「自宅に1着は必ずあるベーシックアイテムを、完璧な“あなたサイズ”でどんどんご用意していく。今までにない生産手法で、今までにない商品をなるべく早くお届けする」。「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を運営するスタートトゥデイの前澤友作社長は、7月3日のメディア向け発表会でそう強調した。

 スタートトゥデイは同日、今年1月に展開を始めたPB(プライベートブランド)「ZOZO」の商品ラインナップに、男性向けオーダースーツを新たに投入したと発表。世界展開を目指し、72の国と地域での販売にも乗り出した。

 
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本記事は、「東洋経済オンライン」
(東洋経済新報社)が2018年7月8日に
掲載した記事の転載になります。

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Photography / 梅谷秀司

 技術を駆使したオンデマンド生産 

写真:PBの男性用オーダースーツの発売を発表したスタートトゥデイ。前澤友作社長(中央)は「完璧な”あなたサイズ”で用意する」と宣言した。


「ZOZO」の売りは、無料配布中の採寸用ボディスーツ「ZOZOSUIT(ゾゾスーツ)」で計測したデータに基づき、オーダーメードに近い形でぴったりサイズの商品を届けること。ゾゾスーツは当初、伸縮センサーを内蔵した仕様で発表したが、技術や費用の面で量産化が難しく、製造を断念した。その後、ある研究者チームから3億円で買い取ったアイデアを基に、スマートフォンで撮影して計測する新たなゾゾスーツを開発した。
 

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スタートトゥデイがスーツとともに新たに発売したPBのドレスシャツ。1人ひとりの採寸データに合わせたオーダー生産だ。(C)スタートトゥデイ


 商品の製造工程でも、外部から買い取った技術を一部生かし、ニットを縫い目なく立体的に編み上げる機械を持つ島精機製作所との協業にも着手した。「お預かりした体形データとオンデマンドで商品を生産できる機械を組み合わせて、信じられなかったようなスピードでぴったりのアイテムをお届けできるようになる」(前澤社長)。

 テクノロジーを駆使して採寸やオーダー生産の手法の革新に取り組む動きは、スタートトゥデイに限った話ではない。ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正・会長兼社長も、4月の決算説明会で「より簡単に、スマートフォンとか店舗で瞬間的に採寸する方法を鋭意研究中」と語り、近い将来新たな採寸手法を取り入れることを示唆した。

0.5秒の自動採寸で学生服を製造

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光和衣料が活用する3Dボディスキャナー。真ん中に立つと0.5秒で体のあらゆる部分を測定する。Photography / 真城愛弓


 自動採寸によるオーダーメードの学生服の生産を始めた企業が存在する。埼玉県に本社を置き、学校制服の製造などを手掛ける光和衣料は今年、3Dボディスキャナーを活用した生産システムの運用を始めた。

 ボディスキャナーの技術は、大学発ベンチャーのスペースビジョンが開発。カメラを内蔵した3本の柱の中央に利用者が立つと0.5秒で約100万カ所を自動で測定する。採寸データは自社サーバーを経由して生産ラインに送られ、採寸から18分後には生地が裁断される。そしてわずか3時間後、オーダーメードの制服が完成し、出荷できる状態となる。

 以前は1人当たり5分かかっていた採寸時間を大幅に短縮し、制服採寸のために生徒が並ぶ待ち時間や、手作業で採寸を行うパート従業員らの人件費も削減。そして生徒1人ひとりに最適なサイズの制服を製造できるようになった。要望に応じて、ゆとりあるサイズに調整することもできるという。

大手アパレル社員が続々訪問

 同社の伴英一郎社長は「既存のサイズに合わせると、生徒の体形によって袖の長さや腰回りの大きさが足りないなど、どうしても不具合が出ていた。このシステムだと在庫も発生せず、トータルコストを下げられる」と話す。

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光和衣料が今年から始めた新しい生産システムでは、スキャナーによる自動採寸から3時間で制服の上着が完成する。作業効率化を進め、従業員の定時退社も推進している。Photography / 真城愛弓

 
 今年に入って光和衣料には、三越伊勢丹ホールディングスや大手アパレルメーカーの社員が続々と訪問。彼らの多くは、女性向けスーツなどのオーダー販売に向けた糸口を見つけようと模索している。

 アパレル業界ではここ数年、スタートトゥデイのPBはもとより、オンワードホールディングスやコナカがオーダースーツ専門の新業態を始めるなど、オーダー商品の展開への機運が高まっている。

オーダー生産のメリットとは?

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 こうした業界の動きの裏には、大量生産による衣服が売れなくなったという事情がある。消費者の好みが多様化したうえ、ユニクロや海外勢を含めたファストファッションの台頭で、安くても機能性やデザイン性のよい商品が増えた。売れない既製品は過剰在庫となり、値引き販売が常態化。消費者の多くは、セールを見越して衣服の定価での購入をためらうようになった。

採寸データを蓄積できるメリット

 
―スタートトゥデイの前澤社長は7月3日に行われた東洋経済のインタビューで、「これからお客様はもっとわがままになり、もっと高いクオリティを求める時代になる。受注生産で在庫を持たず、なるべく定価で売ることが将来目指していくところではないか」と語った。

 オーダー商品は受注生産のため過剰在庫を抱える心配がなく、値引きによる粗利の悪化を避けられる。さらなるメリットが、顧客の採寸データを蓄積できることだ。一度そのブランドで採寸すれば、2度目以降はネット上で簡単にオーダー商品の注文が可能となる。顧客のサイズに合ったオススメ商品を提示したり、蓄積された採寸データを商品開発に生かしたりすることもできるようになる。

 現状、オーダー商品でマスの市場を獲得することは難しいが、「既製品では自分に合ったサイズがない」「このブランドで自分だけの服が欲しい」といった需要は一定数あるはず。テクノロジーの進化で採寸や製造工程の効率化が急速に進み、オーダー商品も以前より短期間・低コストで販売できるようになった。自分仕様という特別感やブランドの知名度を武器に、アパレルメーカー各社はオーダー生産の強化に再起を懸ける。

真城 愛弓 :東洋経済 記者
2017年7月8日掲載分