『夢をかなえるゾウ』シリーズ売り上げ300万部、『人生はニャンとかなる!』シリーズ売り上げ200万部の、人気作家・水野敬也が、自身の最大の弱点「お洒落」に体当たりで臨む企画。

今月のお相手・マギー「“和”好きな彼女に気に入られる わび・さびお洒落の巻」

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男女を問わず人気の
ハーフ美女を
振り向かせる
和の集大成!
 
 私はこの連載で日本トップクラスの女優さん、タレントさんたち13人と会食を重ねてきました。その結果、何が起きたかと言いますと……先日、地下鉄に乗ってたんですね。それでなんとなく車内の動画広告を見ていたところ、この連載に出てくれた女優さんたち3人が連続で違う商品の広告に登場したんです。これってすごいことだと思うんですけど、そのとき私が気づいたのは「この人たち、俺の着てた服は気に入ってくれたけど俺という人間を全然気に入ってくれなかった、なんなら嫌悪感すら抱いてた」ということでした。

 繰り返しますが、普通に地下鉄乗ってただけですよ? それなのに自分という人間の魅力のなさを唐突に突きつけられる(しかも3連続で)という理不尽さ。乗ってたのが半蔵門線で永田町が近かったので駅で降りて「安倍ぇ! 経済格差よりも恋愛格差どうにかせぇ!」って一人デモ行進始めたろかなって思いました。いや、こんなこと言ったらデモしてる人たちには大変申し訳ないんですけど、自分、金はあるんすわ。ベストセラー作家なんで。去年出した本のうち一冊は、印税を全額寄付しましたからね。印税の一部じゃないですよ。全額ですよ。あと、こういうのはおおっぴらに言ったらカッコ悪いってことで黙ってたら誰にも知られぬまま今日に至ってしまったのでこの場で自ら暴露するという一番カッコ悪い状況になってますからね。いや、そんなことはどうでもいいんです。

 私が言いたいのは、「金」と「優しさ」という「男はこれさえあればモテる」と言われた条件を死に物狂いでかき集めてみた結果分かったのは、やっぱり男に必要なのは「余裕」ってことなんです。どれだけ金持ってようが女の子の前で震えててモテるのはチワワだけなんです。ただ、「人は着る服どおりの人間になる」とナポレオンも言っていますし、お洒落を限界まで磨き上げることで余裕を持つことができるかもしれないという希望を胸に、担当編集Sからの連絡を待っていたところ、「次回の会食相手はマギーさんに決まりました」と報告を受けた瞬間、次世代マッサージ機「バイパー」の上に無理やり立たされているチワワくらい震えることになりました。

 マギーと言えば、ファッションモデルでありながら、バラエティ番組でも絶妙なトークを繰り広げお茶の間の人気を獲得しましたが、最近、自身のファッションブランド「SURIPSIA(スリプシア)」を立ち上げるというお洒落意識超高い系の人じゃないですか。私がどれだけお洒落を磨こうが彼女の前で余裕を保てるわけがないのです。

「マギーさんは、ちょっとつらいかもしれませんね……」

 電話口で担当編集Sに言ったところ、彼は言いました。

「でも僕、マギーさん好きなんで」

 いや、お前の好み関係ねぇだろ! ……というか、最近、担当編集Sの私に対する態度がどんどん増長してきてるんですよね。最初のころは「水野先生! 水野先生!」って尻尾を振ってついてきたのに、毎月、女優の前でチワワってる私を見て「こいつ、たいしたことねえぞ」って気づき始めたみたいなんですよ。 

 さらにSは電話口でこう言いました。

「マギーさん超忙しくてスケジュールここしか空いてないんでお願いしときました」

 こうして勝手に予定を入れられ、これを止めたら多くの人に迷惑をかけてしまうということで、この時点ですでに震え始めた足をひきずって、過去に出版されたほぼすべての雑誌が読める大宅文庫に向かったのです。

 そしてマギーで検索をかけたところなぜか巨人のC・マギーが大量ヒットするというハプニングはあったものの、次の記事を発見することができました。

「好きな男性の前ではヘルシーな和食を作ってあげたい。こう見えて、私、完全に『和』なんです。日本人ですから(SPA! 2015年3月10日号)」

 そう。彼女は「ハーフ美女」であり色々な先入観を持たれがちですが、実は「和」が大好きなのです。そして「和」と言えば私じゃないですか。一重まぶた、平坦な鼻、まさに「ザ・和顔」の私はこの連載において幾度となく和の雰囲気の服装に挑戦し、見識を深めてきました。こうして私は、(これまで研究してきた「和」の集大成をぶつければ彼女と仲良くなれるかもしれない!)大いなる希望を胸にメンズクラブ編集部に向かい、お洒落番長やスタイリストたちと「和」をベースとしたコーディネイトについて議論したのでした。

「甘えさせてくれる包容力を やっぱり男性に求めますね」

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ドレス8万7000円(ゴート)、バッグ6万8000円(ロシオ) ●お問い合わせ先/以上ヴァルカナイズ・ロンドン TEL 03・5464・5255 ピアス3万2000円(トムウッド) ●お問い合わせ先/ステディ スタディ TEL 03・5469・7110 シューズ13万3000円(セルジオ ロッシ) ●お問い合わせ先/セルジオ ロッシ カスタマーサービス TEL 0570・016600

