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 映画好きであれば、この日は(仕事もそっちのけ⁉で)集中しなければならないのが、アカデミー賞授賞式でございます(とはいえ、逆の方もいるはずです。映画好きだからこそ無視する…今回は前者の方たちを対象におおくります)。第89回では渡辺 謙さんもプレゼンターとして出席するので、我々日本人にとっても非常に興味深いところでは。

 選考基準を改めて確認しておきましょう。前年の1月1日~12月31日に連続1週間以上、ロサンゼルスの商業劇場において有料で上映された35ミリ以上の作品対象に選考されます。そこでは、すでに公開された作品が対象になるわけなので、興行成績や各地域の批評家によるレビュー、はたまた既に他の映画賞や映画祭の結果も出ているので、そのあたりの作品に関するいわゆる評判とういうものも加味された上での選考となります、自然と…、仕方ないことです。

 そして、その選考方法としては主催者である「映画芸術科学アカデミー協会(Academy of Motion Picture Arts and Sciences)の会員のなかでも、投票権をもつ(中には投票権を放棄している会員もいるので)会員、つまり監督・俳優・女優他著名な映画人など、アメリカ映画に携わる人々による投票によって、まずノミネートが決定されます。そのノミネートの段階では、個々の会員はその専門分野に投票することになっていて、各部門最高5候補までのノミネーションが決定されます。

 ただし、作品賞部門に関してだけは、会員全員によって投票されるとのこと。外国映画賞、ドキュメンタリーといった部門に関しては、アカデミーの会員が選考のための小委員会を作り、そこでノミネーションが選ばれます。そして最終選考は、ほぼすべての部門が会員全員の投票によって決定されるのでした。

  
 で今回、メンズ・プラスの映担Yが得意顔(笑)で注目するのは、そのアカデミー賞の頂点と言われている「作品賞」です。 

  
 この1年で多くの大ヒット映画や感動作、そして注目俳優の最新作が公開されてきました。しかし、ノミネート作品のリストを見てみると、ほぼすべての作品がまだ日本未公開の作品だらけなのです。日本在住のみなさんは、悲しいことに俳優や監督の名前を通じて、予想しなくてはいけないという、とても難しい立場にいるわけです。 

 そのため、デンゼル・ワシントンが主演男優賞、ナタリー・ポートマンが主演女優賞、メル・ギブソンやドゥニ・ヴィルヌーヴが監督賞を受賞するのでは…と、これまで活躍してきた面々を予想する方々が多い訳なのです。こればかりも仕方ない現実なのです…。 
 

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 では今回、ノミネートされている9本の作品を見てみましょう。


1.『HELL OR HIGH WATER(最後の追跡)』 
2.『Hacksaw Ridge(ハクソー・リッジ)』 
3.『Hidden Figures(原題:ヒデン・フィギュアーズ)』 
4.『Fences(現代:フェンス)』 
5.『Manchester by the Sea
 (マンチェスター・バイ・ザ・シー)』 
6.『MOONLIGHT(ムーンライト)』 
7.『Arrival(メッセージ)』 
8.『LION(LION/ライオン~25年目のただいま~)』 
9.『LA LA LAND(ラ・ラ・ランド)』



 上記リストの中で、おそらくこの作品は最有力候補であろうと感じた4作品を順番にご紹介いたします。昨年、『スポットライト 世紀のスクープ』を予想し、的中させただけに、今年も当てる気満々で予想しました! 

 で、となりのオヤジ先輩編集者は、「NASAのあんな発表があっただろ、だから、次はアカデミーで『Arrival』が作品賞になるシナリオさ。そして夏あたりから、第一種、第二種、第三種と接近遭遇の距離が詰まっていく感じだなぁ…」と、学生時代にSF研究会でならした想像力を勝手に発揮していました…(笑)。

【大本命】『マンチェスター・バイ・ザ・シー』

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 今年度のアカデミー賞のノミネート作品は、人間の本質を描いたものから現実社会に対しての葛藤や苦しみを描いている作品が多く、決してハッピーな映画が多くあるわけではありません。 

