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動物病院のこわ~い話。いつもご覧いただきましてありがとうございます。 さて、今回は動物病院の“地域による違い”について書いてみたいと思います。

あくまでも「自分が見てきた範囲で」、ということになるので 関西(当時)の獣医師と関東の獣医師ということになりますが、 もっと正確に言うと「2次診療施設が近くにない地域と、 ある地域の違い」ということになります。

それぞれの地域の獣医師の「観念的な部分」についての記述になり、飼い主の皆様には一見、関係のないことのように思えるかもしれませんが、重要なところだと思っていますので、お付き合いください。

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東京に行ったらヤブ獣医になる!?

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 まだ僕が兵庫県で研修医をしていたころ、職場の先輩によく言われていたことがありました。 

 「おまえ、東京に行ったらヤブ医者になるからやめとけ」 

 これはその獣医師が、何に価値観をおいているかがよくわかるセリフです。ただ、このままでは全く何を言っているのか意味がわからないかと思いますので、説明が必要ですよね。 
 

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Photograph/Joe Raedle(Getty Images) 

  
 僕が兵庫県の動物病院に勤務していたのは2010年夏までで、当時の大阪・兵庫には絶対的に信用のおける2次診療施設が近くにあるとは言えない状況でした。

 例えば、当時僕が勤めていた動物病院(兵庫県)の症例で、「近くには絶対的に安心して任せられる2次診療施設がないから」という理由で、ガンの放射線治療のためになんと岐阜県まで治療に通っていらっしゃった飼い主さまもいらっしゃいました。 

 兵庫県から岐阜県まで通院です。すごいことですよね。これが東京都内であれば、そんなに探さなくても放射線治療をやってくれる2次診療施設は、割とすぐに見つかります。(※ここで念のために補足しておきますが、「信用できるかできないか」については、全くその獣医師の主観でしかありませんので、あくまでも2010年当時のその動物病院の院長にとって、“信用に足る2次診療施設がなかった”ということに過ぎません) 

こんな地域の(有能な)獣医師は強いプライドと責任感をもつ

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 2015年現在の兵庫・大阪では、状況が変わっていることと思いますが、このように周りに絶対的に信用できる2次診療施設があるとは言えない地域というのは、今でも日本国内にたくさんあるのではないでしょうか。おそらく、こういう地域の(有能な)獣医師は心構えが違います。 

 「どんな病気も、絶対に自分がなんとかしなければならない」からです。 

 そして、それだけの能力も求められます。難病だからといって紹介しようにも、紹介する先がない。だから自分で腹をくくってやるしかない。自ずと守備範囲は広くなりますし、一つ一つの病気についての知識も深い獣医師が多いように思います。 

 たとえ自分一人では不可能だったとしても、周りの獣医師仲間と連携を取って、あらゆる病気になんとか対応している先生は必ずいらっしゃるはずで、こういう地域では、このような獣医師がいる動物病院が「いい動物病院」と言っていいのではないかと思います。 

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Photograph/Theo Heimann(Getty Images)


  こういう獣医師には強いプライドと責任感がありますし、どれだけ責任感があるかは、一つ一つの対応を見ていれば容易に伝わってくると思います。ですから、2次診療施設が近くにない地域にお住まいの飼い主の方にとって良い動物病院というのは、そもそも院長がどれくらい勉強熱心でやる気のある人なのか、その獣医師のスキルの絶対値で評価されるもののように思えます。 

 「絶対にどんな病気も自分が治すんだ」と、そういうプライド・責任感のある獣医師と出会えた飼い主はラッキーだと思いますね。その獣医師は「本当に困った時」にも、大きな助けとなってくれるはずです。 

 
 ただ、そこはやっぱり人間同士ですから、飼い主と獣医師のウマがあまり合わないということもあるでしょう。そんな場合はホームドクターを2件持つのもいいかもしれません。例えば、そんなに大きな問題ではなさそうな状況のときは近所のA動物病院へ行って、とても具合が悪そうで心配なときはB動物病院(すごく熱心で優秀な獣医師)へ行く。 

