AeroEdge(エアロエッジ)株式会社。聞きなれない企業名かもしれませんが、実は、栃木県足利市にあるこの中小企業が、いまビジネスの最前線で世界と対等に渡りあっています。
お話しをうかがったのは、AeroEdge(エアロエッジ)株式会社取締役副社長兼COOの次重彰人(じじゅう・あきと)さん。同社のモノづくりと事業運営の双方を主導しています。
AeroEdge【前編】中小企業が世界と戦うための最先端の技術力
同社は、2016年に創業したばかり。にもかかわらず現在すでに、フランスの航空機エンジン製造大手である、サフランエアクラフトエンジン社と契約を果たし、新型航空機エンジンの部品を製造・供給しています。
ではなぜ、まだ歴史の浅いこの新興企業に世界的大企業は信頼を示したのか?
「中小企業のビジネス戦線に異状あり!?」、 そのなぞを解明すべく「メンズ・プラス」はAeroEdge株式会社に取材を申し込み、経営を取り仕切る若き副社長・次重彰人さんにインタビューを敢行しました。最先端航空機産業の現場から、2回連続でリポート。まずは前編を!
地方の中小企業が海外と直接取引!
世界で数社しか持っていない技術力
次重彰人さん(以下敬称略で次重に):AeroEdgeの親会社は、栃木県足利市で70年ほど営んでいる菊地歯車という会社で、社名の通り自動車や油圧機器、建設機械、そして航空宇宙関連機器のギア(歯車)製造が主要事業です。その海外航空宇宙事業のスピンアウトとして、2016年に産声を上げたのがAeroEdgeです。創業当時の従業員数はたったの20名ほどでしたが、今では、80名を越す規模にまで拡大しています。
編集部:それは急速な成長といえますね。AeroEdgeはどういう経緯で設立されたのですか?
次重:菊地歯車は2006年ごろから国内の航空業界に参入。その後、海外のエンジンOEMともディスカッションが始まり、そこにビジネスの拡大を見込みました。もっとも大きな取引先であるフランスの航空機エンジン製造大手、サフランエアクラフトエンジン社と2013年に長期契約を締結することになり、航空機の量産体制を確立する為に分社化を急いだのです。これは大きなチャンスであり、生かさない手はないと。
編集部: 世界的大企業から白羽の矢が立った要因は、なんだったのですか?
次重:航空会社が航空機を購入する際、もっとも重視するのは燃費です。そして燃費向上のカギを握るのがエンジンの重量。単純にエンジンの重量が下がれば、燃費が上がります。さて、ここからがうちの強みになるわけです。これまではニッケルという耐熱合金がエンジン部品として使われていましたが、その約半分の重量のチタンアルミという新素材が出てきました。しかしこのチタンアルミは、加工が難しい。瀬戸物のように割れやすいので、工具や加工条件の選定が非常に重要になってきます。私たちは、そのトライアンドエラー開発を何度も繰り返すことにより、製品要求を満足したチタンアルミの加工に成功しました。実はチタンアルミを安定して加工し、製品にできるのは世界でも数社しかないのです。これが、AeroEdgeが選ばれた理由といえます。
編集部:大手ではなく中小企業としてそれを成し遂げたのは、すごいことですね。
次重:私たちのように、中小企業が世界の大手と直接取引をするというのは日本でも極めてレアケースです。小さい企業は、国内大手重工各社と一緒にボーイングの部品を作ったり、ロールスロイスの部品を作ったり…というように、まずは日本の大手を介して、グローバルな仕事を受けるのが一般的だったのですが、私たちは、直接世界の大手と対等に渡り合っています。(次ページへつづく)
世界一の成長市場で、 世界一売れるエンジンを製造
AQUARESE社(仏)のWJC(ウォータージェットカット)加工機。
編集部:特に手がけているのは、中型航空機のエンジンだそうですね。
次重さん:今は中型機の開発が、世界的に活発です。それに搭載するLEAPというエンジンを私たちは製造しており、中型機エンジンの市場の3/4程度のシェアがあります。航空エンジン業界で、現在もっとも大きい中型機エンジン市場に参入できたことは、とても幸運でした。
編集部:航空業界自体も、大変な成長市場と聞きました。
次重:これから発展していく、アフリカ、アジア各国の新規需要もありますし、ヨーロッパやアメリカでもまだまだ大きな市場があります。現在使われている航空機は、だいたい20~30年で退役していくのですが、そのリプレース需要も今後大きく見込まれています。その数は新規需要と更新需要をあわせて約3万8000機といわれています。つまり私たちは、最も成長が期待できる産業で、世界一売れるエンジンを手がけることができているのです。(次ページへつづく)
日本企業の新しい形を作っていきたい
AeroEdgeの社屋。モダンでクリーン。働く人、そしてそこから生まれる製品、その先には、そこで関係するすべての方々とのよりよい関係を重視している証です。
編集部:さらっとおっしゃいましたが、すごい数ですね。ところで、AeroEdgeという社名にはどんな意味が込められているのですか?
次重:AeroEdgeとは航空宇宙という意味の「エアロスペース」と、最前線や最先端という意味の「リーディングエッジ」をかけ合わせたものです。当然、「エアロスペース」に思い入れがあるのですが、私たちはこの「リーディングエッジ」という言葉を大切にして企業活動をしていきたいと思っています。というのもAeroEdgeでは、航空事業(エアロスペース)を軸として、ロボティクス、メディカル、あるいは物作りだけではなくサービス業との掛け合わせなど、将来的に新しい市場を作りたいという思いがあるからなのです。
編集部:具体的な将来の構想を教えてください。
次重:下請けからの脱却は、ひとつの目指すべきところです。結局下請けではマーケットをリードすることは難しく、お客様のビジネスに依存してしまいます。参入すべき市場は確りと見極めながら、ゆくゆくは自社製品を世に出したい。そこで初めて一人前の物作り企業になれると考えています。
編集部:メーカーになるということですね。
次重:そうですね。AeroEdgeの活動の中で、大げさかもしれませんが、これから世界で伍していける日本企業の新しい形の様なものを作っていければと思っています…(後編へつづく)
Photograph / Setsuo Sugiyama
Interviewer & Text / Kazu Ogawa