 今回大本命として予想した作品は、負のオーラを醸し出しながら冷静沈着に日々を過ごす1人の男の人生を描いた、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』です。本作は作品賞のみならず、主演男優賞、脚本賞など6部門でノミネートされています。 

 物語は短気で1匹狼であったリー(ケイシー・アフレック)が、兄ジョー(カイル・チャンドラー)の急死の連絡を受けることによって、16歳になるジョーの息子パトリック(ルーカス・ヘッジズ)の後見人に自分が選出されたことを知ります。兄を失った悲しみや自分に甥が養育できるのだろうかという不安に向き合うリー、でも彼は、。そして、彼はそれ以上に重い問題を抱えていたのでした……。 

 とても地味な作品とも言えるのですが、本作には現在のアメリカが抱えている多くの社会問題が描かれているのです。例えば、主人公リーは毎日便利屋として、排水管工事やトイレ掃除などのあらゆることをしながら、低賃金で日々の生活を過ごしています。

 実は現在のアメリカ社会でも、このように毎日の生活に不安を抱えながら生活をしている人たちがたくさんいるのです。また、パトリックを通して描く、思春期の男の子の普通の一面を垣間見ることでできるのも魅力となっています。彼が登場するシーンには、どこかしら懐かしく、さらにコミカルな要素も入っているので、少しばかり心が和らげ、作品に深みを増してくれるのでした。 

 最大の見どころは主人公リーを演じたケイシー・アフレックの、リアルすぎる感情や表情の豊かさ。大半の時間は、あることを境に心を閉ざしてしまった男を演じ続けているのでしが、少しずつ表情が明るくなっていく姿は圧巻です。 
 

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写真:あることをキッカケに心を閉ざしてしまったリー(左、ケイシー・アフレック)が甥パトリック(右、ルーカス・ヘッジズ)の面倒を見ることになってから、少しずつ心を開いていく切ない男の物語。無邪気なティーンエイジャーのパトリックの生活に要注目です!©2016 K Films Manchester LLC. All Rights Reserved. 

 少しばかり裏話をさせていただくと、本来リーの役は、兄ベン・アフレックの親友マット・デイモンが演じる予定でした。が、スケジュールが合わなかったため、ベンの弟であり友人であるケイシーに白羽の矢が立ったわけです。 

 マット・デイモンは主演をケイシーに譲り、プロデューサーとして本作に関わることになりました。フタを開けてみたら、マット・デイモン顔負けの素晴らしい演技を魅せていることで、今年度のアカデミー賞主演男優賞にノミネートされており、最有力候補として挙げられています。 

 アカデミー会員が社会的な映画や切ない映画を好むことがあるため、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』にチャンスがあるのかもしれません。小さな田舎で繰り広げられる男の絆に要注目です!


『マンチェスター・バイ・ザ・シー』 


監督:ケネス・ロナーガン 
出演:ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズ、カイル・チャンドラー、ルーカス・ヘッジズ他 
配給:ビターズ・エンド、パルコ

2017年5月13日より シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
©2016 K Films Manchester LLC. All Rights Reserved. 
 

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映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』特報
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【有力】『ラ・ラ・ランド』

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 今年度のアカデミー賞で、最も注目されているのが本作。もう、言わずもがなですね。アメリカンドリームを追い求める若者たちが多く混在するカリフォルニア州ロサンゼルス=LAを舞台に、夢を高く持ち続ける若い男女があることから出会い、その後彼らの人生に変化が訪れるという物語。 

 ミュージカル映画でありながらも、主要キャラクターたちのみならず、音楽、衣装、美術デザインなどの見どころが満載であることが世界中で騒がれている理由なのではと思われます。

 特にダブル主演のライアン・ゴズリングとエマ・ストーンの高い歌唱力とダンスのセンスには、誰もが脱帽してしまうことでしょう。明るく楽しいストーリーが軸としてあるため、最もオスカー作品賞に近いのではと多くの批評家が囁いています。 

 内容に関しては、本サイトも既に記事にしていますし、様々なメディアで記事が公開されているので、ここでは触れません。作品賞のみならず、主演男優賞と主演女優賞の授賞も最有力との前評判です。 
 

