「どうやら今年はコートの丈が長くなっているらしい…」 と呟く御仁は、リアルトレンドが生まれる既製服展示会ピッティ・ウォモを 長年にわたり見続けている、業界の"先生"であるビームスの中村さん。ここで、その現象に関して分析・解説していただきました。

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Giovanni Santarelli, Stefano Triulzi,Giulio Grisendi

 ここ数年、例えば海外スナップ特集などでは、ロング丈のコートをフィーチャーしていました。それでも着ているのは、一部の洒落者のみだったんです。しかしながら、今季はどうやら違うのです。今年1月のピッティでも、その後行われた各ブランドの展示会でも、とにかく丈の長いコートが多いのが実態。さて、どうしたものかと…。困ったときは先生に聞くのが一番です。…というわけで、ここ数年のスナップ号を抱え、ビームスの中村さんを訪ねました。
 
 その前に、上の写真をご覧ください。
 
 右端の紳士は、ピッティの運営企業「エンテ・モーダ・ イタリア」のCEOであるアルベルト・スカッチョーニさん。まさに、ピッティを代表するような方ですが、ジャスト膝丈のステンカラーコートをはおっています。
 
 また、こちらもイタリアファッション界の重鎮、左端に控えるマッテオさんが着ているトレンチコートも膝丈です。トレンドを生み出す洒落者たちが、こぞって膝丈コートを選んでいるのです。まずはこの”コート丈ロング化現象”について、伺ってみました。次ページへ続く)

ビームス 中村達也さんによる解説 #01

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Tetsuya Niikura(SIGNO)

「この3、4年くらいですかね、ロングコートが再び脚光を浴びるようになったのは…。その前は、洋服をスポーティーに着るというのが主流でした。ですが、流行に敏感な人たちの次なる提案と、アイテムを提供しているブランドやサプライヤーたちも、やはり原点回帰というか、クラシックな洋服の原点に立ち戻ろうっていう流れがちょうど3、4年くらい前から見られるようになったのです。いわゆる、”クラシック回帰”になりますね」と中村さん。
 
 確かに今年の春夏は、パンツもちょっと太くなったりプリーツが入ってきたり、また、開襟シャツがはやったりとレトロなアイテムに注目が集まりました。でも、クラシカル=ロング丈ってやや早急すぎませんか?(次ページへ続く)

ビームス 中村達也さんによる解説 #02

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Tetsuya Niikura(SIGNO)

「コート本来の役割は防寒が目的で、近年ではジャケットやスーツの上に着られるのが一般的になっています。今でこそ略されていますが、昔は『オーバーコート』と呼ばれていましたから。だから昔のコートは、身幅もたっぷりとして、丈も長い。クラシックな男らしさの正統性が、ここの来て再評価されているのだと思いますね。また、この現象はモードの世界でも見られます。体を締めつけるようなタイトフィットに対するアンチテーゼという意味合いが非常に大きいです。その結果、今季はロングレングスのコートがはやっているというわけですね」

 
 なるほど、コートの機能的な本質とモードでの揺り戻しが、ちょうど重なったうえでのトレンドというわけですね。では、大人が守るべきポイントとは?
 
「ビームスとしては、丈は膝頭を中心に±10センチくらいが許容範囲ですかね。短すぎるとリラックス感が出ませんし、長すぎはやぼったく見える。日本人は膝下が短いので、長いコートに抵抗がある方もいると思います。その場合、膝上の丈を選ぶといいでしょう。コートを毎年買い替える人って少ないですよね。でも、膝に近い丈を選ぶと、これから5年先くらいまでは流行を気にせず着こなすことができると思いますよ」


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中村達也さん(ビームス クリエイティブディレクター)

学生時代からビームスひと筋。店長やバイヤーを経て、現在は「ビームスF」、「ブリッラ ペル イル グスト」 など、 ドレスセクションの統括を行う。中村さん着用のコート13万2000円(グレンフィル/ビームスハウス 丸の内 TEL 03-5220-8686)その他は本人私物。


Photograph / Tetsuya Niikura (SIGNO)
Snap Photograph / Yohei Fujii (peace monkey)
Text / Ryuta Morishita
Edit / Masahiro Nishikawa