2018年第90回アカデミー賞授賞式では、映画『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』の活躍が目立ちました。主演男優賞授賞にはチャーチルを演じたゲイリー・オールドマンが、そして、そのメイクアップを担当した辻 一弘さんがメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞しています。そんな話題作の裏側を監督と主役が明かしてくれました。

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 Darkest Hour / Gary Leonard Oldman

 ゲイリー・オールドマンが、「彼が自分をチャーチルにしてくれるのであれば、演じられる」と、辻 一弘さんに直々にオファーしたというエピソードは、2018年の映画界にとって忘れられない話題のひとつになったはずです。そんなゲイリー・オールドマンは、「実はチャーチルになる特殊メイクに耐えられるか、不安だった」と告白しています。

 そんな内容となったウィンストン・チャーチル役のゲイリー・オールドマンと、監督ジョー・ライトのインタビューが到着しましたので、ここでご紹介しましょう。

 
―今回のような姿形を変えて役を演じるのは久しぶりですが、この役は慎重に選んだのですか?

ゲイリー・オールドマン(以下、ゲイリー):チャーチルのような役は、そうそうあるものではありません。計画的に自分で仕事をつくることはあまりしません。ですから来年、どんなことをしているのかも見当などつきません。ほとんどの時間は失業状態なんです(笑)。

 
―この映画は、責任感あるリーダーシップを追求する作品として考え出したのですか? それとも、あくまでもチャーチルの1つの物語としてでしょうか?

ジョー・ライト(以下、ジョー):僕が考え出したことは、脚本家のアンソニー・マクカーテンが当初構想したものとは明らからに違います。僕は責任や疑念、それから障害を乗り越えるための疑念の活かし方を描き出そうと考えました。それは王様と女王が出てくるおとぎ話の中にあるようなことなんです。でも、主人公が王様や女王であることにはまったく関心はありません。人として、どんな人なのかということに関心があるんです。ある意味でチャーチルも同じで、首相やアイコンというよりは人としてのほうに関心がありました。

―製作中にドナルド・トランプの名前が何度も話題に出ましたか?

ゲイリー:いえ、全くありません。

ジョー:僕らがこの映画の製作を始めたのが2016年1月でしたので、英国EU離脱もトランプのこともまだ起きていませんでした。ヨーロッパでの一連の選挙や民族主義の台頭もありませんでした。製作過程の中で、そういった出来事が起きるようになり、脚本を開発しているときには僕らの政治的見解を映画に込めたくなりました。実際にそうしようとしたんです…チャーチルがEUについて初めて言及した人物のひとりだったことに僕は興味を持ち、チャーチルの先見の明には驚きました。そこで、飛行機に乗っているチャーチルが窓の外を眺めながら発する、「もう限界だ。われわれは欧州連合を組まなくてはならない」というようなセリフを付け足しました。ですがそうすると、僕ら製作者の姿が映画から透けて見えてきて、映画から意識が離れてしまったんです。当初から意識していたことは、ある特定の時期に、特定の敵と戦っている特定の人物について詳細に描くことでした。そして観客を尊重して、観客自身で答えを見つけてもらうことです。フィルムメイカーとして望んでいる一番のことは、僕らの映画が観客に問題を提起して議論を進めることです。


―ゲイリー、今回の役は今までで一番難しかったと話していますが、どうしてですか?

ゲイリー:無事に終えることができましたが、当初、懸念していたことはスタミナでした。というのも、チャーチルはほぼすべてのシーンに出ていて、シーンの原動力になっていたからです。主演を務めたのは、『裏切りのサーカス』以来です。そのときは、撮影に入ると休みなく毎日ずっと働いていました。脇役をしていたり、休日があったり、飛び飛びで撮影に参加したりする場合などは、気持ちを鼓舞するのは簡単です。今回の作品では、毎日仕事をしていました。誰よりも約4時間前に現場に入って、特殊メイクなどのプロセスを踏んでいたんです。家に帰っていたのは現場に入ってから18時間後でした。それから夕食をとり、息抜きをして、シャワーを浴びていましたね。ベッドに横になるのは相当遅くなってからです。それよりひどい時もあります。不満を言っているのではなくて、自分のことを心配していただけです。「自分の肌は、このメイクに耐えられるだろうか?」といったようなことを考えていました。

―役を自分のものにするために、世間が持っているチャーチルのイメージを払拭する必要がありましたか?

