『夢をかなえるゾウ』シリーズ売上300万部『人生はニャンとかなる!』シリーズ売上200万部の、人気作家・水野敬也が、自身の最大の弱点「お洒落」に体当たりで臨む企画。日本最高峰の美女たちに、水野のお洒落理論は通用するのか⁉

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今月のお相手・山本美月「彼女にはアーガイルソックスがウケる!? の巻」 

 
女性誌の
カバーモデルも
務める女優とデート⁉ 

 今回で第3回を迎えました『美女とのデートはお洒落が9割』、大好評を頂いており有難いかぎりなのですが、この連載が始まって以来、明らかに私の頭髪が薄くなっております。前回、河北麻友子とのデートを終えたあくる日の朝なんて、枕元におっさん8人分ぐらいの抜け毛が落ちてましたからね。

 これが「美女との握手会」ならこうはならないと思うのです。多少緊張するとは思いますが、あくまでこちらはお金を払っているお客さんの立場です。ただ、美女に気に入ってもらえるお洒落な服を考え、店を選び、盛り上げるというホスト側に身を転じた瞬間、美女は強力なストレッサーとなり、私の心身、特に毛根が追い詰められていくことになります。ただ、そんな自分の苦しむ姿を読者の皆さまに余すところなくお伝えすることで、一人でも多くの人がお洒落力を上げ美女にモテるようになる。そのためには『美女とのデートで脱毛部分が9割』になろうとも頑張っていきたい、そのように考えておりますので、ぜひご愛顧のほどよろしくお願い致します。

 そんな感じで今回も気合いを入れ、担当編集Sからの電話を待っていたのですが、「次回のデートのお相手は山本美月さんに決まりました」という報告を受けた瞬間、頭髪だけじゃなく全身の毛が抜け落ちるような感覚があり、ハダカデバネズミになるんじゃないかと震え上がることになりました。

 最近までCanCamのカバーモデルを務め存在感を放っていましたが、私の印象に強く残っているのはやはり彼女のデビュー映画『桐島、部活やめるってよ』です。彼女は劇中の役でもそうでしたが「スクールカーストの頂点を象徴する美しすぎるビジュアル」の持ち主であり、中学高校時代、ほとんどすべての時間をゲームセンターと漫画喫茶で過ごすというカーストの最底辺をウロウロしていた私にしてみればいわば神の類(たぐい)であり、彼女はこの連載の最終回に登場すべきボスキャラ的存在なのです。そんな私が万が一にも彼女と仲良くなれる可能性があるとしたら、ドラゴンクエストの「8回逃げ続けるとすべての攻撃が会心の一撃になる」というバグ的なことが起きるしかないでしょう。

 そんな不安を担当編集Sに訴えたところ、彼はさらっとこんなことを言い出しました。

 「山本さんって漫画やアニメが大好きらしいんで、水野さんと合うと思いますよ」

 ……いやね、確かにたまにそういう女優さんいますよ。「実は、漫画やゲームが好きなんですー」みたいなことを言って外見とのギャップを狙って男性ファンに媚びる人ね。じゃあどんな漫画好きなのって聞かれたら、彼女たちは間違いなくこう言うんです。
「『キングダム』とか」

 アホかと。お前らなんかあったらすぐ『キングダム』だな。いや、良いんですよ、『キングダム』。素晴らしい漫画です。でも史記をベースにした漫画だったら王欣太先生の『達人伝』はどう思うんだと。本宮ひろ志先生の『赤龍王』は読んだのかと。俺なんて、『赤龍王』で猛将・項羽が劉邦の前で虞美人を犯すシーンがいまだに忘れられんからね。全然話変わるけど、俺の中でLDHの男タレントは全員、項羽だから。お前らイケメンでガタイが良いかもしれんけど、最後に漢帝国作って天下取るのは俺(劉邦)だからな。お前ら大型の肉食獣も、いずれはハダカデバミズノの前にひれ伏すことになるんだよ。せいぜい今のうちに虞美人とちちくりあっとけや、ですわ。