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写真:ハリウッドで人気急上昇中のライアン・ゴズリング(左)とエマ・ストーン(右)。美男美女の完璧なダンスと歌唱力は、まるで本物のミュージカルを観ているような気分になります。 

  
 今、最も熱いノミネート作品ではあるものの、気になる点がありました。その気になる点とは、アカデミー会員がこれまで選んだ作品の中でミュージカル映画は少ないため、もしかしたら、作品賞は他の作品が選ばれてしまう可能性もあるのです(いやいや、その逆でしょ! ここはバランスをとるでしょう。前回のクリス・ロックのオープニングで、今回のアカデミーの裏テーマは「バランス」だからなぁ…と、またSF研究会で養った想像力の無駄な高さを発揮していた先輩編集者の発言でした)。 


『ラ・ラ・ランド』



監督:デイミアン・チャゼル 
出演:ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン、J・K・シモンズ、ジョン・レジェンド他 
配給:ギャガ、ポニーキャニオン 

2017年2月24日(金)より全国ロードショー 
© 2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. 
Photo credit:EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate. 
 


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『ラ・ラ・ランド』本予告
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【ダークホース#1】『ムーンライト』

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 第88回アカデミー賞(2016年)で良くも悪くも注目されてしまったのが、有色人種のノミネートがあまりいなかったことです。このことについては、多くの俳優たちはあまり良く思っていなかったようで、授賞式に姿を現さなかった俳優も多々存在しました。 

 さて、第89回アカデミー賞のノミネートの一覧を見てみると、アカデミー会員たちが少し反省をしたのか、黒人をはじめとする有色人種を題材にした映画や監督・俳優たちが勢ぞろいしている結果に。でも、忘れてはならないのは、ノミネートされるためには実力が伴っていないといけないことです。オスカー前哨戦では、『ラ・ラ・ランド』のフィーバーが止まりませんが、実はその陰に隠れていると作品の有力作品が、これから紹介する『ムーンライト』なのです。 

 マイアミの貧困地域で暮らす内気な少年シャロン(アレックス・ヒバート)は、学校では「チビ」と呼ばれていじめられ、家庭では麻薬常習者の母親ポーラ(ナオミ・ハリス)から育児放棄されていました。そんなシャロンに優しく接してくれるのは、近所に住む麻薬ディーラーのホアン夫妻(マハーシャラ・アリ、ジャネール・モネイ)と、唯一の男友達であるケビン(ジェーデン・パイナー)だけ。やがてシャロンは、ケビンに対して友情以上の思いを抱くようになるが、自分が暮らすコミュニティではこの感情が決して受け入れてもらえないことに気づき、誰にも思いを打ち明けられずにいたのでした。 

 そんな中、ある事件が起こるのでした……。 
 

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写真:少年シャロン(アレックス・ヒバート)は、自分の居場所を探していたところ、優しく接してくれた麻薬ディーラーのホアン(マハーシャラ・アリ)と出会う。そして、シャロンはホアンから人生における大事なことを学ぶのでした。© 2016 A24 Distribution, LLC 

  
 注目すべき点は、本作に登場する99%の俳優は黒人俳優であることです。そのため、彼らの文化や細かい生活についてうまく再現しており、人によっては今まで見たことのないような光景も見ることができるかと思われます。黒人社会での現実・不満・葛藤などが忠実に描かれた本作は、バリー・ジェンキンス監督の実体験がベースになっているとのことです。 

 長年いじめを受け続け、自分が何者なのか分からないまま、日々苦悩しながら生活を送るシャロン。その心境の変化や現実の受け止め方が、どこか切なく救いの手を差し伸べたくなるのです。 

 幼少期、思春期、そして大人になったシャロンを3人の俳優が演じていることも注目ポイントで、思春期と大人のシャロンには大きな変化が見られるので、鑑賞される方はきっと驚かされると思われます。 

 オスカーの前哨戦であるゴールデングローブ賞の作品賞(ドラマ部門)を受賞したため、オスカー作品賞に近い存在であることは間違いありません。しかしながら、果たして多くのアカデミー会員が、この重い黒人社会の現実を受け入れることができるか、そんな注目も集まっています。


