LCDサウンドシステムが6年ぶりの新アルバム「アメリカン・ドリーム」でついに復活した。ニューヨークのしょんぼり系ダンスバンドが、気だるい雰囲気をまとって帰ってきた。

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6年ぶりに復活!

 「LCDサウンドシステムの最後のライブを観に行った」と言えるのは、この5年あまりの間、名誉の証ともいえることだった。一部の音楽ファンは、このフレーズを口にした者をうぬぼれ屋と判定したが、それでも最後のライブを観れたことは羨ましい体験であることを認めないわけにはいかなかった。 

 その後、時を経るにつれて、そしてLCDサウンドシステムの引退がますますリアルになるにつれて、最後のライブで宙に舞った風船や観客の流した涙は、21世紀における音楽の神話のひとつになった。 

 ラストライブの模様は「Shut Up and Play the Hits」というドキュメンタリーに記録された。この作品のなかでジェームス・マーフィーは、文化的影響力が頂点を極めた瞬間にバンド活動を終了することに決めた。それはまるでロマンティックなアンコールのリクエストのようにも感じられた。マーフィーほど自意識の高い人間による“完璧な別れの挨拶”のようでもあったからだ。 

 しかし、そんな活動停止も長くは続かなかった。お金のためか、アートのためか、あるいは退屈とおさらばしたいためかはわからないが、LCDサウンドシステムは2016年にバンドの復活を発表した。 

 「これはちょうど、新しい音楽と昔と同じ変てこな道具を携えて、休憩から戻ってきた大勢の代用教員が乗り込んだバスのようだ」と復活の発表時にマーフィーは記した。 

 そして、最後のライブに足を運んだ何万人というファンが、“ラストライブに行った”という自分の優越感の根拠を突然失った。最後のライブに足を運んだという話は、音楽に関する彼らの趣味の良さがマーフィー本人と同じくらい汚れのないものであることを示すものだった。マーフィーによる悪ふざけのなかでも、この復活発表は最もふざけたものだった。 

 復活後のLCDサウンドシステムは、まず2016年のイースターの日に5年ぶりのライブを開催した(この日を選んだことに象徴的な意味合いはまったく感じられなかった)。その後、彼らは世界ツアーに出発し、名だたる音楽フェスティバルや屋外コンサートに真打ちとして登場した。それでも新作アルバムは発表されなかった。ツアー終了後、LCDサウンドシステムは家に帰り、ツアーで稼いだ売上を数え、そして2017年に入ってウォームアップ代わりとなるライブで少しずつ新曲を発表してきた。 

 そして、伝説のファイナルライブから2344日経ったいま、彼らはようやく新作『アメリカン・ドリーム』を発表した。これは2010年の『ディス・イズ・ハプニング』以来の新作だ。

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LCDサウンドシステムの新しいサウンドは、より控えめである

 この新作で聴ける彼らの音楽は、以前のそれとはまったく異なるものだ。 

 これは、長い活動停止を経て蘇った新しいLCDサウンドシステムの音楽だ。新作は当然、2010年のそれと常に比較されることになるだろう。かつてのバンドの音に対するノスタルジーを生み出す音楽であり、つまり、元々はトーキング・ヘッズやブライアン・イーノ、1970年代や80年代のアート・ロックへのノスタルジーとして生み出された彼らの音楽を懐古するものだ。 

 復活したLCDサウンドシステムは以前よりも年をとっている。年老いることに取り憑かれているバンド、とりわけクールと考えられるには年をとりすぎたとされるバンドにとっては、これはとても重要なことだ。そして新作については、マーフィーは過去6年間にわたって続けてきた客観的な観察の結果を表現している。この6年間に、彼は裏方にまわり、他のプロジェクトに参加しており、自分のバンドのリードシンガーを務めることはなかった。それは、彼がそもそもバンドを始めた時の立ち位置と、どこか似たポジションでもある。 
 