 こういうホームドクターの使い方もアリだと思います。逆に東京都内など、そんなに探さなくても見つかるくらい、多くの2次診療施設がある地域では、この種類のプライドが絶対に必要だとは、僕は思いません。ホームドクターとして、自分の動物病院に来た患畜は自分の力でなんとか最後まで治療するぞという心構えを持った、やる気のある獣医師はたくさんいますし、その信念は素晴らしいと思います。ただ僕の個人的な意見ですが、これほど専門化の進んだ東京都内でホームドクターとしてそれをやる意味は、さほど感じられません。 

 
 「絶対に自分がなんとかしなければならない状況」と「絶対に自分がなんとかしたいという願望」は動機としてかなり大きな違いだと思うからです。 

 実は、これを僕は両方経験しています。ですから、違いがとてもよく分かります。どういうことかと言いますと、僕は新人時代を「絶対に自分でなんとかしなければならない状況」の動物病院で過ごしたために、その考え方が強く体に染み付いていました。それはそれで良かったのですが、そのまま(考え方を変えずに)東京へ来たとき、知らずのうちにそれが「絶対に自分がなんとかしたい願望」に変わっていたのです。 

 つまり、周りに頼りになる2次診療施設が多数あるにもかかわらず、「絶対に自分がなんとかしなければならない状況」にいるときと同じ感覚で仕事をしてしまっていたということで、こうなるとただの空回りです。僕は、ここの「ズレ」に気付くのに1年ほどかかりました。「三つ子の魂百まで」とはよく言ったもので、一度染み付いた考え方を修正するのは簡単ではありませんでした。 

2次診療施設のスペシャリストに任せるメリット

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 東京都内の場合、優れた2次診療施設がいくつもあります。ホームドクターとして難病の症例に出会ったとして、その道のスペシャリストが近くにいるわけですから、「絶対に自分がなんとかしなければどうしようもない」という状況に出会う機会はそれほど多くはありません。 

 こうした地域のホームドクターというのは一般的にだいたいの病気を一通り診察できなくてはなりませんが、だいたいどの分野も70~80点は取れるくらいの能力があって、その中で特に得意な分野は90点くらい取れる、という方が多いのではないでしょうか。

 2次診療施設のスペシャリストの場合、ある特定の分野はほぼ100点をたたき出せる能力があります(というよりも、専門医を名乗る以上、それだけの能力を 持っていていただきたいところです)。少なくともピンポイントでその、分野だけは誰にも負けないぞというプライドを持って診療にあたられていることと思います。 
 

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Photograph/Agency-Animal-Picture(Getty Images)


  こういう獣医師が近くにいるわけですから、ホームドクターとして難病の症例に出会ったとして、「自分で最後までなんとか治療したい」と思う気持ちも、ある種のプライド・責任感として評価されるものと思いますが、「自分でやれば80点とれる。でも近くに100点取れる人がいるなら、そっちで上手に治療してもらう」、この判断もまた、違った形での強い責任感の表れだと思います。例えば手術ひとつとっても、自分以外にそれをやる獣医師がいない、自分がなんとかしなければ他に方法がない。そういう状況のもとで発揮される能力と、単に自分が経験を積みたいがために行われる手術において発揮される能力とどちらが優れているか、どちらの方がより高いレベルのものになるか。これは語るに及ばないと思います。 

 飼い主にとっても、この点は非常に重要です。こうした知識があるかないかで、自分の動物が困難な病気になったときの行動が代わり、結果が大きく変わるケースもありうるからです。  

  特に整形外科(骨折など、美容整形ではありません)で多いのですが、実際に、ある動物病院で手術をしてもらったが良くならないということで転院される飼い主はどこの動物病院でも必ず見かけますし、そうした場合に結局、得意な外科医にやりなおしの手術をしてもらうことになった、というケースは年に何度も遭遇 します。  

 こうなったら手術費用も2倍、動物の麻酔による身体的負担も2倍です。飼い主の心配による心的負担は2倍では済まないかもしれません。最初から「本当に得意な獣医師」に任せておけば…と思わずにいられない症例は少なくないのです。(※もちろん、術後に起こった諸々の「不可抗力」によって、結果的にあまり上手くいかなかったというケースもあるかと思います。動物医療の場合は特に、相手が動物ですから、一概に手術から抜糸までのすべてが執刀医の責任とも言えません。しかし、「患者に転院されてしまうほどの事態」というのは、やはりそれなりに理由があるものだと思うのです) 

