苦み(?)と甘みのあるパンを使うのが理想的な絶品グルメのご紹介です。

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 究極のハム&チーズ・ホットサンド

「『完璧』がついに達成されるという時とは、何も加えるものがなくなった時ではなく、何も削るものがなくなった時である」―アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ

 ベニス(イタリア)のリアルトやロンドン(イギリス)のボロー・マーケットのような本当に素晴らしい市場(いちば)に、運良く足を運べることが時々あります。ですが、そうした市場にならぶ野菜や果物のなかで一際目立っているのは、旬の時期が短く、すぐに姿を消えてしまうようなものです。 

 タマネギやニンジン、ポテトのような一年中手に入るものには、旬が短いものに見られるセックス・アピールがまったくないのです。映画『ブレードランナー』(1982年に制作されたオリジナルのほう)に出てくるセリフを引用すれば、「2倍明るい照明は、半分しか寿命がない(その分寿命が短い)」ということになります。 

「ラディッキオ」もそうした奇跡的な食材のひとつで(イタリアではどこにでもありますが、イギリスではほとんど見かけません)、12月から3月にかけてラディッキオの姿を市場や八百屋で見かけると、心臓がドキドキするものです。ご褒美に、これほど貴重なものを選らぶのなら、やり過ぎて素材の良さを台無しにしないことが重要となります。「シンプルに保て」という言葉が、これ以上ふさわしいものは他にないのです。(次ページへつづく) 

冒頭に記したサン=テグジュペリの言葉を、もう一度読んでみてください。

 彼の言葉は確かに、食物にも当てはまります。ですが、ほかにも人生・芸術・科学といった分野で私たちが経験するたくさんの事柄にも当てはまるのです。数学者は、素数がもっとも美しい数字だとあなたに語ることでしょう(素数はその数字自体と1でしか割れない数字のこと)。 

 また化学者は、元素記号に対して最大の敬意を抱いています。元素記号はとても純粋で、それ以上シンプルにすることができない化学物質のことです。たとえば「O」(純粋な酸素を示す元素記号)は「CH3CH2OH」に比べて、どれほど優雅でしょうか…。 

 そして文学の分野で言えば、小説は口伝えの芸術表現の中心的存在であるのに対して、詩は、その中に本質的な美しさが存在しているのです。詩というものは最も簡潔な文学の形式であり、もっとも感情に訴えるもの…力が強く、そして優美なものなのですから…。  
 

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タルディーボ種のラディッキオ。Photograph / Dan Burn-Forti 

 
 ラディッキオについて私がとくに魅力を感じるのは、あの内在する苦みと、そして火を通した後に出てくる甘みなのです。 

 それは料理の錬金術とも言えます。イタリアのカクテルでいちばん有名な「ネグローニ」をご存じでしょうか? それがこれだけ人気であり、我々に魅力を魅力を感じさせるのはなぜでしょう? それは「大自然によって育まれたラディッキオがもつ魅惑の味わいを、スピリットとベルモットだけで容易に再現しているから」と言っても(個人的には)過言ではないでしょう。(次ページへつづく)

ラディッキオ、スペック、 ゴルゴンゾーラのブルスケッタ

 今回紹介する以下のレシピは、強い香りを集めた美味なるものです。ですが、このレシピに従えば、ラディッキオの驚くほどの苦味を強調しすぎることなしに、その旨みをうまく引き出してくれるのです。 

(前ページの写真のような)タルディーボ種のラディッキオを見つけるのが難しいようであれば、代わりに魚雷の形をしたトレヴィソ種のラディッキオを使うこともできます。 

 ここで決め手とも言えるのが、プロシュートの一種である「スペック」になります。こちらは北イタリアのトレンティーノ・アルト・アディジェ地方を発祥とする、美味しいプロシュートになりますが、これも入手困難である可能性は高いでしょう。ならば、他の上質で塩気の効いた、塩漬けのハムで代用しても大丈夫です。 

 そして忘れてはいけないのは、このプロシュートとゴルゴンゾーラ・チーズは必ず室温に戻してから使うようにしてください。

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イタリア風 究極のハム&チーズ・ホットサンドの完成写真。Photograph / Esquire 

◇材料:4人分  
・サワードウ(発酵パン) 4切れ
(長さ20cm、厚さ2cmのもの) 
トレヴィソ種またはタルディーボ種の
ラディッキオ 小ぶりなもの1つ 
・とても薄く切ったスペック 8切れ 
・ゴルゴンゾーラ・チーズ 75g 
・ガーリックのクローブ 半分 
・エクストラ・ヴァージンのオリーブオイル 
・さらさらの海塩 
・黒胡椒 
・平たく葉状にしたパセリ 手のひらいっぱい 


◇調理のしかた 
1. グリルを使って、スライスしたサワードウ(発酵パン)を中火でトーストする。途中で一度表裏をひっくり返し、パンの表面にわずかに焦げ目がつくまで焼く。焼きあがったパンの片面に、半分にしたガーリックを手早く擦りつけたら、そのまま一度、脇に置く。 

2. ラディッキオを、頭の部分から16片に切り分ける。残った部分は、後でローストする(もしくは、小さく刻んで歯ごたえのあるサラダに入れる)のに使う。オリーブオイルをフライパンに多めに注ぎ、中火で温める。ラディッキオにたっぷりと塩を加え、色が紫色から温かみのあるラディッシュ・ブラウン(じっくり寝かせたバローロ産赤ワインの色)に変わるまでやさしくソテーする。炒め終わったらフライパンから取り出し、キッチンペーパーの上に置いておく。 

3. トーストしたパンのスライス4枚をとり、それぞれの上にスペックを平らに並べる。次にゴルゴンゾーラ半分を指で細かく砕きながら、トーストの上全体に散らす。柔らかくなったラディッキオの欠片をチーズの上に注意深く並べる。 

4. ゴルゴンゾーラの残りをトーストの上に散らしたら、次に少量のオリーブオイルを振りかけ、仕上げに刻んだパセリと挽きたての黒胡椒をたっぷりと振りかける(このブルスケッタにカンパリ・スプリッツをあわせると特別なご馳走になります。それぞれ苦味が特徴のこのふたつは、素晴らしく相性がいいので)。



編集者:山野井 俊