「007」シリーズでは2018年8月下旬、英ベテラン監督のダニー・ボイルが最新作『ボンド25(仮題)』の監督を降板することが突如発表され、失望とパニックが広がっていました。

 このプロジェクトは2019年にも製作が開始される予定となっておりますので、もはやクリストファー・ノーランドゥニ・ヴィルヌーブが監督に就任する可能性はありませんでした。そんな中、「ボイルに代わる新監督は誰になるのか?」と、多くのファンが気になっていたところです。 

 そしてその答えが、2018年9月下旬にとうとう出たのです。

 新監督となったのは、キャリー・フクナガ。あまりに意外な人選だったため、ブックメーカーの「ウィリアムヒル」も「フクナガに賭けていた人は、1人もいなかった」と伝えています。 

 今回は、そんなキャリー・フクナガに注目してみました。この監督について知っておくべきことや、ジェームズ・ボンドという世界一有名なスパイを彼がどのように解釈しそうなのか…といったことを解説しましょう。

キャリー・フクナガのプロフィールと経歴

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 キャリー・フクナガ監督のことを今、世界中の「007」ファンが注目しています。ですが、彼はビッグネームの監督ではないことは事実です。そんな中、まずは彼のプロフィールを紹介しましょう。 

 キャリー・フクナガはアメリカ・カリフォルニア州出身であり、1977年7月10日生まれの41歳。これまで映画監督のみならず、脚本家、作家、撮影技師として多くの作品に携わってきました。人気ドラマシリーズ「『TRUE DETECTIVE / 二人の刑事』のシーズン1は芸術の域に達したドラマだ」と今でも主張している人、あるいはNetflixのSFドラマ『マニアック』を楽しみにしている人にとっては、今回の発表は予想外の朗報だったことでしょう。…というのも、これらのドラマはいずれもフクナガが監督を務めてるのです。「007」シリーズと彼の作風まマッチするのでしょうか?いう不安に駆られているかと思うからです。 

 この日系アメリカ人監督の作品には他にも、2011年のリメイク版『ジェーン・エア』(マイケル・ファスベンダー、ミア・ワシコウスカ出演)、2015年のNetflix映画『ビースト・オブ・ノー・ネーション』(イドリス・エルバ出演)などがあります。 

 フクナガは「007」シリーズの監督として初のアメリカ人であり、初の非白人でもあります。これは俳優陣も制作陣も白人が多数派を占めてきたこのシリーズにとって、新鮮な変化となります。フクナガは幼少期、スウェーデン系アメリカ人の母とメキシコで過ごしたほか、日系アメリカ人の強制収容所生まれの父とカリフォルニア州バークレーでも過ごしています。

映像美に期待

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「007」映画の映像表現は、近年ますます美しいものとなっています。特に、ベテランのロジャー・ディーキンス(『ブレードランナー 2049』、『ノーカントリー』、『ボーダーライン』など)が撮影監督を務めた『007 スカイフォール』は、非常に印象的でした。 
  

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
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 フクナガは、『ビースト・オブ・ノー・ネーション』では自ら撮影監督も行い好評を得ました。

 砂塵舞うエメラルドグリーンのガーナを捉えた彼の映像表現は、重要な役を演じた俳優のイドリス・エルバにも衝撃だったとのこと。エルバはその後カメラの使い方を学び、『ヤーディ』という作品で監督デビューを果たしたほどですから…。 

 エルバはフクナガについて、「フクナガはレンズの絞りを確認しているとき、何かに気づくことがあります。直感的に何かが目に浮かび、その場でシーンを見事に改変してしまうんです」と、「ニューヨーク・タイムズ」紙に語っています。 

『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』で批評家の称賛を集めたシーンの1つには、6分間という長回しのトラッキングショットがあり、視聴者は危険な状況を乗り切るラスト・コール(マシュー・マコノヒー)から目を離せなくなったことでしょう。「007」でも、このような緊迫感のあるシーンを作ってくれるのではないでしょうか。

ダニエル・クレイグの後任に、イドリス・エルバの可能性はあるのか?

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『ボンド25(仮題)』のジェームズ・ボンド役は、ダニエル・クレイグが務めることが決まっています。ですが、彼は今作でシリーズを卒業することを明言しています。 

 フクナガの「007」が好評を得れば、これまでのサム・メンデスやマーティン・キャンベル、ジョン・グレン、ルイス・ギルバート、ガイ・ハミルトンなどの監督がそうであったように、彼は続投を求められることでしょう。そうなればフクナガとともに仕事し、そのスタイルを称賛してきたイドリス・エルバが改めてボンド役の筆頭候補になるかもしれません。

どんな「007」作品になるのかは未知数

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『ボンド25(仮題)』はフクナガにとって、『ジェーン・エア』以来の劇場公開作品となるでしょう。『TRUE DETECTIVE / 二人の刑事』はHBO(米TV局)での放送であり、『ビースト・オブ・ノー・ネーション』や『マニアック』はNetflix作品です。 

 彼は最近のインタビューの中で、ユーモアを交えながら「興行収入面で大失敗する可能性もあります。どうなるかはまったく予想できません」と語っています。 

 彼のこれまでの作品に目を向けてみても、クラシックな英国ロマンスからダークコメディまで、明白なパターンはありません。わかるのは、彼が物事を正しく行うことに強いこだわりを持っているということです。 

 フクナガは2017年、スティーブン・キングのリメイク版『IT / イット “それ”が見えたら、終わり。』の監督を撮影開始の数週間前に降板しました。スタジオとの方向性の違いが原因だったと言い、彼のプロとしての徹底的なこだわりは「気難しい」と評されることもあります。 

「ニューヨーク・タイムズ」紙はフクナガについて、「物事のディテールへの極めて素晴らしい注意力を持っており、表面的に自分とまったく違う人々の生き生きした経験をめまいがするほど見事に再現してしまう」と表現しており、その人物像について「誤ったディテールが映画やTV番組の魅力を台無しにしてしまうと信じているため、異常なほどに緻密」としています。 

 
『ボンド25(仮題)』は、フクナガのもとで未知の領域に突入するかもしれません。ですが、このシリーズには大きな改革が必要であり、彼がそのために必要な十分な手腕の備えているのは間違いないのです。


From ESQUIRE UK 原文(English)
Translation / Wataru Nakamura
※この翻訳は抄訳です。