本作が最初に話題になったのは、2023年の第76回カンヌ国際映画祭。最高賞パルム・ドールを獲得したこともさることながら、ネオリベ政権が進める「商業主義偏重の芸術制作」を批判したことです。あの発言の動機を改めて問うと、こう回答がありました。
「パルム・ドールを受賞するなど知らされていなかったので、もちろん時間をかけて準備した原稿ではありません。(運営側から)最終日までカンヌにいるように言われたので、(何か受賞すると思って)なんとなく言うことは考えていましたが…。
あの発言の背景はとても複雑です。フランス以外の国の方にはなかなかわからないことかもしれませんが、フランスにおける映画文化の重要性はものすごく高く、人々の映画愛も半端ありません。特別な映画製作支援制度もあります。一種、“理想化”されたところがあるのです。
でも、内情は複雑です。私はまだマシなほうですが、ユニークでオリジナルの企画だともっと予算が少ない作品づくりを余儀なくされる人たちもいます。Netflixなどのプラットフォームもあるので、ヒットコンテンツが出たら類型化させ、コピーをしたような物語に(優先的に)予算が付く。決して誤解してほしくないのは、プラットフォーム自体を批判するつもりはないということです。それもまたひとつの表現の場ですから。
なので、ここは非常に慎重に話したいのですが、私は次世代への影響を懸念したのです。私のキャリアもこの作品も、決して高速道路を進むかのようにスピーディにスムーズにつくり上げられたものではありません。(自分が受賞したことで)今の映像制作の環境が正解なのだと思ってもらいたくなかった…」
(画像)2023年カンヌ国際映画祭パルム・ドールを手に。隣はプレゼンターのジェーン・フォンダ