 ま、そういうわけなんで、「山本美月がオタクってどれほどのものか確かめたるか」くらいの気持ちで、いつものようにほとんどの雑誌が揃っている大宅文庫に向かいました。

そして山本美月について調べ始めたところ、

――「学生時代は心の底から『鋼の錬金術師』のエドに恋をしていました。『Dグレ』の神田とか『ハンター×ハンター』のクラピカも好きです。自分で漫画を描いたこともあって、5巻で完結させました。今年観た中で、すごく好きだったアニメは春クールの『ユリ熊嵐』です。元々、幾原監督の作品は『美少女戦士セーラームーン』のころから全部観てるんですけど今回も最高でした。(エンタミクス2015年10月号より)」

 「好きな漫画やアニメの男性キャラと仮想ヒロインとの恋愛模様という二次創作が読めるところがあるんですけど、当時それにハマっていていろんな小説を読んだり書いたりしていたんです。 (SPA!2017年5月23日号より)」

 ――すみませんでした。こいつはガチのオタクだわ。だって『ユリ熊嵐』ですよ? そんなアニメ聞いたことないからね。なんて読むんですか? ユリくまあらし? ユリぐまあらし? 濁るの? 濁らないの? どっちよ? こうしてインタビュー記事を読めば読むほど、山本美月はスクールカーストの頂点のルックスを持ちながら内面は文化系まみれという、モテないオタク男子の願望が具現化したような女性であることが判明したのです。

 (見つけちまった! 俺、奇跡の女を見つけちまったよ!)

 興奮しながら大宅文庫を飛び出した私は、お洒落番長N氏の待つメンズクラブ編集部に向かいました。

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前回好評だったネイビーのジャケットスタイルを早速取り入れ、編集部にやってきた水野。

 
 前回のデートでN氏は、日本人顔の私に対して「日本人にはネイビーが似合う」「日本のブランドで統一する」というコーディネイトを提案しましたが、その服装は河北麻友子に絶賛されることになりました。N氏に対する信頼度を高めていた私は彼の前で土下座をする勢いで頭を下げて言いました。

 「山本美月さんは完全にこっち側の人間なんです! 今回は本気で仲良くなりたいんで、最高のお洒落着をよろしくお願いします!」

 私の話を聞いてからしばらく黙っていたN氏は、ゆっくりと顔を上げて言いました。

 「水野くんは、どうしてアインシュタインがカッコイイか分かる?」(なんで突然アインシュタイン?)

 困惑しながら首を横に振ると、N氏は語り始めました。

 「アインシュタインは髪の毛もぼさぼさだし汚れた白衣を着てるイメージだけど、不潔じゃないでしょ。その理由は、彼にはインテリジェンスがあるからだと思うんだ。僕は前から思ってたんだけど、水野くんは、インテリジェンスが漂う服装を意識した方がいい。せっかく作家さんなんだからね」

 ――正直、こんなにうれしいアドバイスをもらったのは生まれて初めてでした。もっと正直に言うと「前から思ってた」ならもっと前に言ってくれよと思いましたが、思春期のころからスポーツマンタイプのイケメンと自分を比べて自信を失い続けてきた私が「インテリジェンス」を打ち出すことで彼らと一線を画すことができるという発想に感動を覚えました。

 ……とはいえ、お洒落素人である私は、どうすればインテリジェンスを漂わせることができるか皆目見当もつかず、その場で「インテリジェンス 服装」で検索してみたところ、胸元にでかでかと「インテリジェンス」という文字がプリントされたインテリジェンスの欠片もないTシャツが現れました。

 「ぼ、僕はどうすればインテリジェンスな雰囲気を身に着けることができるんですか?」

 すがるようにたずねると、N氏は手をアゴに添えて言いました。

 「やっぱり、インテリジェンスな雰囲気っていうと、イギリスのトラディショナルになるのかな。たとえばツイーディーなジャケットと……」

 (トラディショナル……ツイーディー……)

 次から次へと飛び出す謎のファッション用語に「ハゲるわ!」と叫びそうになりましたが、N氏のしめくくりの一言で一気にテンションが上がることになりました。

「……つまり、コンセプトとしてはベレー帽を外した手塚治虫かな」

 漫画の神様、手塚治虫先生!!! 私は手塚先生の漫画はほぼすべて読破し、高校時代にはブラックジャックの師匠・本間丈太郎の名台詞「人間が〇〇しようなんて、おこがましいとは思わんかね……」を周囲の人間に言いまくることで友達の数が激減し、ブラックジャックにも治せない心の傷を負った過去を持つほどの手塚信者なのです。

 (わ、私が手塚先生に……!)

