2017年の時点では、ダニエル・クレイグが「007」シリーズ最新作の『ボンド25(仮題)』に出演するのか、はっきりしていませんでした。
クレイグがボンドを演じるのは、次作で5度目となります。ですが、彼はボンド続投を認めたときにさえ、「最高潮にあるときに退きたいんだ。待ちきれないよ」と語り、次が最後になる可能性を仄めかしていました。
そんなクレイグは新作「007」映画との契約にサインする前に、「しばらく休憩が必要」と話していましたが、この休憩はしばらくどころではなくなりそうです。というのも、『ボンド25(仮題)』の公開は、2020年まで延期されましたので。
これによって今回の作品を最後に、クレイグがボンドの特権こと「殺しのライセンス」を返却することになっても、彼がボンドを演じた期間はロジャー・ムーアを越えて歴代最長となります(作品数ではなく年数です)。では、これまでの歴代ボンドたちは、なぜワルサーPPKを手放すことになったのでしょうか。
ショーン・コネリー|ジェームズ・ボンド降板理由
「役者イメージ固定への恐れ」
歴代最高のボンドの呼び声もある初代ボンドは、この役からなかなか離れることができませんでした。というのも、コネリーは1度ボンド役を退いた後、2度にわたって復帰していたのです。
「007」映画5作品に出演した後、コネリーは『007は二度死ぬ』を最後に、ボンド役を降板しました。ジェームズ・ボンドという象徴的な役に伴う巨大なプレッシャーを、「金魚鉢の中で生きるようだ」と例え、それを降板の理由としました。
当時のコネリーは「ボンド役を降りた理由の一端はプレッシャーにあります。また、私には完全にジェームズ・ボンドのイメージが付いてしまい、それに飽き飽きしてつまらなくなってしまったんです」と語っています。
しかし、コネリーはひとつの「007」作品を挟み、1971年の『007 ダイヤモンドは永遠に』で再びタキシードに身を包むことになります。この復帰の際には、「ユナイテッド・アーティスツ(映画スタジオ)がコネリーの望む作品2本の製作費を提供する」といった条件を含む新たな契約が結ばれたとされ、コネリーは同作の出演料を投じてスコットランド国際教育基金を設立したのでした。
コネリーの復帰は1作品のみで、彼自身もこのとき「2度とボンドを演じることはない」と語っていました。当時の彼は、「ジェームズ・ボンドなんて役は前から大嫌いだったんだ。彼を殺したいくらいだ」と語っています。
確かににコネリーは、2度と「正式な」ボンドを演じることはなかったのは事実です。
しかしながら…実はもう一作品、コネリーは「007」映画にボンドとして再び復帰しています。すでに「え!?」と思っていた方も少なくなかったでしょう。とはいえ、その作品は『ネバーセイ・ネバーアゲイン』(『007 サンダーボール作戦』のリメイク作品)』で、これは『007 サンダーボール作戦』の共同脚本家であるケヴィン・マクローリーによって創作されたものになります。いわゆるノン・カノン(非正史扱い)の作品だったわけです。
ジョージ・レーゼンビー|ジェームズ・ボンド降板理由
「的はずれなアドバイス」
コネリーの降板後、007役はオーストラリア人俳優のジョージ・レーゼンビーの手に渡りました。そうして、1969年公開の『女王陛下の007』でボンド役を演じたのですが、実はこの役がレーゼンビーにとって初の俳優としてのキャリアだったのです。
レーゼンビーが『女王陛下の007』の中で演じたボンドは、歴代ボンドのなかでも最も評価が割れるところで、そもそもこの映画自体もシリーズで最も好き嫌いが分かれる1本になります。レーゼンビーの主張によれば、彼はさらに6本のボンド映画と契約するのをやめるようマネージャーに説得され、その後、映画業界でブラックリストに入れられてしまったと言います。
また、撮影現場での彼が、「扱いにくい」とのゴシップも流れていましたが、レーゼンビー自身は強く否定しています。
「『ジェームズ・ボンドはどうせ終わりだ』、とアドバイスされたんです。そもそもショーン・コネリーの映画でしたし、60年代は『戦争』ではなく『愛』が重要でした。ヒッピーの時代でしたからね。私はそんな彼の助言を信じたんです」と、レーゼンビーは2017年のインタビューで語っています。
「それに、『クリント・イーストウッドという男がイタリアで映画に出ており、西部劇をやって毎月5万ドルを稼いでいる』とも言われました。『君にもできる』とね。ですから、当時は自分が数百万ドルを失おうとしているとは感じませんでした」とジョージ・レーゼンビー。
レーゼンビーという俳優は、そんな「不遇のボンド」として知られていますが、その裏には、そんな的はずれなアドバイスがあったのですね。
ロジャー・ムーア|ジェームズ・ボンド降板理由
「年齢」
ボンド役として7作品に出演したロジャー・ムーアは、最後の『007 美しき獲物たち』のときには、58歳と過去最年長のボンド俳優となっていました。
