今回紹介するレシピは、『エスクァイア』UK版でフードコラムニストとして活躍するラッセル・ノーマン氏が2017年当時、イタリア・ベネチアに住んでいたときに初めてつくったリゾットになります。当時の彼は14カ月間にわたって、創作活動のため自主的に引きこもっていました。そこで新作書籍のための研究や料理に打ち込んでいたのです。
そんなある日、リアルト市場でほっそりと美しいアスパラガス(近くのサンテラズモ島で採れたものです)を買ったとき、店主のパオロが「地元の森で採れた新鮮なアンズタケも入れてリゾットをつくるのはどうだい?」と提案してくれたことが、このレシピの源だそうです。
「店主の言うとおりにしてみると、本当に美味しいものができたんです。味わい深く、香ばしいこの繊細なきのこは、アスパラガスと完璧なハーモニーを奏でます。新鮮なアンズタケが身近で手に入らないという人は、代わりにユキワリを使っても非常にマッチしますよ」と、ノーマン氏は話しています。
ノーマン氏の住む英国では、ユキワリは4月ごろから入手しやすくなりますが、日本ではあまり馴染みのない食材かもしれません。身近なキノコ類で代用してもいいでしょう。
材料(4人分)
- アスパラガス8本(根元は取っておく)
- アンズタケ 150g(ほこりを落としておく、水洗いはしない)
- 中サイズの玉ねぎ 2個(皮を剥き、角切りにする)
- 小ぶりなセロリ1本(皮を剥き、角切りにする)
- ベジタブルストック(残り野菜を長時間煮込んで作ったスープ) 1.2リットル
- 米 350g
- ドライベルモット グラス1杯分
- エクストラヴァージンオリーブオイル
- 無塩バター 75g
- パルメザンチーズすりおろし 120g
- タイムの葉 ひと握り
- イタリアンパセリの葉 ひとつまみ(みじん切りにする)
- フレーク状の海塩
- 挽きたての黒胡椒
つくり方
- ベジタブルストックを大きめの鍋で温め、煮え立たせる。別の大きめの鍋(底が厚いもの)に大さじ4杯分のオリーブオイルを入れ、弱火にかけて全体に広げる。オイルを広げた鍋に玉ねぎとセロリ、塩をひとつまみ入れ、野菜に光沢が出て半透明になるまで10分ほど炒める。
- この鍋に米を入れ、米一粒一粒がオイルでコーティングされるようによく混ぜる。火を少し強め、ベルモットを加える。
- おたま1杯分のベジタブルストックを加え、優しくかき混ぜる。さらにそのまま、ゆっくりと優しくかき混ぜ続ける。このとき、具材が常に少しスープに沈んだ状態をキープし、鍋の中の液体をすべて吸収してしまわないよう注意を。ベジタブルストックを少しずつ加えて、かき混ぜる作業を10分ほど繰り返す。
- 3cmほどの長さに切っておいたアスパラガスをリゾットに加え、5分ほど優しくかき混ぜる。必要に応じて、ベジタブルストック少しずつ加える。アンズタケとタイムの葉を加えてよく混ぜる。混ぜる際には、アンズタケが崩れないように注意を。そのまま5分ほど火にかけた後、米の固さをチェックする。少し芯が残るくらいの固さになったら鍋を火から下ろす。
- バターとパルメザンを加え、リゾットになるようしっかりと溶かす。温かい皿に盛り、パセリと黒胡椒を少々加えて完成。
ラッセル・ノーマンのコラム
1820~1823年の間、『ロンドン・マガジン』にエリアという筆名でつづった随筆をまとめた『エリア随筆』が、世界的な評価を得ている英作家・随筆家であるチャールズ・ラムはこんな言葉を残しています。
「アスパラガスは、穏やかな思惑を想起させる」と…。
フードコラムニストとして、『エスクァイア』UK版にも寄稿する私、ラッセル・ノーマンは2017年当時、ロンドンの南東部にある「イングランドの庭園」とも呼ばれるケント州に引越をし、老朽化した農家に住まいを構えました。そこで私は、干し草の山や太陽の光、そしてリンゴ酒、イギリスのフォークダンスである「モーリスダンス」に包まれた中、牧歌を生きようというビジョンを望んでいました。
…ですが、もちろん現実は大きく異なりました。
第一に、こんなに泥だらけの日々になるとは思っていなかったようです。どこに出歩いても泥ばかり…。ちょっと村を巡り、6ダースのアヒルの卵や手づくりファッジの手に入手するだけで、帰宅後のバスルームはまるで第1次大戦の「イーペルの戦い」さながら、まるで泥風呂のようになることもありました。
そして第二に、素晴らしい庭には大きな責任が伴うということもわかりました。野菜を栽培できるスペースを持つことは、大人になってからずっと憧れていたことです。ですが、いざこれを実行に移すとなると、並大抵のことではありません。以前は園芸用品店でさまざまな種子のパックを眺めては、「これらの種を土に植えれば、芽が出てきて成長し、数カ月後にはその恵みを収穫できるのだろう」と安易に考えていましたのですが…。それは実に浅はかな考えだったと痛感しました。
雑草防除や天地返し、堆肥づくり、温室へのトレーの設置、正しい栽培地選び、適切なタイミングでの植栽、害虫駆除、ネットの使い方など、こんなに作業があるとは誰も教えてくれませんでした。どれも本当に大変で、自分がいつの間にかおじいちゃんになってしまったのではないかと、錯覚するほどでした。
そうして迎えた春は、私たち庭師にとって最も忙しい時期となります。春は大変な作業が行われる季節であり、最大の課題である実を結ぶ季節なのです。2018年の春、私はアスパラガスを育てることに必死になっていました。アスパラガスを育てるのは非常に難しく、堆肥と元肥を施して耕したり、倒伏しないように支柱を立てたり、冬には茎葉を刈り取らなければいけません。また害虫や霜に弱く…とにかく大変な苦労をかけました。
その結果、アスパラガスの育成はどうなったのかというと…皆さんのご想像にお任せします。しかしアスパラガスが、こうして数えきれないほどの手間をかけてつくられた食材だと実感することで、さらに心を込めて丁寧に料理するようになったのは事実です。その収穫されたご褒美を、さらに美味しく仕上げて皆さんに共有することの責任を感じながら…。
Source / ESQUIRE UK
Translation / Wataru Nakamura
※この翻訳は抄訳です。