2017年5月18日にYoutubeに公開されたイギリスのロックバンドMUSEの「Dig Down」のリリック(ミュージック)ビデオに主役として登場し、ファッション界ばかりでなく、より一般的に広い世界で注目を浴びるようになった義足のモデルローレン・ワッサーをご存じでしょうか?
Photograph / Frazer Harrison(Getty Images), C Flanigan(WireImage)
彼女の名前は、Lauren Wasser(ローレン・ワッサー)、1998年3月2日生まれのアメリカ・カリフォルニア州出身。両親もモデルであり、身長は180cm。髪はブロンドで、吸い込まれるような青い瞳の持ち主…。彼女はモデルになるべくしてなったのでした。
そんな彼女は2012年、トキシックショック症候群で右脚を失いました。そして、2017年12月20日に掲載された「ワシントンポスト」紙のインタビューでは、左脚も切断手術を行う予定であることを告白したのでした…。
学生時代は、バスケットボール選手として大活躍していました。 NCAA(全米大学体育協会)バスケットボール、その中でもNBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)にもっとも近いと言ってもいい第1部リーグ「Division 1」に属する大学からの奨学金付き勧誘も退け、モデルとしての活躍を誓った彼女でした。実はモデルとしてのキャリアは、生後2カ月からスタートしていたのです。しかも母親とともにですが、イタリアン『Vogue』に出演していたのです。
このように多大の期待とともに、プロモデルとして羽ばたいた彼女でした。ですが…さらなる飛躍が期待された2012年のこと、使用していた生理用品(タンポン)が原因となってTSS(トキシックショック症候群)を引き起こしてしまったのです。就寝前に気分が悪くなったと思ったら、あっという間に体温が41度にまで上昇。即座に救急病院に搬送されたのでした。このとき、担当した医師は「あと10分遅ければ、彼女の命はなかった」というコメントを母親に伝えたとのこと。そして、「覚悟”をするように…」と促したとのことです。
トキシックショック症候群とは、約20%の人が保持していると言われる黄色ブドウ球菌から作り出される毒素が原因で引き起こされる急性疾患のこと。発熱や嘔吐、めまい、下痢、発疹などの症状を伴い、稀に死に至ることもあるというものになります。ここで確認してほしいのは、女性だけに起こる症状ではないということです。
ですが、タンポン使用と発症には浅からぬ関係があることは、さまざまな研究者から発表されているようです。発症者は、タンポン使用以前に黄色ブドウ球菌を体内に保持していることは確かなので、一概にタンポンが原因とは言えません。ですが、1980年代に急増したトキシックショック症候群関連の死の一因であることは疑いないようです。
タンポンに類する生理用品に関してはここ何世紀もの間、女性たちは利用しています。ですが、ここ50年ほどで大きな変化を見せているのです。それは素材に関して。かつては綿のような天然素材を使用していたのですが、素材をレーヨン、ナイロンなどの化学繊維で製造するようになったのです。合成繊維はタンポンの吸収性を促進させたのですが、同時に黄色ブドウ球菌が繁殖しやすい環境を生み出してしまったということなのです。
そして80年代に、「Rely」という強力吸収タンポンを発売されると、それがきっかけでトキシックショック症候群の発症者が劇的に増加し、多くの関連死が発生したとのことです。『Yale Journal of Biology and Medicine(生物学と医学のエール・ジャーナル)』に発表された研究結果によれば、「Rely」のタンポンに含まれているゲル化したカルボキシメチルセルロースは、細菌が繁殖しやすい粘性媒質となり培養基の働きをしてしまうそうなのです。
