毒職場(有害な職場環境)を見分ける5つのポイント

公衆衛生局長官が公表したガイダンスによると、以下の5つの資質を擁しているかによって、その職場が有害かどうかが判断できるそうです。

それはその職場の文化が、「互いに対する敬意を欠き(disrespectful)」「非包括的で(noninclusive)」「非倫理的な(unethical)」、そして「競い合いが熾烈な(cutthroat)」さらに「虐待的な(abusive)」である場合ということ。

そしてオハイオ州に本拠地を置き、研究と教育を基に臨床と医療ケアを統合させた非営利医療機関であるクリーブランド・クリニック神経学研究所の臨床心理博士であるエイミー・サリバン氏によれば、「もしあなたがいまの職場環境を、『毒だ』と感じているのであれば、それはその時点で大抵はそうなのです」と述べます。彼女は、職場環境におけるエンゲージメントとウェルビーイングのスペシャリストであり、ディレクターを務めています。彼女は、「私たちはそういった環境で働き、その職場環境に安全さが感じられない場合、あるいは精神的に健康ではないと感じられる場合には、『この職場は有害だ』とガット・フィーリング(お腹のそこから実感、感じ取る直感)で感じるはずです」と言います。

「多くの人は通常、その不平で少しでも苦情を言えば、大事になることを危惧して『言わずもがな、見ればわかる』といった感覚になっていきます」と、アメリカ心理学会
で応用部門シニアディレクターを務めるデニス・ストール氏は述べています。 そんなストール氏は、このガイダンスでピックアップされている心理学の研究に取り組んでいます。

また、そのガイダンスには「症状」についても触れられています。有害な職場では、身体的にも赤信号が表示されるということ。「不眠、不安、口渇、高血圧、疲労感などは、何かがおかしいと伝えるサインである可能性があります。神経系統で行われる攻撃・逃走反応がオンになった兆候(つまり、胃に大きな穴が空いた感じ、ドキドキして落ち着かない、心臓の鼓動が早くなる)も重要な危険信号です」と、前出のクリーブランド・クリニック神経学研究所のサリバン氏は述べています。

通常、これらの症状は仕事以外の時間、帰宅した時に感じることが多いということ。「リラックスできない、仕事に関する考えごとをやめられない、眠れない、あるいは目覚めて翌朝仕事に行くことを思うと怖いなどです」と、ストール氏は言います。ですが、それは有害な職場環境のせいなのか? それとも、単なるストレスなのでしょうか?

そこでストール氏は、こうすすめています。「自分がベストな状態のときと最悪の状態のとき、この双方間での違いから見い出すといいでしょう」とのこと。そこでもし、あなたの「最悪」という心理状態の中に「仕事」が顔を出していたなら、それは間違いなく問題であるということ。

「職場が有害かどうかは別にしても、多くの労働者たちは重い仕事量、長い通勤時間、予測不可能なスケジュール、限られた自己決定性、長時間労働、複数の仕事の掛け持ち、低賃金など、その他多くの問題で慢性的なストレスに苦しんでいるのは事実です」と、アメリカ公衆衛生局長官のビベック・マーシー氏は述べています。 

毒職場
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アメリカ公衆衛生局士官部隊で副提督(中将)を務めるビベック・H・マーシー氏(U.S. Surgeon General Dr. Vivek Murthy)

労働者はどう対処できるか――仕事を生きがいにしない 

サリバン氏は、「ネガティブな労働環境に苦しむ人々は、その状態が『(本来の)自分ではない』と認識すべきです。そして、仕事から自分の感情をできる限り切り離すようにする――つまり、健康や幸せ、ウェルビーイングがあなたの仕事と感情的に結びつかないようにするほど良いでしょう」と言います。

専門家によれば、もし仕事中にストレスを感じたら、散歩をしたり、短い間職場を離れたり、コーヒーや紅茶などあなたが楽しめるもので休憩をとったり、同じような問題を経験している信頼のおける同僚と話したりするなど、既に有効とされている一般的な方法を試してみることをすすめています。また、マインドフルネスの呼吸法を実践したり、食事や運動をしたりするなどライフスタイルを変えることも有効です。自分に合ったセルフケアを見つけるまで、いろいろなことを試してみて欲しいとのことです。 

「ストレス・マネージメントプログラム」や「職場ヨガ」などの表面的な対策では解決しない

ストール氏は従業員側に、「3つのステップを取るように」と伝えています。それは…「自分をケアすること」「同僚をケアすること」「上司とコミュニケーションを取ること」になります。

同僚に「どうしてるか?」を聞いたり、ストレスの原因となることを話し合ったりすることが大切で、そのこと自体で互いを思いやる文化を育む一助となるでしょう。そして雇用主に対し、「現在うまく行っていること」と「必要としていること」の両方を伝えることも大切だと示しています。「そうすることによって雇用主と従業員側で、生産的な対話が始まります」とも述べています。

「これらの戦略は、職場の内外でのあなたの幸福度・ウェルビーイングを向上させる可能性があります。とは言え、職場というカルチャーを正すべく責任は雇用主側にあって、従業員側にはありません」と、専門家は指摘しています。「ストレス・マネージメントプログラムや職場でのヨガなどは手っ取り早い解決策にはなりますが、既に全国規模の問題となっていることを解決することはできないのです」とも言います。

仕事と雇用の研究を専門としているマサチューセッツ工科大学スローン経営大学院エリン・L・ケリー教授は、「私たちは、運動や瞑想を奨励することによって労働者を変えることに焦点を当てるだけでなく、職場環境をどのように変えることができるかを検討したいと考えています」と語ります。 

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雇用主はどうすべきなのか? 毒職場の責任を労働者のせいにする経営者たち

そのゴールは、アメリカの労働者たちが「仕事を辞めた理由」の上位に挙げたものを改善することと一致しています。2021年に仕事を辞めた人を対象に行われたピュー・リサーチセンターの調査によれば、それは「低賃金」であり、「仕事で昇進や前進する機会がない」であり、「職場で敬意を払われていないと感じる」に当たります。この3つが上位3項目であり、半数以上の人がそう回答していることが示されています。

アメリカ公衆衛生局のガイドラインは、下記5つの必須事項を組織が実行するためのフレームワークを示すものです。

雇用主への提言の中には、「有給休暇を取得しやすくすること」と、「実際に生活できる賃金を支払うこと」が挙げられています。実際の賃金例は、「アメリカの労働者のうち約三分の一近くが時給15ドル以下であること」が指摘されていますが、具体的な金額は提示されていません。また研修やメンタリングを提供し、包括性と公平性を促進すること。そして、「いつ、どこで、どのように仕事をするか」について、労働者により多くの自律性を与えるべきと説いています。

「一度はチェックするものの、その後忘れ去られてしまうような単一のステップで対応するのではなく、会社文化の継続的な改善として目を向け続けるべきなのです」と、ストール氏は述べています。そして、「雇用主こそが自らの力を行使して実行すべきときなのです。変化はいつの間にか向こうやってくるものではないのですから…」とのこと。

毒職場
Nuthawut Somsuk//Getty Images
「あらゆる詳細を監視する有毒なマネージャー」のタイトルでゲッティイメージに掲載されているイラスト