 
ーそして会食当日。京王プラザホテルの懐石料理店『蒼樹庵』に向かった私は、個室の扉を開けた瞬間、懐石料理店を予約したのは間違いだったかもしれないと猛烈に不安になりました。

 彼女は先に到着していたのですが、和食の個室は基本、向かい合って座るので、彼女の持つ美しさという名の凶器を正面で浴びることになるのです。実際、部屋に入り席に着くころには、私はチワワのように震えるどころか死後硬直の状態に入りつつありました。

(下手したら今日は一言も口をきけないかもしれない――)

 最悪の事態を想定した私でしたが、マギーは「和食のお店なんですね」と話を振ってくれたので、彼女の過去のインタビュー記事を読み、和のイメージでコーディネイトをしたことを伝えました。すると彼女は笑いながら言いました。

「あ、だからジャケットも和柄なんですね! すごく素敵ですよ」

 こちらの細かいこだわりに気づいてくれるだけでなく服装を褒めてくれたのです。さらに彼女はこう続けました。

「眼鏡のフレームがブラウンなのが良いですね。黒だと雰囲気が落ち着きすぎてしまう気がします」

―― 実は眼鏡のフレームを黒にしようかブラウンにしようかずっと迷っていたのですが、最後はスタイリストさんのこの台詞が決め手となりました。

「でもカッコイイのはこっちすけどね~」

 やっぱり、服装はセンスのある参謀を味方につけることが大事なんですよ。というわけで今後もあなたのお洒落参謀『メンズクラブ』をよろしくお願い致します

――唐突にCM挟んでしまいましたが、今回選んだ服装が彼女にウケたことで、(機を見るに敏!)私は今回のために用意した最大のネタを彼女にぶつけることにしたのです。

 実は、私は大宅文庫のリサーチによって次の記事を見つけていました。

(「どんな男性と一緒にサッカーを応援したいですか」という質問に対して)「(マギー)メキシコ代表のエルナンデス選手はチチャリート(小さいえんどう豆)という愛称なんです。彼のお父さんもサッカー選手で瞳がグリーンだったから『チチャロ(えんどう豆)』と呼ばれてその息子だから小さいえんどう豆。こうしたちょっとした知識で会話を盛り上げてくれる男性がいいですね(GQ 2014年7月号)」

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 この記事を読んで私はこう結論づけました。「マギーは豆に関する豆知識に弱い」。そこで私は彼女に向かってこう切り出したのです。

「実は、今回、間違いなくマギーさんに喜んでもらえる『和』の知識を持ってきました」

「へえ、どんな内容なんですか?」

 大きな瞳を輝かせる彼女に向かって私は続けました。

「マギーさんは、仕事以外の時間はほとんど美容に費やしている美意識の高い方としても有名なので、これは美容に関する知識なのですが」

「はい」

「女性ホルモンと同じ働きをする『イソフラボン』が美容に良いのはご存知ですよね。そしてイソフラボンを最も多く含むのは大豆ですが……」

 そして私は目をくわっと見開いてマギーに向かって言いました。

枝豆、大豆、もやしはすべて大豆なのです! 青く未熟な豆が枝豆! 発芽したものがもやしなのです!」

モデルからブランド監修まで“デキる彼女”の気持ちを掴むには

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 口から泡を飛ばすような勢いで熱弁した私に対して彼女は言いました。

「ふーん、そうなんだ…」

 全然ウケてねえ――。この知識があまりにも彼女に刺さらなかった私は「安倍ぇ! 日本の大豆畑全部燃やせぇ!」と心の中で叫んでいたのですが、そのあとの彼女の会話に驚かされることになりました。彼女から「どうして、美容の豆知識を教えてくれたんですか」と聞かれたので、GQの記事の話をしたところ、「それ一個前のワールドカップの記事じゃないですか(笑)」と笑いながらツッコミを入れてくれ、さらには「水野さんがそこまで言うなら、これからはもやしよりも豆もやし食べようと思います」と話を広げてくれたのです。過去の会食では、無言が続いてもおかしくない場面でしたが彼女の会話力によって話はどんどん広がっていきました。そのことに感動した私は彼女のテレビでのトークについて質問してみたところこんな言葉が返ってきました。

「実はテレビに出るのが得意ではなくて……特に一人でロケに行く番組は難しくていつも胃腸炎になってました」

 歯に衣着せぬ意見を言う彼女とは違うイメージにますます感動することになりました。ちなみに、「苦手な仕事はどうやって対処するのですか」という質問に対して、彼女は少し考えてからこう答えました。

「解決法は……ないですね。毎回葛藤しながら一生懸命を積み上げていくしかないんだと思います」 

 正直、シビレましたよね。彼女の会話力は様々な修羅場を経て獲得された真の技術であり、もうマギーの当て字は「真技ー」で良いんじゃないかと思いました。
 

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 こうして彼女のペースで会話は盛り上がり続け、途中彼女がプロデュースするブランドの話になり、「今は誰かと協力して作り上げるモノ作りの仕事がすごく楽しいんです」と言う彼女に、「本作りもまさにそうなんですよ」と「僕たち同じ方向向いてますよねアピール」をしておきました。