ゲイリー:あなたが話題にしている世間のイメージというのは、ある特定のものです。チャーチルは宣伝のうまい人でした。自己宣伝がうまく、当時はブランディングというものがありませんでしたが、ブランディングのセンスを理解していたと思います。彼はホンブルグハットやスカーフやビクトリア朝の服を、蝶ネクタイと懐中時計とともに身につけていました。また、演劇やプレゼンテーションの感覚を持ち合わせていました。存在感を大きく見せたい気持ちがあったのでしょう。ジェスチャーを交えながら、オペラ俳優のように振舞っているんです。チャーチルには、役者のような貫禄があります。彼の真実の姿を見つけるためにそういった面をすべて演じきりながらも、私たちは彼の人間としての側面を見たかったのです。それが私たちのつくりたかった映画であり、議論したことなのです。公人としてのチャーチルが映っている映像の中には、いまで定番中の定番と言えるものがあります。その中には、とても示唆に富む映像があるんです。政見放送の始まる直前の姿から映像は始まり、カチンコが彼の目の前に掲げられると公人としての表情が現れ、リズムある演説をするのです。そこでチャーチルが普段の声で隣にいる人物と話している姿を少しでも垣間見れたなら、そことは全く違う別人だと思うでしょう。


―チャーチルの「血と苦労と涙と汗」という言葉は生きる上での素晴らしい信条ですが、あなたにとっての座右の銘はありますか?

ゲイリー:息子が3人と9歳になる義理の息子が私にはいます。3人の息子は天才ではありませんが、本当に優しい子たちなんです。ある人に「このあいだの夜、おたくの息子のチャーリーに会ったんだけど、チャーリーは本当に優しいよね」と言われると、とても誇らしく思います。それが私の最大の業績だと思います。世界は優しい人がもっと必要なんです。天才は十分にいます。優しい人がもっといてほしい。私は優しい人になることが一番誇りに思います。そうしようと思ってもいます。誰かの気持ちを傷つけることなく、きちんとした男になれるように努力していますし、血と苦労と涙と汗をもって社会に貢献しようと努力しています。それが自身で最高のことなのです。

―この役をかなり面白くしているように見えますが、楽しみましたか?

ゲイリー:チャーチルにはユーモアのセンスがとてもあったんですよね?

ジョー:僕たちと同じように、チャーチルはユーモアを防衛手段として、そして、人生での困難を切り抜ける手段として利用しました。私が調べた中で1番面白かったことは、エリザベス・レイトン(チャーチルの秘書)を始めとするさまざまな関係者が残している文書を読んでみると、誰もがチャーチルは目の奥で常に笑っていると描写しているのを見つけたことです。いかなるときでも、突然冗談を言ったり笑い出したりして、その姿は愉快で元気づけるものでした。そして、僕らは楽しんでもらえる映画を作りたかったんです。退屈な歴史の授業をするつもりはありませんでした。チャーチルから学ぶことはあると思いますが、それを唐突に押しつけることはできません。そこで僕らは、前半にユーモアをたくさん持ってきて、後半はポリティカル・スリラーのように展開しようとしました。それが僕らの目標でした。


―あなたの演技や演じてきた多くのキャラクターは、とても生き生きとしていますね。

ゲイリー:『レオン』(1994)で演じた役を思い出してみてください。あの役は漫画っぽく、大げさで、ボンド映画(『007』シリーズ)の悪役みたいなものでした。『レオン』の撮影で、部下が近寄ってくると私はその部下に「全員呼んでこい!」と言い、部下は「全員ですか?」と聞き返すシーンがありました。あるテイクで私は録音部のもとへ行き、「次のテイクでは大声を出すから、そのつもりでいて。リュック(・ベッソン監督)を笑わせたいんだ」と一言伝えました。悪ふざけですよ。 それでそのテイクに挑んで、振り返りざまに「全員だ!」と大声で言いました。みんな笑うのを堪えていましたが、私だけはクスクス笑ってしまいました。


―『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』は、民族主義的な映画ですか?

ジョー:僕はそう思いません。それはこの映画がイギリスだけについてのことか? もしくは人間性についてのことか?と捉えるかどうかで変わってくると思います。僕は人間性についての映画だと捉えています。偏見や憎しみが高まってくるのを抑えることのできる人間の能力、それが人間性だと思いのですが、それが愛おしくて思えるのです。僕にとって、それがこの映画のすべてです。僕が観客にどうやって知的に考え、どこに共感するのかを教えるのではありません。僕の仕事はある疑問を提起して、観客が自分で答えを導き出せるようにすることだと考えていますので…。


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『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男 ブルーレイ+DVD セット』
2018年10 月11 日(木)リリース
レンタルブルーレイ&DVD 同日レンタル開始
公式サイト http://www.nbcuni.co.jp/movie/sp/churchill-movie/
予告編 https://youtu.be/pmZuEYvHYTE
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