とはいえタンポンだけが、この症候群の原因とは言い切れません。ですが、医師の診断も「タンポンの使用に起因する細菌性感染症、いわゆるトキシックショック症候群(TSS)」に。ローレンは一命は取り留めたものの、彼女の体は複数箇所が壊疽(えそ)を起こし、左足に深刻なダメージが残った上に、右脚を膝下から切断しなければならなかったのでした。
一方、ローレンの母親は、ローレンが病院にいる間に彼女が使用していた「コテックス・ナチュラル・バランス」タンポンの製造および販売業者であるキンバリー・クラーク・コーポレーションと、それを販売した生活用品店の「クローガー」や「ラルフス」への大規模な訴訟を始めたのでした。 訴訟はまだ続いているようです。
プロモデルとして波に乗り始めた真っ只中、自らの右足を切断する手術の同意書へのサインするという直面したローレン。当時の彼女は、「両足の壊死が始まっていましたから、早急に対処しなければならなかったんです」と語っています。さらに…。
「家に戻ると、死にたくなりました――私はそんな女の子で、不意に足を無くし、車椅子に乗って、片足しかなくなって、バスルームに歩いていくこともできません。 ベッドにいて動くこともできず、取り囲んでいる壁はまるで牢獄にいるようでした」というコメントも残っています。
そんなローレンが、こうした状態となった新しい自分を受け入れるのには、長い時間が必要でした。「私はシャワーを浴びながら小さな椅子に座ってよく泣いていました。外に車椅子をまたせたまま」とも語っています。
また、「自分以外のみんなにいらだっていましたね。 何不自由ない人生を送り、『自分はアスリート』『私はかわいい女の子』だとか考えるのだろうけど……自分が未だに価値のある人間か、魅力的か、腹を据えるのにしばらくかかりました」と深い葛藤を重ねていたことを告白しているのです。
そんなローレンの手術から2015年初旬頃までの写真では、顔やバストアップ、全身での撮影も義足が写らないよう撮影されたものばかりになっています。ですが、インスタグラムでは2015年6月16日の投稿から、彼女は義足を露わに、スニーカーを履いて登場しているのです。現在では、彼女自ら自分の足のことを冗談で飛ばせるまでになっているとのことです。
2017年12月20日に掲載された「ワシントンポスト」紙のインタビューで、ローレンは「今でも毎日耐えられないくらいの痛みを感じる」と告白しています。また、「今後数カ月の間に、左脚も切断しなくてはならない」ということともに、「今は痛みを抑えるために、週に1度治療を受けている」とも明らかにしています。
現在は自らが先導者となって、生理用品に関する法制度の整備のために活動するローレン。自らの脚、義足の脚を隠さず写真におさめるようになったのは、「女性たちにTSSの注意を喚起する使命が自分にはある」と感じとったからに違いありません。彼女のインスタグラムをご覧ください! 女性たちへ「タンポンの使用にはリスクも伴うことも知ってほしい」と呼びかけています。
国によって生理用品に関する規制は違います。ですが、それが安全であるかどうかは、性別など関係なく無関心ではいられない問題ではないでしょうか。ぜひとも皆さんも、合成繊維のタンポンを始めとする生理用品のメーカーに情報を透明化するように求めるローレンの主張に、耳を傾けてください!
右脚に続き左脚をも切断することになった彼女を、ぜひとも応援しようじゃありませんか。これほど悲しい事態に陥りながらも、「これは私の人生の目的。変わることはない…」と前向きに語る彼女を!!
