「MAD」というフード関連のカンファレンスが、2018年9月にデンマーク・コペンハーゲンで2日間にわたって行われていました(以前は毎年行われいたこのイベントですが、現在では隔年開催となっています)。

このイベントは2011年に、ルネ・レゼピ氏(有名レストラン「ノーマ」のオーナーシェフ)が始めた非営利のイベントです。第6回目となった2018年は、世界から何百人ものレストラン経営者や起業家、ジャーナリスト、それにグローバルなフード・コミュニティで活動する人々がこの業界にあるギャップを埋めようと参加。そしてキッチンの内側と外側の両方で、世界をより良い場所に変えるための方法についての議論を交わしていました。

このイベントには、ララ・ギルモア氏やネイト・ムック氏など、本当の意味で社会に影響を与えている料理界の重鎮たちも多数参加していました。

ギルモアさんが夫のマッシモ・ボットゥーラさん(「オステリア・フランチェスカーナ」のシェフ)とともに始めた「フード・フォー・ソウル」という組織では、世界各地のコミュニティキッチンを通じて、ゴミとなる食料をなくし、食料に関連する安全保障問題をなくそうとしています。

また、ムックさんがエグゼクティブ・ディレクターを務めるワールド・セントラル・キッチンは、元々ホセ・アンドレさんが始めた非営利組織で被災地に食料を提供することを狙いとする同組織。そこでは、例えば昨年ハリケーン「マリア」の被害を受けたプエルトリコの人々に、累計約350万もの食品を提供しているそうです。

ブリゲイドでは学校の調理室にシェフを常駐させている

ダン・ジュスティ氏も、このイベントに参加していた大物のひとりです。

ジュスティ氏は以前、「ノーマ」でヘッドシェフとして働いた人物で同レストランを離れた後、学校給食の改善を使命とする「ブリゲイド(BRIGAI)」という自分の事業を立ち上げました。

ジュスティ氏はクリス・イン氏との対談形式の基調講演に登場し、彼の話に刺激を受けた聴衆からスタンディングオベーションを浴びていました。なお以前、「Lucky Peach」という雑誌の編集者をしていたインさんは、現在はMADと協力しながら「Dispatches」という新しい書籍のシリーズをプロデュースしています。

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多くの学校給食には予め調理した、調理室では袋から出して温めるだけの料理がたくさん使われています。

こうした料理は、「食事に対するこだわりに対する、お粗末な言い訳に過ぎない」と「ブリゲイド」では判断しているようです。そこで彼らは学校の調理室にシェフを常駐させることで、生徒たちが口にするものに変革を与えようとしているのです。「ブリゲイド」のシェフたちは学校の調理室で、本物の生の素材を使った料理をいちから準備しているそうです。

ジュスティ氏は手始めに、米コネチカット州のニューロンドン学校区にある6つの学校で、「ブリゲイド」の活動を開始しました。彼はここで、意味のある影響を与えることができると考えたようです。

「コネチカット州は昔からとても裕福な州だが、また統計的に富裕層と貧困層との差がもっとも大きい州でもある」とジュスティさんは説明しています。また、「ニューロンドンの子供たちの4人に1人が貧困層で、また3600人いる生徒のうち70人は法的にホームレスの状態にある」ともジュスティさんは話します。

これを別の言葉で言うなら、「多くの子供たちが食事に関して学校頼みということで、学校給食はこうした子供たちが口にする唯一の食事」ということになります。「きちんとした食べ物を口にするだけの価値は、すべての人にある」とジュスティ氏は加えてコメントしています。

MADの講演で「10年以内に数百万人に食事を提供するというのが私のゴール」と語る

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Feeding A Million | Dan Giusti, Founder of Brigaid
Feeding A Million | Dan Giusti, Founder of Brigaid thumnail
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2018年秋にジュスティ氏は、ニューヨーク市でも「ブリゲイド」の活動を開始するとのこと。

ニューヨーク市には1日、最大100万人の生徒に給食を提供する機会があります。念のために記しておくと、ジュスティ氏は非営利団体を運営しているわけではありません。彼が運営しているのは、たくさんの人たちに食事を提供しながら、同時に巨大な規模で社会に影響を与えることを目標とする企業なのです。「10年以内に数百万人に食事を提供するというのが私のゴール」と、ジュスティ氏はMADの講演で説明しています。

「ダンは高級レストランで身につけた自分のスキルを、世界各地の学校へ持ち込もうとしている」と、MADのエグゼクティブ・ディレクターを務めているメリナ・シャノンーディピエトロさんは語ります。

「彼は、食べ物とコミュニティのもつ力を使って、われわれの前提(思い込み)に疑問を呈し、この業界の現状に光をあて、そして、さまざまな素晴しいアイデアや原則を提案し、それにスポットライトを当たるよう行動しているのです」と、メリナさんは言います。

ジュスティ氏が料理長として働いていた間には、「ノーマ」は「世界のレストラン・ベスト50」のランキングで毎年上位3位以内にランクインしていました。これは決して簡単に達成できることではありません。ジュスティ氏がスキルと野心を持ったハードワーカーであることは明らかです。

しかしながらそんな彼に、「このような栄誉の先にあるものは何か?」を見通すことを可能にさせ、「ひと晩に45組の客をもてなすことで得られる幸福感以上のことが、他に絶対あるはずだ!」と考えるようになった源もまた、同様のスキルと野心だったのです。そうなのです、ジュスティ氏の思いの大きな変化があったのではなく、「たくさんの人たちに美味しく正しい食事を提供したい、しかも、自分のやり方で…」という思考の芯は少しもブレていないのです。

ジュスティ氏と、同じくらいの野心を持ちながら活躍するシェフたちとの違いは、その思いとの対峙の仕方、アプローチにあるのでです。

「ノーマ」での実績を梃子(てこ)に自分のレストラン帝国を築いたり、あるいはファーストカジュアルの飲食店チェーンを始めるというビジネス路線を突き進む代わりに、彼は「制度の見直す」というレベルからスタートすることにしたというわけです。

そして、それよりも重要であると彼が考えるのは、変化が最も必要とされている場所やコミュニティーで自分のビジネスをスタートさせるということ…。そして、地元に根差しながら米国の若者たちの食べ物に対する考え方を変えることこそ、より良い変化だと彼は考えているのでした。

そしてそれこそが、社会的良心、好奇心、変化に対する食欲を持つ世界的な料理コミュニティを結集させた非営利団体「MAD」の目指すものなのです。そう、まさにMAD(Making A Difference)を目指しているわけです。※ちなみに「MAD」という名は本来、デンマーク語の「食べ物」という言葉からの引用とのことです。

Source / ESQUIRE US
Translation / Hayashi Sakawa
※この翻訳は抄訳です。