『夢をかなえるゾウ』シリーズ売り上げ300万部、『人生はニャンとかなる!』シリーズ売り上げ200万部の、人気作家・水野敬也が、自身の最大の弱点「お洒落」に体当たりで臨む企画。日本で活躍する最高峰の美女たちに、水野のお洒落理論は通用するのか⁉

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今月のお相手・高梨 臨「棋士好きな大河女優にはカジュアルが効く!?の巻」

 
彼女好みの棋士の
ようになるには⁉
まず、メガネの形から入る!

 日本を代表する美女に気に入ってもらえるコーディネイトを研究するこの連載ですが、企画会議の段階では、「女と飯食って記事にするだけの仕事? 余裕っすわ」とふんぞり返っていたのですが、いざ始まってみると今をときめく女優と実際に会って話をしなければならないことによる緊張、頭痛、吐き気、めまい、けいれん、冷汗、悪寒、息切れ、激しい動悸、胸からみぞおちにかけて刺すような痛み、顔や唇の変色、呼吸困難、幻覚、脱毛、痔、近視、遠視、乱視……様々な症状に侵されることになりました。もし、Yahoo! ニュースに「水野敬也、女優との食事中に心肺停止」という記事が載ったら一般人は「餅食ってた?」となるでしょうが、あなたなら分かりますよね? そう、死因は「背伸び死」。等身大の自分とは違う、ハイレベルすぎる世界に月イチで身を置いたことによる、心身の崩壊です。哲学者・キェルケゴールが言ってた『死に至る病』ってこの連載のことだったんですね。 

 ただ、そんな危険を冒してでもこの企画を進める理由はただ一つ。一人でも多くの男性に「女優の前でもビビらないお洒落」を提案し、高嶺の花をつかんでいただきたいからです。ぜひ読者の皆様には、私のリアル屍(しかばね)を踏み越えてお洒落街道を驀進していただけたらと思っております。

 というわけで生命保険の契約を進めながら担当編集Sからの電話を待っていたのですが、「次回の会食のお相手は、高梨 臨さんに決まりました」と聞いた瞬間、安らかな気持ちで三途の川を渡りかけている私がいました。

 高梨 臨といえば『侍戦隊シンケンジャー』のシンケンピンク役で小学生の脳内に初めて「色気」という概念を植え付けたと思いきや『花子とアン』では清楚な和服美女を演じて「ギャップ」という概念を導入してくるという、男の心を揺さぶるという意味ではもはや「兵器」と呼べる存在です。

(原稿より先に『遺書』を書くべきかもしれんな……)

 そんなことを考えながらも「読者をモテさせる!」という志によって臨死状態から復活し、高梨 臨について調べるために大宅文庫(過去に発売されたほぼすべての雑誌が読める図書館)に向かったのでした。しかし、驚くべきことに、高梨 臨について調べれば調べるほど、彼女との会食への希望の光を見出すことになったのです。

(以下、『女性自身2014年7月15日号』より)

「(高梨)将棋の駒の動かし方もわからないのに、対局する棋士の姿が興味深くて。勝負の世界なのに、終局したとき、勝者が全然喜ばず、難しい表情をしているんですね。『なんなんだろうこの世界は』って興味を持ちました。(中略)羽生善治さんのファンで、対局のときに寝ぐせがついていたり、インタビューではちょっと天然な発言があったり。対局中の真剣な表情とのギャップが好きになって、今では携帯の待ち受け画面にしています」

 
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大宅文庫でリサーチ中に水野さん見た幻覚とは!?

――こんなことを言うと炎上するかもしれないですが、前々から羽生は近いって思ってたんですよね。

 一つのことにひたすら打ち込むスタイルっていうんですか? 将棋も文章書くのも「室内で座りっぱなし」という共通点がありますし、なんなら今、椅子の上に正座で座り直しましたし、私の頭上には寝ぐせがデフォルトでついてますからね。

(今回こそは、美女と仲良くなれるかもしれんぞ……)

 大宅文庫で毎度ながらの武者震いを始めた私ですが、ふと、背後に人の気配を感じて振り向いたところ、驚きのあまり体が固まってしまいました。

(あ、あなたは――)
 

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大宅文庫でリサーチ中に水野が見た、大宅壮一先生の幻覚(水野直筆)。

 
 私の背後に立っていたのは、大宅文庫の創始者でありジャーナリストの故・大宅壮一先生だったのです(編集部註※この連載開始以降メンタルが正常でない水野氏は、幻覚を見ることがあります)。

(お、大宅先生――)

 あまりの衝撃で言葉を失う私に対して、大宅先生は言いました。

「出てきちゃった」大宅先生は続けました。

「君が、毎月ここで女優について調べて『これでいける!』って鼻息荒く出ていくのに、ひと月後には必ず顔面蒼白で戻ってくるのが忍びなくてね、思わず出てきちゃったよ」大宅先生は私の隣の席に座って言いました。