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山本美月の漫画好きを、勝負服のコンセプトに落とし込む作戦で盛り上がるミーティング。

 
 興奮しながらN氏の前で山本美月に関する資料を広げ、

 「ちなみに、山本美月さんは男の服装についてこんなコメントもしています。『ジャケットやシャツのキレイめなコーディネイトで座ったときに見える靴下が可愛かったりすると、あ、お洒落だなってキュンとしちゃいます』(メンズノンノ2014年3月号より)」

 
 するとN氏は、「だったらアーガイルのソックスがいいんじゃないかな。起毛感とアーガイルは合うからね」私はアーガイルが何を指すのか分かりませんでしたが、N氏の自信満々の表情を見ながら、たとえそれがイグアナに関する何かだとしても間違いなく「合う」ことを確信しました。

 こうして全体のコーディネイトが決まっていったのですが、このときふと、私の中で根本的な不安が生れました。

 「手塚治虫ってお洒落だっけ?」

 確かに雰囲気のある人ではありますが、それは漫画の神様というブランドがあるからであって、いきなり私が手塚治虫風の格好で行っても「この人お洒落だな」と思ってもらえるのでしょうか? 少なくとも色気のない格好であることは間違いなさそうです。

 (「ベレー帽を外した手塚治虫」……それはもはや蛭子さんなのではないか?)

 その不安をN氏に伝えたところ、彼は一言、こう言いました。

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ジャケット3万9800円(ビームス ライツ) ●お問い合わせ先/ビームス ライツ 渋谷 TEL 03・5464・3580 シャツ2万3000円(バグッタ) ●お問い合わせ先/トレメッツォ TEL 03・5464・1158 パンツ1万8000円(ワーク ノット ワーク) ●お問い合わせ先/ワーク ノット ワーク アーバンリサーチ KITTE丸の内店 TEL 03・6269・9170 ネクタイ8000円(ナイジェル・ケーボン) ●お問い合わせ先/アウターリミッツ TEL 03・5457・5637 ベルト1万4000円(フェリージ) ●お問い合わせ先/ビームス ハウス 丸の内 TEL 03・5220・8686 靴下3400円(パンセレラ) ●お問い合わせ先/リーミルズ エージェンシー TEL 03・3473・7007 靴6万円(ジョセフ チーニー) ●お問い合わせ先/バーニーズ ニューヨーク カスタマーセンターTEL 0120・137・007 眼鏡7万2000円(ザ・スペクタクル) ●お問い合わせ先/グローブスペックス 渋谷店 TEL 03・5459・8377 時計1万9000円(MWC) ●お問い合わせ先/メイデンズ ショップ TEL 03・5410・6686

 「小物で解決できる」

 N氏の考えは、全体はインテリジェンス・手塚で統一しながら、眼鏡や万年筆などの小物を使って高級感を出すことで色気はカバーできるということでした。

 そしてN氏は笑いながら言いました。

 「今回の水野くんは相当いけると思うよ」

 私はこんな風に屈託なく笑うN氏を見るのは初めてであり、今回のデートがうまくいくことを確信し、(山本さんと仲良くなりすぎて、この連載が今回で最終回になったらサーセン!)と心の中でN氏に合掌することになりました。

 そしてデート当日。私はホテルニューオータニの回転展望レストラン「ビュー&ダイニング ザ スカイ」で、かつてないほどに落ち着いた状態で山本美月の到着を待っていました。これまで自分の弱点ばかりに目を向けていた私ですが、今回発見した「インテリジェンス」という鎧が私に落ち着きを与えてくれていたのです。

 が、しかし。

 

Photograph / Jan Buus(whitestout)
Styling / Tatsuya Imai[Keiya Mizuno],Shohei Kashima(W)[Mizuki Yamamoto] 
Hair &Make-up / Ichiki Kita(Permanent)[Mizuki Yamamoto]
Text / Keiya Mizuno
Edit / Yasuhiro Sato
Cooperation / Hotel New Otani