「テクノロジー」「イノベーション」。そんなキーワードが世を騒がす昨今、日々進化する科学技術を生かしたガジェット・サービスなどが数々生まれています。そんななかで、どんな“人”がどんな“場所”でどんなプロジェクトを進めているのか? 今回は、名刺という「ビジネスの出会いの証」を資産へと変えるサービスを提供するSansanにお邪魔しました。

Sitting, pinterest

Sansan 

―Sansanは、法人向け名刺管理サービス「Sansan」と個人向け名刺アプリ「Eight」を開発している企業。

 今回登場するのは、このSansanの中で「名刺のつながり、ビジネスネットワークを活用した、これからの企業やキャリアの可能性を探求するメディア」である「BNL (Business Network Lab)」の編集長を担当している丸山裕貴さんになります。

 メディア業界を経て、Sansanにジョイン。自らも「人とのつながり」を手がかりに就職活動を行い、現在は「BNL」を通してビジネスにおける人とのつながりを探求中という丸山さん。「“弱いつながり”からも、大きなビジネスチャンスを得なくては…」というお話も飛び出しましたが、その曖昧模糊としたつながりは、どのようなつながりなのでしょうか?

 
《次ページ》人とのつながりを元に就職活動

人とのつながりを元に就職活動

「 弊社は、個人向け名刺アプリ『Eight』を運営・提供しています。名刺管理にとどまらず名刺でつながる、ビジネスのためのSNSとして、日々進化させながら運営しています」と語る丸山さん。なぜ、つながりを探求するメディアを立ち上げることにしたのでしょうか?

「BNLは、世の中で人脈を構築し、ビジネスに生かしている人のノウハウを取材して、研究し、皆さんに共有していきたいと考えて立ち上げました。『Eight』のユーザー数の増加を直接的に目指すというよりは、(つながりについて探求しているという)ブランディング的な側面が強いですね」

Tourism, Vacation, pinterest

東京の景色を一望出来る社内スペース「Garden」。徳島にある民家を改装したサテライトオフィス「Sansan神山ラボ」の環境をイメージし、緑が多い。


「つながり」を探求する丸山さん。新卒での就職活動が、人とのつながりを意識するきっかけとなったそうです。

「新卒での就職活動をする際に会社名で探していてもピンとこなかったんですね。その会社でモノ・コトを作っているのはやはり人なので、会社名でいくら魅力的な会社を探しても見つけられませんでした。そこで自分のTwitterのフォロワーの中から、面白い人は誰だろうと考えることにしました。そのときに思い浮かんだのが、インフォバーンの小林弘人さんでした。『面白い情報だな』と思うTweetを見つけるたびに、そこには小林さんのアイコンがあるなぁという印象が強かったんですね」

 
 こうしてインフォバーンにコンタクトを取り、そして入社。その後コンデナスト・ジャパンにて『WIRED』誌に携わったのち、2016年にSansanへとキャリアを変えていった丸山さん。いわゆるメディア畑から、事業会社へ移った理由はどのようなものだったのでしょうか?

「スタートアップの社長や、面白いものを作っている方に取材するときに、『この会社に行っちゃいたいな!』と思うことが結構ありました。次第に、メディアの立場で報じるだけではなく、“中から生み出す”ことも楽しそうだなと思うようになりました。そんな中、Sansanがメディアを通したコミュニケーションのできる人を求めていたんです。そしてさらに、これまで様々な企業への取材で目にしたのと同様に…、いやそれ以上と言った方がいいですね(笑)。面接担当者の“目の輝き”が凄かったんです」

 
《次ページ》社会学でも研究されている「弱いつながり」

社会学でも研究されている「弱いつながり」

 また、Sansan入社後、外部の人とのつながりについても「意識が変わった」と丸山さんは言います。

「名刺を交換しても、その人をすぐに忘れてしまったり、自分とは関係ないと思ってしまったりすることもありますよね。ただ、BNLで取材した方の多くは『会社の殻にこもってはいけない』と言っています。価値観の違う人の声こそ耳を傾けることで、思いつかないアイデアをくれることもあるし、その人と自分の類似性が何かを探るのが大事だとよく聞きます。こういう話を聞いたことで、人と会うときのマインドセットが変わりましたね」