「今の君の状態はね、メンズクラブ1月号を思い出すよね。『山本美月は本物のオタクでこっち側の人間だからいける!』って鼻息荒くウチの図書館出てったけど、見事なまでに玉砕してたよね。あれは見事だったなぁ」

――大宅先生はそう言いながら微笑みを浮かべていましたが、真剣な表情になって言いました。「高梨 臨クンは、相当手ごわいよ」大宅先生は、雑誌の山から一冊を手に取って広げました。

「ここ、見てみなよ。『(高梨)将棋を指すときはすぐ矢倉囲いを作ってしまうんです』。分かるかな?」

「いや、正直まったく……」

「だから君は三流ライターなんだよ!」

 大宅先生は突然ヒステリックに雑誌を放り投げると、荒々しい口調で続けました。「囲いを作るまでに必要な手数は、美濃囲いが6手! 穴熊11手! 矢倉囲い12手! 他の囲いよりも手間がかかる守りなんだ! つまり、それだけ彼女は『守り』を重視してるってこと! そう簡単に人に心を開く子じゃないよ!」

「じゃ、じゃあ今回も僕は……」薄らと目に涙を浮かべた私の肩に、大宅先生の手が優しく置かれました。

「水野クン、これだけは覚えておいて」そして大宅先生は言いました。

崩れない囲いはないよ」

「崩れない囲いはない……」大宅先生はゆっくりとうなずいて言いました。

「矢倉囲いを崩すための方法は知ってるよね?」

「矢倉囲いを崩すためには、確か、『棒銀』……」

「おっと」大宅先生は人差し指を私の唇に重ねて言いました。

「そこから先は君が実際に経験して記事にしてくれたまえ。なぜなら――」大宅先生は立ち上がり、ウィンクをして言いました。

「それが、ジャーナリズムってやつだからさ」

「お、大宅先生……」(そ、そうか、この連載はジャーナリズムだったんだな……)

 自分の仕事に誇りを持つことができたことにお礼を言おうとしましたが、そのときすでに大宅先生の姿はなく――ただ、彼が存在していたことをはっきりと示す強烈な加齢臭だけが漂っていたのでした。

 
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水野さんがデートでいったい何を着る!?
オモシロ打合せの中身
 

あくる日。

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前回はメールでのやり取りのみだった、お洒落番長K氏にひと月ぶりに会えて喜ぶ水野。

 
 高梨 臨との会食のコーディネイトを決めるためにメンズクラブ編集部にやってきた私は、前回のことを思い出し、お洒落番長K氏に向かって言いました。

「メールでしかやりとりできないって、完全に職場放棄じゃないですか! 勘弁してくださいよ! こっちはジャーナリズム背負ってやってんすよ!」

「でもコーディネイトの評判は良かったんでしょ」

「はい」

「じゃあ良いんじゃねーの?」

「ですよね。変なこと言ってすみませんした!!!」K氏の機嫌を損ねないよう速攻で態度を翻した私は、素早くノートパソコンを開いて言いました。

「ところで次回のお相手は高梨 臨さんなのですが、彼女は棋士の羽生善治のファンなんですよ」

「で?」

「い、いや、だから、そ、その、は、はぶ、羽生さんみたいな格好をしたら、彼女に受けるんじゃないかなと……」K氏の威圧的な態度にしどろもどろに返すと、彼は一言、言いました。

「アリだな」

 へ?

 意外な返答に戸惑いましたが、K氏は続けました。「今、眼鏡のトレンドはセルフレームから羽生さんがつけてるような知的なメタルフレームに変わってるんだよ。あと、棋士の着ている和服は懸衣(かけぎぬ)型だから……」

「懸衣型って何ですか?」

「(わざとらしく大きなため息をついて)服には大きく2種類あって、体にフィットする普通の洋服は窄衣(さくい)型、体に布をかけて着る和服のようなタイプは懸衣型って言うんだよ。たとえば今回のコーディネイトは懸衣型のはおりものを使って、ノームコアみたいな、ラフだけどさりげないお洒落を取り入れたらどうかな。コンセプトは『休日の羽生さん』って感じでさ」

「な、なるほど……」K氏の言葉には説得力がみなぎっており、また、この連載が始まってからずっとジャケットスタイルを選択してきたので、違うパターンの服装を探究する格好の機会であると思いました。

 こうしてコーディネイトの方向は決まったのですが、私は同席していた担当編集Sを違う部屋に連れ出して言いました。

「実は、今回の会食でSさんにお願いしたいことがあるのです」

「な、なんでしょう?」戸惑うSに向かって、私は雑誌のコピーを差し出して言いました。

「ここを読んでください。高梨 臨さんは将棋を指すとき必ず矢倉囲いで守りを固めるのです。そして矢倉囲いを崩すために最も効果的なのは『棒銀』。棒銀は、銀がどんどん前に突き進んで飛車が前に進むための道を切り開く戦術です。ここまで言えば分かりますよね?」

