皆さんはヒュー・ジャックマンといえば、(映画「X-MEN」シリーズのスーパーヒーロー)ウルヴァリン役の俳優だとすぐに浮かぶでしょう。しかし、彼を甘くみてはいけません。そんな薄っぺらい男ではありません(演技だけでも十分厚いのですが…)。ジャックマンは「ラフィング・マン(Laughing Man)」というコーヒー会社の創業者・経営者。いわゆるニ足目のわらじも履いているのです。そして、彼は素晴らしい味のコーヒーを生み出すことに、大真面目で取り組んでいます。これもまた甘くないことなのです…。

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「キミが一度も飲んだことのないような、最高のフラットホワイトを飲まないか。バージンというのを教えてあげよう」

 ヒュー・ジャックマンはそう言って、私にコーヒーを注文してくれました。それもただのコーヒーではなく、フラットホワイト(オーストラリアやニュージーランドでポピュラーなエスプレッソとミルクを合わせて作るコーヒー)でした。 

 ただし、ふつうのフラットホワイトではなく、SXSWの会場にラフィング・マン(Laughing Man )が出店したポップアップカフェのフラットホワイトでした。ジャックマンと私がフラットホワイトの話をしていたのには、たくさんの理由があったのです。


>>>「ヒュージャックマンとコーヒーの軌跡」はこちらから!






ひとつめの理由

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 ひとつめの理由は7年前、ジャックマンがラフィング・マン(ジャックマンは、彼がエチオピアで出会った「Dukale/デュカレ」という名前のコーヒー農家の男性にヒントを得て、この社名にしようと思ったそうです)というコーヒー関連企業を始めるにあたり、フィランソロピー(人類への愛にもとづいて、人々の「well being」を改善することを目的とした利他的活動や奉仕的活動など)に根ざした運営方針としたことからになります。

 そのラフィング・マンは、現在ニューヨーク市内で2軒のカフェを展開します。K-Cupパック(キューリグ製コーヒーマシン用のカートリッジ)を販売し、その収益を複数のフィランソロピーの取り組み(住宅状況の改善や大学生への奨学金提供、フェアトレード・コーヒーのコミュニティにおけるものなど)を運営資金にしています。

ふたつめの理由

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 そしてふたつめの理由は、フラットホワイトに関して、「米国人は自分たちのやっていることをまったく分かっていない」と何度か言われたことがあったからです。オーストラリアのコーヒーカルチャーは、米国のそれとは次元が異なります。

 コーヒーに関してオーストラリアは非常にレベルが高く、2008年にはスターバックスを事実上の撤退に追い込んだほどです。そのスターバックスは8年がかりで再進出の準備を進めましたが、それでも旅行者の多いエリアに店舗を開くのがやっとだったのです。

大のコーヒー好きH.ジャックマンに尋ねたいこと

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 こうしたことが頭のなかにあったので、大のコーヒー好きであるジャックマン(そうでなければ、ほかのことを放りだして、アフリカに出かけたり、コーヒーを扱う事業を興したりはしませんし…)に、いくつかのことを尋ねないわけにはいきませんでした。

 私が質問したかったのは、「オーストラリア人がとても美味いコーヒーを淹れられるのはなぜか?」、「ジャックマンが自分のところ=ラフィング・マンで出しているコーヒーについて、どう思っているのか?」、そして「コーヒー関連の事業を通じて、どんなことを学んだか?」などでした。

クリームの入れ方にいくつかの種類があった

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「まずコーヒーは、熱々でなくてはなりません。私の好みは苦みが強く、それでもまろやかな味のコーヒーです。また午前中には、ミルクを少し入れることもたまにあります。クリーム、ハーフアンドハーフ、フルクリーム・ミルクなどといったものです。場合によっては砂糖を入れることもあるかもしれませんが、私は5,6年前に砂糖を入れるのをやめました。

