『夢をかなえるゾウ』シリーズ売り上げ300万部、『人生はニャンとかなる!』シリーズ売り上げ200万部の、人気作家・水野敬也が、自身の最大の弱点「お洒落」に体当たりで臨む企画。日本で活躍する女優たちに、水野のお洒落理論は通用するのか⁉

今月のお相手・瀧本美織「正統派、女優から好印象を狙う時計作戦の巻

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インドア派40歳男の、
“ラフさ”ってどう出すの?

 日本を代表する美女に気に入ってもらうためのコーディネイトを研究するこの連載、今回で8回目になりましたが美女との会食を繰り返した結果、次の二つの事実が判明しました。

1.女優はテレビで見るよりも実物の方がはるかに美しい。

2.そんな女優と実際に食事をすると緊張と恐怖によって食事はのどを通らず会話も無言状態になるのでテレビで見ていた方がはるかに楽しい

 ……いや、もちろん企画会議の時点では、お洒落な格好で女優さんと食事して記事にするなんてそんな夢のような仕事ある? くらいに思っていましたが、実際始まったらまさに「生き地獄」と呼べる状況であり、夢は夢のまま終わらせた方が良い場合もあることを知りました。←これ『夢をかなえるゾウ』著者が絶対言ったらダメな台詞だからね。それを思わず口にしてしまうくらいの苦しい連載をどうして続けているかというと、理由はただ一つ。美女にウケるお洒落を研究して伝えることで一人でも多くの読者にモテていただきたいからなのです。にもかかわらず、メンズクラブ編集部に届く感想は「水野のぶざまな姿にワロタw」「美女と仲良くなれないまま一生連載を続けてほしい」的なものばかりで「水野さんに教えてもらったコーディネイトのおかげで高嶺の花と付き合い始めました!」という感想は皆無なんですよね。お前ら、もっと頑張れよ。なんで俺だけ毎月毎月、自分のレベルをはるかに超えた美女の前で産まれたての小鹿のようにプルプル震えてなきゃいかんわけ? この連載は皆さんが高嶺の花とのデートに向かうための精神的支柱の役割も果たしているわけなので、ぜひ今月こそはバンビ水野を踏み台にして高嶺の美女とのデートに繰り出していただければと思います。

というわけで今回も気合を入れながら担当編集Sからの連絡を待っていたところ、

「会食のお相手は瀧本美織さんに決まりました」

 という報告を受け、産み落とされた場所がバランスボールの上だった小鹿くらい震えることになりました。

 瀧本美織といえばここで改めて言うまでもなく、NHK連続テレビ小説『てっぱん』で主演して世間の注目を集め、宮崎駿監督の名作『風立ちぬ』でヒロイン役(声の出演)、その後はアクションやホラーに挑戦して演技の幅を広げ続けている正統派女優であり私が一番苦手とするタイプです。なぜなら、私はこれまでの人生で一回も「正統派」の道を歩いたことがありませんからね。瀧本美織を道の真ん中を飛ぶモンシロチョウにたとえるなら私は脇の草むらにいるフンコロガシですから。瀧本美織が羽ばたけば「綺麗だね」「可愛いね」となりますが、私の場合どれだけ本が売れても「フンコロガシの作るフンって見事な球体だよね」みたいなことにしかならないですからね。

 そんな不安を担当編集Sにぶつけてみたところ、こんな返答がありました。

「水野さん、フンコロガシは古代エジプトでは『スカラベ』と呼ばれ、球体を転がす姿から『太陽をつかさどる神の化身』として崇められてきたんです。水野さんのようなフンコロガシが瀧本美織さんと仲良くなれれば日本男子にとっての太陽になれるんじゃないですか?」

 私がフンコロガシであることを一切否定しなかったのはいささかショックでしたが、

(確かにその通りだな……)

 と納得し、バンビ水野改めフンコロガシ水野は過去に発売されたほぼすべての雑誌が読める図書館、大宅文庫に向かうべく、玄関の扉を後ろ足で開いたのでした(フンコロガシは後ろ足でフンを転がすんでね)。

 こうして図書館に到着した私は、検索開始2分、一番最初に見つけた雑誌で次の情報にたどりつきました。

「(瀧本)私、男の人はキメすぎよりラフなほうが好きなんです。とくにTシャツ姿の大きな背中は、キュン。後ろから抱きつきたい(メンズノンノ2013年8月号)」

 相変わらずの自分の検索力の高さに酔いしれながら外の自販機で買った温かいミルクティーを飲んでいたところ重要な事実を思い出し、ミルクティーが突然アイスになったと思うような寒気を感じました。