『ムーンライト』 


監督:バリー・ジェンキンス 
出演:トレバンテ・ローズ、アッシュトン・サンダース、アレックス・ヒバート、マハーシャラ・アリ、ナオミ・ハリス他 
配給:ファントム・フィルム 

2017年3月31日よりTOHOシネマズシャンテほか 全国ロードショー 
© 2016 A24 Distribution, LLC 
 

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美しい映像とエモーショナルな音楽で綴られる、『ムーンライト』本国予告
美しい映像とエモーショナルな音楽で綴られる、『ムーンライト』本国予告 thumnail
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【ダークホース#2】『LION/ライオン ~25年目のただいま~』

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 前出の『マンチェスター・バイ・ザ・シー』、『ラ・ラ・ランド』、『ムーンライト』の3作は、多くの映画関係者や映画評論家からかなりの評価を受け、実際に様々なを賞を既に授賞している注目作になります。が、この3作に勝るとも劣らない、実話の感動作があるのです。 

 その作品はオーストラリア映画の『LION/ライオン ~25年目のただいま~』です。おそらく私がオスカーノミネート作品の中でトップクラスの感動作で、とにかく涙が止まらなかった作品なのです。 

 物語の主人公は、オーストラリアで幸せに暮らす青年サルー(デヴ・パテル)。しかし、彼には隠された驚愕の過去がありました。インドで生まれた彼は、5歳のときに迷子になり、以来、家族と生き別れたままオーストラリアへ養子に出されてしまったのです。成人し、自分が幸せな生活を送れば送るほど募る、インドの家族への想い。人生を取り戻し、未来への一歩を踏み出すため、さらに母と兄に、あの日言えなかった〝ただいま″を伝えるため、彼は地理情報システム「Google Earth」を使って、自分の家を探し出すのです。 

 本編の前半はインドが舞台になっており、無邪気なサルーは日々兄と遊んだり、仕事の手伝いをします。そんななか、あることから2人ははぐれてしまい、サルーは1万キロ離れた大都市コルカタに辿りつき、家に帰れなくなってしまいます。5歳の子供であれば、相当パニックな状況に陥るに違いありません。育った村の方言も通じませんし…、そんななか、協力的な女性とサルーは過ごすことになるのでした。
 

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写真:少年サルー(サニー・パワール)の無邪気な演技がとにかくたまりません。また、インドでの撮影シーンの映像美の迫力は素晴らしく、誰もがスクリーンに集中することでしょう。© 2016 Long Way Home Holdings Pty Ltd and Screen Australia 

 
 さて、本編の後半は、とにかく感動のオンパレード。舞台はオーストラリア・メルボルンに移るのですが、私たちにとって馴染みのあるニコール・キッドマンやルーニー・マーラが登場します。 

 ニコール・キッドマンが演じるのはサルーの養母なのですが、本当の息子のようにたくさん愛情を注ぎ、いつのまにか仲良し親子になるのです。しかしその後、サルーは次第に悩み始めるのでした。その悩みの1つが、自分の本当の家は一体どこなのか? どうしても、25年ぶりに兄や母親に会いたくなったサルーは、最強ツールの「Google Earth」を使用して、家の場所を探し出すのでした。 

 実話ベースの作品が、アカデミー会員に好印象であることは間違いないのですが、たとえこの物語がフィクションであったとしても、誰もが感動してしまう傑作なのです。こんな感動的な再会が実際にあったとは、中々気づけないものであり、改めて本作が公開されて良かったなと感じるのでした。 


『LION/ライオン ~25年目のただいま~』


監督:ガース・デイヴィス 
出演:デヴ・パテル、ルーニー・マーラ、デヴィッド・ウェンハム、ニコール・キッドマン他 
配給:ギャガ 

2017年4月7日(金)より、
TOHOシネマズみゆき座ほか全国ロードショー 
© 2016 Long Way Home Holdings Pty Ltd and Screen Australia

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『LION/ライオン ~25年目のただいま~』予告編
『LION/ライオン ~25年目のただいま~』予告編 thumnail
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編集者: 山野井 俊