(コーヒーを飲み始めた)当初の数カ月間は、『砂糖ぬきでコーヒーを飲んで何がいいんだ⁉』などと思ったものでした。しかし今では、私は何も入れないブラックコーヒーがいちばん好きです。そして、コーヒーを美味しくすることが大好きです。

 コーヒーなら、どんなものでも構わないというわけではありません」と、ジャックマン。



ジャックマンはアメリカのコーヒーは飲まない 

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「ラフィング・マンが米国進出するにあたって、私たちはスタッフを教育しなくてはなりませんでした。そのために、オーストラリアからスタッフを連れてきました。ラフィング・マンで出すコーヒーは、オーストラリアで生まれたものです。

 ミルクはわずかな違いがあり(少し味が濃く、よりクリーミーです)、そしてミルクの量は少なめです――オーストラリアでは、私たちは大きなカップにコーヒーを入れて出すことはしていません。私たちのコーヒーカップは、いちばん大きいものでも8オンス入りくらいです。私たちが濃い味のコーヒーを好むのは、この量の少なさと関係があります。第二次世界大戦後、オーストラリアにはイタリアやギリシャ、その他の南欧諸国からたくさんの移民がやってきました。

 オーストラリアにこれほど強力なコーヒーカルチャーがあるのは、それが理由です」と、加えて語るジャックマン。



スターバックスがオーストラリアで苦戦した理由について

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「スターバックスは、オーストラリアで展開していた店舗をすべて閉鎖しました。多くのオーストラリア人が、『あのコーヒーの味が、私は好きではない。あれは本当に美味しくないし…あれは一体何でなのか⁉』と思っていたからです。私たちは、自分たちのコーヒーのほうが好きです。オーストラリアのコーヒーは、まったく別物です。美味しいフラットホワイトこそ、オーストラリア人が好むコーヒーです」と、まろやかな苦みが美味しいコメントで締めくくったジャックマンでした(笑)。

アフリカ旅行がジャックマンの人生を変えた 

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「コーヒー栽培農家の人たちと会いました。アフリカに足を運んで、彼らと一緒に過ごし、私たちが持続可能で本当に彼らの暮らしにインパクトを与える何かを作り出そうとしていることを理解してもらえました。その時こそ、もっとも素晴らしい瞬間だったと言っていいでしょう。そして次は、私たちのカフェの存在自体が私たちによろこびを与えてくれるのです。

 あるとき、知らない人に道で呼び止められ、「なあ、ひとつ言いたいことがある、お前の出演した映画を観たことは一度もないが、あのカフェは知ってるぞ!」と言われることがよくあります。

 そして、カフェというのはとても大きなコミュニティで、つまりあの小さなお店でも年間100万ドル(約1億円)を超える売上があるということです。お客さんのつくる行列が、延々と伸びていることもあります。みんな、あの雰囲気が大好きなんです。お客さんのなかには、役者やアーティストもいますし、近所の住人もいます。私の子供たちもです(笑)。

 彼らが友だちに、「ウチはコーヒーショップを開いている」と話しているのを私は聞いたことがあります。カフェが彼らの遺産であることを彼らは知っており、またそう感じています。いずれ彼らがコーヒーショップを経営し、跡を継ぐことになるでしょう。私はぜひそうなってほしいと思っています」。





コーヒー会社の経営は血が出るほど大変 

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「事業の規模を拡大させるのは大変です。私たちには、たくさんのオプションがありました。そして結局、米コーヒーメーカーのキューリグと手を組みました。キューリグと組んだことで、K-Cupのコーヒーカートリッジや彼らの販売チャネルといった、とても素晴らしいプラットフォームがすぐに使えるようになりました。これは成功の大きな要因となりました。私はいつも、ここにはとても大きなポテンシャルがあると感じています。しかし、何らかの理由で事業はすぐには立ち上がりませんでした。そして2、3年前からは、『どうしたら、私たちのコーヒーを広く知ってもらえるんだろう?』ということに注力しています。コーヒー業界には、本当の意味で非営利な事業を運営し、社会還元しているところはほかにはないと私は感じています」  

