世界的にも注目される日本の至宝「キモノ」の魅力を探る連載もいよいよ第2章の【後編】へ。森岡 弘さんと対談も後編へと進みます。【KIMONO基本の「ほ」 】のテーマは、「ファッションとしてのキモノ対談」。ここで新たなケミストリーが起こりました!

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ファッションディレクター森岡 弘さんの提案にうなずく、「銀座もとじ」二代目・泉二啓太(もとじけいた)さん。ファッションもキモノも「着ていく場の提案こそが重要」という意見に共感し合い、対談は大盛り上がりでした。

KIMONO(キモノ)基本の「ほ」その弐

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「キモノを着て、どんな経験をするか?」、それを提供することがいま一番大切なことだと意見が一致しました。 


○「嫌い」の先にある「好き」を求めて精進する 

(KIMONO基本の「ほ」 その壱からのつづき― 
森岡:そうです。ファッションって、個性じゃないですか。主張があるものです。平均点ばかり狙っていると、淀んでいくっていうイメージがあるんですよ。停滞してしまうというか。いまのファッション界もちょっとその傾向にあるような気もしているんです。皆に気に入ってもらうことを考え、大好きな方と大嫌いな方は表裏一体で存在していることを忘れちゃっているんじゃないですかね。それは失敗を恐れてコンサバになっているからかもしれませんね。社会というか、いまの経済全体の雰囲気にも似ているかもしれません…。そこで、アメリカの白黒つけて主張してくる投資家たちが食い込んでくる…っていうのが、現在の構図のようにも見えたりして…。

啓太:嫌われるのって勇気いりますよね(笑)。僕も誰かの心に引っかかって欲しいと願いながら、「男のきもの」のオリジナルコレクションのものづくりやビジュアルもこだわり続けています。(下の写真)今季の秋冬のオリジナルコレクションで用意したビジュアルですが、僕と同世代のクリエイターを起用し、和のテイストとグラフィックを融合させ、新しい表現にもこだわりました。今回は思いきってみたので、お客さまの反応が楽しみです。嫌われたくないのですが(笑)。 
 

森岡:私みたいな立場だと、勝手なことを言えるからかもしれませんが、そうあるべきだと思っていますよ。そうは言っても、もし私自身が経営者の立場がとしたら、やっぱり、かなりの勇気が要りますよね。最初は売り上げが落ちることを覚悟しなくてはいけないでしょうし…。

啓太:そうですね。実際僕自身もビジュアルの表現方法など感覚的な面で、よくオヤジ(店主・弘明さん)とぶつかるんですよ(笑)。 


森岡:いやいや、皆さんどこもそうですよ。一代目と二代目はそれが当たり前ですよね。私が仲良くさせていただいるバッグ屋さんもそうです。そこでも二代目の方がオリジナルブランドを立ち上げ、いまではビジネスも軌道にのっているのですが、いまだに衝突するみたいですよ。しょうがないですね、ビジネスの方法論が違いますから。一代目は自分の感覚で勝負して成功してきた。二代目は商社に勤め、学問的なビジネスの見方を大切にして、ロジックで攻めていくタイプ。そんなわけですから、衝突があって当たり前です。いまではその二代目が社長になっていますが…しょっちゅうオヤジさんである一代目に怒られていましたね。

啓太:わたしも、意見の食い違いは日常茶飯事です。
 

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「銀座もとじ 男のきもの」のオリジナルコレクション2017年秋冬のビジュアルより。
Art direction: Naonori YagoPhotograph: Yuji Hamada
Graphic design: Naonori Yago, Shunta Sakamoto


森岡:こうして間近で見させていただいたら尚更ですが、やはり、キモノって魅力がいっぱいつまっていますよね。ただ、アプローチの仕方とかが、時代ごとにそれぞれ違ったタイミングとか角度があるんでしょうね。そんななかで、一番難しいところは、いまの時代、キモノを着ていくシーンが明確に見えていないところですかね。今の時代の人たちのライフスタイルの中に溶け込んでいない。そこが難しいところです。その辺、啓太さんのほうが肌で実感しているかと思いますが…。

啓太:そこは日々試行錯誤しています。僕が「もとじ」に入ったのが約8年前になりますが、キモノに対する当時の雰囲気とはまったく違うんです。最近は今までにないくらい男性のキモノに対する関心が高まってきているのを実感するんです。ファッションを着尽くした方たちが、キモノへと関心を向けてくださっています。世界でご活躍されている方も多く、海外へ行かれる方ほど勝負服としてキモノを着こなす方も増えているんですよ。

