょっと苦しくなりますね。だから、あまりに見えないときには、少し遠回りしたり時間をおいたりすると、あるとき何かしらの偶然で急に解決したりするんですよ。“偶然”って、自分を変えてくれるものなんです。アイデアとかは常に自分の頭の中を飛び回っているものだと思うんですけど、“偶然”のきっかけで形になる。それが良いか悪いかも自分で考えたいですね。 



川島:それらをうまく仕事に反映できたとき、素敵なものができるんですね。

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「“ブランド”とは何ですか?」 

“ブランド”とは何ですか?

川島:糸井さんにとって、ブランドとは何ですか?


糸井:僕の会社では、“ほぼ日手帳”(笑)っていうモノを作っていて、手帳って何だろうって毎年考えているんですね。毎年多くの人が購入してくださっているんですけど、震災のときに手帳を流してしまった人たちにコレをあげたらすごく喜ばれたんです。そのときに“手帳”ってのは、アルバムと同じくらい大切なものだと思っている人が多いと思いましたね。そう考えると、“ブランドって小さなライフの積み重ねなのかな”って思うんです。だから、去年手帳のコピーを「LIFEのBOOK」と名付けました。そうしたらすごく見えてきて、今年は「This is my life」にしました。失くしても捨てても…保管していても、みんなライフなんです。これはブランドに似ているんじゃないかなと思います。ブランドって経営してきた人のヒストリーだなと思うんです。そのヒストリーは日々のライフが積み重なってできているものだから、その無数のライフの集合体がヒストリーとなり、それにファンが付いていくことでブランドになると思います。

 

川島:では、そのライフの集合体は、意図的に作れるものでしょうか? 

 
糸井:チンケなライフでも、それが集まることによって、その輝きに惹きつけられる人って絶対いると思うんですよね。老舗でも新商品をじゃんじゃん出しつつ、老舗のイメージは守っているブランドもありますよね。新しさ、先のものも見せる老舗ってすごいと思うんです。「新しい」がないと止まってしまう。究極なことを言えば、「安定」は死にあたりますよね。「安定」は必要だけども、「新しい」は「目的」じゃなくて「手段」なんです。「ライフ=生命」なのだから、生きていくためには「新しく」あるべきなんです。それが支えになって、ブランドの“生きる糧”になるんです。

川島:ありがとうございます。それでは最後に…。皆さんに聞いていることなのですが、糸井さんにとっての「デザイン」とは何ですか?

 
糸井:最近はデザインが意味するエリアがすごく広がっていて…。昔は企画・プラン・設計って言われていたことでも、今では「デザイン」って言われていますよね。そっちまで考えると、究極は「都市計画」だと思っています。 

川島:大きなスケールですね。 

 
糸井:「魂」を表現するのも重要です。物事の本質だけを表現すると、街は小さくまとまってしまいます。例を出せば、教会です。突き詰めれば、宗教に教会は必要ないのでは?って思うこともあります。神様と個人の関係は、1対1であればいいわけで…。でも観光地になるくらい、「何これ?」ってくらいの立派な教会が建っています。そこには、荘厳さというフィクションを必要とする人間の弱さがあるんですね。デザインは、それを生み出さざるを得ないんです。そう考えていくと、「デザインとは生きる舞台を作ること」でしょうか? あ、いい言葉が出てきた(笑)。デザインのセオリーというは、線を引くだけのプロセスじゃないんです。その現地で生活している人のいろいろな思いや状況を詰めて考えながら引いた線をデザインというのだと思うんです。生活=ライフを乗っける器みたいなものですね。器なんですよ、でも、器なのに上から羽織るモノだと思っている人もいます。衣装変えたら変なモノでも売れると思っている人がいる。そういう人には理解されないですけどね…。そこの部分、ナメタことを言われるとカチンときますね。 

 
 …と、あっという間に終了となったトークシショー。ときに井戸端会議のように他愛もない話かと思えば、一挙に重要キーワード続出のトークになったりと…。さすが両人ともに言葉の達人という感じで、的確かつ笑顔になるような具体例を挙げてくださいました。

 特に「売れるものを創り出すだけではない、売れなくても売れても価値のある面白いものをたくさん生み出したい」という姿勢には、とってもプロフェッショナルなものを感じ、「売れないからダメだ」という諦めることも決してない気持ち、そして「デザインというものを、それほど深くまで考え抜いて作っているのか」と、糸井さんの情熱が伝わってきました。 「デザインは生きる舞台を作ること」。この一言に、その重みをとても感じました。そして、Appleの創始者である故スティーブ・ジョブズ氏が残した言葉を思い出しました。「デザインとは単にどのように見えるか、どのように感じるかということではない。どう機能するかだ」。このトークショーも、適格なデザインが施されたモノでした! そして退屈することのない素晴らしい会話が繰り広げられていたのでした。 


【ゲスト/糸井重里さん】

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1948年群馬県生まれ。「ほぼ日刊イトイ新聞」主宰。  
1971年にコピーライターとしてデビュー。 
「不思議、大好き。」「おいしい生活。」などの広告で一躍有名に。  
また、作詞やエッセイ執筆、ゲーム制作など、幅広いジャンルでも活躍。
1998年6月に毎日更新のウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を 
立ち上げてからは、 同サイトでの活動に全力を傾けている。
著書に『忘れてきた花束。』『ふたつめのボールのようなことば。』など。

 
【聞き手/川島蓉子さん】

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1961年新潟市生まれ。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。
著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、 
『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、などがある。
1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。 

Text/Yuko Yano
編集者:小川和繁