父方の祖父は、白洲次郎、祖母は白洲正子という家に生まれ、本物に囲まれて見て育った白洲信哉さん。骨董の専門誌の編集長も務めていた白洲さんが、モノを見極めるには? センスを磨くにはどうしたらいいのか? 白洲さん流のモノとの関わりから、“見る眼の育て方”を教えてもらいます。

Night, Sky, Lighting, Heat, Event, Fire, Flame, Cloud, Gas flare, Street light, pinterest

燃え上がる大笠

 夏らしいをとおり超して、すっかり酷暑と化した列島だが、夏と言えば祭りと花火? なのか、暑いときにこそ日本人は、お祭りが大好きなようである。
 
 天邪鬼家系ということもあるだろうか、僕はいわゆるお祭りごとに、どこか醒めている。民俗学者の柳田国男さんが、「祀りとは神との時間を過ごすこと」という意味のことを書いておられるが、僕はいわゆる神事がしっかりと執り行われ、そのなかで非日常の感覚を得られるものを好む。
 
 ベストスリーは、2月6日新宮神倉神社の「お灯祭」。3月初旬の東大寺二月堂「修二会」に、暮れの12月16、17日の「春日おん祭」である。そこには「モノ」がいて、正確には何処かに、ときどきいるような雰囲気がするだけだが、言葉にするならカミのような何かが、お隣にいる瞬間に、ドキドキするのである。社は杜でもあり、つまり鎮守の森があり、神木や磐座や祠など、カミサマは依り代に、たまにいらっしゃるのだ。
  

Night, Sky, Fire, Darkness, Flame, Heat, Event, Midnight, Smoke, Performance art, pinterest

日が暮れ、「地松」と呼ばれる約1千本の篝火(かがりび)が灯される。山村は星と篝火の海で、幻想的な世界に。
 
  
 昨今は、パワースポットブームのようだが、いつもカミサマなんて居やしない。憑依したり、何かの折に、それが祭りなんだと僕は思う。「兎追いしあの山、小鮒釣りしかの河」は死語になりつつあるが、心の故郷みたいなものと出会えるのが、今月のお盆だし、各地には必ず産土神がいらし、村祭りがあるのだ。毎年8月24日お地蔵様の縁日に、地蔵菩薩を里にお迎えする「地蔵盆」の素朴な信仰が京都北部広河原に残っている。行事は1週間程だが、高さ20mもある「トロギ」の先端、笠状の籠「モジ」目がけて放り投げる松上げは、山奥にも関わらず、年を追うごとに、観光客で賑わっているようだ。
    

Room, Wood, House, Window, Interior design, Door, Furniture, pinterest

写真左は放り上げ松、写真右は地蔵菩薩。 
 
 
 日が暮れて、「地松」と呼ばれる篝火約1000本に火が点けられると、空には星が輝き、一方大地には、一面かがり火の海と、真っ暗な山村は、幻想的な世界と化す。太鼓や鉦の音を合図に、各自作製の「放り上げ松」が、籠に入るか否か、一投一投大きなため息が漏れる。すると、大きな放物線を描いた火の塊りが、籠に入り拍手喝采。
 

Human, Event, Fire, Flame, Pollution, Heat, Smoke, Firefighter, pinterest

男衆が倒れたモジの炎に、長い棒を2方向から突っ込むことで炎をかき上げる、それが「つっこみ」。
 
  
 何度かそれが続くと、火の勢いは増し大松明になるのだった。 頃合いに、枠を縛っていた藤の蔓を切ると、トロギは大きな音を立てて倒れ、祭りは「つっこみ」で最後のフィナーレを迎えるのである。僕はまだ、2度しか見たことはないが、こうした民族的な風習に触れられるのが、日本の地方色だと思う。
 
 ここに限らず、過疎化がすすんでいるが、広河原は新谷保存会会長をはじめ、厳しい掟に守られた男衆の心意気に、僕は、火の神である愛宕信仰の、原点「火迺要慎」を見る思いがした。京都も異常な暑さが続いているようだが、ここは別天地である。ご心配なく!


Sitting, Suit, Businessperson, White-collar worker, Formal wear, Photography, Furniture, Stock photography, Chair, pinterest

白洲信哉
1965年東京都生まれ。細川護煕首相の公設秘書を経て、執筆活動に入る。その一方で日本文化の普及につとめ、書籍編集、デザインのほか、さまざまな文化イベントをプロデュース。父方の祖父母は、白洲次郎・正子。母方の祖父は文芸評論家の小林秀雄。主な著書に『小林秀雄 美と出会う旅』(2002年 新潮社)、『天才 青山二郎の眼力』(2006年 新潮社)、『白洲 スタイル―白洲次郎、白洲正子、そして小林秀雄の“あるべきようわ”―』(2009年 飛鳥新社)、『白洲家の流儀―祖父母から学んだ「人生のプリンシプル」―』(2009年 小学館)、『骨董あそび―日本の美を生きる―』(2010年 文藝春秋)ほか多数。


撮影/白洲信哉