「いや、何が何だかさっぱり……」

「だからお前は三流編集者なんだ!」気づいたときには、大宅先生が乗り移ったかのように、大声で叫んでいました。

「あなたが銀になるんですよ! 棒銀の銀のように、あなたが捨て駒になり、高梨 臨が私に魅力を感じるよう働きかけるのです! 今までこの連載に足りなかったのは、私をサポートする『銀』の存在なんですよ!」私の熱弁に対して、Sはしどろもどろになりながら、

「分かりました、やってみます……」とうなずいたのでした。

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デート当日の「勝負服」をご紹介!

決定! 今月の勝負服!

 
デートだからって気取りすぎない、
男のオフスタイルを品よく

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書道や将棋好きの高梨 臨さんには、スウェットやスウィングトップ、コインローファーなどあえて“抜け感”のあるアイテムを選び、品よく着こなすのがポイント。レザー素材やブラウンカラーでさらに味のある男らしさを演出することで、大人の雰囲気を醸せます。デートで男性のファッションに“頑張ってる感”が見えてしまっては女性からも敬遠されがち。ラフなアイテムなのに実は上質というギャップを狙うのがコツですよ。

《POINT 1》
サッとはおれるスウィング
トップはレザーで男らしく

男性ファッション誌『メンズクラブ』でもおなじみアイビーファッションに頻出のスウィングトップ。棋士の着ている和服の懸衣型のように、袖を通さず肩掛けして着ても様になる逸品。レザー素材ゆえの男臭さと英国のクラシック感を兼備しています。


《POINT 2》
インナーのスウェットで
さらに気取らない装いに

一見、カジュアルすぎて取り入れるのが難しいスウェットも、上着や靴に上質なものを選んでおけば上品さを保てます。隠れ家的な鉄板焼のお店にふらっと休日スタイルで来れる大人の余裕を彼女にアピールできますよ。

 
《POINT 3》
チノパンもプリーツ入りの
テーパード型でスマートに

読者の皆さまがはきなれているであろうチノパンもプリーツ入りのリラックスシルエットながら、膝下からテーパードされた形がデートにはぴったり。トレンドだからとただダボッとしたものを選ぶのはナンセンスです。

 
《POINT 4》

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棋士、羽生善治氏イメージの眼鏡は細めのメタルフレームでさりげなく存在感をアピールできるトップバー型。メタルフレーム人気が続くなかでも、海外ではいま注目されつつある眼鏡のひとつ。写真のこちらはレンズの下のリム部分にフレームのないタイプ。トップバー型特有の男らしさを適度に醸してくれるうえ、知的な印象を彼女に与えてくれます。

 
《POINT 5》
ブラウンのローファーが
コーディネイトにいい塩梅

重厚感のあるレザー素材のG9を着るなら、足元は抜け感のあるローファーがちょうどいい。色は黒でもいいですが、あえてアウターの濃い茶色に合わせてブラウンを選択すればさらに統一感のある装いでこなれます。

 
ブルゾン14万3000円(バラクータ) ●お問い合わせ先/スープリームス インコーポレーテッド TEL 03・3583・3151 スウェット2万1000円(ウールリッチ) ●お問い合わせ先/ウールリッチ 表参道店 TEL 03・6427・1819 カットソー1万3000円(アー・ペー・セー) ●お問い合わせ先/アー・ペー・セー カスタマーサービス TEL 03・3710・7033 パンツ2万8000円(ジーティーアー) ●お問い合わせ先/八木通商 TEL 03・6809・2183 ベルト6800円(ナノ・ユニバース) ●お問い合わせ先/ナノ・ユニバース カスタマーサービス TEL 0800・800・9921 靴7万6000円(クロケット&ジョーンズ) ●お問い合わせ先/トレーディングポスト青山本店 TEL 03・5474・8725 眼鏡4万3000円(ロバート・マーク) ●お問い合わせ先/ グローブスペックス エージェント TEL 03・5459・8326

 
>>>次回公開予定、
   高梨 臨さんとの会食の行方は!?
   「棋士好きな大河女優にはカジュアルが効く!?の巻」後編

Photograph / Jan Buus(whiteSTOUT) 
Styling / Tatsuya Imai[Keiya Mizuno]、Naomi Takekawa[Rin Takanashi] 
Hair &Make-up / Emiko Shimizu(Maroonbrand)[Rin Takanashi] 
Text / Keiya Mizuno 
Edit / Yasuhiro Sato 
Cooperation / Teppanyaki Zen