◇ローレン・ワッサー公式ページ
>>> http://www.laurenwasser.com/
ローレン・ワッサー #01
Courtesy of Instagram@theimpossiblemuse
2015年6月1日投稿のインスタグラム画像より。
ローレン・ワッサー #02
Courtesy of Instagram@theimpossiblemuse
2015年6月3日に投稿された、インスタグラム画像。この日のまで、投稿画像は顔のアップなど上半身ばかり。全身ショットといえば、これぐらいで義足はパンツで隠していました。
ローレン・ワッサー #03
Courtesy of Instagram@theimpossiblemuse
2015年6月16日に投稿された、インスタグラム画像です。ここで義足を露わにした全身写真を披露しています。
ローレン・ワッサー #04
Courtesy of Instagram@theimpossiblemuse
2015年6月27日には、義足を外した姿もインスタグラムで披露しています。
ローレン・。ワッサー #01
Courtesy of Instagram@pamelareneecook
2015年10月25日に、ローレンの母のインスタグラムに投稿された写真。ローレンが義足でランウェイに登場しています。
ローレン・ワッサー #06
Courtesy of Instagram@theimpossiblemuse
2016年2月6日にインスタグラムに投稿された写真。義足の脚が目立たせるかのように(日本で言う)体育座りをするローレン。クールなメイクが象徴的です。こちらの画像は、彼女の公式ページのカバーフォトになっています。
ローレン・ワッサー #07
Courtesy of Instagram@theimpossiblemuse
2016年8月24日にインスタグラムへ投稿された画像です。アスリート体型を披露しています。
ローレン・ワッサー #08
Photograph / starzfly(Bauer-Griffin/GC Images)
2016年12月6日、ロサンゼルス国際空港と捉えたローレン・ワッサーの姿。ショートパンツスタイルで、義足を隠すことなく公共の場を歩いています。
ローレン・ワッサー #09
Courtesy of Youtube@TEDx Talks
2017年3月27日、「TEDx TelAviv(テルアビブ)」で登壇の際のスピーチがにYoutubeに公開されました。タイトルは、「Dont look for fashion models, look for role models」。生理用品に関しての注意と、強く生きることを語ってくれました。
ローレン・ワッサー #10
Courtesy of Instagram@theimpossiblemuse
2017年5月3日にインスタグラムに投稿された画像は、バスケットボールくるくる回しの動画。オーストラリア発のファッションブランド「Cotton On(コットンオン)」の系列ブランドで、ルームウエアを扱う「Cotton On body」のカタログ写真のようです。
ローレン・ワッサー #11
Photograph / starzfly(Bauer-Griffin/GC Images)
2017年5月18日にYoutubeで公開された、イギリスのロックバンドMUSEのミュージックビデオです。主役としてワッサーが未来の戦士役で登場しています。
ローレン・ワッサー #12
Photograph / Scott Dudelson(WireImage)
2017年8月20日(日)に、ロサンゼルスで開催された「The Girl Cult Festival」に出席したローレン・ワッサー。彼女の右にいるのは、ジャーナリストのキム・ウォール。
ローレン・ワッサー #13
Courtesy of Instagram@theimpossiblemuse
2017年9月25日、インスタグラムに投稿された写真。L.A.でエキストリームスポーツにハマる少年のような雰囲気で。
ローレン・ワッサー #14
Photograph /C Flanigan(WireImage)
2017年10月4日、ロサンゼルスで開催された『People』誌のイベント「People’s Ones to Watch Event」に出席したローレン・ワッサー。
ローレン・ワッサー #15
Photograph / Tommaso Boddi(Getty Images for AT&T AUDIENCE Network)
2017年10月10日、ロサンゼルスで開催されたイベント「 the AT&T AUDIENCE Network Premieres 'Loudermilk' And 'Hit The Road'」に出席したローレン・ワッサー。
ローレン・ワッサー #16
Courtesy of Youtube@Stance
2017年10月16日、YoutubeのStanceチャンネルに公開された動画「171014 STANCE H264」。
ローレン・ワッサー #17
Courtesy of Youtube@StyleLikeU
2017年10月30日に、YoutubeのStyleLikeUチャンネルに公開された動画「Lauren Wasser: How One Model Lost Her Leg to Toxic Shock Syndrome and Found her Life’s Purpose」。彼女がどのようにTSSとなり、脚を失ったか? そして、彼女はいかに人生の目的を見つけたか?を語っています。
ローレン・ワッサー #18
Courtesy of Instagram@Jennifer Rovero
2017年12月6日にインスタグラムに投稿された写真は、これまでのローレンを支えてくれた親友であり、カメラマンでもあるジェニファー・ロベロが撮影したもの。この写真とともに、2017年12月6日に「http://darlingmagazine.org/
>>> http://darlingmagazine.org/toxic-shock-syndrome-interview/
Source / The Washington Post
Text / Mirei Uchihori
Edit / Kaz Ogawa