『夢をかなえるゾウ』シリーズ売り上げ300万部、『人生はニャンとかなる!』シリーズ売り上げ200万部の、人気作家・水野敬也が、自身の最大の弱点「お洒落」に体当たりで臨む企画。日本で活躍する最高峰の美女たちに、水野のお洒落理論は通用するのか!?

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今月のお相手・足立梨花「黒セットアップでクールな男を装う!の巻

 
単なるコスプレに
ならない! 
黒スーツって
どう着ればいいの?

―先日、サーフィン体験スクールに行ってきました。いや、言われなくても分かりますよ。「お前みたいな、一日中暗がりの部屋でパソコン叩いてるだけの深海魚野郎が波乗ろうとしてんじゃねーよ。海底でクジラの死骸でも食っとけよ」ってことですよね? ただ、美女に気に入ってもらうお洒落を追求する連載を続けていく上で、私生活でもお洒落を取り入れていかなければならないと思ったんです。これは健気な企業努力なんですよ。

 ただ、深海魚がいきなり浅瀬に連れていかれると、水圧の影響で内臓が破裂して目が飛び出すらしいですけど、サーファーという人種には目ん玉飛び出るくらいびっくりさせられましたよね。

 たとえば、私はかなり理屈っぽいので、ボードの上に立ち上がるときのタイミングや足の出し方を詳しく質問していたのですが、突然、先生(サーファー)がこう言いましたからね。

「海に答えはねーから」

 いや、「答え」はあるだろ。そこ「正解」の間違えだろと思いましたけど、とにかく、理屈ではなく勢い重視の人たちなんですよ。あと、私は初心者なので先生にボードを押してもらわないと波に乗れないのですが、先生が波を見て「来た来た」って言うので準備し待ってたら、その波に先生が乗って岸の方まで行っちゃいましたからね(実話です)。(次ページに続く)

結局のところ、

――サーフィンスクールでの唯一の学びは「パドリングは肩こりに効きそう」ってことだけでしたが、あくる日、新宿のオシュマンズでオーダーメイドのウェットスーツを買いました。あえて、ですよね。あえて、自分が苦手とする人たちの中に飛び込むことで成長する。これが水野スタイルなんです。ある意味、この連載と同じですよね。「日本を代表する美女と食事をして仲良くなる」という、間違いなく自分に向いてないことに挑戦し、そこで恥をかき成長するプロセスをあなたに伝えたい。――ちなみに、この連載を初めて読む人はびっくりすることになると思いますが、この連載って、女優さんとの対談記事に見えるじゃないですか。少なくとも女優さんサイドには「対談」っていう風に企画書送られていて、しかも6ページという超大ボリュームにもかかわらず、女優さんの台詞二、三言しか出てこないですからね。あとは、ほぼすべて私の心の独白ですから。文章の方向性として一番近いのは太宰治の『人間失格』かな。というわけで、最終的には連載に登場した女優さんと玉川上水に身を投げるところまで成長したいと思いますので、ぜひ末長くお付き合いいただければと思います。

 というわけで次の会食相手の報告を待っていたところ、担当編集Sから、

「足立梨花さんに決まりました」

 という一報を受け、そのまま部屋を飛び出し『走れメロス』のごとく疾走しながら失踪してやろうかと思いました。

 足立梨花と言うと私の中ではやはりオリックス生命のCMですね。あのCMで初めて足立梨花を見たとき、過去見たことのない、あどけない可愛さに衝撃を受けました。初対面の女性と二人で飯に行くと2回に1回は吐きそうになるというメンタルの持ち主である私が、あんな可愛い子とまともに食事ができるはずがありません。これはもはや『人間失格』ならぬ『人選失敗』じゃないですか!

 そう思って担当編集Sの電話を着信拒否設定にして走り続けていたとき、ふと太宰治が残した言葉が頭に思い浮かびました。

「笑われて、笑われて、つよくなる」(太宰治『HUMAN LOST』より)


――そうなのです。まさに今感じている不安や緊張を乗り越えることで人は強くなる、その過程を読者に伝えることこそが私の生きる意味なのでした。(ありがとう、太宰)

 私は心の中で太宰にお礼を言うと、

 『走れメロス』の時代にはなかったタクシーを呼び止め「大宅文庫(ほぼすべての雑誌が読める図書館)」に向かい、彼女についての情報を調べ始めました。すると、

(こ、これは―――)

 足立梨花に関する、極めて重要な情報を入手することに成功したのです。(次ページに続く)

