バットマンシリーズ最高傑作として知られる『ダークナイト』は、ヒーロー映画というジャンル全体に大きな影響を残しました。

『ダークナイト』は公開から10年が経った現在も、ヒーロー映画のベンチマークであり続けています。同ジャンルの映画監督たちはその後、このベンチマークを満たすような作品、あるいはこのベンチマークに対抗するような作品を必死で作ろうとしてきたのです。

『ダークナイト』がヒーロー映画に変化をもたらしたのは、2008年のことになります。クリストファー・ノーラン監督の陰鬱なバットマンシリーズの2作目となったこの映画は、疑心暗鬼や倫理的な行き詰まりに溢れ、ポスト「9.11」(ニューヨークで起こったテロ事件)初の超大作映画と称賛されました。長い映画史のなかで初めて、ヒーロー映画が真剣に受け止められたのです。

そうして『ダークナイト』はアカデミー賞で2部門を受賞し、今は亡きヒース・レジャーという真のレジェンドを生み出しました。レジャーが演じたジョーカーは、映画史上もっとも素晴らしい悪役の1人として広く支持されています。

ですが、何より重要なのは、この映画がアメコミ実写映画ブームの先駆けとなったことです。それは現在も衰える様子もありません。

その意味でこの映画は、決して見過ごせる存在ではありません。過去10年で公開されたヒーロー映画の数は、40余りにも上り、その数はどう考えても過剰です。クリストファー・ノーランの弟で 『ダークナイト』の共同脚本家でもあるジョナサン・ノーランでさえ、この供給過剰が終わるべきだと考えています。

「『みんなどこかでアメコミ映画に飽きてしまえばいいのに…』と願っているのは間違いありません」と、ジョナサンは今年はじめにエンタメサイト「デジタル・スパイ」に語っていました。さらに、「このジャンルがどのように成熟するのか、まったく想像がつきません。

多くの俳優にタイツを身に着けさせ、悪人たちを叩きのめすよう導く何らかの潜在意識のようなものがあるのです」とも。

『ダークナイト』の呪縛の犠牲者は誰なのか?

アメコミの実写映画化への需要がますます拡大するなかで、あの最少ヒーロー『アントマン』さえ映画化されました。ですが、なかでも最悪だったのは2016年の夏、『ダークナイト』の呪縛の本当の犠牲者が明らかになったときのことです。

その犠牲者とは、ジャレッド・レトとベン・アフレックのことです。

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バットマン役のベン・アフレック(左)とジョーカー役のジャレッド・レト。

この2人の俳優は、DCエクステンデッド・ユニバースに参戦する前から大きな成功を収めていました。

アフレックは『ゴーン・ガール』や『アルゴ』で称賛を受けていましたし、レトは2014年の『ダラス・バイヤーズ・クラブ』でのトランスジェンダーの女性役で、アカデミー賞とゴールデングローブ賞を受賞していました。

とはいえ、このような成功の後でさえ、デヴィッド・エアー監督の『スーサイド・スクワッド』で、ジョーカー役を引き受けるというレトの決断、これは実に勇気のあるものでした。この仕事は「誰にもできないもの」、あるいは少なくとも「報われることのないもの」だと一般的には見られていましたので。

レトの演技力を疑う人はいませんが、ヒース・レジャーを超えるジョーカーは想像できません。このオーストラリア人俳優のアカデミー賞を受賞した演技と早すぎる死により、ジョーカーは永遠の眠りについてしまったと断言してもいいほどです。

このような挑戦は、ほとんどの俳優が敬遠するものです。ですが、マントを身にまとい、年を経てもまったく老けることない無類の自信家であるレトには、完璧な解決策があったようです。

ジャレッド・レトが生み出したジョーカー役の解決策とは?

オスカー俳優ジャレッド・レトが生み出したその解決策とは、額に配したタトゥー「Damaged」という文字でした。

レトは『スーサイド・スクワッド』のプロモーション写真の中で、全身にこのようなタトゥーを入れ、ネオングリーンに染めた髪や過剰な銀歯が目立つビジュアルを披露していました。

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ジョーカーの新たなビジュアルを映画史上もっとも腹立たしい悪役と感じた人は、リークされた製作中のストーリーにも嫌悪感を覚えざるを得なかったことでしょう。

レトのよく知られたメソッド・アクティング手法が彼に演じさせたのは、共演者たちとの終わりのない悪ふざけとも言うべきものでした。レトが演じたのは、リゾートでのパーティで絶対に一緒にいたくないタイプの男でしかありません。

当然ながら、『スーサイド・スクワッド』は、公開後厳しい評価を受けました。そしてレトの演技については、「本当に力を尽くした」と称賛されながらも、「誰もが予想していた不自然でうんざりするようなジョーカーだった」と評価されました。

監督のデヴィッド・エアーが、ヒース・レジャーの演技からインスピレーションを受けていたのは明らかでした。ですが、この映画でのジョーカーは気が狂ったキャラクターや高笑いを誇張した物真似に過ぎませんでした。

また、レトのセリフがどれもこけおどし、あるいはオフィスのコーヒーカップに書かれているようなもの(たとえば、「おかしくなっちゃった。アンタ狂ってるな」)といったセリフです」)に聞こえるのも、とても残念だったのです。

ベン・アフレック演じるバットマンの評価は、なぜ低いのか?

一方、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』で、ジョーカーの仇敵であるバットマンを演じたベン・アフレックも、批評家からは好ましい評価を得られませんでした。

マスクの口元から無精髭が見えるバットマンが、不機嫌な様子で立ち尽くす初期のプロモーション写真を見れば、ザック・スナイダー監督によるリブート作品がクリストファー・ノーランの敷いた路線を踏襲していることがすぐわかることでしょう。

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この映画の興行は大失敗に終わりましたが、その責任は基本的に『ダークナイト』にあります。

なぜなら、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』は『ダークナイト』に比べてお粗末だったことはもちろん、その最悪のクオリティに影響を与えたのは、明らかにノーランであったからです。アフレック演じるバットマンの世界はどこまでも冷酷で、虚無主義的で、陰鬱でした。肥大化したストーリーは『ダークナイト』のように、絶えず深遠な道徳的ジレンマを表現しようとしていますが、スナイダーに描くことができたのはゴッサムのどこまでも陰鬱な雰囲気に過ぎませんでした。

クリストファー・ノーランの10年前の傑作『ダークナイト』には、多くのヒーロー映画が影響を受けてきました。

『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』はこの映画を正面から受け止め、陰鬱さと深遠さを混同しました。バットマンの大作映画は、いつか『ダークナイト』の影から抜け出すことができるのでしょうか。監督たちがこの作品に敬意を表し続ける限り、その日が来ることはないとしかいまのところ言えません。

Source / ESQUIRE UK
Translation / Wataru Nakamura
※この翻訳は抄訳です。