父方の祖父は、白洲次郎、祖母は白洲正子という家に生まれ、本物に囲まれて見て育った白洲信哉さん。骨董の専門誌の編集長も務めていた白洲さんが、モノを見極めるには? センスを磨くにはどうしたらいいのか? 白洲さん流のモノとの関わりから、“見る眼の育て方”を教えてもらいます。

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撮影/白洲信哉

 現在、東京上野の東京国立博物館では、特別展「縄文—1万年の美の鼓動」と題した展覧会が開かれている。
 
 日本は歴史が重層したユニークな国だが、その礎が「縄文」にあり、その精神性が現代につながっていることは一般的ではない。未だに「日本史は近代から教えろ」とか、まだ文字のない原始時代は、歴史の中で軽んじられているようだ。

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縄文の定番渦巻き。撮影/白洲信哉 
  
  
 本展会場にも、髭茫々(ひげぼうぼう)の原始人的な竪穴暮らしを再現した模型が飾られていたが、その暮らしは、決して今に劣ったものではなかったと僕は思う。彼らは1万年以上もの間、竪穴住居に生活し、装飾性の強い土器を中心に暮らしていた。有名な三内丸山遺跡などは、三千年もの長期間定住している。 
 
 聖徳太子以来1,400年。かのエジプト王朝は5,000年前と、この1万年を比較するまでもなく、また、これだけもの長きにわたり暮らせたのは、今に続く食の多様性が、すでに「縄文」にあったからだ。
  

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猪形土製品。撮影/白洲信哉  
 
  
 猪などの獣は60種類以上、魚が70種類以上に貝類になると350もの数にのぼり、その他無数の木の実、芽に葉や根等今日のスーパーの品揃えなど比較にならない。その上に旬もすでに知っていて、1年の食物サイクルが完璧に出来上がっていた。 
 
 気候が今より温暖なうえ飢饉的なことがなかったのは、自然採集民族だった故のこと。現代は農耕中心に考えがちであるが、気候変動によるリスクは多大なのと、耕す田を手に入れるためには争いがおこる。「和をもって貴し」は太子の発案ではなく、天からの限られた恵を公平にわけて生活する術をすでに知っていたからなのである。 

 
 この多様な食料を縄文土器で煮炊きすることにより、生の材料の保存や、硬いものを柔らかく、様々なアレンジが可能になった。
 

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土器アップ。撮影/白洲信哉
  
  
 世界最古級の土器は、今に続く焼きもの産地に繋がるものだし、各家々にあった竈(かまど)は縄文以来続いたもので、鍋料理が多様なのも、その名残と言っていいと思う。しかも、同じ型の土器が列島各地に散らばっており、例えば晩期の青森県亀が岡式土器は、北陸から畿内地方へ広まっている。つまり、広範囲の交易があり、同じように佐賀県産の黒曜石は海を渡り、秋田で産出した(天然)アスファルトが北海道へと、海を越えている。 
 
 中でも、糸魚川地域でしか主に産出しない翡翠(ひすい)は、北海道礼文島から九州まで。あの硬い宝石を加工し、大珠(だいじゅ)や勾玉(まがたま)が生まれたのである。玉の文化は中国から渡ったのではなく、世界一古く、オンリーワンの宝石を生産した。硬い石の加工技術は、器用で生真面目な職人気質と通じるものがある。ジャパンの代名詞 漆も、世界最古九千年前の漆器が北海道函館で見つかっている。土器に塗られたそれも数多いが、櫛や耳飾り等呪術的なものも多く、その代表が土偶だが、国宝のそれも勢揃いと発掘された稀なる美から、我々の先祖に思いを馳せて欲しい。
  
    
◇詳細
特別展「縄文-1万年の美の鼓動」

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会期/~2018年9月2日(日)
会場/東京国立博物館 平成館
住所/東京都台東区上野公園13-9   
URL/http://jomon-kodo.jp
※【国宝】火焔型土器、【国宝】土偶 縄文のビーナス、【重要文化財】遮光器土偶は必見です。
  
 


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白洲信哉
1965年東京都生まれ。細川護煕首相の公設秘書を経て、執筆活動に入る。その一方で日本文化の普及につとめ、書籍編集、デザインのほか、さまざまな文化イベントをプロデュース。父方の祖父母は、白洲次郎・正子。母方の祖父は文芸評論家の小林秀雄。主な著書に『小林秀雄 美と出会う旅』(2002年 新潮社)、『天才 青山二郎の眼力』(2006年 新潮社)、『白洲 スタイル―白洲次郎、白洲正子、そして小林秀雄の“あるべきようわ”―』(2009年 飛鳥新社)、『白洲家の流儀―祖父母から学んだ「人生のプリンシプル」―』(2009年 小学館)、『骨董あそび―日本の美を生きる―』(2010年 文藝春秋)ほか多数。


撮影/白洲信哉