マクラーレン、触れるたびに思うことがある。イメージからすると、こんなにも日常使いができるクルマだと思われていないだろう…と。

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そもそもマクラーレンには3つのシリーズがある。アルティメットシリーズ、スーパーシリーズ、そしてスポーツシリーズだ。順をおってサーキット寄りの作り込みが日常使用も考慮したものになっていく。

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 この570Sはスポーツシリーズ。見た目こそ非日常の扉を開けるスーパーカースタイルだが、その中身は普段使いを考慮した数々の作りや機能が確認できる。とは言っても、決して牙を抜かれたわけではなく、素性は猛獣なので惹かれるのだ。

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 週に一度は訪れる神宮球場の横にあるゴルフ練習場。駐車場の入り口には若干の段差があり、駐車場入り口は自動発券機式。タイヤ留めも昔ながらの高さがあり、スーパーカー泣かせ。間違いなく普段使いがし易い別のクルマで行きたくなる場面だが、570Sは違う。

 レバー操作でフロントの車高を写真のように通常のクルマ以上に上げられて、段差も気にならない。リアの空力アイテム(ディフュザー)が低いので、前向き駐車の方が気を使わずできてしまうほど。また見切りも良く、駐車場の自動発券機にも幅寄せし易い。ゴルフバックを助手席に積んで、気軽にどこでもいける。

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 大人の休日は自身のメンテナンスにも使う。例えば、普段足元から自分を支えてくれる革靴のメンテナンスとして訪れる行きつけのユニオンワークス。一度に数足を持ち込むのだが、かなりの積載スペースを必要とする。

 そんな使用場面を、この570Sは涼しい顔でこなしてしまう。勘違いしないで欲しいが、助手席に積むなんて野暮なことはしない。リモートキーでも開閉できるフロント部の大きな積載スペースが呑み込む。この能力は同時に2人で旅行なども楽にこなせるので、この手のモデルにありがちの積みきれずに助手席足元に荷物を置くなんてカッコ悪い使い方とは無縁な実用性がある。

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 目にするたびに誇らしい。もちろんフェラーリやランボルギーニもとても魅力的。しかし個人的に思うのは、それらは街に溢れすぎ。休日の六本木や西麻布そして銀座界隈なら、容易に見つけられる。

 対してマクラーレンは、まず見かけることがない。そのモデルを自分で所有している、そのプレミアム性がマクラーレンにはある。もちろんマクラーレンもいずれはフェラーリやランボルギーニのように、希少ながらも量産モデル化する懸念もある。

 しかしイギリスのファクトリーで一台ずつレーシングカーを作るように組み立てられている背景を知っていると、その懸念も払拭できる。マクラーレンは心から希少性、ブランドを楽しめる。

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 派手な作りやヤンチャな作りなどどこにもない。ただ運動性能、空力性能、操りやすさを追求したスポーツカーとしての本質が漂わすオーラとも言うべき雰囲気が人を惹きつけるのだろう。人種や文化も関係ない。見たら目を奪われる、カメラを向けたくなる。そんなクルマだ。

 今まで多くのスーパーカーを撮影に使用してきたが、これだけ周りの方々がココロ動かされ声を掛けてくるモデルはない。個人的には、時速40Km以下の走行中でもたった15秒で屋根を開けられる手軽なオープン環境と、屋根を開けても閉めているときと同様のリアにつながる綺麗なシルエットに惹かれる。

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 全てのマクラーレンに共通する、このディヘドラルドア。スタイル優先と思われがちだが、少々違う。その厚みは類を見ないほどで、後方に積むエンジンへの吸気、そして冷却へのストレスのない空気の導入経路を確保する為のもの。

 さらに高剛性ボディを求めたとき、シート横のボディ骨格が乗り降りの際にまたぐのが難しいほど太くなるが、その一部も含めてドアと一緒に開けてしまう大胆な作りが、走りと実用性を両立。しかもドア開口部が広く、通常クルマにありがちな革靴をドアの内装に擦ってしまうこともない。

 この作りは女性にも嬉しいが、着座位置が低いので手を差し伸べてエスコートするのを忘れずに。

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 当然のこととして高級感も感じるが、何よりも大事にしているのは運転のしやすさ、操作性の良さだとクルマに触れるほどに感じられる。全ては運転に集中できる環境を作り上げるためなのだろう。

 例えばダッシュボード周りは全て黒のファブリック仕上げ。これにより見た目の質感も高まっているが、日差しが強いときでもフロントガラスにダッシュボードが写り込んで視界を妨げることがなかった。

 また走行モードを変更すると、メーターデザインも相応に必要な情報を中央に表示するようにもなる。しかもその走行モードは、ボタンではなく指に引っかかる形状のダイヤル式で、ブラインド操作できるし激しく走っているときのでも操作ミスしづらい。

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 この手のスーパーカーモデルで、最も電装系が進んだモデルといえるだろう。7インチのタッチスクリーン式のTFTモニターが、オーディオから携帯電話とのリンクそしてエアコン関連などを集中コントロール。これにより走行に直結する機能を操るためのボタンだけが外に出ており、それ以外はモニター内にという、シンプルな運転環境が手に入る。

 しかも、それぞれの部位の造形が直線基調ではなく曲線基調で、デザイン性の高さ、躍動感を感じることができるもの良い。実はこの内装デザインの女性受けがとても良かった。

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 体の部位を細かく個別にサポートできるようになっているだけでなく、それを調整するボタンが各シートの内側前方の下方にあり、助手席のシート調整が運転席側からできるのがとてもスマート。快適なシートポジションに女性をエスコートするためには必須。

 また運転席と助手席の後方の窓がはめ殺しではなく上下可動式で、開けると刺激的なエンジン音が入り、閉じておけばビート感のあるスマートな音を楽しめるのも魅力。

 さらに12スピーカーのBowers&Wilkinsも用意されており、排気音だけでなくオーディオも楽しめるなど、ドライバーのマスターベーションで終わるスーパーカーではないところにセンスの良さを感じる。

モータージャーナリスト五味康隆が語る マクラーレン 570S Spider》

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 実用性や使い勝手がとても優れるが、本質は時速0-100Km加速を3.2秒でこなす最大出力570psの猛獣。スポーツモード、もしくはトラックモードを選択して、アクセルを床まで踏み込んだ時の刺激は、鳥肌が立つほど官能的。特に4000回転以上の吹け上がりは、発狂したくなるほど、激しく心に響いてくる気持ち良さがある。

 それを支えるシャーシも見事で、低重心に加えてオープンカーとは思えない剛性を確保しつつそれを基軸に足回りを的確に動かし、路面への抜群の張り付き感を出している。

 ハイスピードでも路面の起伏形状を的確に“なめられる”足回りが、低速走行時でも路面の凸凹を的確に吸収するのだろう、乗り心地が良いのも570Sの特徴。まさに日常使いができるスーパースポーツモデルだ。

 
◇SPEC.
「mclaren 570S Spider」

メーカー希望小売価格:28,988,000円(税込)
ボディサイズ:全長4,53 × 全幅2,095 × 全高1,370mm
ホイールベース:2,633 mm
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボエンジン
排気量:3,799cc
最高出力:570ps(562kW) / 7,500 rpm
最大トルク:600N・m / 5,000-6,500 rpm
詳細:http://jp.cars.mclaren.com/home/models_link/sports-series-570s-spider/Overview.html

Photograph / Yoshiaki Tsutsui
Text / Yasutaka Gomi