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LCD Soundsystem - american dream
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 ボンゴに取り憑かれた音、ファンキーなベースライン、誰から影響を受けたかが具体的にわかるコーラスなど、音楽のスタイルに関しては相変わらずだが、新しいLCDサウンドシステムの音楽にはかつて「オール・マイ・フレンズ」にみられた涙を誘うようなクライマックスや、「ユー・ウォンテッド・ア・ヒット」のドロップのようなものは見当たらない。彼らの新しい音楽はもっと控えめで(それを「大人っぽい」という人もいるかもしれない)、展開のスリルよりも音の構成についてのニュアンスにフォーカスする成熟さがみられる。たとえば、「ハウ・ドゥ・ユー・スリープ」という曲は、始まりから5分近く経ってようやくビートが鳴り始める。コーラスが出てくるのはさらにその1分後。そして「ブラック・スクリーン」というラストの曲は、長さが12分近くもあるのだが、これは悲劇と呼ぶべきものだ−−なぜなら、ほとんどがアンビエントな音の風景だからだ。 

 新作と以前の作品「コール・ザ・ポリス」を比べてみよう。後者は勢いのあるポストパンク・バラードで、そこにはマーフィーのロックに関する思慮深さが感じられた。また「エモーショナル・ヘアカット」は、1970年代のディーボの作品を思い出させるもので、LCDサウンドシステムの音楽とすぐにわかるものではない。一部の人にとっては、こうした出来栄えはあまり面白くないかもしれない。LCDサウンドシステムをテーマにしたダンスパーティに最適な曲ではないかもしれない。しかし、マーフィーのような人々には、これはまったく圧倒されるものと感じられるかもしれない。最高級のスタジオ用ヘッドフォンで聴いたらぶっ飛びそうな音楽だ、と。 
 

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LCD Soundsystem - call the police
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 それに対し、マーフィーが新作用に書いた詞は確かに聴く価値がある。そのなかには歴代のLCDサウンドシステムのアルバムの中でも、最もディテールに富んだ歌詞といえるものもある。マーフィーの書く歌詞はぶっきらぼうな観察、漠然とした個人的な独白、そして意味をなさない天才の仕業と多岐にわたる。また、「サムワン・グレート」「オール・マイ・フレンズ」「ダンス・ユアセルフ・クリーン」といった一部の曲のように、この3つの要素が同時に含まれているものも時にはある。 

 しかし、「アメリカン・ドリーム」にみられる彼の考えは、より具体的で近づきやすいものだ。たとえば「トゥナイト」でマーフィーは、LCDサウンドシステムが長年取り憑かれている加齢に対して最も鋭い分析を披露した。 

そして、どのヒット曲も同じことを言っている 
それは『今夜しかない』ということ 

 そう彼は歌っている。 

そして人生は有限なもの 
しかし、ちくしょう、人生は永遠に感じられる 

 息もつかせぬ終わりのフレーズで、マーフィーは彼がヒップスター世代に向けて発するおそらく最も優れたアドバイスを口にしている(マーフィーのイメージのなかでは、ヒップスター世代も大人になったと感じられているようだ)。 

 「そしてひどい人たちもお前よりは思慮分別がある彼らは、かつてとても愛しいリスナーだったが、そのことを悪用された。だから、お前は困らせられ、嘲笑され、こういわれるだろう。お前はパーティがなくて寂しく思うことになる。決して乗り越えられないパーティでお前は自分の若さを無駄にしていると考えるのを嫌う。年をとるまで背景のなかで立っているという考えを嫌う。しかし、それはすべてウソだ。そんなことはすべてウソだ」 

 自分がかっこいいとか、かっこわるいとか思うことを指摘する代わりに、マーフィーはようやく人に対して方向性を示す言葉を口にしている。タイトル曲の「アメリカン・ドリーム」でマーフィーは、「朝にはすべてがよりはっきりしている。太陽の光がお前の年齢を明らかにする」と歌っている。 

 LCDサウンドシステムにとって新作は、パーティの翌朝ともいえる作品かもしれない。数年の活動停止期間を経たいま、彼らは明快なもの、少しだけ控えめなもの、そして前夜に自分たちがしたことから逃れるものを探し求めている。ただし、彼らの場合はパーティが終わったのは6年前のことだが。


By Matt Miller on September 1, 2017
Photos by Esquire US
ESQUIRE US 原文(English)

TRANSLATION BY Hayashi Sakawa
※この翻訳は抄訳です。


編集者:山野井 俊