というわけで、ムーアがボンド役を降りた大きな理由はこの年齢にあるようです。とは言っても、当時の彼がもはや「スタントをこなせなかった」というわけではありません。
「当時は1日に2時間のテニスをしたり、毎朝1時間のトレーニングをしたりもできましたから、体力的な問題ではありませんでした」と、ムーアは2014年のインタビューの中で語っています。
「体力的には問題ありませんでしたが、見た目の面で、ボンドガールが孫娘に見えてきそうなくらいに老け始めていましたから…それが嫌になったんです」とロジャー・ムーア。
2017年に亡くなったムーアですが、生前に「ザ・ミラー」紙が行った最後のインタビューの中でも同じようなことを言っていました。この話によれば、ムーアは『007 美しき獲物たち』の後に自分の見た目について…「20代前半のボンドガールたちと違和感なく隣に並ぶには老け過ぎている」と思ったそうです。
しかし、彼は2012年のロンドンオリンピック招致のための広告で、ボンド役を再演。この広告には、ピアース・ブロスナン時代にマネーペニー役を演じたサマンサ・ボンドも登場していました。
ティモシー・ダルトン|ジェームズ・ボンド降板理由
「法的問題」
ボンド役を引き受ける前からティモシー・ダルトンは、「何年にもわたって同じキャラクターを演じるとなると、飽きてしまいそうだ」と心配していました。
とはいえ、ダルトンが「007」映画2作品に出演した後に降板したのは、飽きたことが理由ではありません。実際、この降板には、彼にはどうしようもできない事情がありました。というのも、彼は1990年の3作目に向けて準備万端でしたが、イオン・プロダクションとMGMの間の係争のために、この製作が遅れてしまったのです。
「訴訟があったため、ボンド役の契約は切れてしまいました」と、ダルトンは「ザ・ウィーク」に語っています。
1994年に法的問題が解決したとき、ダルトンのボンド復帰への道は開かれていました。ですが、彼はもうひとつの作品の出演があり、シリーズを去ることを決めていました。
「(プロデューサーのアルバート・ブロッコリは)きわめて当然のことながら、次のように言いました。『ティム、もう1作だけではダメです。前作から5年も経っているんですから、復帰して1作だけ出演するというわけにはいきません。4、5作は出てもらわないと…』と」、このようにダルトンは当時のことを回想しています。
「それを聞いて私は、『いやいや、そうなったら残りの自分の人生は、ボンド役で終わってしまう。やり過ぎだし、長過ぎる』と思いました。ですので、丁重にお断りしました」とティモシー・ダルトン。
まさか法的問題が発生していたとは、世界中の「007」ファンは気づいていなかったのかもしれません。しかしながら、残りの俳優人生をボンド役で納得するのかは、俳優ごとに違うようですね。
ピアース・ブロスナン|ジェームズ・ボンド降板理由
「本人以外の決断」
お気の毒なことですが、ピアース・ブロスナンはボンド役を退くタイミングを、自分で決めることはできなかったようです。
『007 ダイ・アナザー・デイ』は批評家からは好まれなかったものの、当時、最高の興行収益を上げたボンド映画でした。ですのでブロスナンは、5作目にも登場すると見られていましたし、本人も間違いなくその準備をしていたようです。
しかしながら「007」シリーズの解説本『Some Kind of Hero: The Remarkable Story of the James Bond Films』に収められたインタビューによれば、5作目の交渉はブロスナンの求める方向に進まなかったと言います。
そして彼は、「ダイヤモンド・イン・パラダイス」の撮影でバハマにいたとき、「交渉は停止した」と伝えられたそうです。ブロスナンによれば、当時のプロデューサー陣は自分たちが何をしたいかはっきりわかっていなかった言っています。
「バーバラ・ブロッコリとマイケル・ウィルソンは、どっちつかずでした。『本当にごめんなさい』とバーバラは泣いていました。マイケルは頑なな態度で、『君は素晴らしいジェームズ・ボンドだった。本当にありがとう』と言いました。私は『こちらこそ本当にありがとうございます。それでは』と別れを告げたんです」と、ブロスナンは語っています。
「それで終わりでした。まったくもってショッキングでしたが、最終的に切り捨てられてしまったんです」とピアース・ブロスナン。
まさか本人以外の決断で降板することになってしまったとは、とても気の毒なことです。その後、多くの作品で銃を握ることが多かった彼ですが、その姿はやはりジェームズ・ボンドにしか見えった方も少なくなかったはずです。
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Source / ESQUIRE UK
Translation / Wataru Nakamura
※この翻訳は抄訳です。