1974年代から92年までの間、アメリカ航空宇宙局(NASA)は現在とは異なるロゴを使用していました。「ワーム(WORM)」と呼ばれたそのデザインは、今見てもあまりに近未来的で、それが半世紀近く前にデザインされたものとは思えないほどに見事なロゴでした。
デザインを担当したのは、NYにあったデザインスタジオ「Danne & Blackburn」の創業者であるリチャード・ダン氏とブルース・ブラックバーン氏です。NASAからのブランドリニューアルの依頼を受け、彼らが生み出したのが“A”にクロスストロークを無くして“N-A-S-A”とつづり、丸みを帯びた赤い太字のロゴタイプだったのです。それは、当時を知る若者にとっては、宇宙へのときめきや憧れを想起させるロゴとして絶大な支持を集めました。
NASA Graphics Standard Manual | NASA
NASAのロゴの変遷
ここで、NASAのロゴの変遷について再確認しておくべきでしょう。
1958年10月1日に設立された「NASA」の初代ロゴは、円形でした。当時も記念式典等で使用されるに過ぎないものだったので、非常に簡素なものでした。そこで翌1959年、早々に意匠変更が提唱され、NASA管轄のグレン研究センター広報部に所属するジェームス・モダレッリ(James Modarelli)氏がデザインした、通称「ミートボール」ロゴが誕生しました。合衆国旗の赤・青・白の配色を使ったこのロゴマークは、「青い球(惑星)・星(宇宙)・赤い杉綾模様(超音速翼)・宇宙船・NASAロゴ」の5要素で構成されています。米国の威信を賭けて設立された巨大組織のイメージを世界中に植えつけるには、十分のインパクトであったと言えるでしょう。
こうして「ミートボール」ロゴが定着してから、10年余りが経過した頃。時のニクソン政権(1969年1月20日~1974年8月9日)主導のもと、「US Federal Design Improvement Program」というデザイン政策が推進されました。当然のごとく、ロゴの刷新は「NASA」にも要請されます。そこで前出の「Danne & Blackburn」にロゴ制作は依頼され、太いレタリングと美しい曲線を持った、「ワーム」ロゴが1974年に誕生したというわけです。
しかしながら、新しい「ワーム」ロゴが局内外に正式にお披露目される前に、この新ロゴが施された社用ステーショナリーセットが当局傘下の各部門に送付されてしまうという手続き上の大規模ミスが発生。当局設立当初から15年近く使用されていた「ミートボール」ロゴが、古株局員への十分な説明もなく新ロゴに置き換えられるという社内不祥事の結果、「ワーム」ロゴが正式採用されてからも心象的な軋轢(きれつ)は存続したままだったということ。さらには世論的にも「ミートボール」派と「ワーム」派に人気が分かれるほど、事態は歪んだまま年月を重ねていたのでした…。
さらに18年の月日が経ち、事態は再び急変します。1992年、当時のNASA局長だったダニエル・ゴールディン(Daniel Goldin)氏の鶴の一声によって、なんと「ミートボール」ロゴが復活することになります。理由に関しては、チャレンジャー号爆発事故(1986年1月28日)の暗いイメージを払拭するため。そして、かつての輝かしいNASAの象徴を取り戻し、職員の士気を上げるための施策だったとされています。
これが日本のわれわれも含めて、世界に2種類の「NASA」ロゴが一般認知されている理由になります。現在、正式には「ミートボール」ロゴになっていますが、それでもなお、「ワーム」ロゴを宇宙と人間の努力を象徴するアイコンと見なす熱狂的なファンたちも少なくないというわけです。
NASAの伝説のロゴを宿したタイムピースが登場
そうしてロゴの使用停止から30年近く経ち、現在も復活を希望する声が聞こえてくる「ワーム」のロゴ…。そんな中、このたびそのデザインを担当した「NASAデザイン・プログラムの父」とも呼べるダン氏をデザイナーに迎えたタイムピース「The Space Watch(ザ・スペース・ウォッチ)」が登場します。
ダン氏いわく、「この時計は、NASAとの実り多き間柄への集大成を体現した1本」とのこと。そこには、「宇宙そのものにインスパイアされている」と言えるでしょう。宇宙の静けさとその中で動く惑星の美しさを表現し、文字盤は軌道と惑星の動きを表現する複数の幾何学的な金属板で構成されています。
カラーバリエーションは、「スペース・ブラック」と「ジェット・シルバー」の2色。各色限定150点の数量限定モデルです。フェイスの中心にあるロゴの周りを回る惑星をイメージした赤い丸が時針を表し、白い丸(「スペース・ブラック」の場合)と青い丸(ジェット・シルバーの場合)が分針を表しています。
「The Space Watch」はプレミアムボックスセットに入れられた特別仕様となり、NASA Houseとの録音テープとフィルムのリールを収納したケースを模した二層の黒い金属ケースに収められています。中には時計に加え、ステンレススチール製の取り替えベルト、ワームロゴの刺しゅうエンブレム、ダン氏のサイン入り番号付きプレートと特別な小冊子が付属します。
市場で唯一、ワームプログラムのクリエイターによってデザインされた時計となる「The Space Watch」。その中心的役割を果たしたダン氏は、次のように語ります。
この時計は、私にとって純粋な喜びと長きにわたるNASAとの実り多き間柄の集大成を体現しています。パートナーのブルース・ブラックバーンと共に活動していた Danne & Blackburn がアメリカ宇宙機関の再設計に選ばれたのは、1974年でした。そこで私は10年間、NASAの社外デザイン・ディ レクターを務めました。今回の時計のデザインは、宇宙そのものにインスパイアされ、その中で回転する惑星から着想を得て、その美しさ、静けさを表現しています。このプロジェクトはNASAファミリーが私の心に非常に近い存在であり、彼らとの長きに渡る旅で築き上げた関係性を象徴しています。
クラシックなフューチャリスティック感とでも言うべき、どこか矛盾にも満ちた唯一無二のデザイン性。“遠い過去に思い描かれた近未来感”を感じさせるデザインは、ファッションのアクセントに効果的。腕元から個性を放ってみてはいかが!?
- サイズ:ケース径42mm 厚さ12.5mm
- ムーブメント:自動巻き、Miyota 自動巻きムーブメント9015
- パワーリザーブ:約42時間
- ケース:ステンレススチール
- ブレスレット&ストラップ:ブラックレザーバンドとブラックメタルバックル+バタフライクラスプ付きブラックステンレススチール製ベルト
- 防水性:50m
- 限定:世界限定150本(各色)
- 発売:現在予約注文受付中。2021年10月下旬の発送予定
- 価格:1030ドル(約11万3170円)
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