『ゲット・アウト』や『ブラックパンサー』に出演し、注目を集めている俳優ダニエル・カルーヤ。数々の受賞で一躍トップスターに!

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 Daniel Kaluuya: 'Life Is Surreal Right Now'

 『ブラックパンサー』のロンドンプレミアの翌日、ダニエル・カルーヤは疲労困憊でした。この29歳の俳優は久しぶりに帰郷し、素晴らしい凱旋帰国という形を果たしたからです。「すべてをやりきった」といった心境からでしょうか…。 

 大きなあくびを噛み殺しながら、「昨夜は遅かったんだ。地元の友人と旧交を温めていてね。8歳のころからの付き合いだから、こういう瞬間を共有できたことが嬉しいよ」と、カルーヤは話しました。 

 マーベル・コミックのスーパーヒーローを題材にした大作『ブラックパンサー』は、非常に大きな反響を呼びました。

 すでに大人気を博し、スマッシュヒットとなっているこの映画の中で、カルーヤはアフリカにある架空の王国ワカンダの、信頼の厚い国境警備リーダーであるウカビ役を演じています。ただ、カルーヤの友人たちは、彼がスクリーンに映し出されるたびに大騒ぎしているため、ウカビ役についてどれだけ理解しているかは疑問ですが…。 

 カルーヤは、頭を振って笑いながら言いました。

「(騒々しいので)彼らをどこにも連れていけないんだ! だけど、これまでの道のりをちゃんと知ってくれている人がいて嬉しいね」 

 ここで1度、彼の経歴を振り返ってみましょう。

 ウガンダ人の母親をもつカルーヤは、2歳のときにカムデン・タウンの公営住宅に引っ越すまで、宿泊施設で暮らしていました。 

 小学校のとき、教師から度重なる苦情を受けていた彼は、1回5ポンドの地元の劇場で演技することにその有り余るエネルギーを傾けるようになります。9歳で脚本コンテストに優勝し、2006年にはチャンネル4の画期的なTVドラマシリーズ「スキンズ」で脚本と出演を兼ねました。 

 その後、TVドラマや舞台の数多くの人気作品に出演し、一話完結型のドラマ「ブラック・ミラー」のエピソードで主役に抜擢されます。その役が終わりに近づくと、この若い俳優はハリウッドに夢を託したのでした。

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演劇学校にも大学にも行くつもりはなかった

 英国でのチャンスについて、彼は次のように語っています。

「自分がいいと思うことをやりたかっただけなんだ。『ブラック・ミラー』の後、やりたいと思えることが本当に少なくなった。『学ばせてあげる』というような一方的なパワーが好きになれなかったんだ。演劇学校にも大学にも行くつもりはなかった。よし、別のところに行こうと思ったね。ちょっとしたコツを学んだら、あとは向こうから差し出されたものじゃなく、自分の望むキャリアを築くべきだ」と、カルーヤはコメントしました。 

「イギリスでは、田舎から出てきた労働階級の黒人の子供に役なんて回してもらえないよ。とても難しいことだよね。芸術のほとんどは、そもそも『お金がたっぷりあるから、好きなことに時間をかけられる』ってことだから…。労働階級の人間には、他にしなければならないことがある。家族のために、給料をもらって生きていくために。成功はたいていの場合、費やした時間に比例してもたらされるんだ」とダニエル・カルーヤ。 

 2016年の調査によると、わずか16%の英国人俳優が労働階級出身でした。

 カルーヤはこの問題に対して、何も対応しない業界を非難しています。「多くの人がこの問題を記事にしているのに、なぜ何もしないんだ?」と、カルーヤは不思議に思っているようです。 

 
 このような状況だからこそ、教育を受けて成功したいと思っている創造的な子供にとって、芸術を学ぶための資金援助が重要なのです。「私はこういった自由で安価な組織の出身です。作品のストーリーは、それを書いた人自身を反映していますね」と語りました。 

 2017年に公開された映画『ゲット・アウト』が高い評価を受けた後、カルーヤは社会的に取り残されてきた力なき声を世界中に響き渡らせました。

 人種問題への批判を掲げたホラー・コメディ映画『ゲット・アウト』は、この英国人俳優をオスカーおよび英国アカデミー賞にノミネートされるまでに押し上げました。バラエティ番組でキャリアを築いたコメディアンであるジョーダン・ピールが、こんなに画期的な作品を書いたことには驚きだったことでしょう。

「彼は知識として知っていることを映画にしたんじゃなく、彼自身が心に深く感じていることを表現したんだ。彼はそれができる人で、とても信頼できました」と、カルーヤはピール監督について話しました。 
  

この期間はずっと、こっそりと脚本を書いていたんだ。

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写真:英国アカデミー賞授賞式で、主演女優賞にノミネートされたエミリー・ブラントと2ショット。Photograph / Getty Images  

 
 あまりにも急激に世界的な名声を得たことを、カルーヤ自身も周囲の人同様に驚いています。

 そもそもピールが彼をNetflixで見つけたとき、カルーヤは演技に専念すらしていなかったのです。「この期間はずっと、こっそりと脚本を書いていたんだ。だから今は毎日が夢のようだ。『ゲット・アウト』に出演するまで、サンダンス・インスティテュートの脚本家ワークショップで映画の脚本を書いていたんだ」と、自身の生活について振り返りました。 

 風向きが変わったのは、2017年の年末でした。

 そのころカルーヤは、TVシリーズの脚本も書いていました。「ロンドンの話を書いていたんだ。ロンドンは労働階級の人々の街だからね。ニューヨークやロサンゼルスの話はたくさんあるけど、自分とは違う人々にばかり注目するのはやめた方がいい」と。 

 ジョーダン・ピール監督は最近のインタビューで、『ゲット・アウト』の続編に意欲があることを明かしました。

 はたしてカルーヤは、ピール監督との共同脚本に興味はあるのでしょうか? その質問に対して「まずは彼に頼まれないとね!」とカルーヤは慎重に答えました。

「ジョーダンと、ぜひまた一緒にやりたいと思っているよ。彼は特別な表現者だから…。人々がそれを望むなら、そういう流れになると思う。彼は価値のないことに一生懸命になったり、脚本を書いたりしない人だからね」と、続けてコメントしました。 

 
 いずれにせよカルーヤの次の行動に、ピール監督は大きな影響を及ぼすでしょう。

「これまで、偉大な表現者たちと一緒に仕事をして、自分を追い込んでいたところがあった。だけど、つまずいたり失敗したりすることも受け入れないといけない。最初からうまくいくことばかりじゃないけど、ありのままの自分でいようとすることが大事だと思う」とカルーヤは話します。 

 今後、どのような作品に出演する予定ですなのか、とても気になるところです。

By Nick Pope on February 13, 2018
Photographs by Getty Images
ESQUIRE UK 原文(English)
TRANSLATION BY Trans Mart
※この翻訳は抄訳です。 
編集者:山野井 俊