 
 

<誰に手術を依頼するか>は、本当にとんでもなく重要

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 東京都のように2次診療施設が多い地域の場合は特に、困難な手術が必要な状態になってしまったら、どこで誰に手術をしてもらうかはとてつもなく重要です。  

 あなたの目の前の獣医師が、「本当に得意な獣医師」なのか「自分がなんとかしたい獣医師」なのか、見極めなくてはなりません。特に先ほど例として挙げた骨折の手術などは、「なんとしても絶対に一回で成功させなければならない手術(どんな手術でもそれはそうなのですが)」ですし、究極に専門的な分野と言っていいと思います。 

 ですから、整形外科の手術が必要になってしまった際に、少しでも不安があれば、一度落ち着いて整形外科の名医を探してみてください。「これまでに整形外科の手術をただの一度も失敗したことがない」くらいのレベルの整形外科医が、必ずそう遠くない場所にいるはずです。多少家から遠い場所でも、多少値段が高くても、絶対に一回できっちり治してくれる、そういう整形外科医をお探しになることを強くおすすめいたしま す。 
 

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Photograph/John Moore(Getty Images)

 こういうことは、前もって知っていなければ意味がありません。突然、自分の大切な動物が骨折したときに冷静でいられる飼い主の方が少ないですから、「これは手術が必要です。すぐにやりましょう。」と聞かされると、言われるがままに従ってしまうことがほとんどではないで しょうか。 

 「これは手術が必要です」と言われたら、まず聞いてみて欲しいことは「今すぐにやらなくてはいけないものかどうか」です。すぐやらないと死んでしまう、猶予のない手術もありますから、その場合はあまり考える余地はないでしょうが、今すぐにやらなくてはいけないものでないのならば、1日くらい検討する時間があってもいいかもしれません。 

 相手(獣医師)のことを完全に信頼している場合はもちろん指示に従うのが最善だと思いますが、<誰に手術を依頼するか>は、本当にとんでもなく重要な事項です。少しでも不安要素があるのであれば、一度冷静によく検討することをおすすめいたします。

 さて、ちょっと話が逸れましたが、ここまで読んでくださった上で冒頭のセリフをもう一度みていただきましょう。「おまえ、東京に行ったらヤブ医者になるからやめとけ」、少し意味がお分かりいただけるでしょうか。 

  つまり、東京には2次診療施設がたくさんあって、難しい症例は自分ではやらずに得意な獣医師に頼んでしまうことになるから能力が下がるぞ、と言いたかったわけです。確かに2次診療施設が近くになくて、自分がなんとかしなければならない状況の方が、(勉強熱心でやる気がある獣医師であれば)個人の腕は格段に上がると思います。

 これを僕に言った先輩獣医師は、本当に内科・外科を問わずなんでも一定水準より高いレベルを維持していた優れた方でした。こうした獣医師からしたら、「難病は2次診療施設へ依頼する」というのは、獣医師個人として「たるんでいる」あるいは「心構えが良くない」ように映るのだと思います。 

 それはある意味で正しいと思います。実際に僕自身も、東京に来て「ここの分野はあんまり自分でやらなくなったから、腕が鈍ったなぁ…」と感じる分野があります。でも、自分より明らかにそれが得意な獣医師が近くにいるのですから、そちらでケアをしてもらった方が、動物にとって、飼い主にとって最良だと判断することは、ホームドクターとして間違いではないと思っています。

飼い主にとって必須なのは「獣医(人)を見る目」です

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 ただここで、「何でもかんでも2次診療施設をすすめられても困る」という意見が出てくると思います。これは当然の意見で、やはり2次診療施設はそれなりに費用がかかりますし、 予約も取りにくい。できるなら、かかりつけの動物病院でやってもらいたい。そうお考えになるのは自然だと思います。 