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「私たちのコーヒーはオーガニックですし、どれも美味しいものです、そしていま私はコツがわかったと感じています。しかし、そこで『ビジネスは誰にとっても血が出るほどたいへん』ということに気付きます。つまり、なかにはそれに反対する人もいると思いますが、しかし本当に皮肉な見方をする人以外は、私たちが失敗することを望んでいないと私は自信を持っています。事業で扱うのが自分の好きなコーヒーで、社会還元もやっていて、業績が好調なときでも、事業経営には困難な闘いがあります」。

「何か良いことがある」と感じることなら、覚悟をもって決して諦めない 

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「『ああ、あれはヒュー・ジャックマンがやっているのか、なんだか有名人ビジネスのようで、私の好きな本物のコーヒーではないな』と先入観だけで捉える人も少なくないでしょう。でも、有名人のブランドだからと言って、みんなが食べ物や飲み物を買うとは私は思っていませんし…。そしてまた、コーヒーはテレビの朝のワイドショーと似たところも少しあり、本当に馴染みのあるもの以外は口にしません。人を変えるのは本当に難しいことで、そのため人に何か新しいものを試させるということは非常にパワーが必要になることです。そうです、とても大変なのです! でも最終的には、社会的な問題に関心のある人なら、『社会還元するのはいいことだから、ヒュー・ジャックマンのコーヒーが美味しいか試してから考えよう…』と思ってくれるのではと、私は思っています。試していただければ、なんとかなるかと…」

ラフィング・マンからジャックマンが学んだ実に真面目なこと

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「私は覚悟を決めています。そこにはなにか良いことがあると、自分が感じることなら私は決して諦めません。もうひとつは、私が一緒に働く人たち、自分のまわりの人たち、1週間1日も休まずに働く人たちに、本当に頼っているということです。ここにいる人たち、我が社のコーヒー担当責任者や事業運営担当の人たちにとって、毎日が仕事です。そして、カフェに関する私たちの哲学は、もし『ラフィング・マンは今、営業しているのかな?』と皆さんが心の中で思っているときには、いつも営業しているという存在になりたいと思っています。たとえばハリケーン「サンディ」がニューヨークを襲ったときにも、私たちの店では通りの真ん中にランプを灯したテーブルを並べていました。店のあるブロックでは、電気が使えました。あるブロックには電気はきていませんでしたが、もうひとつのカフェのほうには電気がきていました。それでカフェのスタッフはハリケーンの最中に、界隈の住人全員のところにコーヒーを持っていっていきました。私たちのカフェは、1日も休まず営業しています。なぜなら、カフェで働くみんなが毎日毎日そうするからです」 
 

 
「私が本当に大事にしているのは、1番目が自分の家族です。そして2番目が自分の演技、つまり俳優業です。だから、コーヒー関連の事業はおそらく3番目に大事なことになります、そして、この仕事を毎日やり続ける仲間たちがもしいなかったら、私たちはとうの昔に失敗していたでしょう。そのことも私は学びました」 

ジャックマンにはコーヒー農家の人たちとの再会が待ち遠しい

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「私はもう一度、アフリカのコーヒー農園に行くつもりでいます。コーヒーの木が実をつけるようになったら、子供たちを連れて行くと私は約束しました。そして、私たちの事業はようやくスタート地点に立ったところだと感じています。私たちの事業がそれなりにまとまった利益を生み出せるようになったのは、ほんの18カ月前のことですから。この黒字化により、ようやく社会還元できる原資ができたというわけです。そのため、コーヒー農家の人たちから様々なフィードバックを貰えることに対し、本当にワクワクしているんです」

 …とヒュー・ジャックマン。俳優としての仕事以外にも、彼の足跡は今後も注目すべき事柄が多そうです。とても素敵な人物であることが具にご理解いただたかと思います。



ESQUIRE US 原文(English)
By Ben Boskovich
on March 17, 2018
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TRANSLATION / Hayashi Sakawa
※この翻訳は抄訳です。
Edit / Shun YAMANOI, Mirei UCHIHORI