『夢をかなえるゾウ』シリーズ売り上げ300万部、『人生はニャンとかなる!』シリーズ売り上げ200万部の、人気作家・水野敬也が、自身の最大の弱点「お洒落」に体当たりで臨む企画。日本で活躍する最高峰の美女たちに、水野のお洒落理論は通用するのか⁉
>>>「正統派、女優から好印象を狙う時計作戦の巻 【前編】」の続きです。
日本にオープンしたばかりの新店で彼女を振り向かせる!
瀧本美織さん(女優)…1991年生まれ。今年3月に通算上映回数1600回公演を記録した舞台『Endless SHOCK』や、テレビ朝日・帯ドラマ劇場『越路吹雪物語』でヒロイン・越路吹雪の青年期を演じ、その歌声が話題になり大地真央さんと並び主題歌集が発売されるなど、女優としてさらに磨きをかけています。6月には山田洋次監督の舞台『マリウス』にも出演が決定。
春らしいワンピースに身を包んだ彼女の美しさをたとえるなら――東京ミッドタウン日比谷の工事が無事終了したことを神々に感謝をする『竣工式』に呼ばれていた神々のなかの一人の女神が部屋を間違えて来てしまった、くらいの美しさでした。
その美しさにけおされた私は、(とりあえず、今はこの部屋を避難して態勢を立て直そう……)と思い、
「すみません、ちょっとお手洗いに」
と席を立ったところ、瀧本美織が衝撃的な一言を発しました。
「お手洗いは出口を出て左になります」
――最初、店員さんが紛れ込んだのかなと思って部屋を見回しました。しかし部屋の中にいるのは瀧本美織ただ一人であり――しかも左手を上げてトイレの方角を指さしていました。さらに彼女は微笑んで言いました。
「かなり歩くことになりますから気をつけてください」
部屋を出てトイレに向かいながら私は思いました。
(なんか想像と全然違うぞ……)
大宅文庫で調べた情報ではダンスや体を動かすことが得意であり天真爛漫でわんぱくな女性のイメージがあったのですが、実物はおしとやかで気配りを大事にする大和撫子といった雰囲気でした。
そんなことを考えながらトイレに向かっていたのですが、結論を言うとトイレは出口の左じゃなかったんですね。
これイラストにした方が分かりやすいと思うのですが、
トイレを出て店に戻るとき、そのことに気づいた私は武者震いを始めました。
(こ、これはSキャラになるチャンスなのではないか――)
席に戻って瀧本美織にこう言えば良いのです。
「おい美織、トイレの場所出て左じゃねーから」
そして、
「罰としてお前、今日から俺のペットな」
言えるかッ!
しかし、まだほとんど会話を交わしてないこの状況だからこそSキャラになれるチャンスでもあるわけです。
(い、いくしかねぇ……!)
店に戻った私は席に座るなり、瀧本美織に向かって口を開きました。
「トイレの場所、出て左じゃ……」
しかし、最終的に私が言ったのは次の台詞でした。
「トイレの場所、出て左じゃ……なかったっス」
「っス」て。Sキャラから一番かけ離れた言葉じゃねえか!
ドMを通り越してXLの自分には土台無理な計画だったのです。
さらに「すみません、変な道教えてしまって」と謝る瀧本美織に対して、
「い、いえいえ、なんというか、小学生のとき知らない路地裏通ったら意外な近道だった、みたいな感動がありまして……」
Sキャラが絶対しないようなしどろもどろのフンコロガシフォローをしてしまったのですが、彼女は、
「それ、分かります!」
と目を輝かせて言いました。
「私の実家鳥取なんですけど、幼いころそういう経験よくありました」
「僕も実家は田舎で……」
「確か、愛知県ですよね」
「えっ?」
(な、なんで瀧本美織が俺の実家を……)
戸惑っていると、彼女は言いました。
「本を読ませていただいたので」
彼女はきっと本のプロフィールを見てくれたんだと思うのですが、さらに次の言葉に感動しました。
「メンズクラブの連載も読ませていただきました。本当に面白くて笑ってしまって……」
な、なんと彼女はこの連載にも目を通してくれていたのです。しかも「面白くて笑った」とまで――。
この一言に自信を持った私は、企画の趣旨である私の服装についてたずねたところ、
「すごくお洒落だと思います。残念だったのが、すぐコート脱いでしまったことくらいですね(笑)」
と涙の出るようなうれしいことを言ってくれ、腕まくりやティファニーの時計に関しても絶賛してくれたので会話はどんどん盛り上がっていきました。
さらに食事に関しても『レストラン トヨ トウキョウ』はフレンチでめちゃくちゃお洒落な料理が次から次へと出てくるのですが、彼女は、
「これ、ニンジン……ですか?」
「ニンジンかと思われます」
――なんというか、すごいグルメの人だとこういうお店で専門用語が飛び交ったりしてついていけなくなるのですが、彼女は私と同じ立ち位置で会話をしてくれるのでリラックスできるんですよね。
こうして何もかもが順調に進んでいく中、話題は再び服装になり、
「雑誌の記事で、瀧本さんは『Tシャツ姿が好き』とありましたが……」
とTシャツについて話していたところ、彼女が何気なくこんなことを口にしました。
「ちなみに、水野さんは女性のどんな服装が好みですか?」
一見普通に聞こえるこの言葉ですが、私はとてつもない衝撃を受けることになりました。というのも、この質問を受けたのは、連載が始まって以来初めてだったからです。
美しさに加えて、この優しさ、この気遣い――瀧本美織は、女神以上に女神な女性でした。さらにそんな彼女と普通に会話ができている私がいて、連載8回目にして、ついに完璧な会食と言える状態を達成することができたのです!
