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 カッコいい大人の着こなしはもちろん、その人物はどういったマインドをもっているのか知りたいし、真似たい…、と思う男性も多いはず。

 「これで人生変わりました」、と言える本を推薦いただく連載。今回は、テクノロジーとデザインを高度に融合し、社会への貢献を目指す家電ベンチャー企業・ビーサイズの代表を務める八木啓太さんからご紹介いただきます。
 

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『プラネタリウムを作りました。【改訂版】』大平貴之著 エクスナレッジ 1600円。

  
 世界最先端のプラネタリウムを作り続ける、プラネタリウム・クリエイター大平貴之さんの半生が綴られた自伝になります。

 初めてこの本の初版を手にしたのは、大学生のころ。当時から工業製品を作る仕事に就きたいと思っていたので、参考になりそうな本を探していました。企業や大手のメーカーが成功を収めるまでの本は多くありますが、スケールが違いすぎて、作り手個人としては共感するのがなかなか難しい。 

 その点この本は、大平さんが小学生のころからプラネタリウムの自作をはじめ、さまざまな困難に立ち向かいながら物作りに奮闘する様子が伝わってきて、読んでいてとてもワクワクしたのを覚えています。

 驚いたのは、大平さんがプラネタリウムだけでなく、その加工機械までも個人で製作し、結果、大手の企業を越えて世界最高のスペックを実現したということ。最近ではITの発展もあり、個の力が組織と充分対抗できる時代になってきているとは思いますが、大平さんはそれを実際に物作りで体現しています。こういう前例があると知るだけでも心強く、情熱をもって努力を続けていれば自分にもチャンスがあるのでは?と、勇気づけてくれた一冊です。

 プラネタリウムを訪れる人たちは、当然ですがハードウェアの投影機を見に来るわけではなく、そこに広がる美しい星空に思いを馳せるためにやって来ます。大平さんは技術者としてハードウェアを作っているけれど、本当はその先にある星空やそこでの体験を作っている。こういった点も、自分の物作りに示唆を与えてくれました。 

 たとえば、わが社で最初に開発したデスクライトの「ストローク」は、世界でもっとも自然光に近いLEDライトを使い、1本のパイプを4カ所曲げて作られたシンプルな作り。ユーザーがデスク上で作業に集中するためには、究極を言えば何もない所から光が出てくるのがいちばんいいのでは?、という考えから生まれた商品です。

 ハードウェアは一つのきっかけや手段ではあるけれど、私たちが本当に提供したいのは、その先にあるユーザー体験やサービス。つまり、そこから生まれる豊かな暮らしです。そういった物作りをするうえでの礎となることや苦悩を乗り超える強さなども、淡々と綴られたこの本の行間に読むことができます。

 
《今月のセレクター》

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ビーサイズ代表
八木啓太さん

…「デザインとテクノロジーで社会に貢献する」という理念のもと、モノゴトを創造する。最新作は、携帯電話回線に自動接続して子供を見守るAIロボット「GPS BoT」。


《他にも人気書店スタッフおすすめ! バイブルになる新刊をご案内します》

三省堂書店 有楽町店 副店長 家城恒範さん推薦!

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『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』神田桂一・菊地 良著 宝島社 980円。

 
どこまで読んでもひたすら
カップ焼きそばの作り方だけ

 太宰治、ドストエフスキーから又吉直樹、星野 源など古今の作家が、カップ焼きそばの作り方を書いたらどんな文体になるのか。タイトルだけを見ても面白そうな本書。

 正直、なんの教養にもならないので(笑)、本を閉じた瞬間にすべて忘れてしまっても構いません。読了後に残るのは、「カップ焼きそばを食べたい」という欲求だけ。果たしてそれは、この本の魅力なの? それともカップ焼きそばの魅力なのか?

紀伊國屋書店 新宿本店 次長 石井温己さん推薦!

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『ボクたちはみんな大人になれなかった』燃え殻 著 新潮社 1300円。

 
しみじみと切なくなる
異色のラブストーリーが書籍化!

 ウェブでの連載中から話題になっていた本書。叙情に満ちながらも静謐な余韻の漂う文体が時を紡ぎ、過ぎ去りはしたものの消え去りはしない過去を明滅させます。

 そのとき抱く感情を、後悔、切なさ、哀愁、何と呼ぶのであれ、ボクたちは「刻々と過去に仕上がっていく今日」を生きています。人生にドラマチックなことは何一つなくても、そこにドラマはあります。各界の著名人が賞賛し、泣いたという一冊をぜひ。

TSUTAYA TOKYO ROPPONGI BOOKスタッフ 大野静子さん推薦!

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『HARUKI MURAKAMI 9 STORIES パン屋再襲撃』村上春樹 原作 Jc ドゥヴニ 翻案 PMGL 漫画 スイッチパブリッシング 1600円。

 
漫画で読む、村上ワールド
初めてのバンドデシネに、ぜひ!

 大友克洋、浦沢直樹らに影響を与えたとされるフランス圏のアーティスティックな漫画文化『バンド・デシネ』。

 本国での社会的位置づけは高く、“第9の芸術”と呼ばれているほど。そんなバンド・デシネから、我らが“春樹”に白羽の矢が! 「これ、日本の漫画家じゃ(さなざまな考慮により)無理かも」と思わせる自由度と、不条理な展開に追い討ちをかける癖のあるタッチ。それでいて村上ワールドの高解像っぷりに脱帽です。

Composition & Text/Ayako Otsuka