なんと1899年のモデルも。電気自動車(EV)界に爪痕を残した14台の名珍EV
電気自動車(EV)の歴史は、(きっと)あなたが思っているよりも遠い昔からあるのです。
最近、ますます耳にする機会の増えた電気自動車(EV)。ひょっとしてこれを、「全く新しい交通手段…」とお思いではありませんか? ですが、それは大きな間違いです。実は、まだ馬車が走っていた時代から電気はガソリン(および蒸気)と競い合うようにしながら、自動車の動力となってきたのです…。
テスラ「モデルS」やポルシェ「タイカン」を始めとする現代的なEVが登場するはるか昔、すでに1世紀以上にわたって電気を動力とするバギーや、カタツムリのようにノロノロとしか進めない電気自動車などなど、実に多彩な電気自動車が現われては消えていきました。
それでは、これから写真をめくりながら、移り変わる電気自動車の歴史の一部をひも解いていきましょう。
ベーカー・モーター・ビークル「ベーカー・エレクトリック」| 1899年~1915年
1881年にはすでに、電池式の三輪自動車や路面電車が登場しています。その中でこの「ベーカー・エレクトリック」は、史上初の市販の電気自動車として誕生しました。開発したのは、オハイオ州クリーブランドに本拠を構えるベーカー・モーター・ビークル社です。
生産は、1915年まで続けられました。短い現役期間ではありましたが、その間幾度となく陸上における最高速度記録に挑戦し、さらに1充電での最長航続記録への挑戦も重ねられました。そして、なんと最長201マイル(約324キロ)という驚異的な記録を打ち立てたことは記憶に残すべきでしょう。
スチュードベーカー「エレクトリックカー」|1902年~1912年
自動車ファンの間ではおなじみの、スチュードベーカーです。ですが、自動車会社初となる“馬なし馬車”が1902年に製造されたこの小型バギーであったことは、自動車マニアでもご存じないかもしれません…。
「エレクトリックカー」は生産された10年の間に、4人乗り車両を始めとしたさまざまなスタイルを提案し続けました。バッテリー充電もシンプルなカタチに設計され、世紀の発明家トーマス・エジソンが所有した初めての1台が、まさにこのモデルだったと言われています。
アンダーソン・キャリッジ「デトロイト・エレクトリック」|1907年~1939年
1884年に馬車メーカーとして創業したアンダーソン・キャリッジ社は、1907年に新規ビジネスとして「デトロイト・エレクトリック」と銘打った電気自動車の発売に乗り出しました。1回の充電による航続距離は、宣伝によると80マイル(約129キロ)とのことでした。しかし実際は、最長で211.3マイル(約340キロ)という驚愕(きょうがく)の記録を叩き出したことも…。
1911年には社名をデトロイト・エレクトリックに変更したものの、「エレクトリックカー」や「ベーカー・エレクトリック」同様、電気自動車のラインは失敗に終わっています。そして、ついに内燃機関に特化した自動車メーカーの台頭に追われるカタチで、「デトロイト・エレクトリック」はその姿を消すことになります。
ヘニー・モーター「キロワット」| 1959年~1960年
電気自動車への関心が薄れつつあった1950年代終盤。新興自動車メーカーだったヘニー・モーター社は、小型のルノー「ドーフィン」をベースにした4ドアの「キロワット」の発売に踏み出しました。
「キロワット」は1959年と1960年の2年間の販売に留まり、短命に終わっています。しかし、その1960年モデルは時速60マイル(約160キロ)の高速走行が可能な初の電気自動車となりました。
ゼネラルモーターズ「EV1」|1997年~1999年
もしかするとEV史上最も悪評高かったのがこの、ゼネラルモーターズ社製「EV1」ということになるかもしれません。「電気自動車の市場調査の意味合いで開発された1台」とも言えますし、「すでに先々におけるEVへの転換が予想されていた自動車業界を見越した上で、技術テストの意味合いでつくられたもの」とも言えるでしょう。カリフォルニア州、アリゾナ州、ジョージア州でリース用に販売された、空力性能に優れたツーシーターの特別使用車でした。
1997年式の第1世代の航続距離は70~100マイル(約113~160キロ)、カラーはグリーン、レッド、シルバーの3色が用意されました。1999年式の第2世代にはニッケル水素電池が搭載され、1回の充電での航続距離は140マイル(約225キロ)まで伸びています。
しかし、「EV1」の悪名を高めたのは、発売中止となった後に生じたスキャンダルでした。リース契約の解除権を行使したGMは有無を言わさずクルマの回収を行い、なんと片っ端から粉砕機でスクラップにしてしまったのです。現在では生き残った約40台の「EV1」は、パワートレインを停止した状態で博物館や教育機関などに寄贈されています。
ホンダ「EV Plus」|1997年~1999年
GMの「EV1」とときを同じくして、1997~1999年、ホンダも「EV Plus」という独自の電気自動車をリース専用の特別使用車として販売しました。この「EV Plus」こそが、ニッケル水素電池を世界で初めて搭載した電気自動車となりました。
この電池の特徴は、エネルギー密度の高さにあります。鉛蓄電池と比較して小型であるためスぺースを取らず、1回の充電での航続距離の長さも大きな魅力です。ですがホンダは、「EV Plus」の生産をわずか3年間300台ほどで打ち切りにし、販売終了を宣言しています。
トヨタ「RAV4」|1997年~2003年
今日でこそ電気自動車のSUVは種類も充実していますが、その先駆けとなったのが1997年のトヨタ「RAV4 EV」でした。そして当時の人々には、不評だったようです。とは言え、現在では当たり前の存在となったEV SUV、例えばヒュンダイ「コナ・エレクトリック」、キーア「ニーロ」、高級路線のテスラ「モデルX」やジャガー「Iペース」などの基礎を築いたのが、この「RAV4 EV」だったと言えるのです。
