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フィアット社の御曹司、40歳ラポ・エルカン流ラグジュアリー

フィアット社を世界的企業に育て上げたジャンニ・アニェッリの孫、ラポ・エルカンはまるで現代に生きる貴族。粋なファッションをまとい、スピードを愛し、そして数々のスキャンダルも経験してきた男…。

By MATTEO PERSIVALE
ラポエルカン,
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Photograph / WAYNE MASER

 そして、彼が立ち上げたカスタム専門の会社「ガレージ・イタリア」で、ラポが本当に表現したいこととは何なのか?聞いてみたところ…。

 「クルマに飛行機、船、それからヘリコプター。私たちは、クールでスピードが一体化したものをデザインしている。これは、イタリア人が最も得意とする分野でもあるんだ」と。 

 フィアット社の御曹司、40歳のラポ・エルカンは自身が立ち上げた「ガレージ・イタリア」についてこう説明し、さらに続けたのでした…「未来は面白くなっていく。だから早く、そこにたどり着かなければ」と。

《プロフィール》ラポ・エルカンンってどういう人?

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…1977年10月7日生まれのラポ・エルカーン(Lapo Edovard Elkann)は、イタリアの自動車メーカー「フィアット」社の元会長の孫であり、ファッションブランド『イタリア インディペンデント』の会長も務めています。まさに現代に生きる貴族であり、ファッショニスタ。粋なファッションをまとい、スピードを愛し、そして数々のスキャンダルも経験してきた、世界一のお騒がせ伊達男なのです。

写真:イタリア人建築家マリオ・バチョッキが手がけ、1953年に完成したガソリンスタンド。現在はラポ率いるガレージ・イタリアのショールームやレストラン、バーが入る。

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Photograph / WAYNE MASER

 2015年にラポ・エルカンが設立した「ガレージ・イタリア」のショールームは、ミラノの北部に位置する。

 イタリア人建築家マリオ・バチョッキが設計し、1953年に完成したもので、荒れ果ててしまっていたガソリンスタンドにラポが目をつけ、リノベーションを施したのです。入り口から見えるのは、天井に無数のミニカーが浮かぶバー。

 中へ入り、ギフトショップとフェラーリのレーシングシミュレーターを横目に見ながら進むと、 “マテリオテカ”(素材室)と呼ばれる一室にたどり着きます。洞窟のようなその部屋の壁を覆うのは、ありとあらゆるパターンや色をまとった素材のサンプル。

 2階には、ミラノのミシュラン一ツ星レストランで活躍するカルロ・クラッコがシェフを務めるレストランが。中央にはフェラーリ250 GTOが鎮座し、天井にはミニチュアのレーストラックが掲げられています。

写真:ラポと、「ガレージ・イタリア」のクリエーティブ部門のトップを務めるカルロ・ボッロメオ。カスタマイズされたカッシーナのチェアで。

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Photograph / WAYNE MASER

 世界に名をはせる“フィアット帝国”のなかで育ってきた彼に、車に魅了される理由など聞くのはバカげているかもしれません。 

 そんなことを考えていると、ラポ自らこの話題に触れてくれた。「スティーブ・マックイーンにポール・ニューマン、スピードに取りつかれた男たちは、いつだってクールでスタイリッシュだった。ガレージ・イタリアは、彼らにインスパイアされているんだ」と話し、カスタムの世界を選んだ理由についてこう続けた。

 「カスタムを始めようと思ったのは、ここでは“クール”のイメージがとても速いスピードで進化していくから…」。祖父のジャンニ・アニェッリもクールであること、そしてスピードをこよなく愛していた。「祖父はアートコレクターだったし、車も収集していた。それから洋服も大好きだった。私はアートや彼らが所有するラグジュアリーな乗り物を、こうした違う分野に属するものを集めて互いに対話させたいと思っている」。 

 “クール”を体現するさまざまな分野の融合、これを可能にするのがカスタムということなのでしょうか。

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写真:2017年に発表された、フィアット500C。ミッソーニとコラボレーションを果たした。

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Photograph / WAYNE MASER

 「ガレージ・イタリア」の顧客は、超富裕層。車や飛行機、船、ヘリコプターなどをオーダーメードで仕立てるでしょう。「BMWにメルセデス、フォルクスワーゲン、FCA、ガルフストリーム、それからボンバルディア、レアジェット、私たちはあらゆるものをカスタムする」とラポは話します。

 しかし価格を考えると、やはりそう簡単に手を出せるものではなさそう。シートのカスタムは1850ドルからですが、例えばガルフストリームを1機、完全に作り変えるとなると120万ドルをかけることになります。

 「プロジェクトによっては、情報を公開できないものもある。匿名を好むクライアントも多いからね。でも、基本的なプランに関しては近い将来、アジアやアメリカにも輸出していこうと思っているよ。実は最近、スイスのグシュタードでガレージ・イタリアのポップアップストアをオープンしたんだ。それから、レーシングカー・ドライバーのスポンサーも始めた。特にアラブ人女性のF4ドライバー、アムナ・アル・クバイシは素晴らしくて、彼女のサポートをできていることを誇りに思っているよ」と。

