マーベリック。それは一匹狼であり、“異端児”。小学生のときからその片鱗を見せ、嫌われ者だったという又吉直樹さん。お笑い芸人、俳優、小説家…、嫌いなことは一切やらないが、自分の好きなことに対してとことん突き進み努力する。はたして、どのようにして又吉直樹ができあがったのか? 彼のもつマーベリックな世界観に迫ります。

>>>本記事は【又吉直樹「小学生のころから“異端”と言われないように気をつけてきた。」【前編】】の続きです。

MAVERICK OF THE MONTH:NAOKI MATAYOSHI 

―3歳ごろの又吉少年に会ってみたくなった。
 

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「むちゃくちゃ泣き虫でした。ただ、父親が平気で矛盾したことを言う人だったんです。口論になって、僕のほうが正しいこと言うてるとなったら、どこかのタイミングで父親が僕と同じことを言い出すんです。それは俺が言うたことやん、ってなってしまうから、勝てない。そういう矛盾や理不尽が家にあったので、動揺…しなくはないか。でも薄いんです」

 それとやっぱり、彼には熱中するものがあったからではないかと想像した。やりたいことをやって、嫌われるのなら上等。

「お笑いは小3のときに出合って、同じころにサッカーやりはじめて、文学は中1ですね。ファッションとかは小6の最後のころです。いつもはジャージーなんですけど、たまたま自分が選んだ服でいたところを女子に見られて、『又吉君、めっちゃおしゃれやん』と言われたんです。それがすごくうれしくて。それからアメリカ村に通うようになりました。その辺に座っておしゃれな人を探すんです。で、これと思った人の跡をつける。そうするとおしゃれな店にたどりつける」

 文学やお笑いもついていきたい人を探したのだろうか。

「お笑いは深夜番組をずっと見ていました。人気のある芸人さんも好きですけど、面白くないといわれている人が、僕にとってはなんか面白かった。今になってみると、男受けしかしないといわれる人たちだと分かるんですけど、当時はそんな言葉知らないですから、なんでみんなが面白くないという人を面白いと感じてしまうんだろうと思ってました」

 文学では太宰治をテーマにしたトークライブをやるくらいの太宰好きとして知られる。

「最初は芥川(龍之介)です。教科書に載ってた『トロッコ』を読んだとき、誰にも言ったことがない自分の恥ずかしい部分を的確な言葉で書かれていると感じたのが始まりでした。太宰は、友達にお前みたいなやつが出て来るで、と言われ『人間失格』を読んでドはまり。芥川と一緒で、こんなことを考えてるのは自分しかおらへんと思っていたことが全部書かれていた。でもそれが多くの人に読まれてるということは、みんなもそうやったんや、と。それから世界に対しての構えが少し軟化したかもしれません。影響を受けたというより一緒や!という感覚だったと思います」(次ページへ続く)

そしてサッカー。彼は一度、サッカーをやめようとしたことがあった。


「スパイクもサッカーボールも買ってもらえなかったんで、学校に早く行ってゴムボールでひとりで練習しました。でも、そんなんでうまくなるわけがない。初めての公式戦を見に来た父親に『下手すぎて恥ずかしかったわ。二度と見るか!』と言われました。それがショックで一度、やめたんです。でも、ちょうどワールドカップのイタリア大会をやっていたときで、テレビでマラドーナを見たんです。むちゃくちゃうまくて、その次の日から左でボールを蹴る練習をはじめました。先輩にちゃんとやれとドヤしつけられても、無視し続けて。たぶんあのときマラドーナを見ていなかったら、サッカーはやめていたと思います」

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 彼はどんな質問にも答えてくれた。なかでも熱く答えてくれたのは、肩書についてだったかもしれない。現在、コントライブは月に1本ほど。お笑い以外の活動のほうが目立つのではと問うた。いわゆる文化人枠的な。

「文化人ってなんなんですかね。わからないものを把握するために都合よく使ってるだけの言葉やないでしょうか。僕は憧れたことも興味をもったこともないです」(次ページへ続く)

では今の肩書は何になるのだろう。

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「ただの人間です。興味があることに興味があって、興味がないことには興味のないただの人間でしかない。ただ、“人間・又吉直樹”と言っては足をすくわれかねない。子どものころ、自分のことを才能があると思ってるんやと嫌われました。それと同じ構図ですから。僕にとってはどのジャンルよりもお笑い芸人がかっこいいんです。でも芸人やからお笑いをやるんではなく、お笑いが好きだからお笑いをやっている。そういうことです」

 活動の場についてはこう言った。

「テレビに出ていることが最前線みたいに見る人がいますけど、それは本質な見方ではないと思います。どこで何をやろうと、その人にとってそれが最善と思うならそれでいい。今できること、その環境でいちばん面白いものを作っていければそれでいい。僕もそのときにやりたいことを全力でやろうと思ってます。それがお笑いなら最高ですけど、あかんかったら仕事は減るでしょう。落ち着くところに落ち着いていってしまうなかで、自分の希望に沿うように活動していきたいと思ってます」

 最後に今日の撮影の感想を聞いてみた。

「おふたり(写真家の佐内さんとスタイリストのBabymixさん)の会話を聞いていて、ここはある種の天国やと思ったんです。気持ちのいい自己表現をされていて、自分もあれくらいの純度で仕事ができているのだろうかと考えたくらいです。この人たちと仕事させてもらえてるって、過大評価されてるんと違うかな、って。こういうお仕事させてもらってると、たまにすごい人がいますよね。そういうとき、恵まれてんなあと思いますけど」

 
>>>次回(動画公開予定)
   『又吉直樹さんへ一問一答!』インタビューの様子をご紹介します。


PROFILE
又吉直樹さん
…1980年、大阪生まれ。99年、NSC東京校5期生として入学。2000年にデビュー。03年、綾部祐二と「ピース」を結成。10年、「キングオブコント2010」準優勝。「M-1グランプリ2010」第4位。15年、『火花』で第153回芥川賞受賞。17年末に綾部祐二が渡米。現在「ピース」としての活動は休止中。高校時代は強豪校・北陽高校のサッカー部に所属し、インターハイにも出場。


Photograph / Masafumi Sanai Styling / Babymix
Hair & Make-up / Toshihiko Shingu Text / Yukiko Yaguchi Edit / Emiko Kuribayashi
Video / Tsuyoshi Hasegawa
Web Edit / Hikaru Sato