 
森岡:そうですね。外国の方に対しての勝負服って発想は、効果的かもしれませんね。実は日本人以上に、外国人のほうがキモノの魅力に敏感であったり、リスペクトしてくださっていると思います。やはり、ひとつの目標として2020年の東京五輪を念頭に置いて、なにかフックになるものを用意するといいですよね。またひとつ、たとえ話をしていいですか? 「朝シャン」ってあるじゃないですか。朝、シャンプーすることなんですが、これって突然ブレークしましたよね。これはなぜか?と言うと、商品を打ち出したのではなく、「朝、シャンプーするとこんな効果がある」ということを謳い始めてからだそうです。「朝30分早起きして、シャンプーすれば寝グセがなくなる、セットがしやすくなる」など、その商品から得ることのできるインセンティブを明確に指し示したからだそうです。つまり、得が得られる新たなエクスペリエンスを共有すること、それが商品を売るために必要なことのようです。単に、「こんな商品ですので買ってください」というだけでは効果は弱い時代のようですね。(次ページへつづく)

○キモノを着こなす場を示すことを大切に

啓太:…ということは、「キモノを着ると、こんな経験ができますよ。こんな気分になれますよ」って提案する方法が効果的かもしれないってことですね。それは私も大切だと思っているんです。今の時代、森岡さんのおっしゃるとおり、キモノを着るというシチュエーションが見えない時代じゃないですか。一方で、お出かけの際に「今日はどっちにしようかな?」という感じで、選択肢の中にキモノを入れている方が多くなってきたことを実感しています。私どもが今後すべきことのひとつに、キモノを着るきっかけ、つまり場を提案しなくてはいけないと思っているんですよ。
  

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キモノの魅力を拡大するためには、「着こなす場の提案が大切だ」と啓太さんと意見が合致した森岡さん。

  
啓太:キモノを着る場がなくては、キモノの必要性が見えないですから。キモノを着るとこんなに楽しくすごせたという体験をしていただく。そして、それをSNSなどで広げていただければと思っているんです。なので「男のきもの」店では、定期的にキモノを着て集れるようなイベントを設けています。店舗で少しお話しをしたあとは、みんなでキモノを着て銀座を歩いて、バーで飲んで交流を深める、といった感じです。

森岡:その企画はとても素晴らしいですね。1930~1950年代にレストランやナイトクラブによく出入りしていた、映画スターやスポーツ選手などの有名人を「カフェ・ソサエティ」って言っていましたが、まさにそんな感じですね。その「カフェ・ソサエティ」への憧れから、カフェで時間を過ごすということが一般化されたものだという説もあります。なので、このキモノ・ソサエティを熟成させることが一番じゃないですかね。最初は少数でいいので、すごく充実した楽しい時間を過ごしていだくんです。すると、「楽しそうだなぁ」「品があってカッコいいなぁ」「日本人らしくていいなぁ」とか、周りが注目するようになる。すると、そこに共感を抱く人も増え、そのソサエティは膨れていく感じですね。

啓太:はい、まさにそのイメージです。なので、これからも「銀座もとじ 男のきもの」では、小さいながらも繰り返しそのようなイベントも行っていきたいと思っています。そうすることで今は小さな輪ですが、それが核となり、雪だるまのように転がって膨れてくれればなぁって思っています。同時に、決してコンサバになるのではなく、常に新しいイメージの提案もしていくつもりです。森岡さんのお話しはとても参考になりました。本日はありがとうございました!


森岡:こちらこそ、ありがとうございました。ひとつ、お願いがあるのですが…。せっかく「銀座もとじ」さんへうかがわせていただいたので、キモノを着させていただけますか(笑)。トラディショナルな服の魅力、そして、それを今の時代に合せてアレンジすることを語ったり書いたりしていますが、日本人として真髄の服にあたるキモノにあまり触れたことがありませんので。今回の機会は、私にとっても勉強になりました。ぜひ、キモノを着させてください! 
 

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 そんなわけで次回は、「KIMONO 基本の『ん』 森岡さん、キモノの魅力を肌で味わう」をお送りします。(KIMONO基本の「ん」の公開は11月7日(火)予定) 

 
取材協力/銀座もとじ 男のきもの

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住所/東京都中央区銀座3丁目8−15
   APA銀座中央ビル 1F
TEL/03・5524・7472
FB/「銀座もとじ 男のきもの」公式FB


〈今後の催事情報〉
◇2017年11月3日(金)~12日(日)
男のきもの 15周年記念展「風」
「風」をテーマに、現代を代表する作家、
熟練の職人と共に夢と創意をこらした、
極上なお洒落を発表。

※最後までお読みいただき、ありがとうございました。
つづきを楽しみにお待ちいただければ幸いです。
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Photograph/Setsuo Sugiyama
Text & Edit/Kazushige Ogawa