写真:“マテリオテカ”(素材室)の壁。コーティングされた金属製のタイルが並べられ、顧客の想像力を刺激する。

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 現在はイタリアに拠点を置いているラポですが、生まれはニューヨークになります。ある時期まで、アメリカの市民権ももっていたそうです。「イタリアで兵役の義務を果たすため、市民権は放棄したんだ。けれど、私はカトリック教徒でユダヤ教徒。それからアメリカで生まれたイタリア人でもある。世界市民なんだよ」と彼は話し、こう続けます。

 「ガレージ・イタリアのビジネスもアメリカで本格的に展開したいけれど、それには倫理観のある、ふさわしいパートナーが必要なんだ。けれど、まだ見つけられていない。昔はどうしても衝動的に動いてしまっていたけれど、さすがにもう時間をかけることを学んだよ」とのこと。

写真:MVアグスタにまたがるラポ。ガレージ・イタリア・フェラーリ・レーシング・チームのジャンプスーツを着て。

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 麻薬や売春婦への偏愛など、ラポ・エルカンがプライベートで起こしたスキャンダルが連日のように一面記事を飾っていた時期もありました。

 今でもイタリアでは、彼の一挙手一投足を狙うパパラッチは多いのですが、一般のイタリア人たちは、ラポ・エルカンを見る目は実に優しい。ラポは、“許される者‘’なのです。それはなぜでしょうか?

 生来の魅力や性格のよさとは、別の何かがあるように思われる。生まれながらにしてこれだけ裕福な環境にいながら、10代のころから身を粉にして働いてきたからなのでしょうか…。あるいは右腕に“INDOMITABLE”(不屈の)、左腕に“INDEPENDENT”(独立した)と刻まれたタトゥーの言葉に、その理由が隠されているのかもしれませんね。

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写真:バーにて、ジェントゥッカ・ビニがガレージ・イタリアのためにデザインを手がけたジャンプスーツをまとうラポ。頭上には、ブラーゴ社のミニカーが1000台以上浮かぶ。

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 ラポは辱めに遭っても、自分の力ではい上がろうとしてきた。数々の会社を設立し、ビジネスに打ち込むことで起死回生を図ろうとしてきたが、自身が立ち上げたビジネスで成功するのは簡単なことではなかった。しかしこのところ、明るい兆しが見え始めてきている。自身の広告会社、インディペンデント・アイディアズの株式の過半数を、フランスを拠点に世界中で事業を展開するパブリシスに売却したのだ。大ファンでもあるファレル・ウィリアムスとも契約を交わし、アパレルやアイウエアのデザインでコラボレーションが決まった。そして、2015年にはガレージ・イタリアをスタートさせた。 

 ラポは、これまでのことをこう振り返る。「すべて実際に起こったこと。それは認めるし、その責任も取る。メディアを通して私を目にしていた人々は、ヒーローを見ていたわけではない。苦しみもがいている一人の人間を見ていたんだ。確かにやるべきでなかったことも多いけれど、私はどうしようもなく“闇”に引かれてしまい、光の当たらない場所に進んでしまう傾向にあった。これは私の性分なんだ。しかし今では闇の部分を、コントロールできるようになってきた」。 

 自分の中の問題を克服したラポは、彼のことを心配してくれている人がたくさんいた事実にただ驚き、感謝した。そしてこの思いを形にすべく、2016年に財団、LAPSを立ち上げた。「ADHDや失読症、性的・精神的虐待など、私と同じような問題を抱えた人々を支援するために、LAPSの活動を始めた。私は麻薬中毒だったことがあり、失読症でもある。それから子どものころに性的虐待にも遭った。だから同じような立場にいる人々を助けたいんだ。善人はばかをみるなんて言う人もいるけれど、私は悪い人間にはなりたくない」。

写真:ガレージ・イタリアのショールームの奥に作られた、ラポ・エルカンのオフィス。超高級スポーツカーのフェラーリ250 GTOを専用のデスクとして改造した。

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Photograph / WAYNE MASER

 ジャンニ・アニェッリもまた、悪い人間ではなかった。しかし、非常に複雑な人間だった。「祖父のことは、誰よりも尊敬している。私のヒーローだった。彼に似ているかって? そうとも言えるし、そうでないとも言えるかな」。ジャンニ・アニェッリとラポ・エルカン。このふたりに違いがあるとすれば、それはメディアの存在によるところが大きい。ジャンニはパーティーざんまいの日々を何十年も送り、麻薬もやり、車も大破させたが、メディアに煩わされることはなかった。ラポの場合は違った。次のステップの舞台となる、ここガレージ・イタリアに身を置いてもなお、彼は過去と向き合うことを強いられている。

 「私はもう何も隠すことなんてない。最近は私のことについて、いいことを書く人が増えてきた。そうでない人もいるけれどね。これはゲームのルールのようなものだ。いいことと悪いこと、共に必要なんだ」。ラポ・エルカンが手にした新たなアイデンティティーを、世間はどのように受け取るのか? この答えはまだ出ない。しかし、彼は決してうぬぼれることはない。

 「そういえば、エンツォ・フェラーリはこんな言葉を残していたな。『イタリア人はすべてのことを許してくれる。ただし、成功を除いて』」。

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