こうしてフンコロガシからスカラベへと変身を遂げることができた私でしたが、同時にこんな疑問が思い浮かびました。
連載のオチ、どうすべ?
――これは、相当ぶっちゃけた話になりますが、この連載の記事が好評だったのは「女優の前で大失敗・大失態を犯してぶざまな姿をさらす水野」にあるわけじゃないですか。そして、これまでは実際にそういう出来事が起きていたのでそれをそのまま書くだけで良かったのですが、今回の瀧本美織との会食は彼女の優しさと気遣いによって色々なことがスムーズに進みすぎておりこのまま会食を続けていったら、私個人としてはめちゃくちゃ楽しいのですが読者は全然楽しめないということに気づいたのです。
一度ヒットを出したら終わりと言われる実用書の世界で数々のヒットを飛ばし、累計部数も数百万部を誇る水野だからこそ自信を持って言えること。それは――
読者は、太陽のように輝くスカラベではなく、くすんだ色のフンコロガシが見たいのです。
こうして、
(連載のオチをどうすればいいんだ⁉)
とパニックに陥った私は何を話して良いのか分からなくなり、会食の途中で突然無言状態になるという大失態を犯してしまいました。
「み、水野さん……?」
戸惑った彼女は色々話を振ってくれたのですが、この連載を最初から読んでくれている人ならご存知のとおり、緊張と不安に支配された私は薬を必要とするレベルじゃないですか。当然、気の利いた返しをすることはできず場の空気はどんどん重くなり、さらにこの日、彼女は会食後に舞台の仕事を控えていたので時間が少なかったこともあって、
「すみません……! ご飯本当においしかったです。ありがとうございました」
と去っていきました。
去り際も女神らしさを失わなかった彼女の背中を見送りながら、私は涙目でこうつぶやいたのでした。
「今回も、真ん丸のフン(オチのある文)が作れそうだなぁ……」
今回のデート相手、瀧本美織さんが出演する音楽劇『マリウス』は今年の2018年6月8日(金)~26日(火)まで、大阪・松竹座で上演。脚本・演出を手がけるのは数々の名作映画で知られる、山田洋次監督。切なくももどかしいさまざまな愛の形が表現されています。
◇今回2人がデートしたのはこちら!
フレンチ×和食が溶け合う
シェフ中山豊光氏の技巧
2018/3/29にオープンした東京ミッドタウン日比谷のなかでも、プレミアムゾーンと呼ばれる3階の奥にあるカウンターフレンチの『レストラン トヨ トウキョウ』。熊本出身の中山氏にちなみ、色彩豊かで新鮮な熊本産の野菜と目で見ても楽しい“宝石”のようなフレンチ料理の数々に彼女とのデートでも話題はつきません。
《SHOP INFO》
住所/東京都千代田区有楽町1-1-1
日本生命日比谷ビル(日生劇場) B1
TEL/03・3595・0511
営業時間/ランチ11:30~14:30、ディナー17:00~23:00(日曜、祝日~21:30)
定休日/毎月第1日曜日ディナーは休み
瀧本美織さん:ドレス36万9000円(エミリオ・プッチ) ●お問い合わせ先/エミリオ・プッチ ジャパン TEL 03・5410・8992 ペンダント27万円、バングル210万円、ブレスレット15万6000円、リング 35万円(すべてティファニー) ●お問い合わせ先/ティファニー・アンド・カンパニー・ジャパン・インク TEL 0120・488・712 バッグ11万1000円、シューズ10万5000円(2点共クリスチャン ルブタン) ●お問い合わせ先/クリスチャン ルブタン ジャパン TEL 03・6804・2855
Photograph / Jan Buus(whiteSTOUT)、Yoshio Kato(still life) Styling / Tatsuya Imai[Keiya Mizuno]、Natsuki Takano[Miori Takimoto] Hair &Make-up / Aki(kind)[Miori Takimoto] Text / Keiya Mizuno Edit / Yasuhiro Sato Cooperation / TOKYO MIDTOWN HIBIYA、Restaurant TOYO Tokyo