1987年に、オリジナルのナイキ エアマックスがデビューしたときのことを思い出してください。ソールに埋め込まれながらも目に見える、あの透明のエアクッション。それを目の当たりときのトキメキ…実に革新的でした。

 事実、デザイナーのティンカー・ハットフィールド氏は最終的な製品にこのシステムを落とし込むまで、多大な苦労と闘っていました。その奮闘ぶりは、マーケティング担当者までもが感動するほどだったのです。

 そして見事に成し遂げたハットフィールド氏の業績は、実に素晴らしいものです。30年経った現在(いま)になっても数あるエアマックスラインの中で、オリジナルが一番クールなのですから…。そのことをナイキも承知の上で、エアマックス 97以降はソール全体にエアを配置するモデルも多く登場させたのでした。

 そうして、このラインの30周年記念の一部として、2017年3月下旬にナイキは新作エア ヴェイパーマックスを発売しました。

 30年前に始まった、「空気の上を歩く」という夢はここで実現したのです。エアユニットによってクッション性を得るという思考を超えて、事実上、エアユニットになっているソールの上にフライニットアッパーを乗せたのです。

 スウッシュという、もう一つの画期的なデザインも功を奏していることにも敬意を払いながら、10年近くエアマックスのラインに携わってきたナイキ ランニング部門でクリエイティブディレクターを務めるアンドレアス・ハーロウ氏に話をうかがいました。大好きなシューズと本人も誇らしげな新作エア ヴェイパーマックス、そしてその製作に携わった彼のチームについてを。

 この大胆なエア ヴェイパーマックスの新デザインを、ナイキの最も象徴的なシューズがもつ30年という歴史に、どう適合させたのかを紹介します。

クラシックなスニーカーラインであっても、イノベーションがいかに重要か

 「私の仕事とキャシー・ゴメス(ナイキ・イノベーション担当バイスプレジデント)の仕事は、未来を想像することです。我々は、常により良いものを作ろうとしています。そして、より魅力ある、より訴求力のあるものを…。そこでマックスを組み込むことにしたのです。過去の業績に目を向けてみても、これは確実にモチベーションを上げてくれるものとわかっていたからです。我々はおおよそ、競争力のある集団であると自負しえいますし、それによって、なおも向上していることも自覚しています。デザイナーとしてこうした製品を見れば、競いたくならないわけがない。素晴らしい仕事をしたいと思うものですし、良い意味でその流れに何かを加えたくなるものなのです。だから、こうした試練は大好きであり、非常にモチベーションを上げてくれるというわけですね。我々は大人数のグループ、大きなチームですが、みんな同様に、この試練を楽しんでいると言っていいでしょう」

エアマックスは常に魅力的なアイテム

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どんな人がエアマックスのラインを魅力的だと思い続けているか

 「我々には現役でありながらも、遺産的な価値をもった製品を数多く所有しているという見地から言えば、非常に恵まれた環境にいます。このことは、さらに2つの幸運を導いてくれるのです。エアには、どこかユニークなところがあります。まさに空気の上を歩くというコンセプトは、奇抜で人の心をつかんで離さないものだと思うし、実に基本的なレベルで人々の心をひきつけることだと思っています。私がずっと若かったころ、初めてエアシューズに出会いました。それがエアマックス 1です。靴を手に窓を開けて、エア越しに向こうの景色を覗き込みました。『どうしてこんなことができるのだろう? どうしたらこの空気の上を歩くことができるのだろう?』と思ったのです」。

 「ひとつは、若いころから理解はできていました。実際、エアは視覚のマジックです。この靴は、底にある不可能なほど軽いものの上に浮いているのがということを。重要なのは、感覚なのです。まったくもってユニークな感覚があります。我々以外に、誰にもあんな方法であれを伝えることはできないでしょう。それが、あのシューズの一面です。そしてもう一つは、この周囲全部を包み込む感情に訴えるデザインにあります。感覚を包み込み、コンセプトすら包み込む。この両者を合わせるのに、我々はベストを尽くしました。より優れた製品にする科学があり、願わくば幅広い人々を魅了する美しさもある。このところ、我々がやってきた仕事は、本当に素晴らしいものでしたが、それは根本的に同様のイノベーションを様々な人々に伝えるために、この考えを拡大したところにあるのです。こうして人々の望む特色を加えながら、イノベーションによる便利さも供給するのです。もし、ひとつの特色しかなかったら、買おうと思ってもらえないだろうし、良さも感じてもらえないだろうと思いますので」。

