2018.06.22

連載:ココロの行脚 with 松山大耕

僧侶の役目

ダボス会議への出席やローマ教皇への謁見、ダライ・ラマ14世と会談するなど、世界各国で宗教の垣根を越えて活躍する退蔵院の松山さん。地元の京都では、外国人に禅体験を紹介したり、京都でアジア初の宗教間交流駅伝を主宰するなどその活動も幅広く面白い。そんな松山さんから、今を生きる秘訣をお届けします。

 
Episode 06 
 

 生家である退蔵院は600年以上の歴史がある名刹(めいさつ)だが、最初から禅僧を志したわけではなかった。隣には泣く子も黙る、天下の鬼僧堂「妙心寺専門道場」があり、幼いころから日々厳しい修行を目の当たりにしていた。「こんな修行をしなきゃいけないのなら、お寺の跡継ぎなんて絶対に嫌だ」、本気でそう思っていた。
 
 心境が大きく変わったのは、大学院のときだ。研究のため、長野の飯山という町で半年間過ごすことになった。ここにも妙心寺派のお寺があるだろうか…調べてみたら一軒見つかって、そこが正受庵という、のちに私の心の師匠となる原井寛道和尚が護っておられる寺だった。
 
 白隠禅師ゆかりの寺として知られているが、冬になると雪が3メートルくらい積もって、2階から出入りしなければならないような雪深いところ。そんな過酷な環境なのに檀家は一軒もないし、拝観もやっていない。
   

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 どうやって寺を護持しているかというと、托鉢(たくはつ)だけだった。この時代に托鉢だけで寺を護るというのもすごいが、中越沖地震・中越地震という2度の大きな災害で傾いた本堂の修繕も、托鉢で貯めた浄財(じょうざい)でされていた。
 
 私は僧堂での修行ののち正受庵に再訪し、ひと冬過ごさせていただいたが、和尚はいままで見てきた僧侶とはまったくスケールが違っていた。
 
 たとえば、あるおばあさんが亡くなられたとき。「旦那寺ではなく、正受庵の和尚に葬式をやってもらいたい」と遺言されたため、親族のほうが相談に来られた。皆が帰られた後、和尚が真剣な顔をして私のところに来て、「お経を全部忘れたから、悪いけど代わりに葬式をやってきてくれ」とおっしゃった(笑)。
 
 本当にびっくりしたが、よくよく考えたら、弔いは重要だけれども、葬式をすることだけが僧侶の一丁目一番地の仕事というわけではない。 
 
 では、何が僧侶の役目なのか。地元のある詩人が和尚のことを詠んだ詩があった。その中に、「寛道さんの托鉢の声聞くと、飯山の町に安心が広がる」という一節がある。これを読んだとき、「ああ、安心を与えるのが僧侶の役目なんだ」と直感的に思えた。私は器も小さいし立場も違うので、寛道和尚のような立派な禅僧にはなれない。しかし、安心を与えるのが僧侶の役目だという教えは、今でも一番大切にしている。
 
 和尚のことをひと言で表すなら、「この方からは何も奪えない」と思わされるような人。お寺はいつも開けっ放しで鍵もかけておらず、誰に会ってもニコニコしていて、町の人全員に慕われている。生前に飯山駅前に和尚が托鉢している姿の銅像が立ってしまうような、ちょっと突き抜けた方だった。
 
 「こういう方がおられるなら、この世界でチャレンジしてみる価値はあるんじゃないか」、それが禅僧を志した最も大きな理由だ。

《Profile》

 
    
松山大耕さん(妙心寺退蔵院・副住職)
…1978年京都市生まれ。2003年東京大学大学院 農学生命科学研究科修了。政府観光庁Visit Japan大使、京都観光おもてなし大使を兼任。2016年『日経ビジネス』誌の「次代を創る100人」に選出。前ローマ教皇やダライ・ラマ14世との会談、ダボス会議に出席など世界各国で宗教の垣根を超えて活動中。

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