メンズクラブの会議室にやってきたお洒落番長K氏に向かって、私は開口一番に叫びました。

「足立梨花は間違いなくこのコーディネイトで攻略できます!!!」

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前回の“スーツの巻”から学び、チェック柄のスーツ姿で編集部にやってきた水野。彼女の心をつかむ、渾身のコーディネイトをしたキャラクターをK氏に見せて返答を待つ。

 
 そして私はK氏に向かってある男性の画像を差し出しました。

「私の調べによると、足立梨花は週に35本のアニメを見るほどのアニメ、漫画好きであり、恋愛ゲームの『ブラザーズ コンフリクト』に登場する朝日奈梓を理想の男性として挙げています! さらに言えば、彼女の好きな男性の3大条件は『眼鏡』『黒髪』『スーツ』! そしてこの水野はすでに『眼鏡』『黒髪』を満たしています! あとは『スーツ』を着さえすれば間違いなく足立梨花と仲良くなれるんです!」

 加えて、朝日奈梓の身長は176cm。まさに私が買ったオーダーメイドのウェットスーツと同じ身長だったのです。「『スーツ』って、こっちのことかと思っちゃいました」と言って、ウェットスーツで登場するという出オチ案まで思い浮かんでしまうほど、私の心に余裕が生まれはじめていました。

 しかし、ほくほくとした表情で返答を待つ私に向かって、K氏は冷ややかに言いました。

「いやあ、これはないね(笑)」

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足立梨花の男性3大条件のひとつである、“眼鏡”をコーディネイトのポイントに!

 
 いやいやいや、あるもないも、足立梨花がこの格好が良いって言ってるんだからこれが正解なんだよ! 海に正解はなくても、足立梨花には正解があるんだよ!

 
 K氏に反論しようとしたのですが、彼は画像を指差して言いました。(次ページに続く)

「だってこの人の着てるスーツすごい細身だけど、細身のスーツは完全にアウトオブトレンドだから」

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ジャケット4万9000円、パンツ2万9000円(2点共チルコロ 1901) ●お問い合わせ先/トヨダトレーディング プレスルーム TEL 03・5350・5567 ニット3万5000円(マーガレット・ハウエル×ジョン スメドレー)、ニットヴェスト2万5000円(マーガレット・ハウエル) ●お問い合わせ先/以上アングローバル TEL 03・5467・7864 チーフ6800円(エレディ キャリーニ) ●お問い合わせ先/ビームス ハウス 丸の内 TEL 03・5220・8686 ベルト3万9000円(J&M デヴィッドソン) ●お問い合わせ先/J&M デヴィッドソン 青山店 TEL 03・6427・1810 靴6万9000円(サントーニ) ●お問い合わせ先/リエート TEL 03・5413・5333 眼鏡3万5000円(白山眼鏡店) ●お問い合わせ先/白山眼鏡店 WALLS TEL 03・5468・0397

「いや、でも足立梨花が……」

「あと、派手な柄のシャツも良くないね。そもそもシャツはベーシックなアイテムで様式美として決まった柄がある。こういう創作的なのだと安っぽくなっちゃうんだよ」

「でも足立……」

「眼鏡も古いタイプだなぁ。今だったらボストン型かオーバル型にしてもらわないと」

 全否定じゃねーか。

「今回は確実にいける」と期待していた分だけショックで落ち込んでいると、K氏が言いました。

「今回は良いコーディネイトができそうだね」

 へ? どゆこと?

「だって彼女の好みは分かっているわけだから、あとは単なるコスプレにならないように気をつけながら現実のお洒落に落とし込んでいけばいい。前回ちょうどスーツについて学んだわけだし、水野くん、今回はいよいよ美女と仲良くなれるんじゃないの?」

 なんだよこのツンデレ野郎。ちょっとドキドキしちゃったじゃねーか。

 そういえば、朝日奈梓もツンデレなので、これも何かの学びかもしれないと思いつつ、K氏とコーディネイトを固めていったのでした。

 こうして徹底的に考え抜かれた服装に身を包み、銀座の隠れ家的レストラン、マークス テーブルに向かいました。


>>>次回、(2018年2月12日)公開!
   足立梨花さんとの会食の行方は!?
   「黒セットアップでクールな男を装う!の巻」後編

Photograph / Jan Buus(whitestout) 
Styling / Tatsuya Imai[Keiya Mizuno]、Marie Yamamoto[Rika Adachi] 
Hair &Make-up / Rieko Sugimura[Rika Adachi] 
Text / Keiya Mizuno 
Edit / Yasuhiro Sato 
Cooperation / Mark's Table