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高梨 臨さんに好評だったメタルフレームの眼鏡をかけてミーティングに臨む水野。

 
 毎日10時間ひたすらパソコンを打つ生活によって猫背&なで肩化の進行が止まらない私が一番似合わない服、それがTシャツなのです。さらに言うなら、これまで女優と会うときの服装はジャケットかスーツばかりで、ほぼラフな格好をしたことがありません。

(余裕かましてお茶してる場合じゃねえ!)

 残りのミルクティーは「フンコロガシからの差し入れだあ!」と道ばたのアリの巣に流し込み、すぐさま大宅文庫で瀧本美織に関する雑誌に目を通していったのですが、探せども探せども、先ほどの情報以外には服装に関する記事が見つからなかったのです。

「どうしたらいいんですか? 俺、Tシャツとか全然似合わないんですけどどうしたらいいんですか⁉」 

 メンズクラブ編集部で副編集長のN氏の両肩を――N氏はその日高級そうなニットを着ていたので伸びたらまずいと思い「甘つかみ」でつかみながら――揺らしていました。

「落ち着きなよ、水野くん」

 N氏は私の手をほこりでも払うかのように払いのけて言いました。

「瀧本さんと行くのは高級なお店になるだろうから、そもそもTシャツじゃ店に入れてもらえないよ

 た、確かに――。雑誌に書いてあることを鵜呑みにしてコーディネイトをしていたら店の前で支払いだけして帰ることになってた――。

(さ、さすがはお洒落番長N氏だ)

 N氏の慧眼に感動していると、彼はこんなことを言い出しました。

「Tシャツが好きだってことは、体のラインが見えてた方が良いってことだから、シャツの腕まくりなんて良いんじゃない?」

(シャ、シャツの腕まくり――)

 噂に聞くモテお洒落の定番ですが、私にとっての「シャツの腕まくり」は「体のどこかにバンダナを巻く」と並んで、シラフでするにはあと二回ほど転生が必要になるであろう縁遠い所作なのです。

 するとN氏は言いました。

「そんなに難しく考えることないよ。俺、いつも言ってるじゃない。男のお洒落はシンプルで良いって」

 そしてN氏は立ち上がり、会議室の窓まで歩いて行き、外を眺めながら言いました。

「季節は春。お店に着いたらスプリングコートを脱いで席につき、シャツの袖をまくる。そのとき手首から顔をのぞかせるラグジュアリーな時計。それがシンプルで正統派の男のお洒落だよ」

「せ、正統派……」

 N氏の口から何気なく飛び出した言葉はまさに私が探し求めていたものでした。N氏は続けました。

「ボトムスはルーズなシルエットのものがいいだろうね。流行ってるし、ラフな格好が好きな彼女にも合ってる。靴は白スニだ。白スニの汎用性については連載1回目で詳しく教えたよね。今回は、これで決まりじゃない?」

「決まりですね!」

 こうして自分では何も考えることなくすべてN氏の意見に従う形でコーディネイトを決めることになりましたが、この服装であればフンコロガシから神の化身スカラベへと変身を遂げることができることを確信しました。

 しかし――。

瀧本美織との会食当日…、

―東京ミッドタウン日比谷のフレンチレストラン『レストラン トヨ トウキョウ』の個室で、マッサージ機のバイパーかってくらいの振動で震えている私がいました。

 いや、お店は東京ミッドタウン日比谷で日本初出店、パリで大成功を収めた『レストラン トヨ 』であり、さらにN氏のコーディネイトに身を包んでいる私はお洒落という点では完璧なんです。ただ、外側のことばかりに気を取られ、内側――つまり、会話についての対策が抜け落ちていたことを直前になって気づいたのでした。

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N氏とのミーティングで今回の勝負服に、すんなりと納得のいった様子。

 
 次の記事をご覧ください。

「(瀧本)男性はSで強引な感じがいいなって思いました。特に、殴るふりしてキスするみたいな予想外の展開に弱いです(笑)(ゲイナー2013年8月号より)」

「Sの男の人は好きです。ドラマでもSキャラな人を好きになる役が多くて、自分自身も惹かれるところはあるなと思います。『オマエ』とか言われたい(メンズノンノ2012年3月号)」

――この連載の読者の皆さんならお気づきのことだと思いますが水野のイニシャルMは、M男のMじゃないですか。

(S好きの女と会話が盛り上がるわけがねぇ…「殴るふりしてキスする」って、S超えてXSじゃねーか!)