機能だけでなく、形状を考慮すること

 「『魅力があって人々を惹きつけ、意見が分かれることなく、誰もが欲しくなるものを作り上げたい』という思いは、常にありました。そこで我々は、そのことについて考えたのです。それは今後、これまで以上に大切なこととなるでしょう。でも、我々の取り組みの主題としては、まずアスリートの期待を超えたいと考えたのです。面白いことに、そこから新しいアイデアが生まれています。そして時には新たな感覚をもたらし、長年にわたって、その美しさを維持し(当初はアスリートだけにしか美しいと受け止められていなかったのに)、今では文化の壁を超えるまでになりました。そのことに気付かなかったとしたら、節穴だと言えることでしょう」。

  「しかし、これはデザインと機能、この両者のバランスの問題です。見た目だけを考えていたら、より多くの人を惹きつける魅力には辿りつかないだろうと思っています。素晴らしいデザインは機能美も兼ね備えていると思うし、第一、この2つが揃わなければ完全なものにはならないのですから。だから、個人的には根本的な問題を解決しようとしたときにこそ、新しい世界に辿りつけるのだと思っています。そして、かつて想像したことのないようなものを描いて、作り出す力となるのです。美しいデザインの観点だけで追究しても、完成に到達することはできないのです。その点で我々は、かなりうまく行ったと思っています」

エア ベイパーマックスのデザイン

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エア ヴェイパーマックスをデザインする難しさ
 

 「確かに、小さな障害は数知れずありました。その中でも最大の困難は、アウトソールとミッドソールを合わせることでしたね。私たちは完璧な製品(象徴的な関係)を作り出そうと一生懸命でした。どちらかを調整すると、他の何かを調整しなければならない。そうした調整があったため、かなりてんてこ舞いでもありましたね。まさに試作と失敗の連続です。ある意味、バトルシップで遊ぶようなものです。そして最終的に、結果が得られる場所を見つけたのです。幾度も調整を続けてた結果、この形になったのです」。

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一歩後退して、新しいデザインの真価を認めること 

 「完成した瞬間は、実に格別です。私はこのシューズを認めているし、愛情も抱いている。言ってみれば、鳥を巣立たせるときのようなものですから。市場に出したなら、人々はこのシューズの登場に歓喜してくれるでしょう。ですが、それで満足しいるわけではありません。まだ次のシューズについて考えていない…と言えば、嘘になるので」。

 「完成に満足するのは、ほんの一瞬です。ですが、非常に喜ばしいことなのです。完成に至るまでの過程のほうが、苦悩の満ち溢れています。大きな出来事なので…。しかし最終的に仕上げてしまえば、あとは生産され、市場へと運ばれ、そして誰もが楽しんでくれる。さらには、文化の壁も超えてくれるのです。それは、実に素晴らしい快感を得ることができるのです。実際外に出て、多くの人々がそのシューズを楽しんでくれているのを見ると、制作者として非常にモチベーションが上がってきます。本当に格別で、本当に楽しい瞬間です」。

エア ベイパーマックスの手応え 

「新しいものができたときは、それはもう素晴らしいものです。長年、エアマックス 2やルナなど、数多くのランニングシューズを手掛けてきただけでなく、フリーも数多く手がけてきました。そして世界中を飛び回り、驚くなかれフィジーの島にいることもあれば、ニューヨークにいることもあるのです。いずれにせよ、クリエイティブな解決策だし、イノベーションの一部ですが、文字通りどこにでも行けるのです。それはかなりクールなことです。メールが送られてきたり、読んだりして、製品に対して本当の情熱や愛を高めていきます。朝起きるのも仕事に行くのも、次の仕事に取り掛かるのも前向きにできるのですから…」。

世界で自分のデザインが販売されているのを見ると
 

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個人的にエア ヴァイパーマックスのランクは何位か?

 「お気に入りなんてものは考え方次第で、少しずつ入れ変わるものだと思っています。子供時代や特別な時を思い出させるという理由から、お気に入りは何かを決める人もいるでしょう。それもお気に入りの一種ですね」。

 「制作者であるということや、シューズのデザイナーである私は、前者とは少し違ってきます。私はその製品に関わったいう言葉以上の関係性をもっていますし、そこには私が今まで築き上げた成果のすべて存在しているのです。だから、今の私にとって、この製品(エア ヴェイパーマックス)は、いちばんのお気に入りになるに違いありませんね。子供のときだったら…と考えたなら、別のお気に入りがあるかもしれません。が、製作者としては、今まさにこれが一番のお気に入りなのです。それもほんの少しの間のことだと思いますけどね」。

Source / ESQUIRE US
Translation / Spring Hill, MEN'S +
※この翻訳は抄訳です。