CDCによると、米国内で7500件以上ものサル痘の発症が確認されている中、大学のトピックに焦点を当てたウェブメディア「インサイド・ハイアー・エド」は「大学生たちはより高いリスクグループに属するかもしれない」と警告しいます。

当の大学の対策に関してですが、バイデン政権が2002年8月5日に公衆衛生上の緊急事態を発令したのにもかかわらず、「ザ・クロニクル・オブ・ハイアー・エデュケーション」が指摘しているのと反対に、その対策に遅れを見せていまるようです。プリンストン大学が未だサル痘に関する公式見解を示していない中、学内の大学健康サービス(UHS)の職員は「ザ・デイリー・プリンストニアン」に対し、これから起こり得るアウトブレイクへの対策が開始されたことを語っています。

一方でプリンストン大学自体は、未だにこの問題に対して沈黙を貫いていることに対して、何人かの感染リスクの高い学生たちが新学期を迎えるにあたって抱える不安感を、「ザ・デイリー・プリンストニアン」に吐露していました。

大学キャンパスでサル痘流行の兆し

プリンストン大学があるニュージャージー州の地域では、サル痘の発症数は比較的低く抑えられています。が、州全体では発症数が増加の傾向を示すしています。2022年8月4日の時点で、プリンストン大学を擁するマーサー郡では5例の発症が報告されています。州外の状況とともに鑑みると、このウイルスは「大学のキャンパス内」という特定区域での感染流行の兆しも見せているというわけです。

「NPR」によると、ジョージタウン大学、テキサス大学オースティン校、ウェストチェスター大学がこの夏少なくとも1例以上のサル痘発症を報告をしており、他の大学が沈黙を守る中、サル痘に対するプロトコルや声明を出している大学も出てきました。

サル痘ウイルスは発疹、発熱、寒気その他のインフルエンザに似た症状を引き起こしますが、CDCによると主に他の男性とセックスをする男性(MSM)に最も大きな打撃を与えているとのこと。

2023年に卒業を迎えるプリンストン大学生、フィリップ・マルリ氏は自身をゲイだとしていますが、今年の夏最後の数週間は日々募(つの)っていく恐れと憤りを見せています。

「私はプリンストン大学が未だに、サル痘のアウトブレイクに関する感染防止に対して、詳細な対策プランおよびコメント自体避けていることに驚きと諦めを感じています」と、2022年7月18日にプリンストン大学国際及び地域健康センターとジェンダーとセクシュアリティリソースセンター(GSRC)に送ったメールでつづっています。

「このように重大な問題、特にクィアコミュニティのメンバーに対して、未だに何の行動も示されていないことは恐怖です。特に大学が公正と融和へのコミットメントを示していることを考えればなおさらです」ともつづっていました。

マルリ氏は「ザ・デイリー・プリンストニアン」のインタビューに対して、「サル痘はゲイ同士のセックスを通して感染する性感染症だと言う人もいます」と語っていますが、事実、感染した人にどうであろうと、その人と濃厚接触した人には誰でも感染リスクがあるのです。

「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(The New England Journal of Medicine)」による2022年7月下旬の研究によれば、「これまで確認されたサル痘の発症件数の内、95%が男性同士の性交渉を通して感染した」と報告されています。このような情報だけが広く報道され、またホモフォビアックなセンセーショナリズムがこの疾病に対する誤った見方を広めているようです。

もしこのままプリンストン大学からプロアクティブ(先行して前向きな姿勢)で、きめ細やかなメッセージがなければ、もしキャンパス内でサル痘が広まったとときにLBGTQ+の学生への責任追求や炎上につながる懸念が叫ばれてもいます。

princeton university class day 2022
Bobby Bank//Getty Images
プリンストン大でスピーチするCOVID-19対策の責任者、アメリカ大統領首席医療顧問アンソニー・ファウチ博士。2022年5月撮影

新型コロナの事例に学ば米国の対応

ジェンダー及びセクシュアリティー研究の准教授であるキャサリン・クルーン=テイラー氏は、社会政治学的に影響を受ける少数派グループを研究しています。彼女の視点では、「これまでの米国のサル痘への対応は、コロナウイルスのパンデミックとそれに伴うアジア系アメリカ人差別からほんの少ししか学んでいない」と言います。

クルーン=テイラー准教授は、「ザ・デイリー・プリンストニアン」に送ったメールの中で「ウイルスの存在をすでにスティグマ化(※)されたグループに紐づけることはスティグマ化を悪化させるだけです。こういったこと全てが、ネガティブな健康上の結果を形づくってしまいます」とつづっています。

また、准教授のクルーン=テイラー氏は、サル痘に対する公衆衛生上の情報発信がほぼ男性とセックスする男性たちだけに向けられていることに警告を鳴らしています。

「特定のグループをターゲットにした公衆衛生上のメッセージの場合には、ときに慎重に対応しなくてはならく…それは非常に重要です。特にあるコミュニティが他よりも高いリスクにあると判断できるとき、戦略的にも非常に有効となる場合もありますので…」と言うものの、ターゲット化したコミュニティへのメッセージばかりを採用することに関しては、「ウイルスに対する無関心をその他のコミュニティに植えつけ、感染を増やしてしまうリスクもあります」と続けています。

アメリカ疾病予防センター(CDC)はスティグマ化を防ぎつつ、男性とセックスする男性たちとの接触はリスクを高める可能性を述べ、適切な啓蒙の仕方を模索しているようです。その一方で何人かの学生たちは「ザ・デイリー・プリンストニアン」に、「大学側の沈黙は、今は学生たち自身が自分達を守るようにというメッセージを送っているのに他ならない」と語っています。適切な発信の仕方や教育は、多くの学生集団を抱える大学の責任として、今後ますます求められることになりそうです。


※属性により差別や偏見、恥の対象として扱われること。日本でも国立成育医療センターが子どもにもわかるよう解説(pdf)しています。