2018.07.29

連載:ココロの行脚 with 松山大耕

長く続くもの

ダボス会議への出席や、ローマ教皇への謁見、ダライ・ラマ14世と会談するなど、世界各国で宗教の垣根を越えて活躍する退蔵院の松山さん。地元の京都では外国人に禅体験を紹介したり、京都でアジア初の宗教間交流駅伝を主宰するなどその活動も幅広く面白い。そんな松山さんから、今を生きる秘訣をお届けします。

長く続くもの
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Episode 09

 最近、寺で企業研修をする会社が増えてきた。
 
 坐禅・読経・掃除・古来よりの作法に基づいた食事。あたりまえのことを、あたりまえにやる。自分と向き合う時間をもつ。忙しい現代において、こういった振り返りの時間が求められているのではないだろうか。そして、そういった体験のなかから、大勢の方が忘れかけていた大切なものに気づかされるとおっしゃる。特に今、寺に求められていると感じているのが、「移り変わりが早い世の中において、どうやったら長く持続的に組織を続けることができるのか」、という哲学を学びたいということだ。
 
 禅の世界に「不動心」という言葉がある。
 
 今から400年前、徳川三代家光の指南役でもあった禅僧・沢庵禅師が使い始めた言葉だ。不動心というと、一般的には一度決めたらブレない、やり通す、といった意味にとらえられがちだ。しかし、沢庵禅師が元々おっしゃった言葉はそういう意味ではない。不動心というのはむしろその正反対で、物事に囚われず常にフレキシブルであれ、という教えなのだ。
 
 例えば、川の中でボートを漕いでいるシーンを想像してほしい。
 
 私がボートに乗っているあなたに向かって、橋の上から「動くな」と言ったとする。すると、そこには2つの解釈がある。
 
 まず1つ目は文字通り本当に何もせず、じっと動かない。これだと、ボートは川の流れに流されてどんどん川下に移動してしまう。しかし、そこにはもうひとつ解釈がある。もしあなたが川の真ん中にいるのだったら、その場所から動かない、つまり同じ緯度経度から動くなという意味だ。不動心とは、まさにこの2つ目ことを意味する。

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《Profile》

 
    
松山大耕さん(妙心寺退蔵院・副住職)
…1978年京都市生まれ。2003年東京大学大学院 農学生命科学研究科修了。政府観光庁Visit Japan大使、京都観光おもてなし大使を兼任。2016年『日経ビジネス』誌の「次代を創る100人」に選出。前ローマ教皇やダライ・ラマ14世との会談、ダボス会議に出席など世界各国で宗教の垣根を超えて活動中。

Photography / Getty Images

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