 こうして、(もしかして今回こそは美女と仲良くなれるかもしれない!)そんな期待を抱きつつ、会食も後半にさしかかったころ、私はこの質問を彼女に投げかけました。

「マギーさんが好きな男性はどんなタイプですか」

 すると彼女は「そうですね……」としばらく考えてから言いました。

「若いころはカッコイイ人が好きな時期もあったんですけど、最近は、あまり頑張らない人が好きですね」

「頑張らない人?」

「はい。たとえば、デートで、なかなか予約の取れないお店や高級なお店に連れていってもらうと、私も頑張らなきゃいけないような気がしてしまって……」

 マギーさん、それって、今の俺じゃないですか――。全身がチワワのように震え始めた私に向かって、彼女は言いました。

「私、いつも自然体でいる余裕のある人が好きなんです

 こうして私のトラウマリストに14人目が加わることになり―― 今後も間違いなく売れ続け、街中のポスターや電車の動画広告で私を苦しめ続けるであろうマギーの魅力を前に、「安倍ぇ!美女を起用する広告全部禁止せぇ!」と心の中で叫んだのでした。
 
◇今回2人がデートしたのはこちら!

“ホテル内の料亭”をイメージ
した個室中心の懐石料理処

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京王プラザホテル内本館2階に位置する、懐石「蒼樹庵」。にぎやかなホテルから店内へ1歩入ると、静けさを大切にしているというお店の凛とした空間がお出迎え。結納や両家顔合わせでも使用されるという今回の和室「こぶし」では通常ランチ7500円~、ディナー1万3500円~で食事を楽しめる。室料1万円。
 
《SHOP INFO》
KEIO PLAZA HOTEL TOKYO
住所/東京都新宿区西新宿2-2-1 
TEL/03・3344・0111
営業時間/チェックイン14:00~、
     チェックアウト11:00 
無休

決定! 今月の勝負服!

 
ハーフな彼女が好む
難題、和スタイルは
わび・さび美意識で解決

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ジャケット4万円(ブルー ブルー ジャパン) ●お問い合わせ先/オクラ TEL 03・3461・8511 シャツ3万7000円(ルイジ ボレッリ)、ネクタイ2万2000円(ドレイクス) ●お問い合わせ先/以上シップス 銀座店 TEL 03・3564・5547 パンツ2万4000円(ジェルマーノ)、チーフ2800円(ビームスF)、靴3万6000円(ポルペッタ) ●お問い合わせ先/以上ビームス ハウス 丸の内 TEL 03・5220・8686 ソックス2300円(アメリカントレンチ) ●お問い合わせ先/ユーソニアン グッズ ストア TEL 03・5410・1776 眼鏡3万7000円(ジュリアス・タート・オプティカル) ●お問い合わせ先/コンティニュエ TEL 03・3792・8978
 
 
 今回のデート相手・マギーさんに合わせて、日本人に一番似合う色とされるネイビーを軸にした超ド・ストレートなジャケパンスタイルに。ただし普通にまとめるのではなく、細部にこだわりをちりばめてさりげないお洒落感を漂わせるのが大切。ジャケットの柄はもちろん、ビットローファーや眼鏡など小物にどこか“わび・さび”を利かせることで日本独自の美意識を彼女に感じさせられます。
 

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 黒縁眼鏡では地味すぎる顔まわりの印象も、ブラウンカラーを選ぶことでコーディネイトの抜きとして、色気を加えてくれます。
 

難しい和柄のジャケットも
ネイビーなら挑戦しやすい

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 正統派な男の代表カラーといえるネイビーなら、普段は難しい和柄もすんなりなじみます。デートでの接近戦のポイントにもいい。

【動画インタビュー】

マギーさんへ、今回のデートと水野さんのファッションについてうかがいました。

これはThird partyの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

◇PROFILE
マギーさん(モデル)
…1992年生まれ。現在は『sweet』、『BAILA』など多数の女性ファッション誌で活躍。2015年に自身初の写真集を発売後、わずか1週間で増刷になったことで注目を浴びる。今月、3年ぶりとなる写真集を発売。撮影は本人の希望でスペイン・バルセロナにて敢行。美しいビーチや郊外の一軒家での写真からは“美しさ、チャーミングさ”を兼ね備えた大人の女性の魅力が宿る。
 

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デビュー10周年を記念した、自身3年ぶりとなるマギーさんの写真集が絶賛発売中。“大人の女性”としての魅力が詰まった1冊は男性必見です。


Model Photograph / Jun Okada(BE NATURAL) 
Still Photograph / Yoshio Kato 
Styling / Yoshiko Kishimoto[Maggy]、Tatsuya Imai[Keiya Mizuno]
Hair &Make-up / Yuri Miyamoto(Lila)[Maggy] 
Text / Keiya Mizuno 
Edit / Yasuhiro Sato 
Cooperation / KEIO PLAZA HOTEL TOKYO