「2017年の7月に、BNLで取材した人をゲストとしてお呼びして、イベントをやったんです。そのイベント後も、ずっと『新しい企画をやりましょう』『次はこういう人を紹介します』などと会話が広がっていて、まさにこういう世界・こういう文化が理想だなと思いました」

Design, Interior design, Organism, Tree, Floor, Photography, Furniture, Flooring, Room, Plant, pinterest

セミナーや、月曜朝一の全社会議を行う社内スペース「Stadium」。

 
 丸山さんは1986年生まれの働き盛り。「つながり」に関する仕事をするなかで、同世代のビジネスパーソンたちに伝えたい「人とのつながり」方について聞いてみました。

「困っていることを社内で共有するだけではなく、普段なかなか意見をもらえないような社外の人たちからもらえると、新しい気づきを得やすいものです」と、さらに続けて。

「一人ひとりが困っていることを共有できて、直接自分とは関係なくてもGiveの精神で自分が持っているアイデアを投げかけて、『こうしてみたらいいんじゃない?』と言い合えるような社会になれば、もっと面白いビジネスができるんじゃないかと思います」

Job, Product, Office, White-collar worker, Software engineering, Employment, Technology, Room, Electronic device, Desk, pinterest

 
 そんな「つながり」をチャンスに変えていくために、オススメの“Eight”の使い方は?

「ぜひフィード機能を試してみていただきたいですね。『Eight』は、顔も名前もあまり覚えていないような弱いつながりの相手にどういう投稿をしたら興味をもってもらえるか色々試してもらいたいです。例えば、『こういう人をいま探している』と投稿したら、一回名刺交換をしただけのような人から返事が来たりする。弱いつながりだからこそ、思いがけない反応が得られるものです」と丸山さん。

 
「この『弱いつながり』でもっとも有名な研究の一つが、転職活動に関するものです。転職は実は身近な友達や知り合いにあっせんしてもらうことはほとんどなく、稀にしか会わないような人にたまたま会ったときに話すと、『それなら、いい会社知っているよ』と言われて紹介されるパターンが多いという結果になりました。これまで名刺交換した相手は、稀にしか会わない弱いつながりである場合が多いものです。『Eight』は、そういうつながりを一人ひとりのユーザーがもっと活用提案できるサービスにしていきたいとの思いで、日々開発を続けています」

《次ページ》「クリエイティブ感」「スタートアップ感」を大事に

「クリエイティブ感」「スタートアップ感」を大事に

 この連載では、登場いただく方や、その会社の「服装」という面でもお話を伺っています。丸山さんのこの日のコーディネートは?

Snapshot, Standing, Fashion, Footwear, Jeans, Photography, Shoe, T-shirt, Style, pinterest


「スーツスタイルで仕事をしているジャンルの方を取材するときなどは、ジャケットを羽織るようにしてドレスカジュアルにしています。この人におまかせしたら面白いコンテンツになりそうだなと思っていただけるよう、クリエイティブな感じやスタートアップ感は出していきたいなと思っています。と同時に、名刺という大切な情報を預かっている会社にいるので、すごくラフな印象を与えるのは避けたいと思っています」と丸山さん。

「社内も全体的にカジュアルな人が多いですね。営業部でも、訪問する用事がないときは、私服で出勤するようなスタイルです」と続けて語ってくれました。

 名刺を通した「弱いつながり」こそが、ビジネスチャンスになると捉えるSansan。様々な人の情報を気軽に知り、コンタクトする方法も様々となった現代において「実際に名刺を交換した人」とのつながりをどう生かしていくかで、予想もしなかった声や機会と巡り会うことも増えていきそうです。そしてその先にある、名刺のないビジネス社会も描いていることでしょう。ペーパーレスが叫ばれるビジネスにおいて、名刺という仕組みの未来がここにあるのではないでしょうか。

Direction & Interview/
市來孝人(amplifier productions)
Edit & Photograph/Kaz OGAWA(HDJ)