 もう、なんなら「六本木の方の東京ミッドタウンと間違えてました! あと、インフルでした!」とか言って会食をとんずらするという禁じ手を使うことまで考え始めたところ、『レストラン トヨ トウキョウ』の個室に瀧本美織が現れたのでした。

決定! 今月の勝負服!

 
正統派ブランドの時計で
アピールするラフな
装いの中のエレガンス

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「ラフな男性が好み」という正統派女優にはデート中も女性との会話の糸口になりそうな、出自のよい正統派ブランドをチョイスするのが最適。時計は『メンズクラブ 2018年6月号』P.150のようなクラシックディテールでスクエア型のティファニーのイーストウエストを。季節感も取り入れた薄手のスプリングコートに、開襟の白シャツスタイルで爽やかさを加えればもっと好印象に。足元はあえて白スニーカーでデートでも“頑張りすぎない”装いに。

《POINT 1》
さらりとした薄手生地の
ロングコートで颯爽と

この時期ちょうどいいのが薄手のロングコート。風になびくコートの表情で、ラフなスタイルにありがちな子どもっぽさを抑えつつ、雰囲気のあるスタイルを演出してくれます。丈感は膝上ぐらいで、足さばきのよいものを選ぶのがベスト!


《POINT 2》
開襟シャツは腕まくりで
男らしさを彼女にアピール

女性にわかりやすく男らしさを主張したいなら、ラフに腕まくりをしつつ鍛えた腕をちらりとのぞかせるのが効果的。シャツはできるだけシンプルなデザインのものを選び、色合いは相手を引き立たせるような白が、爽やかさもあって女性ウケも抜群。


《POINT 3》
パンツはベーシックながらも
ゆったりシルエットを

コートのこげ茶色とも、白いシャツやスニーカーとも相性のいいベージュのチノパン。加えて今季ぜひトライしていただきたいのがボリュームシルエットのゆったりタイプ。長年トラウザーズ作りに携わってきたセラードアなら形もよく、安心です。

 
《POINT 4》
伝統的なハンドメイド技術が
息づく白スニーカー

デートでスニーカーを履いていくと相手に手を抜いていると思われがちですが、これなら心配ご無用。上質なレザー素材で、クラシカルなデザインセンスの光るアッパーやトウのディテールで軽く見えない一足です。

◇Detail White Leather Sneakers

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ひとくちに白いスニーカーといってもなんでもいいわけではありません。こちらはかかとやソールにいたるまで、オールレザーで作られているのはもちろん、靴の内側に至るまで名だたるブランドを手がける名靴の職人の手によって、高級感のある仕上がりとなっています。また1988年創業と靴業界では比較的若いステファノ ベーメルですがイタリア・フィレンツェをはじめ人気を博しています。

 
コート12万3000円(イートウツ) ●お問い合わせ先/ビオトープ TEL 0120・298・133 シャツ2万5000円(マーガレット・ハウエル) ●お問い合わせ先/アングローバル TEL 03・5467・7864 パンツ2万1000円(セラードア) ●お問い合わせ先/ユナイテッドアローズ 銀座店 TEL 03・3562・7798 ベルト3万5000円(ユナイテッドアローズ) ●お問い合わせ先/ザ ソブリンハウス TEL 03・6212・2150 靴10万円(ステファノ ベーメル) ●お問い合わせ先/伊勢丹新宿店 TEL 03・3352・1111 ティファニー イーストウエストの時計60万円(ティファニー) ●お問い合わせ先/ティファニー・アンド・カンパニー・ジャパン・インク TEL 0120・488・712

Photograph / Jan Buus(whiteSTOUT)、Yoshio Kato(still life) Styling / Tatsuya Imai[Keiya Mizuno]、Natsuki Takano[Miori Takimoto] Hair &Make-up / Aki(kind)[Miori Takimoto] Text / Keiya Mizuno Edit / Yasuhiro Sato Cooperation / TOKYO MIDTOWN HIBIYA、Restaurant TOYO Tokyo