とは言え、最高速度は時速78マイル(約126キロ)、1回の充電での航続距離は95マイル(約153キロ)と、能力的に目を見張るものがあったわけではありませんでした。2003年モデルを最後に「RAV4 EV」の生産停止を決めたトヨタでしたが、その後、テスラとの提携により2012年から2014年にかけて、新型「RAV4 EV」での再挑戦を試みています。
テスラ「ロードスター」|2008年~2012年
テスラにとって初となった1台は、市場の大きな高級セダン向けの「モデルS」ではなく、2008年に発売を開始した「ロードスター」となりました。ロータス「エリーゼ」をベースにした「ロードスター」は、イギリスのスポーツカーメーカーとの直接取引で部品の調達などを行っています。
創業者イーロン・マスクが抱いた「長距離走行可能な電気自動車のビジョン」を体現した最初のクルマとして、これは注目を集めました。販売的には決して成功したとは言えませんが(全世界で2450台のみ販売)、テスラブランドの将来像を明示するコンセプトカーとしての役割は十分に果たしたと言えます。
日産「リーフ」|2010年〜
「EVも、チューニング次第で航続距離を延ばすことが可能である」とテスラが証明した頃、日産が取り組んだのはEVのファミリーカーとしての可能性の追求でした。初代「リーフ」は個性的なスタイリングを持ちながら、広々とした車内が快適な、そして実用的な1台となりました。1回の充電による航続距離は73マイル(約117キロ)に留まりましたが、最近のモデルではバッテリーパックが大型化され、航続距離も226マイル(約364キロ)にまで達しています。
しかしながら初代「リーフ」はすでに、テスラ「ロードスター」のわずか数割の価格で購入可能に。日常的な用途という意味では十分な実用性を備えた1台であり、商業的に成功した初のEVと言われることもあります。
テスラ「モデルS」| 2012年~
2012年に発売されるや否や、瞬く間に新世代の電気自動車のベンチマークとなったのが、テスラ「モデルS」です。大容量のバッテリーパックを搭載することで信頼性と航続距離とを最大化すると共に、パワフルな電気モーターの「ルーディクラスモード」を作動させれば、一気に加速性能が引き上げられるものでした。
「モデルS」の成功によって、高級セダン市場に進出を果たしたテスラは瞬く間に、ハリウッドの富裕層にとっての選択肢となったわけです。そして同時に、多くのクルマ愛好家たちの目を電気自動車へと向けるきっかけにもなりました。
BMW「i3」| 2013年~
BMWの「5シリーズ」セダンをライバル視するテスラが、ラグジュアリーカーとして「モデルS」を発表したまさにその頃、BMWは常識にとらわれない発想豊かでワイルドな4輪駆動車、「i3ハッチバック」を世に送り出しています。
カーボンファイバーを使用した外装や、サステナブルな素材を用いたインテリアなど、新時代の価値観としてのラグジュアリーを提案する1台となりました。
路肩に停車しているところを見れば、持ち主の意識の高さが一目でわかる、そんな宇宙船のような存在感です。価格の高さ、妙にSFチックな外観、初代モデルのEPAの航続距離がわずか81マイル(約130キロ)と物足りなかったことなどから、販売台数は期待を超えることのない数字に留まりました。
フォルクスワーゲン「eゴルフ」|2014年~2019年
ワイルドなBMW「i3」と好対照をなしたのが、フォルクスワーゲン「eゴルフ」でした。個性を主張して目立つのではなく、場に溶け込むことを得意とした1台と言えます。奇抜なスタイリングで存在をアピールすることなく、EVが普通の優れたクルマであり得ることを証明してみせた1台というわけです。
「eゴルフ」の航続距離は限られており、最高でも100マイル(約160キロ)を超えることはありませんでした。しかし、日産「リーフ」同様に実用性に優れたハッチバックを採用しており、家族連れや荷物の多いドライバーにとっては魅力的な選択肢となりました。アメリカの自動車雑誌『CAR AND DRIVER』での評価は上々で、2018年と2019年のベスト10にランクインを果たしています。
シボレー「ボルトEV」|2017年~
電気自動車が本格的に普及し始めたのは、シボレーが2017年に「ボルトEV」の発売を開始してからのこと。特徴的な小型ハッチバックの1台ですが、あらゆる要素を備えていました。実用性に優れ、装備が充実しており、乗り心地も素晴らしく、そしてなにより重要なのは、1回の充電で238マイル(約383キロ)という、EPA(米国環境保護庁)認定の航続距離を実現したことです。
テスラ「モデルS」も同様の距離を達成してはいましたが、価格差は倍以上します。潜在的な一般ドライバーにとって、内燃機関車に取って代わる走行性能を備えた、手頃なEVとしてシボレーが認められたのです。
テスラ「モデル3」| 2017年〜現在
シボレー「ボルトEV」に先行を許しはしたものの、テスラ「モデル3」は、そのルックスの良さと高い性能を武器として、電気自動車市場における販売力とブランド価値の浸透を加速させています。
アメリカでの電気自動車の主流と言えば、依然シボレー「ボルトEV」でしたが、この「モデル3」の登場によってテスラは、ついに大量生産の自動車メーカーの仲間入りを果たしたのでした。そして、世界に名だたる自動車メーカーと肩を並べることとなったのです。
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Source / CAR AND DRIVER
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。