ダボス会議への出席や、ローマ教皇への謁見、ダライ・ラマ14世と会談するなど、世界各国で宗教の垣根を越えて活躍する退蔵院の松山さん。地元の京都では外国人に禅体験を紹介したり、京都でアジア初の宗教間交流駅伝を主宰するなどその活動も幅広く面白い。そんな松山さんから、今を生きる秘訣をお届けします。

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Episode 10

 先日、初めてイスラエルを訪れた。中東に来るのはひさびさだったが、中東に来るときにはいつも気をつけていることがある。それは、なるべく法衣や作務衣で出歩かない、ということだ。なぜかと言うと、テロの対象になるとか、そういうセキュリティ上の理由ではない。ただ単にめんどくさいからだ。

 以前、モロッコに行ったとき。作務衣で空港のセキュリティを通ろうとしたら、係りのお兄さんにいきなりファイティングポーズをとられた。

「お前はkarateマスターだろ。俺を倒さない限り、ここは通さない」。

 ひたすらめんどくさい。空手はおろか、体育の授業で柔道の受け身を習ったことしかない。どうしようか迷ったが、時間もなかったので「日本では本当に強い奴は素人と闘ってはいけないことになっている」そう言うと、彼は深々と礼をして、ろくに鞄の中身も見ずに通してくれた。

 チュニジアでは、俺に合気道を教えてくれ、と街中で突然懇願された。イスラエルに来てからも、テルアビブのホテルではドアを開けた瞬間に、廊下で会ったおじさんから、「お前は太極拳をやってるのか」と話かけられた。

 ショッピングモールで買い物の途中、「あなたはブディストか」「禅が大好きなんだ。いつも禅の音楽を聴いている」などなど、ややこしい質問攻めにあうので買い物をしている暇もなく早々に引き上げてきた。数々の経験から学んだことは、中東で落ち着いて見聞を広めたいなら、服装には気をつけたほうがよい、ということだ。

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 外国に行くと日本のタブーがむしろ好まれることもある。

 例えば、国際会議のパネルディスカッションなどで発言するとき、用意されている椅子に座ってお話する。日本では椅子に浅く腰かけて背筋を伸ばし、ピンとした姿勢をとる。私のような若造があまり横柄な態度をとると印象も良くないし、修行中から良い姿勢を保つことは厳しく指導されてきた。

 しかし、アメリカである人から注意を受けた。「君は宗教家だろ?なぜもっと堂々とした態度をとらないんだ。あんな座り方をしていたら縮こまって見えるし、早く帰りたいのかという印象を受ける。椅子のアームレストはまさにアーム(腕)をレスト(休める)するためについているのだから、どっしり座らないとダメだ」。

 そういえば、ダライラマ猊下はじめ、インタビューでは海外の高僧もドカっと座っておられる。海外では日本の「良い姿勢」はあまり印象がよくないこともある。

 昨年、ある中東の国から皇太子夫妻が寺にお越しになった。精進料理を食べたいというリクエストだったので、精進料理をお出しした。すると、出されたお料理にちょっとずつ箸をつけて全部は召し上がらない。しかも、ほとんど残されている。

会食のあと、お料理がお気に召さなかったのでしょうか、と付き人の方に尋ねてみた。

 すると、「ご夫妻はとてもおいしかったとおっしゃっていました。残したからと言って決して悪く思わないでください。

 昔から王室ではいろんな方からたくさんの貢ぎ物やお土産を頂戴します。もし、気に入ったものばかり食べたり、特定のものしか食べなかったら、手を付けていない料理を持ってきた人は自分の料理は食べてもらえなかった、気に入らなかったんだと思われます。なので、平等になるように、すべての料理をあえて少しずつ食べるという習慣があるのです」と説明してくださった。

 禅の道場では、食べられないものは決して手をつけるな、と教わった。手をつけてしまえば残ったものが無駄になるけれども、手をつけなければあとで誰かが食べることができるからだ。しかし、説明を聞いてみれば中東の事情もなるほどと納得できる。

 海外との交流はこういう発見があるからおもしろいし、いろんな角度からものを見ることができるようになる。


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Reasons for religion -- a quest for inner peace | Daiko Matsuyama | TEDxKyoto
Reasons for religion -- a quest for inner peace | Daiko Matsuyama | TEDxKyoto thumnail
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松山大耕さん(妙心寺退蔵院・副住職)
…1978年京都市生まれ。2003年東京大学大学院 農学生命科学研究科修了。政府観光庁Visit Japan大使、京都観光おもてなし大使を兼任。2016年『日経ビジネス』誌の「次代を創る100人」に選出。前ローマ教皇やダライ・ラマ14世との会談、ダボス会議に出席など世界各国で宗教の垣根を超えて活動中。