父方の祖父は、白洲次郎、祖母は白洲正子という家に生まれ、本物に囲まれて見て育った白洲信哉さん。骨董の専門誌の編集長も務めていた白洲さんが、モノを見極めるには? センスを磨くにはどうしたらいいのか? 白洲さん流のモノとの関わりから、“見る眼の育て方”を教えてもらいます。

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 展覧会は、美に触れる入り口である。とくにわが国は、常設のみならず海外有名美術館の企画展も数多く開かれ、居ながらにして世界の美が味わえる数少ない国だ。その利点を、と思うのだが、会場を占拠しているのは年配の女性群で、働き盛りのビジネスマンが少ない事を残念に思う。時間がない、と言えばそれまでだが、外に出れば出る程、大事なのは自分の国のことであり、会話の中心は、伝統文化なのである。 

 さて、展覧会入り口に立つと、多くの場合にその趣旨があり、展覧会ガイドのイヤホンを貸し出している。だが、展覧会は何をしに行くところであろうか。「眼の鍛錬」する場所だと僕は思う。「耳学問」と言うのは、頭でっかちな知識を揶揄する言葉としてしばしば使われるが、そうした多くの情報は、「見る眼」を曇らせる。 

 例えば「国宝」という区別がある。何にでも言える事だが、言葉には沢山の罠があり、とくに美辞麗句的な評価と、美を見て感じる事とは別なことだ。グルメ評価も似た事で、「美味しい」というのは、個人の評価であると同様に、五感で感じる事全て他人と同じなんて事はない。美を創造する己の「見る眼」、そのスタンダードをつくることこそが肝要なのだ。 
 

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写真/薬師如来立像元興寺 

 まず、文字情報を遮断して、好みの異性を探すように、ざっと一周してみる。気になる作品が沢山ある場合は、入り口で配布しているリスト表にチェックするといい。僕の場合三点もあれば、その展覧は大成功だと思う。次は、気に入ったそれに立ち戻り今度は凝視する。作品にもよるのだが、ファーストインプレッションで感じなかった正体というか、油絵なら最初の何倍もの様々な赤や青が見えてくるはずだし、茶碗なら正面からまた裏から、そして見込み(中面)など、眼の情報は無限に広がってくるはずだ。一点どのくらい凝視出来るかは、本人の努力、忍耐だが、「解ると言うのは苦労する」と比例し、また幸いなことに、美術館はわずか千何百円で一日見放題なのだ。 

 東京「美の聖地」である上野の東京国立博物館では、「名作誕生」というジャンルにとらわれない一風かわった企画展が開かれている。僕はいつものように早足で一周したが、本展はとっても三点おさまりきらなかった。等伯の「松林図」に「誰が袖屏風」や「湯女図」など、日本絵画の逸品。普段お堂の中で、正面から拝む対象の、多くの諸像が360度見渡せるように並んでいて、見所満載なのだ。特に、大倉喜八郎の普賢菩薩騎象像と、仏画のそれ二つの国宝が前後並んで展示してあった。こうした現場でしか味わう事の出来ない展示の妙は、展覧会企画書の腕の見せ所、メインディッシュなのである。 
 

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写真/東京国立博物館 入口 

◇概要 
特別展「名作誕生-つながる日本美術」 

期間: 2018年5月27日(日)まで開催中 
時間:9:30~17:00(入館は16:30まで) 
場所:東京国立博物館(東京都台東区上野公園13-9) 
入場料:一般620円


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白洲信哉
1965年東京都生まれ。細川護煕首相の公設秘書を経て、執筆活動に入る。その一方で日本文化の普及につとめ、書籍編集、デザインのほか、さまざまな文化イベントをプロデュースする。父方の祖父母は、白洲次郎・正子。母方の祖父は文芸評論家の小林秀雄。主な著書に『小林秀雄 美と出会う旅』(2002年 新潮社)、『天才 青山二郎の眼力』(2006年 新潮社)、『白洲 スタイル―白洲次郎、白洲正子、そして小林秀雄の“あるべきようわ”―』(2009年 飛鳥新社)、『白洲家の流儀―祖父母から学んだ「人生のプリンシプル」―』(2009年 小学館)、『骨董あそび―日本の美を生きる―』(2010年 文藝春秋)ほか多数。