 ですから、ホームドクターの獣医師にとって重要なのは、「可能な限り守備範囲を広げる努力をすること」であるのは当然として、その先に「どのレベルの病気までは自分でケアするのか」がハッキリ決まっていること、「その動物にどういう治療が必要で、それはどこのどういう獣医師にやってもらうのが一番いいか」が理解できていることだと思います。 

 つまり2次診療施設は、本当に必要な時にピンポイントで紹介するのが本来であって、「よくわからないから行ってみてください」というものではないということです。この「ピンポイント」を的確に見分けるのは“経験”そのものです。その獣医師が、過去にどれだけの数・種類の症例を見てきたかがモノを言います。  

 つまり、「これは自分の守備範囲外だ」ということで同じ紹介するにしても、「良くわからないから一度2次診療施設で診察してもらってください」という獣医師と、「この子はこういう病気で、こういう治療が必要だと考え られます。それが得意な先生が〇〇動物病院にいらっしゃるので、そちらで診察を受けてください」という獣医師。どちらの方が信頼できそうですか? これは 聞くまでもありませんよね。この文章でも、この2人の獣医師の間には、天と地ほどの差があるのを感じ取っていただけると思います。 
 

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Photograph/Theo Heimann(Getty Images)

 
  「好きこそものの上手なれ」という言葉があります。獣医療の世界では、上手な人はやはり必ずそれが好きなものですし、不思議なもので、それなりの場所でそれなりの先生に師事した研修医の時期を持っているものなのです。そういう方とお話をしていると、まさに「縁を持って選ばれた人なんだな」という感じがします。 

 ただ逆に、好きだからといって必ず上手になれるとは限りません。どんな業種でも同じだと思いますが、上手ではない人が、〈好き〉ゆえに手を出してしまうのが一番好ましくありません。「自分の守備範囲がどこまでなのか」を自分で理解せずに手を出してしまえば、当然、事故が起こる確率も上がってしまいます。 

 2次診療施設が豊富な東京の様な地域では、優秀な専門医がどんどん増えていますし、治療の選択肢も幅広くなっています。だからこそ飼い主のみなさまには、これまで以上に「人を見る目」が必要になってきていると感じます。2次診療施設の有無もそうですが、その地方が持っている特徴や、その土地独特のものの考え方、そうしたものによって「地域性」が形成されるものだと思います。 

 特にこれからかかりつけの動物病院を探そうという方は、ご自身がお住まいの地域の状況に合わせて、自分がホームドクターにどういうことを求めているかをよく考えてみていただきたいですし、すでにかかりつけの決まっている飼い主の方は、自分が普段行っていなくても、どこにどういう動物病院があるかを知っているのは、いざという時にとても役に立つことかもしれません。 

 やはりその土地のことは、そこにお住まいの方にしか分かりませんから、飼い主の皆さまで上手く情報を共有して、上手に動物病院を利用していただきたいと思います。


筆者:

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牛田匠郎(うしだたくろう)

1984年2月23日、フランス・クレルモン=フェラン生まれ。大阪府立大学農学部獣医学科卒業後、 獣医師免許取得。兵庫県三田市・南ヶ丘動物病院にて、JAHA(日本動物病院福祉協 会)認定外科医・菅野信二氏のもとで3年弱の研修を果たす。現在は都内にて2つの動物病院に勤務。外科・内科問わず診療にあたり、年間約 400件程度の手術を執刀する。実は獣医であるばかりでなく、2012年よりシンガーソングライターとしても活動中。つまり、彼は獣医シャン! 新シングル<iframe width="480" height="270" src="https://www.youtube.com/embed/jCLilg8J_kc?feature=oembed" frameborder="0" allow="autoplay; encrypted-media" allowfullscreen></iframe>10月3日(土)リリース!
>>> http://takuro-ushida.com/


Text/Takuro Ushida
Portrait Phorograph/Mari Yoshioka
(C)Getty Images
編集者:小川和繁

 
【連載アーカイブ】
第1回 イケメン獣医から聞いた、動物病院のこわ~い話

第2回  「春の予防」

第3回 「動物病院を上手に使う5つのコツ」

第4回 「アレルギーが治らない


第5回 「よくある質問/やめたほうがいい?」

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